緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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久しぶりに投稿が出来たは良いが、あまりパッとしない話に。
まあ閑話みたいなものだと思ってください。
あと、パトラ戦は考えてみたんですが戦闘に大きな変更がないので省略しようと思います。
シャーロック戦についても結構省くかも。
ジルちゃんメインでの視点で行こうと考えてますので。


60:親娘

 

 深いところから目覚めるような感覚。

 ――兄さん。

 静かにそう呟いて、俺は目が覚める。

 (まぶた)を開けた瞬間に光が目に差し込んできた。

 突然の光に目の前がボヤける。

 それから何度か(まばた)きをしながら目を光に慣らしていく。

「――キンちゃん?」

 この声は、白雪か……?

 半身を起こしながら周りを見ると、見たことのある……場所だ。

 確かここは武藤とよくゲームしたりする時に来た、車輌科(ロ ジ)の休憩室。

 俺はどうやらここの備え付けのベッドに寝ていたらしい。

 そして、そのベッドの傍らにはパイプ椅子に座って俺を看病していたであろう白雪がいる。その手には包丁とリンゴ。

「おっと、目が覚めたんだね。キーくん」

 俺が起きるのを知っていたようなタイミングで制服姿の理子が部屋に入ってきた。

 ぼんやりとしながらも不意に俺は窓を見たとき、外の明るさに気付く。

 明るい……? まさか!?

 我に返って、壁に掛かっている時計を見た瞬間に短い針は7時を示していた。

 アリア……そうだ、アリアは?!

「白雪、理子――」

「言わなくても分かってるよ、キンジ。だけどアリアはここにはいない。(さら)われたんだ」

 事情の説明を求めようと思った俺に対して、理子は静かに腕を組んで俺に結果だけを伝えた。

 ここにはいない。

 つまりは、あのパトラとか言う女に連れて行かれたんだ。

 それにアリアが撃たれたのが午後6時。

 ……兄さんの言った事が本当なら、アリアの命はあと11時間しかない。

 今すぐにでもアリアを助けに行かないといけない。

 だが、居場所が分からない。

 どうすればいい……!

 思わず自分の髪を掻き(むし)りながら俺は焦燥感が(あふ)れてくる。

「アリアの居場所は分かってるの」

 その白雪の言葉に思わず俺は顔を上げる。

「何……?」

「占ったの、私。場所は――海。それも、北海道より上の」

「白雪の言う通りだよ。あたしがアリアにこっそり忍ばせたGPSの座標だと、ウルップ島沖の公海。そこにアリアはいる」

 理子がポケットPCを片手に俺に居場所を告げる。

 同時に新たな人物がまた1人、部屋へと入ってくる。

「――目が覚めたのだな、遠山」

 セーラー服姿のジャンヌが松葉杖をついて、理子の後ろから現れる。

 それから理子の横に立って、顔を見合わせる。

「……カナから電話があったのだ。ついてこい(フォロー・ミー)、遠山」

 

 

 未だに片足の負傷が治っていないジャンヌに合わせてゆっくり歩き、車輌科(ロ ジ)を階下へと降りていく。

「イ・ウーでは、カナは……私と理子の上役だった。私はカナを敬愛している。色々と世話にもなった事だしな。だからどんな事でも協力すると申し出たのだが……カナは3つの事しか喋らなかった。1つはアリアが攫われた事、2つ目は遠山……お前にイ・ウーについて話した事とその内容。最後に、信じ難い事にお前に敗れたということ」

 歩きながら告げられたジャンヌの言葉。

 それは、昨日の出来事が夢じゃない事を物語っていた。

「私と理子は、明確にイ・ウーと脱離・敵対した訳ではない。下手な事を喋れば……分かるだろう?」

 察してくれと言わんばかりのジャンヌの視線。

 下手な事を喋れば、処刑人(ジャック)が来ると言う事だろう。

「だから話すべき事は慎重に選ばなければならない。が、そう時間も残されてもいない。それにパトラについて話すくらいなら問題はないだろう」

「そうだ、そのパトラって奴は――」

「大体、想像はついているだろう? 遠山。パトラは、"クレオパトラ"の子孫だ。少々、古代思想にかぶれた本人は自身をクレオパトラ7世の『生まれ変わり』だと自称しているがな」

 ――クレオパトラ。

 古代エジプトで、その美貌と知性でローマの侵略から守ったエジプトの女王。

 リュパン、ジャンヌ・ダルク、ドラキュラ伯爵、ジャック・ザ・リッパーときてクレオパトラか。

 もうなんでも来やがれ。

「彼女はイ・ウーの厄介者でな」

 エレベーターに乗って地下2階へのボタンを押しつつ、ジャンヌは眉を寄せる。

 俺、白雪、理子もエレベーターに乗る。

 確か地下2階は車輌科(ロ ジ)のドックだったな。

 それはそうと――

「厄介者?」

「パトラは、誇大妄想のケがあってね。自身が世界を治める王で、自分は生まれながらにしての覇王(ファラオ)だと思い込んでる。ジャックに粛清されてからはちょっとはおとなしくしてると思ったんだけどね。パトラは、『教授(プロフェシオン)』が死んだら自分がイ・ウーのリーダーになって世界を征服しようと考えてる。そんな感じで、素行も色々と目に余るところがあったからちょっと前に退学になったんだよ」

 理子がエレベーターの壁を背にして俺の疑問に答える。

「お、おい……世界征服って」

「アニメや漫画の悪党みたいな妄言だって? 普通ならそう思うだろうね。でも、そんな事を可能に出来ると思わせる場所なんだよ。イ・ウーは……。パトラだけじゃない、他にも何人かそう言う思想の連中はいるよイ・ウーにはね。それにそれを可能とさせるだけの実力もある」

 どうやら理子は冗談で言ってる訳ではないらしい。

 ジャンヌの表情も変化がないあたり……誇張表現って訳でもなさそうだ。

 すぐに理子から何かを(あざけ)るように「ふっ」とした笑い声が漏れる。

「でも、パトラがイ・ウーのリーダーになんかになれはしないけどね」

 理子が小馬鹿にしたようにそう言った。

「ジャック……か?」

 俺の予想した答えを口に出した時、

「そうだよ。あの人が認めない限り、『教授(プロフェシオン)』以外の人がリーダーになる事はないだろうからね」

 理子は当然とばかりにそう返した。

 

 

 エレベーターが止まり、開いた先のエレベーターホールで伏せた銀狼とベンチに体育座りをしたレキがいた。

 俺を見たレキはそのまま静かに立ち、銀色の大きいアタッシュケースを持ってエレベーターから出た俺へと向かってくる。

 そのまま俺の目の前で止まり、

「キンジさんは、アリアさんを救出しに行くのですね」

 そうレキに問われて俺は、白雪、理子、ジャンヌを見回した。

 どうやら彼女達は俺の意思を確認しておきたかったらしい。

 だから、アリアを助けに行く俺を案内していたんだ。

 俺は……レキの問いに頷いた。

「――仲間がやられて、黙ってられるかよ」

 アリアがやられたのは、俺の責任でもあるしな。

「では、これを――」

 そう言ってレキが俺に見えるようにアタッシュケースを床に置いて開ける。

 その中身は俺が強襲科時代に使っていたB装備の防弾ベスト、ベレッタ・キンジモデル、バタフライナイフにフィンガーレスグローブ。

 どれも整備されて磨かれている。

 どうやら、準備はあまり必要ないらしい。

 これで武偵1人分の働きは出来そうだ。

 あの超能力者相手にどこまで通じるか分からないけどな。

「これも、キンジさんの上着のポケットに入っていました」

 そう言ってレキから渡されたのは砂時計。

 球状のガラスの中で揺れ動く砂時計は、常に下に落ちるように固定されていないようだ。

 これが……アリアの命のタイムリミットだろう。そう直感的に分かった。

 俺の所にコレがあるという事は、やってみろ――そういう事なのか? 兄さん。

 自分を倒した俺に、託したんだろう。

「お前はいかないのか? レキ」

 防弾ベストを装着し、フィンガーレスグローブ、予備マガジンを装備しながら問いかけた言葉にレキはフルフルと首を振る。

「行けるのは2人。脚を負傷してるジャンヌさんは当然……理子さんは、相手に手の内を知られていると言う事で辞退なされました。相手が超能力者(ステルス)と言う事も考慮して、白雪さんが適任かと思われます。ご自分でも出撃を希望されていますし」

 どうやら、俺のいない間に相談事は済ませていたらしい。

 だが――

「『行けるのは2人』ってのは?」

「それは、すぐに分かる。遠山、準備が終わったらドックに来てくれ」

 そう言ってジャンヌは次の扉の前で背を向けながら時計を見つつ、先へと進んでいった。

「それとキーくん、これ」

 理子が渡してきたのは武偵高の制服。

 それも真新しい夏服だ。

 絶対に救出し、武偵高に連れ戻せ。

 そう言う意味だろう。

 服にこだわりがある理子らしい気遣いだな。

「あと、ドックに行く前にちょっと寄り道して」

 最後にそう言って理子も次の扉へと向かっていった。

 寄り道してる暇はないんだが――何か話があるっぽいな。さすがの理子もそこら辺の空気は読めるはずだし。

 装備が終わった俺は、言われた通り理子が向かった先へと歩く。

 薄暗いドックへと続く通路の曲がり角で誰かの手がこっちに来るように手招きしている。

 十中八九、理子だろうが……普通に待っとく事は出来んのか。

 そんな事を思いながらも俺は曲がり角を曲がる。

 そこにいたのは、

「やっほ……元気そうだね」

 壁に背を預けた霧だった。

 だが、その様子は少しおかしい。

「どうしたんだお前?」

「気付いた? どうしたって言っても大した事じゃないよ。ちょっと熱っぽいだけ」

 笑顔でなんて事を言いながらもどこか辛そうに見える。

「だったら寝てろよ」

「見送りぐらいはと思ってね。それにしてもひどい話だよ。海に落ちたと思って水上バイクに乗って海に飛び込んで探してたらいつの間にか本人は桟橋に倒れてたって言うし」

「わざわざそれを今言う必要があるか? まあ、助けようとしてくれてたのはありがたいけどな」

「本当なら……一緒に行きたかったんだけどね。ま、ちゃんと取り戻してきてよ。理子に呼んで貰ったのはそれが言いたかっただけ。頑張りなよキンジ」

 そう言って霧は静かにその場から手を軽く振って通路の向こう側へと消えた。

 ありがとよ、霧。

 心の中でそう感謝しながら、俺はドックへと向かった。

 

 ◆       ◆       ◆   

 

 ドックの通路で誰もいない事を確認しながらあたしは変装を解く。

 はーあ……お姉ちゃんも抜け目がないんだから。

 一応、熱で寝てるって事にはなってるからわざわさ出る必要もないように思えるんだけどね。

 こう言う細かいところにも気を配るから、証拠とか矛盾があまりでないんだろうけど。

 カツラを取って、軽く自分の髪を()く。

 今頃はお姉ちゃんは既にイ・ウーかな?

 しかし、アリバイ作りも楽じゃないよね。

 おっと……あたしも早くドックに向かわないと怪しまれちゃう。

 足早にあたしはその場をあとにした。

 

 ◆       ◆       ◆  

 

 静かな気分。

 なんだろうね、この気持ちは……

 このイ・ウーに戻ってからは、何て言うのかな? まるで礼拝でも受けるような、凪いだ水のような、そんな気持ち。

 今までにない程に私は落ち着いてる。

 それに違和感を感じる。

 おかしいな……今までここにいて、そんな事は感じなかったのに。

 いつも何らかの衝動が湧き上がって来るはずなんだけど。

 ――あまり悩んでも仕方ない。

 それにお父さんから話があるらしいし。

 通路を歩いていき、お父さんの――イ・ウーのリーダーの私室へと向かう。

 両開きの木製の扉の前に立ち、3回ノックしたあとに、

『入りたまえ』

 返事が扉の向こうから返ってくる。

 そして、金色の取っ手を持って大きく開く。

「やあ、ジル君。よく来たね」

 お父さんはアンティークの机の傍でステッキを持っていつものようにパイプを咥えながら立っていた。

「話があるって言うから来たんでしょ? よく来たも何もお父さんから呼んだくせに」

 言いながら私はシルクハットを投げて帽子掛けへと掛ける。

「まあ、そうだね。それよりもジル君、紅茶でもいかがかな?」

 そう言ってお父さんは今淹れたであろうティーカップを掲げる。

 いかがかなって言う割には、お父さんが飲んでるやつを含めて最初からティーカップが2つある訳だけど。

「頂くよ。紳士からの提案だしね」

 言いながら私はソファーに腰掛ける。

 お父さんが紅茶を持ってきて、対面する形で私の向かい側のソファーに座る。

「それで? 話って、最後の親子の団欒(だんらん)とか?」

「そんなところだよ。話すのはジル君についてだけどね」

「私について……? 私の何について話すつもりかな?」

「そうだね。例えば――」

 

 ――自分が何者か知りたくはないか?

 

「ふーん……自分が何者か、ね」

 私はどこか他人事のように思いながらも、紅茶を飲む。

「君ならそう言う反応をすると思ったよ」

 そう言いながらお父さんは推理していたとばかりに微笑む。

「じゃあ、テイク2で。今度は動揺するパターンでもする?」

「ふむ、面白そうだ。ジル君が動揺する事はこの先ないだろうからね」

「さり気なく私の人生のネタバレをしないで欲しいな」

「失礼。こう言う童心は貴重なものだよ。結局のところどうなんだい? 自分のルーツについて」

「そこで話を戻すの? 分かってるでしょ、私の答えなんて」

「分かっていたとしても、君の口から聞きたいんだよ」

「まるでプロポーズの言葉みたい」

「口説いてるつもりはないんだがね」

 困ったように言いながらお父さんはパイプを咥え直す。

「自分の事について興味がない訳じゃないけど、別に固執する程の事でもないしね~。それに何となくだけど、いずれ分かりそうな気もするし」

「ふむふむ」

「それに私は私……何者でもない。ただ人生を楽しんでる名も無き殺人鬼だよ」

 これで満足? とばかりにお父さんに笑顔を向ける。

「なるほど、充分だよジル君。僕がやろうとした事は余計なお世話だと分かったよ」

「つまり?」

「僕は相手が知らない事を説明するのが好きでね」

 私が何者か教えたかったと。

 クイズの答えを他人に教えたがる少年みたいな感じかな。

「だろうね。まあ、その気持ちは私も分かるけど」

「ふふ、そうか。分かってくれるかね」

「娘だもの、分かって当然」

 ここまでゆっくりと語ったのは、結構久しぶりになるね。

 それからお父さんは、

「ところで、ジル君は恋についてはどう考えている?」

 藪から棒にそう尋ねてきた。

「哲学?」

「いや、恋に興味があるかないかの話だよ」

「前にも何度かそんな話、しなかった?」

「今までで23回ほどだったかな?」

 結構してるね。

 私はお父さんに呆れる。

「興味はあっても、感情を知らなきゃどうしようもないでしょ?」

「確かにそうだね。だけど、君もいずれは理解するだろう」

 意味深な発言。

 と言うよりは、

「またネタバレ?」

「ただの予想だよ」

 推理じゃなくてただの予想ね。

 あらゆる事象から論理的に物事を考えるお父さんがアバウトな事を言うなんて珍しい。

 もしくは――

「推理できないとか?」

 私の言葉に少しだけお父さんはキョトンとした顔をする。

 これまた珍しい表情をするね。

 それから子供みたいに無邪気に笑って、パイプの火種を交換して火をつける。

「君は本当にあの人によく似ているよ。僕がよく翻弄(ほんろう)された"彼女"に」

 何かを懐かしむような顔をしたのは一瞬。

「さて、そろそろ時間だ。紳士たるもの時間にルーズでいてはいけない」

 すぐにいつものように振舞って、ソファーから立ち上がる。

 私も同じように立ち上がって帽子掛けにあるシルクハットを取る。

 いよいよ第1幕のクライマックスか。

 いや、違う。序章の終わり。

 本当の第1幕が始まる準備が出来てきている。

 しばらく待っていると、私の隣にコートを羽織ったお父さんが立つ。

「他にも私に言う事はあるんじゃないの?」

「教えたい事は山程あるんだがね。言う事は数える程しかないんだよ」

「例えば?」

「"また会おう"と"今までありがとう"」

 そして、別れ。

 "また会おう"って言うのがどう言う意味なのかってところだけど。また"生きて"会えるって意味なのか、それとも"別の形"で会うって意味なのか、私には分からない。

Shall we dance(一緒に踊らないか)?」 

Yes(もちろん)

 だからこそ私は今を楽しみたい。

 私に向かって手を出して紳士的にお父さんは私を誘い、私はその手を取って応える。

 ボストーク号が浮上しようとしているらしい。

 僅かな揺れが部屋に伝わる。

 そのまま手を繋いで私とお父さんは扉を開けて部屋を出た。

 




全く休みが短く感じるぜ。
シャーロックとの決着はつけたいところだが間に合うか?
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