また6月には忙しくなりそうですが。
出来る限り更新を再開していきたいと思います。
「Good morning!」
朝の玄関先から聞こえて来る
あれから少々日数が経って……って言っても2日ぐらいだけど。
場所を移さずキアの部屋に入り浸っている。
本人は賑やかな雰囲気を楽しんでるみたいだし、色々と手伝いもしてるから助かってるだろうけどね。
「お姉ちゃんどうしちゃったの~? 何か考えごと?」
キッチンのダイニングテーブルの椅子に腰掛けた未だに変装中の私を発見した理子はそう聞いてくる。
その手にはビジネスバッグを持ってる。
「ん~? 少しばかり以織の事で考えててね」
「いおりん、どうかしたの?」
「例の死神に襲われた」
「わー……思ったよりも深刻な内容をしれっと言った」
事実をどう取り繕っても、現実は変わらない。
だったら誤魔化しても仕方ないからね~
すぐさま理子は気になってか聞いて来る。
「本人は? どうなっちゃったの?」
「別に特に異常はないけど、ちょっとばかり変化はあったわね」
死に直面して、何かしらのたがが外れたのか……何かを得て何かを喪失した、ざっくりと言えばそんな感じ。
本人は気付いてるようで気付いてない様子。
まあ、何にしても夏を境に人が変わるのはよくある事だよ。
以織の事もそうだけど、問題は――
私の中で衝動が大きくなってるって言う事。
今すぐ狂って誰彼構わずって言う感じにはならない。
そんなのはとっくの前に制御が出来るようになってる。
問題なのは"衝動自体"じゃない。
その"周期"、なんだよね。
私の衝動はそう
常に火種が
爆発するとしてもかなりの期間がある。
大体は半年くらいまでなら我慢できる。
最後に殺したのは4月の頃……たった3ヶ月、いや、もうじき4ヶ月か……しか経ってない。
周期が短くなってる。
そんな日もある、と言う訳じゃない。
この周期はそんなに大きく早まったり遅まったりする訳はない。
原因は……まあ、あるよね。
イ・ウーでの『共鳴現象』が十中八九、原因だろうな~
色金を使えば使う程に、私は衝動に呑まれていく。
色金の力と衝動を思うままに振るえば……きっと気持ちいいんだろうな……
でも、それじゃあ楽しくないんだよ。
どうせ、そうして全部壊して行ったところで残るのは虚しさだけなんだ。
ゲームでチートを使って楽しいのは最初だけ、すぐに面白くなくなる。
だから私はあんまり色金を使うのは好きじゃない。
例え、自由に扱えたとしてもね。
しばらく色金を使わなかったら周期は元に戻るだろうけど、問題は現状をどうするか。
この感じだと2週間以内には我慢の限界が来そう。
どうしようかな……以織の事もあるのに。
「はぁ……」
気のせいか何となしに吐き出した息に熱がこもってる気がする。
「何、今のエロい吐息」
「ちょっと熱っぽいかもしれないわね。理子、私の様子おかしかったりしない?」
「いや、いつも通りのような……けど何て言うんだろう。何となくだけど、怖い雰囲気が」
殺気でも漏れてるのか、案外自分では気付かないもんなんだよね。
色金の力まで漏れてないといいけど。
理子は心配するように私の近くに来て顔を覗き込むようにして聞いてくる。
「もしかして、いつもの衝動?」
「当たりよ。この間、色金の力……共鳴して反応しちゃったからでしょうね」
「そっか。実はね、ちょうどお姉ちゃんに仕事の話があって来たの」
「仕事……?」
「うん、ソフィーからね。もしかしたらお姉ちゃんの事を見越して私とリリヤに頼んだと思う」
以織の服を届けて貰うついでに下調べをしてたって訳ね。
ありがたい話だよ。
「内容的にはきっと今までと似たり寄ったりでしょうね」
誰かを
私の大体の仕事って言ったらそこら辺だよね。
「大体はそうだね。だけどまあ、ただでさえ有名なお姉ちゃんがイギリス政府が血眼になって探してるロンドンで活動するのは、結構危険じゃないかな?」
「別に捕まりはしないわよ。メヌエット・ホームズが私の事を推理しない限りは……まあ、推理して情報提供したところであちらにメリットは無いからね」
あの子の事だから、きっと私の背後に何があるかはおおよその見当は出来てるだろうし。
"それ"を敵に回したいとは思わないだろうね。
何よりも彼女には手元に自由に動かせる駒がない。
彼女の
手数はこっちの方が多い。
お姉ちゃんと直接頭脳勝負したら……どうなんだろうね。
私にも分からない。
まあ、それは今は置いておこう。
「それでどう言う仕事かしら」
「分類的には暗殺、かな? 中東で人身売買をしてるディーラーらしいんだけど、何でターゲットに選んだかはよく分かんない」
理子は眉を寄せながら資料をビジネスバッグから出して見せてくる。
理子から受け取ったそれは、簡易的なプロフィール資料。
へー、女性なんだ。
女性が人身売買のディーラーなんて珍しい。
でも顔写真を見る限り、軽くヤバい薬をやってる顔してるよ。
……そうだ、良い事を思いついた。
ついでに理子に先に紹介しておこう。
「それじゃあ、今日の夜に軽くミーティングね。ついでに紹介したい人もいるし」
「いおりんは? どうするの?」
「そのままゆっくりさせておくわよ。まだあの子には早そうだし」
私の答えに理子は「それもそうだよね」と言ってどこか納得したような顔をする。
でも、近い内に以織はもう1つ経験をさせておかないとね。
有名なビック・ベンの時計塔に明かりが灯り、その長針と短針が一番上に重なりそうな頃、私達はタワーブリッジの橋の下にいる。
ちなみにリリヤは車の中でお留守番。
真夜中にメイド服は目立つ。
「こんな所でミーティングね」
理子は周りを見渡して感慨もなく感想を述べる。
ここはタワーブリッジの渡り始め、その下にある小さなトンネル、そしてテムズ川に沿うように作られた長い舗装された道の所だね。
私はテムズ川の方を見ながら理子に語り掛ける。
「別に誰が見てるわけでもないし、問題はないでしょう?」
「でも、ロンドンに死神が出るって言うし……理子としてはあまりエンカウントしたくないかな?」
「もう遅いと思うわよ?」
私がそう言うと、首を傾げる理子。
さりげなく私は顔を動かして理子の背後が見えるくらいに視線を動かす。
そこには黒いローブを
理子は気付いてない。
でも、すぐにゾワリと何かを感じ取ったのか体を震わせる。
ゆっくり振り返って、冷や汗を流す理子。
すぐさまワルサー引き抜いて、死神に正対するように構える。
「お姉ちゃん……噂って当てにならないのばかりだと思ってたよ」
まあ、理子の言いたい事も分かる。
噂なんて背びれ尾ひれついて当たり前。
実際に見て理子もすぐに分かっただろうね。誇張表現無しの本物だって事が。
私は焦る事もなく悠々と死神に向き合う。
さて、そろそろ1つネタバラシしようかな。
「理子、銃を下ろしなさい」
私はそう理子に頼む。
少しだけ間を置いて理子は、
「……お姉ちゃんがそう言うって事は、知り合いってオチ?」
銃を下ろしながら半目で私を見てきた。
最近はパターンが読めてきちゃったかな?
「ご明察よ。簡単に言えば、理子の妹弟子かしらね」
「死神が妹弟子なんて言われて理子はどうすれば……ん? "妹"弟子?」
「そうよ」
死神は自らローブのフードを上げて、その素顔を晒す。
それはキアと瓜二つの顔。
理子が何かを言う前に私は答えを言う。
「紹介するわ、彼女はミア・イレーヌ・アドラー。キアの双子の妹よ」
◆ ◆ ◆
お姉ちゃんから紹介された妹弟子。
その正体はロンドンの死神で今流行りの新人オペラ歌手の妹でしたー♪
……なんて、内心でおちゃらけて見たけどそう言う気分にはなれないよね。
だってあの子――"目が死んでる"んだもの。
何て言うか、世界に絶望して全てをどうでもいいと思ってる……そんな目だ。
そんな目になる気持ちは分かるよ。
あたしも自分の境遇に絶望した時があったから。
間一髪でそうはならずに済んだんだけど、あのままだったらって考えると今でも怖気が走る。
「そうだったわ、あの子にも説明しておかないと」
お姉ちゃんはそう言いながら、メモとペンを持ってミアに近付く。
メモとペンを持つ意味がよく分かんないけど……考えられるのは、筆談ぐらい。
もし仮に筆談だったとしたら、もしかしてあの子――
何て考えてる内に対話が終わったのかお姉ちゃんとミアがこちらに歩いてくる。
立ち止まったミアはあたしを静かに見て、ローブの端を
まさか、ヨーロッパでの伝統的な挨拶である『カーテシー』を生でされるとはね。
このミアって子、育ちは悪くないみたい。
目は死んでるけど……
1つ気になる事があるから、あたしは半分確信めいてお姉ちゃんに聞いてみる。
「お姉ちゃん、もしかしてこの子」
「――"聞こえてない"わよ」
やっぱり、ね。
「正確に言うと難聴なんだけど、全く聞こえてないと言っても差し支えないわね」
医学知識のあるお姉ちゃんはそう付け加える。
「ねえ、お姉ちゃん……」
「何かしら?」
「前に、あたしに家族に誘ったのは2人って言ったよね」
「ええ、そうね」
「1人は歌手でもう1人はマジシャンだって聞いた気がするんだけど……」
明らかにマジシャンって感じの雰囲気の子じゃないんだけど。
誰かを楽しませるどころか、悲しみに叩き落とすような事やってそうなんだけど。
「家族に誘ったのは2人だけど面倒を見たのが2人とは言ってないわよ」
ま た 屁 理 屈 か。
思わず笑顔で言うお姉ちゃんに対して半目になる。
それに、お姉ちゃんの事だから例のオペラ歌手の姉と合わせてこの子も余程な過去がありそう。
聞きたくないけど、どうやって知り合ったかは聞きたいような。
知り合いが増えるのは嬉しいんだけどね、もう少し普通の人……いや、お姉ちゃんが絡んでる時点でその可能性はないか……
「それで? どうせ訳アリなんでしょ」
「もちろんよ。聞きたいの?」
「出会った経緯が気になるかな」
お姉ちゃんは少しミアを見て、軽く彼女の頭を撫でる。
本人は撫でられた瞬間、驚きからか目を閉じたけどあまり抵抗せずに素直に受け入れてる。
「キアとミアに出会ったのは――」
ちょっとした昔話でもするみたいにお姉ちゃんは語り出す。
彼女達の過去を。
◆ ◆ ◆
姉上の姿が見えない。
もう夜中だと言うのにどうやら未だに帰ってきていないらしい。
「ふふ、イオリさん。寂しいの?」
「いきなり何ですか?」
ロッキングチェアに腰掛けたキアさんは私に向かって慈愛に満ちたような表情をしながら聞いて来る。
彼女が行儀よく座っているその姿はまるで人形のようだ。
それよりも、私が寂しい?
どちらかと言うと姉上を心配してるんだが。
そこら辺の者に遅れを取る訳はないだろうが、それでも離れていると落ち着かない。
この間の死神の事は……気にならない訳ではない。
だが、聞こうにも姉上がいないのだから気にしても致し方ないだろう。
その前に――
「私は……姉上が心配なだけです、勘違いしないで頂きたい」
「心配と言うにはソワソワし過ぎな気もしますけど。そうね……例えるなら飼い主の帰りを待つ子犬みたい」
「誰が子犬ですか! 私はそんな甘えたがりではありません」
「そう言う事にしますわ」
その私の弁明にキアさんは微笑み流すだけだ。
この感じだと、違うと弁明してもそのまま流されるだろう。
私はふと、気になった事を聞いてみる。
「聞きそびれていましたが、キアさんは結局姉上とどのように知り合ったのですか?」
私の質問にキアさんは少し迷うような表情をして、言う。
「あまり気分の良い話ではありませんわよ。それでも、お聞きになります?」
どうやら触れてはいけなさそうな雰囲気だ。
と、思いきやキアさんは一転して、
「なんてね。別に隠す程の事ではないですし、気になさらないで下さいな。気分の悪い話には変わりないでしょうけど」
何でもないとばかりに語った。
よく分からないが、私には悲痛な過去があるように思えてならない。
彼女が盲目な理由――そこに何かがあるような気がする。
「別に話さなくてもいいですよ。ちょっと気になっただけですから」
「優しいのね。でも、色々と勝手にお話を進めちゃってるから……それにイオリさんだけお姉様と出会った経緯をお話されたのに私だけ話さないのもズルいでしょう?」
そう言うものだろうか?
「イオリさん、私ね……本当にあなたが気に入ったの。勝手な想いかもしれないけど、私はあなたに私の事を知って欲しいの」
……なんだろうか。
何と言うか、キアさんの言葉がプロポーズっぽく聞こえてしまう。
本人にそんなつもりはないかも知れないが、彼女の美声が妙に心に響き、女性である私でさえドキリとしてしまう。
それよりも……状況的に強引にでも話し出しそうな雰囲気だな……
私は
「分かりましたよ」
私の言葉にキアさんは表情を緩ませて、
「そうね……どこから話したものかしら」
とどこか楽しげに出だしを迷っている。
「まずは……そうですわ! 実は私には家族がいまして、妹がいますの」
「妹さん、ですか?」
楽しそうに話し出すキアさんに思わず聞き返す。
何故ならこの部屋に寝泊まりして数日、私達とキアさん以外に誰かが訪れた覚えも形跡も特にないからだ。
「ええ、けれど妹はなかなか私に会いに来て下さらないの。まあ、原因は私にあるのでしょうけれど……そこら辺も含めて……少し、お話ししましょうか」
そして、彼女は語り出す。
◆ ◆ ◆
私が語ったミアとその姉のキアの過去。
それは、理子と同じくらい酷いもの。
いいや……不幸の形なんて比べるものじゃない。
どっちがマシかなんてのは、不毛なんだよね。
だってどっちにしても"不幸"なんだから……
「この子達と出会った経緯はそんな感じね」
「……軽く言ってるけど内容が重いよ」
私が話し終えたとばかりに締めると理子は呆れる。
「それにしても、ロンドンの死神がこの子って言うのはちょっと驚きだったかしらね」
私はミアを見ながら言う。
以織が襲われてるところを見てた時、まさかとは思ったよ。
キアの事は分かってたけど……ミアの事はあんまり聞かないからね。
たまにキアに聞いても妹が何してるかなんてあまり知らなさそうだったし。
理子は唐突に何かに気付く。
「もしかして、その子も仕事に参加するの?」
「あら、察したの? そうよ、久しぶりに弟子の実力を見ておきたいから」
「ふーん……お姉ちゃんの弟子なら実力に問題はないんだろうけど」
と言う理子の目は懐疑的。
耳が聞こえないと言うハンディキャップを背負ってるんだから、多少なりとも戦闘に影響はするだろう。
その事が気に掛かってる感じかな。
でもね、理子。
そんなのは本人が1番分かってるし、言うまでもないんだよ。
おそらくだけど――
――シャキ。
そんな
ミアから目を離して私を見た一瞬だったね。
しかし、足音もなく間合いを詰めるとはね……死神なんて言われる訳だよ。
この時点で正面で戦えば実力は理子よりも上っぽい事が知れる。
まあ、ロンドンで暴れてる割に今でも捕まってないのがその証拠だね。
理子の瞳を覗き込むようにミアは正面から見てる。
それから小首を傾げた。
ミアの瞳に引き込まれるように理子は言葉を失ってる。
すぐにミアは離れて刃を仕舞い、自分のローブから
それから理子に見せる。
私は移動して、理子の隣に立ってその内容を見る。
『聞こえないからってバカにしないで』
スラスラと書かれた英語の筆記体でミアはそう文字で言った。
すぐに別の内容を書き始める。
『それと読唇術が使えるから、筆談じゃなくてもいい』
音として言葉を捉えるんじゃなくて形で認識出来る様にしたみたいだね。
よく成長してる。
「随分と、様変わりしたわね」
私の言葉にフルフルとミアは首を振る。
『私は何も変わってない。今も昔も、あの時のまま』
事情を知らない人からして見れば不思議な言葉だろうね。
言葉って言っても実際はこっちが読唇術で読み取ってるだけなんだけど。
私はその言葉からもしかしてと思って、1つミアに尋ねてみる。
「キアには会ってないのかしら?」
その言葉にミアは表情を変えず、静かに顔を伏せる。
どうやらこれは地雷を踏んだみたい。
まさか進展なしとはね……
問題は未解決のまま、ミアが言うあの時のままって言うのはそう言うことなんだろう……
軽く自虐も含んでたのかもね。
だけど、戦役までにはメンバーとして交流を深めておかないと。
問題が何とか解決すればすんなりと行くと思うんだけど。
その事を考慮せずにお姉ちゃんが私に単純に役者を集めるように言った訳ではないんだろし。
となると何か転機と言うか機会が少なくとも巡ってくるはず。
……もしかして――
「ミア、この顔に見覚えはあるかしら?」
私は今回のターゲットの顔写真をミアに見せる。
それを静かに手に取ったミアはゴミを見るように目を細めた。
それから口をゆっくり開く。
『こいつ、どこにいるの?』
表情は特に大きくは変わらないけど殺気立った目をしてる。
どうやら反応からして当たりか……
お姉ちゃんとお父さんが絡むと一種のご都合主義みたいに流れる様に物事が進んで行く。
「それはこれから調べるところよ。見覚えがあるのね」
コクりと頷き、ミアは口を開く。
『私達を売ったヤツ』
なるほど。
お望みの復讐の機会が巡ってきたって言う訳だね。
だったらやる事は単純明快。
「どうやら近い内に会えるみたいよ。もちろん、付いてくるわよね?」
写真を返して貰い、お誘いの言葉を掛ける。
その言葉に彼女は迷いなくコクリと頷く。
「分かり次第連絡してあげるから、連絡先を教えて欲しいわ」
と言ったらミアは携帯をローブの
持ってるんだ……意外。
なんて考えながらも手早く連絡先を交換する。
「それじゃあ、またね」
私がそう一時の別れを告げるとミアはローブのフードをかぶり直し、私達に背中を向けて去っていく。
闇に消え、それから風がひと吹きすると気配が完全に消えた。
夏の割に肌に刺さるようなこの冷えた風は死神の風って感じだね。
「……うん、お姉ちゃんに関わった人にまともな人なんていないんだね」
ミアが去ってどこか遠い目をする理子。
「それって自分も含めて言ってるわよね?」
「いや、理子とリリヤはそこまでぶっ飛んでないし……あといおりんも」
「何て言っても結局は現実逃避でもう手遅れって言うパターンじゃないかしら」
「そんな事はない、と思いたいなー」
自信がないのか理子はそんな風に漏らす。
「それじゃあ仕事に掛かりましょう」
理子にそう声を掛け、私達もその場を離れる。
復讐は何も生まないと大半の人は言うだろう。
でも、それは場合によりけり。復讐を……過去を、しがらみを殺してこそ前に進める者もいる。
理子にしても以織にしてもミアにしても同じ。
それを見るのが私としては楽しみでもある。
今回もそれが見れるだろうね。
なんて思いながらも私と理子は一旦別れて仕事の準備に向かった。
と言う訳で数日後。
今夜のロンドンの天気は雨。
降る雨は傘を使うかどうか迷うような、しとしととした降り具合だね。
準備としては上々……私とミアはターゲットのいる人気のない港にある倉庫へと向かった。
まあ、衝動を抑えるためにも何人か殺らせては貰ったけど私は付き添いでほとんど殺ったのはミア1人だけど。
結果? 死神に目を付けられた連中の末路なんて聞くまでもない。
ブォンと言う風切り音と共に振り下ろした鎌から血が飛ぶ。
そして転がり落ちる首。
それは今回のターゲットのやつれた顔の女。
しかし、復讐劇としては呆気なかったね。
よくある小物溢れる感じで半狂乱になって抵抗してこうしてあっさり死ぬ。
ミアは足元にあるいくつもの先が潰れた銃弾を何度か踏みながら私の方へと振り返った。
『終わった』
何の感慨もなく彼女はそう告げる。
それに対して私は「お疲れ様」と言いながら倉庫に置かれた中ぐらいのコンテナの扉を開けて中を見る。
そこには少年少女が押し込められていた。
数は20人くらいか……人種はバラバラでろくに何も食べてないのかやつれてる。
大規模ではなくこうして何かしらの表企業を装いながら小規模なブラックマーケットはどこにでもある。
これ、もしかしなくても何人かダメにしてるよね。
この女ディーラーの取り巻きも何かしらの麻薬をやってるし。
ふむ、さてどうしたものか……
今回はめぼしいのはいないっぽいね。
育ててみれば分かる事もあるけど、さすがに20人は多すぎる。
船長でも呼ぶかな「移動式の孤児院じゃない」って怒られそうだけど。
扉を開けたままだと外に出るかもしれないから、念の為に閉めて倉庫の外に出る。
すると、私の服の裾をちょいちょいと引かれる感覚がして振り返ると――
『あの子達、どうするつもり?』
ミアが聞いてきた。
「知り合いにでも引き渡しますよ。衣食住のある場所に、ね」
と青年の声で私は答える。
『いつもこんな事してるの?』
「いつもしてる訳ではないですが……見掛けたらちゃんと生活出来るようにはしてますよ」
『変なの……』
変、ね。
別に私はダークヒーローをやりたい訳じゃない。
何て言うのかな? どうしようもない大人はともかく未来ある子供を解体する趣味はあまりないんだよね。
まあ、可能性があるかないかの違い的な感じ。
さっさと連絡して、船長が来たら今日はもう帰ろう。
ミアとキアの事はまた後日に機会を作るとしよう。
「よお、やっと見つけたぜ」
そういきなり虚空に響くぶっきらぼうな男の声。
ああ、この声は……そう思って声がした方を振り返る。
私が見る空間の先ではジジ、と音を立ててまるでテレビのノイズみたいに景色が歪んでいた。
姿を現したのはレインコートのような服を着た青年。
これ、
こんな物を持ってて私を探してるヤツなんて1人しかいない。
「やあ、"ジーサード"。ご機嫌いかがかな?」
「ああ……機嫌はいいぜ。何せ、やっとお前を見つけられたんだからなァ?」
フードを取り、バイザーを取って待ち望んだとばかりに表情を歪ませるジーサード。
その顔はキンジに瓜二つ。
当然ながら雰囲気は違うけどね。
「しかし、まだ私を追っていたのか? 殺人鬼をストーカーするなんて酔狂な事だ」
「いいや……追ってたのは間違いねえが、見つけたのは偶然だ。俺の目的は倉庫にいるブラックリスト入りの売人だからな。だがそれも――」
ジーサードはそこで言葉を区切ったところで、
「サード様、目的の者は既に死んでる御様子。コンテナには幾人もの少年少女が」
声はすれども姿が見えない。
声の高さからして女の子っぽいけど。
「分かった。そのガキ共を載せられるモンを用意しとけ」
「はい」
見えない人物に指示を出す。
そりゃ他にも何人かいるだろうね。
そして、指示を受けた人物の気配が遠ざかっていくと同時に再びジーサードはこちらを睨む。
「やっぱりお前達が殺っちまったみてえだしな。人の仕事を取りやがって」
「手間が省けたじゃないですか。まあ、殺人鬼が片付けた案件を自分の手柄にするなんてのは……貴方はしないでしょうね」
「当たり前だ。虫酸が走る」
吐き捨てるように言うジーサードはバイザーを付け直した。
「それはそうと、せっかくのチャンスだ。テメエの中に"ある物"を頂く」
漆黒の現代的な
さて、どうしたものか……
そう考えているとミアを中心に静かに風が巻き上がる。
それまでミアの事が眼中になかったジーサードの視線が私から外れる。
「ところでテメエの隣にいるそいつはなんだ?」
「ああ、彼女かい? 彼女は私の弟子さ」
「弟子、だと?」
「これ以上は秘密さ。さて、少しだけ共に踊るかね?」
「俺にはそんな趣味はねぇ……」
「おや、芸術関連に興味のある君の事だからダンスにも
「てめェには俺の趣味を共感して欲しくねえな」
「そうかそれは残念だ……」
私は1つ呟いて背後の空間に向けてナイフを投げる。
すると、ザリと言う音がする。
右に避けたか。
同時にミアが大きく薙ぎ払うように大鎌を振り回す。
私はすぐにしゃがむ。
ミアの鎌に何かが引っ掛かりそのままジーサードの方へと投げ飛ばすようにミアは振り抜いた。
そして、ジーサードの傍の地面を滑り走る2つの軌跡。
それを見てジーサードは舌打ちする。
「チッ、バレてやがったか」
「もう少し駆け引きを上手くしたまえ。逃したくないがために自ら堂々と姿を晒したのはいいが、少々お喋りが過ぎたな」
さっきのは時間稼ぎ。
私の目の前に現れて注意を引きつつ、こちらを挟撃するタイミングを見ていたんだろうね。
まあ、それもミアの風のおかげで分かったんだけどね。
しかし……さっきは少し踊るか? なんて誘いをしたけども……
ここはロンドンで
秘密結社のリバティーメイソンやロンドン武偵局。
ここは地の利的には私のホームグランドでもあるんだけど勢力的にはアウェーなんだよね。
だからあんまり派手にドンパッチする訳には行かない。
……ああ、せっかく殺したのに。
今度はどれぐらい持つか心配。
「私は君と同じで忙しい身だ。ダンスはまた今度にしよう。それと、少年少女は君の好きにしたまえ」
緋色の光が私から溢れる。
そして、私とジーサードの間の空中に現れるのは一辺が30cm程度の黒い
いくつもそれが現れて、私はそのキューブに向かってナイフを投げる。
キューブの中でナイフは物理を無視したように静止する。
それから指をパチンと鳴らしてキューブを消滅させた瞬間にナイフは投げた時よりも格段に速度が上がって進む。
それもバスン! と言う音の壁を越えたような加速。
予想外の加速にジーサードも驚愕してる。
「フォース! 避けろ!」
ナイフの対応に全力を注いでいる今の内に退散。
――
私はそう念じ、ミアと共にその場から消える。
ギリギリ目に映る遠くの家の屋根に私とミアは空間跳躍した。
さすがのジーサードも他国で依頼された内容以外は派手には動けないだろう。
そんな事をすればアメリカとイギリスから糾弾されるだろうしね。
独自に気付かれないよう捜査するにしてもきっとロンドン市内だけでも手に余るだろう。
あとはこっちが大人しく息を潜めていれば問題はない。
「さて早く退散しよう。それと少し話がある……ソフィーの所へ、また連絡する」
私はそう言ってミアから足早に離れる。
避難した先は人気のない裏路地。
あーあ……使っちゃったよ色金。
でもねえ、色金なしで堂々と戦うのは結構キツいんだよ。勝てない訳じゃないけど……
それに私のやり方は相手の不意を突きながらの奇襲、暗殺だからね。
時間を掛けすぎると武偵局やら何やらに嗅ぎつけられるかもしれない。
すぐさま変装を解いて裏路地にある水面を見る。
辛うじて色の判別はできる。
……ちょっと色金、侵食しちゃったかな?
勘弁して欲しいね。
お姉ちゃんよりも先に私がダメになったら意味ないし……いい加減、本格的に対策を考えないと。
しかし、お姉ちゃんも人が悪い。
アメリカの
何かしらの意味があるとは思ってたけど。
分かってたんなら教えて欲しかったよ。
私の色金を強めてどうするつもりなんだか。
お姉ちゃんにあまりメリットがあるように思えないし。
力を制御させるため、って言うのはないね。ほとんど制御出来てるし。
危機感を持たせるため?
うーん、分かんないな~
お姉ちゃんとお父さんの考えることなんて分かる訳がないんだけど。
キンジはともかくしばらく金関係とは距離を置きたい。
色金しかりGの血族しかり、ね。