いや、どちらかと言うと政略フェイズか。
夏休みが始まり早くも数日。
アリア達は今頃、
私は部屋で情報を整理中。何の情報かは秘密。
キンジとかに見られれば、私は練習しないのか? って聞かれそうだけど。
残念ながら私はバニーガール担当じゃないんだよ。
それは置いておいて今回の警備員には最低4人必要。
あの七夕の夜に帰宅途中でキンジから連絡があって、2人の依頼参加を聞いたから……人数に関しては足りてる。
ただ……
今のところ参加するのは私にキンジ、神崎。そして、新しく入ってきた白雪とレキ。
私は普通に大丈夫として……キンジもまあ、こなせる。レキに関しては接客は無理でもディーラーあたりなら出来るだろう。ただ、箱入り娘の白雪とお嬢様な神崎に関しては向いてるとは思えない。
特に白雪は結構人見知りだし、うん。
神崎は……客として入るならまだしも、あの体型でカクテルウェイトレスもといバニーガールって言うのはちょっとどうかと思う。
依頼側はどう言う意図であの衣装を送ってきたのやら。
一応、依頼の際にプロフィールとか送ってる
そこら辺はもう対策を考えてあるからいいけど、その前に気に掛かる事がある。
この間の七夕の夜。
神崎の浴衣から飛び出したコガネムシに似た虫……あれは恐らくスカラベ。正確にはタマオシコガネだけど、それはどうでもいいや。
何にしても簡単に言えばアレはパトラの呪いを運ぶ虫だ。
接触し、呪いを移す。
そして、その呪いを受けた者は何らかの不幸に見舞われる。
武偵高でも偶然に見掛けた。その時は私が
何にしても、あのスカラベを偶然とは言え2回も見たと言う事はパトラが日本にいると見ていい。
それも東京のどこかにいる。
うーん……待てよ。そう言えば以前にジャンヌがコガネムシみたいなのが脚に張り付いて、驚いて事故に遭ったって言ってたね。
もしそれがスカラベとして、何のためにジャンヌを負傷させたんだか。
しばらく連想ゲームみたいに思考する。
パトラ、イ・ウー退学、スカラベ、ジャンヌの負傷、神崎へかけたであろう呪い。
…………。
………………。
パトラの
んー……色々と何となく見えてきたね。
よくよく考えれば、
それに、パトラの狙い。
王である事に
いや、あのパトラの性格だから世界の王になる的な大それた事を本気で狙ってそう。
どっちにてもイ・ウーのトップになる事が狙いなら……イロカネを奪い手中に収めるのが目的と考えられるね。
つまり、狙いは神崎。
だとするならスカラベが神崎に呪いを移したのも、そのための布石。
まあ、どれも私の推測だけど結構当たってる気がする。
それと――
その事で少し頭が引っ掛かり、すぐさまパソコンで武偵高のホームページにある
『港区 大規模砂金盗難事件の調査』
『港区 工業用砂鉄盗難事件の調査』
『港区
思い違いじゃなかった。
最近、砂系の物がよく盗まれてる。
おまけにカジノ『ピラミディオン台場』はこの砂系が盗まれた事件と同じ港区。
これはほとんど確定だね。
この受けた依頼は罠である可能性が高い。
これだと……パトラも同じ港区にいるだろうね。
依頼場所が罠だとしたらその周辺にいるだろうし、何よりピラミッド状の建物の近くにいればパトラはパワースポット的な
わざわざそんな有利な建造物がある場所から遠ざかる理由がない。
ピラミディオン台場の周辺を本気で調べれば、簡単に
パトラを知ってなかったらこの結論にはならなかっただろうけど……
まあ、しないけどね。以前にパトラを殺そうと考えてたらストップが掛かったし。
お父さんの寿命までもう少し。お父さんが私に寿命が1年だと告げたのが去年の7月25日。
きっとその日にキンジ達がイ・ウーへと導かれる。つまりはパトラの行動が鍵になると思う。
ここで邪魔しないのが得策だろうし。
しかし、そうなるとパトラは噛ませか……さすがは自称
あ、そうだ。24日にお父さんが帰って来るように言ってるんだから理子に頼み事をしておかないと。
そうと決まれば私はすぐさま理子の部屋へと向かう。
普通に理子の部屋のインターホンを鳴らす。
すぐさまドタドタとドアの向こうから足音が聞こえ、
「はいはーい」
と理子がパジャマ姿で現れた。
もう昼なんだけど。
「なんだキーちゃんか。正面から来るなんて珍しいね」
「別に普通に来てもいいでしょ? それとも私がベランダで布団が干されてるみたいな状態で来てもよかったの?」
「それは! かの有名なインナントカサンの登場シーン。最近お姉ちゃんちょいちょいネタ挟んでくるけど、見てるの?」
「まあ、話題合わせに色々と。それよりも――」
「ああ、うん。入って入って」
そのまま引き入れられて理子のファンシーな部屋へ。
ほどよくクーラーで冷やされた室内。
そして、布団の上にはDVDレコーダーにヘッドフォンと積み上げられたアニメのDVDケース。
これは確実にアニメ鑑賞してたね。
「そいで、どうしたの? 遊びに来たの?」
理子がベッドの上で
「頼み事だよ。今度の私達が受ける依頼でちょっとね」
「あー、キーくんの単位不足を補うためのアレね。それが?」
「理子も受けてくれないかなーって思って」
「えー……せっかくの夏休みなのにカジノ警備? 理子的には遊びたーい」
「色々と面倒そうだからフォローをお願いしたくてね。それに頼みは依頼を含めて2つあるからさ」
「他ならぬキーちゃんの頼みだから断る気はないけどさ。りこりんに頼む理由は?」
「それがねー。どうも、パトラの罠臭いんだよね~」
その私の言葉に理子がむっ、と顔を変える。
「パトラ? 日本に来てるの?」
私はそう尋ねる理子に印刷した
「
理子は紙を見て、首を傾げる。
「どうも最近、砂関係の物が盗まれてる。さらにはキンジの単位不足分である1.9単位の依頼が都合よくあった」
「そこだけ聞いたら怪しく聞こえるけど、何のために?」
「さてね……でも、私はここ最近でスカラベを2匹見た。おまけにジャンヌが負傷する前、コガネムシみたいなのが膝に張り付いてから事故に遭って負傷したらしいし……多分、それもスカラベなんじゃないかーって思ってるよ。
こんな島国でスカラベなんて、珍しいでしょ?」
「確かに。状況証拠としてはそう思わせる要因があるけど、だったら依頼を受けなきゃいいじゃん」
「どうだろうねー……私的には、お父さんが神崎さんを自分の所へ導くための布石だと思ってるから受けない訳にはいかないと思うんだよね」
「そう言えば、この依頼の日にキーちゃんは戻るように言われてたね。なら、
「えー、面白そうなイベントなのに参加しないの?」
「野次馬根性働き過ぎでしょ……って言うかパトラの罠をイベント扱いって相変わらずの感性だね」
「それとは別に建前を用意してあるよ」
「どう言った?」
「面子が不安だから」
「……何気に遠回しに毒吐いてるよね」
「だって、ねえ……神崎さんと白雪さんが私服警備に向いてるとは思わないし」
私の言葉に「あ~」と声を上げてどこか納得する理子。
それから理子が何かに気付いて私に迫って来る。
「そう言えば私服警備ってキーちゃんはどっち側でやるの? 客側? 従業員側?」
「店の従業員として」
「ふーん……ま、どっちにしても理子も行くよ。キーちゃんの頼みだし。ついでにアリアもからかう!」
神崎はご愁傷様として、依頼の人数は最低必要数である4人の倍、8人まで大丈夫だから……問題なし。
その分1人あたりの報酬は少なくなるけど、単位が目的であるキンジからしたらどうでもいいでしょう。
まあ、お金にも困ってるから出来れば報酬は欲しいだろうけど。
それはそうと、
「それと、頼み事はもう1つあるって言ったでしょ?」
「そう言えばそうだった。もう1つは?」
「もう1つはね――」
…………。
………………。
「なるほど。りこりん、了解であります」
もう1つの頼み事を聞いた理子は、軽く敬礼して元気よく引き受けた。
「うん、話としては以上。引き続き夏休みを
「ほいほい。あ、そう言えばキーちゃんは夏休み中は家に帰るの?」
「そのつもりだよ」
言いながら私は理子の部屋の外に出ようとした所で、思い出す。
「そう言えば理子」
「んー?」
理子がヘッドフォンを付けながら寝転がってDVDプレーヤーを操作し、生返事が返ってくる。
「新しい妹ができたから、家に帰った時に紹介するね」
「分かったー」
そう言って部屋を出るところで、
「……ん?」
最後に理子のマヌケな声が聞こえた気がした。
理子の部屋を出てからしばらく、自分の部屋の中でナイフの手入れをする。
そう言えば……以織に色々と伝え忘れてた。
登校日でもいいけど、言うなら早い方がいいね。
そう思って電話する。
『はい、姉上』
すぐに応答があった。
「どうも~、突然の電話ごめんね。以織に伝え忘れてた事があってね」
『何でしょう?』
「7月の終わりに家に招待しようと思うんだけど、どうかな?」
『はい、大丈夫です』
すぐに返答したけど、一応最後に確認しておくか。
「未練は……?」
『ありません。ここで何を成したかったのか、今の私にはもう分かりませんから』
迷いない言葉からして決意は固いね。
「大丈夫だよ。きっと、生きる意味は見つけられる。私ももちろん協力するよ」
『はい』
ちょっと嬉しそうに返事がくる。
「それじゃあ、また」
『はい、姉上』
◆ ◆ ◆
切れる通話。
生きる意味は見つけられる、か。
何故かは分からないが、妙に安心する力強い言葉だ。
冷静に考えて客観的に見れば……姉上のせいでこんな事になったんだが。
出会わなければ、今の現状が生まれることもなかっただろう。
しかし、それはそれで真実を知る事はなかった筈だ。
どう
たった1ヶ月ほど前の出来事が今では随分前に思える。
学校の廊下で感傷してる場合ではないな。
手続きは終わったんだ。
早く帰って、荷造りの続きをしなければ。
「以織さん?」
声を掛けられて振り返るとそこには私の友人――志乃の姿があった。
驚きを多分に含んだ顔だ。
無理もない。
6月16日から私は学校に来ていないのだから。
「今までどうしてたんです?! 話を聞くに、16日から学校を休んでるそうじゃないですか!」
そう言って詰め寄ってくる。
「すまない。色々とあったんだ」
「電話くらい出てもいいじゃないですか」
「塞ぎ込んでいてな、それどころじゃなかった」
「……大丈夫なんですか?」
心配そうに私の顔を見てくる。
「ああ、大丈夫だ」
私がそう答えると、志乃は何やら驚いた顔だ。
「何か変な顔でもしていたか?」
「いえ、以織さんが笑っているのが珍しくて」
どうやら、自然に笑みが出ていたらしい。
姉上のおかげであれから気が少し軽くなった気がする。
アレだけの事があって取り返しのつかない事をしておいて、我ながら随分と
「………………」
急に黙り込む志乃。
「どうかしたのか? 志乃」
「その、すみません」
私が尋ねると、突然に頭を下げる。
「以織さんのお願い通り、何度も父様に頼んだんですが……公安0課の内部事情を探るのは難しいみたいです」
そう言って申し訳なさそうにする。
「そうか」
「あの、以織さん……もう少し時間を頂けませんか?」
「いや、もういいんだ。志乃、無理を言ってすまなかった」
「以織さん……?」
「志乃に頼んだ日から色々とあったんだ。おかげで、心の整理もついた」
自分勝手だとは思うが、こうでも言わないと志乃は律儀に私に応えようとするだろう。
だから――
「私は武偵高を出る事にしたよ」
ここで別れを告げよう。
「何を、言ってるんですか……?」
「心の整理をしたとは言え、私は何になりたいのか……何を追い掛ければいいのか……色々と分からなくなってしまった。だから、武偵を離れる事にした」
「………………」
「私の知り合いが、一緒に暮らさないかと誘ってきてくれた。しばらくはそこで、探そうと思う」
知り合いとは姉上の事だが、正直に話しても反発されるだろう。そもそも上手く説明できない。
嘘も方便だ。
「そう、ですか……」
それでも志乃にとっては、衝撃的なことだろう。
私はすぐに声をかける。
「心配するな志乃。療養みたいなものだから、そう悲しい顔をするな」
「はい。なら……お気をつけて、また」
そう言ってぎこちなく志乃は笑う。
どうやら、私の何かを吹っ切ったような顔に少し安堵したようだ。
「うん、また会おう」
そう言って私は横を通り抜ける。
すまないな、志乃。
友では、私の孤独は埋められない。
家族でなければ――
◆ ◆ ◆
夏休みの登校日。
学生の子からしたら面倒な日だ。
登校日と言ってもそんなにやる事がある訳でもなく、普通にホームルームがあって終わり。
すぐに解散の流れになる。
私は、キンジの席へと向かう。
「キンジ、ちょっと依頼の事で話があるんだけどいいかな?」
「どうしたんだ? 何か問題でもあったか?」
「いや、追加人員のお知らせ」
「他の単位不足のヤツでも誘ってきたのか?」
「ぶっぶー違いまーす! それはりこりんの事でーす!」
ハイテンションで理子が割り込んできた。
いきなり私の背後から現れた理子を見た瞬間、キンジはげんなりとした顔をする。
「何で理子を誘ったんだよ……」
「もう、キーくんてば酷いなー。キーちゃんが面子に不安があるからって、親切心で理子を呼んでくれたのに」
「何に不安があるですって?」
今度はピンクのツインテールの鋭い視線がキンジの隣の席から飛んできた。
理子の事だからあえて言ってるんだろう。
「そりゃあもちろん、ユキちゃんやアリアんの事だよ。理子みたいな"モノ"を持ってないアリアはよくバニーガールなんてやろうと思ったよね~。理子ってば尊敬しちゃう~」
そして、理子は2つのメロンみたいなモノ(胸)を腕で押し上げて
その瞬間、ブチっと神崎から何か切れる音が聞こえた気がする。
「風穴タイム!」
ガバメントが抜かれた瞬間、理子は私を盾にする。
「いやーん、これしきで銃を抜くなんてアリアってばマジチョロイン」
「霧どいて! そいつ殺せない!」
「白雪みたいなセリフを言うね……取り敢えず、その銃を下ろしなよ」
私が注意してもなお、神崎はぐぬぬぬと歯を食いしばってガバメントを構えてる。
相変わらず沸点の低い貴族だね。
いや、それとも理子だからこそ喧嘩を買ってるのかな?
この展開に早くもキンジは既にスルーを決め込んでる。
けど、1人だけ静観って言うのはどうかと思うな。
「キンジ的には理子と神崎さん、どっちがバニーガール似合ってると思う?」
「俺に振るな」
そうキンジは拒絶の意思を見せるけど、もう遅い。
神崎の矛先と銃口がキンジへと向く。
「な、なぁに? あんたも、やっぱりおっきい方が良いわけ?」
「おい待てアリア、お前また2人に遊ばれてるぞ」
珍しく的確な対処をキンジがしてる。
「ふふ」「くふっ」
私は理子と顔を見合わせてお互いに笑う。
そして、その様子を見た神崎は矛先をこっちに戻して来た。
標的がブレ過ぎでしょ。
「あんた達ねえ……ッ!」
「おっと、ここでドンパチはやめてね。それと今まで言わなかったけど、暴力的な女は"嫌われる"よ?」
「――! ……ふん、分かったわよ」
あっさりと私の一言で神崎は矛を収めた。
いやはや、我ながら機転が
今後はキンジを盾にすればある程度の怒りは抑えられそうだね。
「話が脱線したけど、要件は理子も参加するって事を伝えたいだけだよ」
「俺は単位が貰えるなら何でもいいけどな。理子、あんまり変な事をして邪魔をするなよ」
「分かってるってば、ほんとキーくんは理子に対して冷たいよね」
ぶー、と理子は頬を膨らませる。
余程単位を落としたくはないらしい。
まあ、落としたら学力に不安があるって言う事で転校できなくなるから当たり前か。
それにキンジは他人に危険がなければ自己保身に走るから事があるから、時折冷たいんだよね。
「そいじゃ、話は以上だからそう言う事で」
「依頼の日に会おうねー」
私に続いて理子が別れを告げて、教室を後にする。
そのまま廊下を歩いていると、理子が尋ねてくる。
「前から思ってたけど、キーちゃんはキーくんのどこが気に入ったの?」
「突然だね、また。うーん、どこが気に入ったかって言うと……まあ見てて飽きない所かな? キンジの周りはいつも騒がしいからね」
「キーちゃんらしい」
「お父さんからキンジの話を聞いて、金一の弟って言う事で興味はあったから……随分前から気にはなってはいたんだよ。結果としては、割と退屈しなくていいね」
「そう言う理由か……」
「何か、ホッとしてない?」
その瞬間、理子の
「なんで分かっちゃうかな……」
誤魔化しはせず、すぐにバレると思ってか素直に認めた。
「端的に言えば、全部ひっくるめた経験から」
「ちょっとは鈍感でいてよ」
「鈍感だったら今頃は捕まってるか死んでるよ、私」
「ですよね……でも、そこはほら気付いてないフリをするとかあってもいいと思うんですよ」
「ヤダ」
「即答!?」
「触れられたくもない部分じゃなければ、遠慮する気はない」
「やだ男前な回答、ってそれってただのイジリ宣言じゃん!」
「と言う訳でさっきの質問と言い、さっきの反応と言い、一体何を気にしてるのかな~?」
にじり寄って、理子の腕に抱きつく。
困惑してるね~
いつもは相手を手玉に取る側の理子が逆に手玉に取られる。
その反応がなんとも楽しい。
「別に……キーくんに割とベタベタしてるからどうしてか気になっただけ」
「つまり
「うん……って違っ――わない、けど……」
理子は誤魔化そうとして、結局やめた。
段々と小さくなる声からして素直に言うかどうか、一瞬ではあるけど結構
伏せた顔は羞恥からか赤くなってる。
その顔が今までにない程にカワイかった。
「うーん♪ 理子ってば、カワイイ!」
「うわ、ちょッ……お姉ちゃん!?」
初めて見る反応に自然と私は上機嫌になり、さらに身を寄せる。
歩きづらそうにしながらも、離そうとしてはこない。
「お詫びと言ってはなんだけど、聞きたい事があるなら1つだけ何でも聞いていいよ」
そう言った瞬間、理子は目の色を変えた。
「じゃ、じゃあこの間言ってた新しい妹ってなに?!」
足を止めてすごい勢いで迫ってきた。
どうやら割と気になってたらしい。
さっきまでの羞恥心はどこへやらだね。
「あー、あれね。そのまんまの意味だよ」
「いつの間に
「人聞きの悪い事を」
「じゃあ、どうやって家族に誘ったの?」
「表の世界の汚い部分を見せてあげた」
「最低だこの人」
「しょうがないでしょ? その子は真実を知りたがってたから、その真実を教えてあげたんだよ。そして、真実を知って絶望したその子に私は手を差し伸べただけ」
「付け入ったの間違いじゃ……」
「何か問題でも?」
「別に。お姉ちゃんの場合は本当に救ってるから
ため息を吐き気味に理子が呟く。
って言うかさっきからお姉ちゃん呼びになってるけど、本人は気付いてない。
「妹が2人か、この調子だとあと何人か増えそうだね」
「増えそうって……そう簡単に見つかる訳じゃないよ。それに、これから家族になるかは本人の意思次第だし」
「え? 選択肢を
「え、何その鬼畜」
「お姉ちゃん、金一に何したか思い出してから今の発言しようか」
「嫌だなー、私はそんなつまんない事はしないよ」
私が笑顔でそう言うと理子は「さらっと金一の事は流したね」と、ジト目で言ってくる。
そのまま私は気にせずに続ける。
「いくつか道を示した上でもう一度聞くよ。今までもそうしてきたし、それで2人は別の道を歩んだからね」
リリヤの場合はそう言う風にも行かなかったけど。
「ん、2人?」
私の言葉に理子はキョトンとする。
「ああ、そっか。理子は知らないって言うか、教えてないのか。実は理子を家族に誘ってからリリヤを連れてくる間にね、あと2人家族に誘ったんだよね」
「マジで?」
「マジだよ」
「じゃあ今はその2人はどうしてるの?」
「1人は歌手で、もう1人はマジシャンになったんだったかな? 歌手の子はそこそこ有名になり始めてるよ」
「そうなんだ……意外」
そこで話を打ち切り、私達は再び歩き始める。
「機会があれば理子にも紹介したいんだけど。歌手の子が色々と面倒なんだよね」
「忙しいの?」
「忙しいかもねー。時間が作れない訳じゃないだろうけど」
懐かしいな~
理子を家族に誘って以降は、一緒にいる面白さに気付いたんだよね。
それからは面白い人を見つけるために人間観察がクセになって……同時に変装技術へと応用して行く事になった。
まあ、応用する前から顔は隠さないといけなったけど人間観察のおかげで変装の完成度が高まったって言う感じかな?
なんて過去の懐かしさから別の事にまで思考が及んじゃったよ。
気付けば、既に校舎の外へと出ている。
開放感に思わず両手と背を伸ばして息を吐く。
「さーて、これから徐々に忙しくなりそうだね」
「お姉ちゃんがいつも通り楽しそうで何より……」
理子と別れた私は帰り道をブラブラと歩く。
その途中にあるバス停で見かけた顔が3人。
あれは……間宮 あかりにライカ、それにこの間の七夕の祭りで会った乾 桜か。
ライカとあかりはともかく組み合わせ的には珍しい3人だ。
てっきり志乃もいると思ったけど、彼女は確か実家からの登校だったね。
さすがに女子寮へと向かうこっちの方面に来る事はあまりない、か。
静かに近寄ってると桜が「警察官の勘といいますか、ニオイといいますか……」と何やらあかりに対して呟いてる様子。
そんなあかりが桜の言葉に首を傾げた時に、
「やあー、どーも。こんな所で会うなんて偶然」
私は声を掛けた。
いきなり声を掛けられてあかり以外の2人が一斉にこちらを見る。
「霧先輩」
そう言って真っ先に反応したのはライカ。そして、桜も敬礼して挨拶する。
桜に対して私はいいよ、と言う感じで手の平を見せる。
「3人とも、この様子だと帰宅途中みたいだね」
「はい、霧先輩も同じみたいっスね」
「まあね。ちょっと友達と話し込んでて、割と遅めになっちゃったけど」
そうライカに言ったところで私は1年生である2人を見てある事を思い出した。
「そう言えば、
「気になるんですか?」
「そりゃあ、日本の武偵学校の中でも上位に食い込む武闘派学校だからね。どんな子が来たのか気になるよ」
「それが、研修生はあかりの
「へえ、間宮さんの親戚」
と言って私はあかりに目を向けるけど、あかりは何やら変な顔をしてる。
どうやら未だに桜の言葉に首を傾げている感じだった。
「ま、どっちにしても仲良くしなよ。それとライカ、今度『
「うへえ……」
と、ライカは嫌そうな声を上げるが心の底からは嫌がってない。
「機会があまりないんだから文句は無し」
「分かってますよ」
「よろしい、それじゃまた連絡するね」
「はい、また」
そのまま3人と別れて私は自分の車がある駐車場へと向かう。
桜は気付いていても何も話しかけてこなかったけど、あかりは結局私に気付かなかったね。
しかし、間宮の一族がこっちに来たのか……
どれ、何かする訳ではないけど少しばかり観察してみるか。
出来れば『
薄くではあるけどそれでも期待しておこう。
と考えながら、私は軽くスキップして車へと向かった。
書き終わって気付いた、オリキャラフラグ立てちまってる……!
まあ……出すつもり何ですけどね。
しかし、更新まで1週間~2週間か……一時期は最速で2日で出来たのに。
ほどほどにしながら、頑張ろうと思います。