緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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やべえ、仕事が始まった。
なんて言いつつも更新とFGOのイベントはする。


第8章:人形狂演劇(マリオネットパーティー)
68:ゲームの前座


 

「――私とジルの寿命は5年あるかないかよ」

 沈黙、静寂、呆然、衝撃。反応は人それぞれ。

 私の中ではいくつもの感情が渦巻く。

 いや……いやいやいや。

「ウソ、だよね?」

「私はこう言う時にジルみたいに冗談を言うつもりはないわ」

 そうだろう。

 ソフィーがお姉ちゃんみたいな事をしないのは分かってる。

 今、理子達に告げた言葉は事実なんだと……実感が、遅れてくるように後になって胸の内に入り込む。

 目に見えて動揺している以織から疑問が静かに吐き出される。

「なんで、ですか? なぜ姉上の寿命が――」

「色金――聞いた事あるでしょう?」

 ソフィーの言葉に、あたしも以織も思わず体を震わす。

「ジルの中には色金がある。そして、色金は心と繋がる金属……言い換えれば人の心を侵食してしまう可能性もある」

「…………」

「やっぱりあの子は以織には話してないみたいね」

 ソフィーは何もかもを見通してるような目で言う。

「今まで私が生きてこられたのは、ジルの非人道的に培ってきた高度な医療技術のおかげ……あの子がいれば難病のいくつかは解決できる。簡単に言えば、あの子が死ぬ時には私の寿命もそれまでよ。そして、私は病弱だから当たり前だけどジルの寿命が短い理由はもちろん色金が原因。あの子は色金と相性が良過ぎる事、そして何よりも本人の在り方……そう、感情を知らないという事ね」

 そこまで説明したところで「ケホッ」と軽く咳をする。

 だけど、本人は気にせずにそのまま続ける。

「あの子は感情が抜け落ちてる。楽しい以外の感情をあまり知らないし、緋々色金にとって重要な恋と言う感情がそもそもない。まあ、知らないだけでしょうけど……その結果、色金特有の好戦的な部分が変質して殺人衝動になった。結局はバランスが取れずに偏った結果として色金に侵食されながらも現状を保ってる。ちなみに色金を使い続ければ寿命はより短くなるわ。ジルを救う方法は今のところ2つ、感情のバランスを元に戻すか、色金を抜き取るか……今までにない難題だわ。解答は結局のところ実質1つしかない」

 ソフィーの言うとおり、色金が心と繋がる金属だというのなら実質の解決方法はただ1つ。

 ――お姉ちゃんが誰かを好きになるしかない。

 

 

 それが、数日前の出来事。

 お姉ちゃんに恋愛感情を持たせる?

 なに、その難易度の高いヒロイン……フラグ構築するルートが見えないとかマジで無理ゲー。

 あーあ……これは新学期早々に憂鬱だ~

 いやさ、希望がない訳じゃないんだよ?

 でもさ……相手があの唐変木の朴念仁しかいないんだよね。

 別にキーくんに魅力がない訳じゃないけどさ、それでも何て言うかお姉ちゃんは勿体無いと言うか何と言うか。

 ともかく、あたしとしては反対。

 ああ、でもアリアにキーくんを取られるのも(しゃく)だし……

 ……。

 …………。

 もー! 本当にどうしたら良いんだーー!!

 思わず枕を持って部屋のベッドの上でゴロゴロのたうち回る。

 ハッ、そうだ! 別に男性にこだわる必要はないんだ。

 恋愛感情を持てば女の子でもおk……なのかな?

 ……いやいやいや、理子ってば何を考えてるんだか。

 冷静になろうよKOOLになるんだ。

 一瞬だけど妄想してた構図、完全に理子が堕ちてる側だったし!!

 お姉ちゃんが恋しなきゃダメなのになんで理子が堕ちてるの!!

「朝から何をやってるんだ理子……」

 ハッ、と我に帰って玄関に続く廊下の方を見ればジャンヌがいつの間にか立ってる。

 うわー……これは恥ずかしいところを見られた。

 向こうも呆れたように見てる。

「いや、ほら悩みがあって悶えてたと言うか何と言うか……」

「私がノックしたのもチャイムの音も聞こえないのか? だとしたら相当に重症だな。私でよければ相談に乗るが?」

「別にいいよ、ジャンヌじゃ多分無理だし」

「……最近、私の扱いがぞんざい過ぎないか? と言うより、お前の友である私はそんなに頼りないのか?」

 珍しくジャンヌがしおらしいと言うか、若干悲しげな表情。

 しまった……さすがに言い過ぎた。

 でも、正直――

「頼りないって訳じゃないけど、ジャンヌじゃ荷が重いって言うか……」

 視線を逸らして苦笑いしながら理由を答える。

「何を言う、頭脳担当の私ならば解答は得られなくてもアドバイスは出来るはずだ」

 ジャンヌはメガネを掛けてやる気全開だ。

 無駄にドヤ顔しないでよ……このあとの展開が読めちゃうから。

「恋愛相談って言ったら?」

「……だ、大丈夫だ。その辺の知識はある」

「その知識は少女漫画とか言うオチじゃないよね」

「………………」

 わーい……分かりやすい反応。

「ふ、ふふ……すまない理子。私には荷が重かったようだ」

 折れるの早い。

「うん、知ってた」

 その一言で聖女は膝から地に堕ちた。

「しかし、恋愛相談――まさか理子!? 誰かに恋をしたのか!?」

 と思いきや急降下からの急上昇。

 一度沈んだジャンヌがすごい勢いで詰め寄ってくる。

 と言うか、私が話した最初にその結論に至るかと思いきや意外に遅かった。

「いや、あたしじゃないんだけどさ……ちょっと結ばれて欲しいと言うか、恋して欲しい人がいてね」

「なんだそれは……」

「いやー、お互いに惹かれてると思うんだけどね。遠くから見ててもう、お前ら結婚しろよ的な? ともかくもどかしくてね」

「それは、本人の意思に関係なく結び付けたいのか?」

「あー、それは……その」

 ジャンヌのジト目の指摘に言葉が濁る。

 これは人に相談しようにも、複雑すぎて説明できない。

 特にアリアとか白雪の耳に入ったらお姉ちゃんよりも先にあたしの寿命がヤバい事になりそうな予感。

 シャーロックに並びそうな頭脳を持つあのソフィーが難題と言う訳だよ。

 お姉ちゃんそう言う人の意思を無視して話を進めるの嫌いそうだし。

 あんまりやりすぎると――考えたくない……

 お姉ちゃんの感情が抜け落ちた時の表情ってかなりトラウマなんだよ。

「理子の言う相手がそれを望んでいるかどうか、一番大事な部分ではないのか?」

 いやまあ、ジャンヌの言う通りなんだけどさ。

 それとこれとは話が別なんだよね。

 恋を望んでるとかじゃなくて恋しなきゃ死ぬなんて何の冗談なんだか……

 何にしても、あの人を死なせちゃいけない。

 世間では悪党だろうけど、あの人は大切な家族なんだ。

 絶対に見捨てない。

「そうだよね。もうちょっと考えてみるよ」

 ……難しいだろうな、恋を盗んで人に与えるなんて。

 

 ◆       ◆       ◆  

 

 8月も終盤に差し掛かって、キンジは不足単位の獲得に大忙し。

 私としては手伝ってもいいんだけど……

「あー、何でこんな時に出るかな」

 色金の侵食が進んでる。

 そのおかげでちょっと表には出れない。

 別に瞳の色が緋色に近付いたって訳でもない。

 ただ単に衝動が少し胸の内をザワつかせる。

 少し? いや、段々と大きくなってる。

「は、ハハ、ふふふ。ダメだよ、我慢しなくちゃ……大丈夫、気持ちは静まる、鎮まる……波が引くみたいに」

 鏡の前に立ってただひたすらに自分に向かってそう言い聞かせる。

 薬と自己暗示の併用(へいよう)で抑えてきたけど……これもそろそろ限界かもしれない。

 注射器を首に刺し、目の前の洗面台に軽く捨てる。

 これで"3本目"……案外、ヤバいかもね。

 夾竹桃の毒を利用した精神安定剤のおかげで今までは1本である程度は衝動を抑えられてた。

 でも、この間のロンドンで色金を使ってから体の熱があまり治まらない。

 何人解体すればこの(うず)きは止まるのかな?

 早いとこ人形を何体か見繕わないと……

「フー……はぁぁぁ~」

 うん、取り敢えずはこれで大丈夫。

 鎮静するのに結構時間が掛かっちゃったな。

 改めて鏡に映る白野 霧としての自分を見る。

 何もおかしいところはない。

 さーてと、気付けばいつの間にやらメールが届いてる。

 キンジからだ。

 どうやら、単位補填のために色々と奔走してたみたいだけど……8月31日の今日まで結局取れなかったみたいだね。

 そしてどうやらお情け任務として掃除を頼まれた、と。

 自分の現状を包み隠さず載せてる上に手伝い(ヘルプ)の申し出、か。

 ま、仕方ないよね。

 退屈しない夏休みだったし、そのお礼って事で協力してあげよう。

「~~♪」

 鼻歌交じりに部屋を出てキンジのいる探偵科(インケスタ)棟へ行く。

 高揚感は残るけど、精神安定剤が効いてるおかげでそれ以上の感覚はない。

 もう夕方だし、今から行っても間に合わないかな?

 一応、顔だけは出しておく。

 もしかしたら神崎もいるかもしれないけど、それはそれ。

 キンジと一緒に(いじ)り倒す。

 なんて考えてる間に目的地の探偵科棟に到着。

 キーンジさんはどーこかな♪

 1階から順番に各部屋を覗いて見れば、どうやらどこも掃除をされた形跡がある。

 やっぱり遅かったか。

 下の階から順番に上に掃除をしていったみたいだね。

 一番上の教室が掃除されてるなら……あとは屋上だけかな?

 そう思って階段を上がる途中で誰かが駆け足で降りてくる音。

 男性にしては軽い……そして、1人。

 取り敢えず屋上に続く階段から脇に()れて、廊下の方へと隠れる。

 予想通り、上から下りてくるのは神崎だった。

 でも、その顔は哀しみに染まってる。

 まるで失恋でもした感じ。

 喧嘩って言う感じではないね……あの表情。

 何やらとんでもない事が起きてる予感。

 これは本気で気配を殺して様子を見てみようかな?

 ゆっくりと足音を立てずに屋上の扉へと辿り着き、その影から様子を見る。

「キンジさん」

 この抑揚のない声、ウルスのレキだね。

 ドラグノフの銃床を地面に置き、杖みたいに立ててる。

「あなたはアリアさんと結ばれてはならない」

「……なっ……」

「霧さんとは、特に結ばれてはいけない」

「おい、何を言ってるんだよ……」

 困惑するキンジ。

 色金の操り人形が随分な事を言ってくれるよ。

 そのまま私は様子を観察する。

「これからは、私があなたのパートナーになります」

「お、おい……ッ」

 レキの言葉に食いかかるようにキンジは一歩前へ。

 同時に分かる、キンジの様子の違い。

 手の甲で唇を押さえてる。

 さては、キスでもされた? それでヒステリアモードになってる?

「あなたたちは強くなった。イ・ウー程度の敵が相手ならそれでも十分だったでしょう。実際、"今の"キンジさんが私と素手で戦えば――十中八九、あなたが勝つ」

 ……イ・ウー程度、ね。

 それから録音された音声を再生するかのような感情のない声で続ける。

「"これから"の敵はただの力比べでは勝てません。だからあなたは、やり方次第では自分を簡単に殺せる人間がいる事を知るべきです。キンジさん、あなたの周りには危険な風がいつも吹いている。それに備えなければいけない」

 意味が分からないと言う感じにキンジの困惑の色が濃くなる。

「例えば狙撃手(スナイパー)。永い時間の中を潜み、彼方から()る私たちは、ほんの少ししか戦えない超能力者(ステルス)を、僅かな距離でしか戦えない拳銃手(サジット)を容易く仕留められる」

 セーラー服のポケットからレキは、装甲貫通弾(アーマーピアス)を取り出す。

 ここでそれを取り出すと言うか使用しようとする意味は?

「今から私が、それを教えて差し上げます」

 レキは弾倉に装甲貫通弾(アーマーピアス)を入れ、ドラグノフに弾倉をセットし、

「そろそろ頃合のようですね」

 私達の防弾制服を貫通するそれが入った銃口をキンジへと向ける。

 向けられたキンジはただ苦笑いをするだけ。

「キンジさん」

「……なんだ?」

「私と結婚してください」

 ……うん?

 結婚……?

 あのウルスの巫女がプロポーズ?

 これは、久々に驚いた。

 いきなりの出来事にキンジは声にならない声を漏らした。

「……レ、レキ……聞き間違いかな? 今さっき、なんて言った?」

「聞き間違いではありません、私はプロポーズしたんです」

 その言葉にキンジは狼狽(ろうばい)する。

 同時に私からは何かが冷めていく。

「ま、待ってくれ……いきなり過ぎるんじゃないか? もう少し前置きが欲しかったよ」

「前置きはした筈です。『これからは、私があなたのパートナーになります』と」

 ウルスの巫女は淡々と機械のように答えるだけ。

 別にキンジが誰と結ばれようと構わない。

 だけど、神崎さん以上にレキにはキンジに近付いて欲しくはない。

 何でって?

 感情を持たない人形と一緒にいて何が楽しい? 何が面白いの?

 ただ色金の声を聞いてそれを実行するだけの傀儡(かいらい)に未来も何もない。

「光栄な事だが……レキ。それは、人に銃を向けながら話す事じゃないと思う、ぞ?」

 キンジが穏やかに対応をし始め、距離を取ろうとすると――

「逃げられませんよ」

 狩人のように鋭い雰囲気をしつつレキが銃を少し動かす。

 ……お父さんは私がレキを殺そうとした時に待ったを掛けた。

 でも今は、どうなんだろうね?

 戦役前に適当に間引いてもいいじゃないかな?

「もし断るというのなら――」

 …………。

 決めた♪

「――風穴を開けます」

 (バラ)しちゃおう♪

 

 




次回の更新は9月の終わりかなー
下手したら年末までないかも……何せ11月は……あまり考えたくない。

まあ、何だかんだ時間は作ってみます。
後輩の育成が済めばもうちょっと時間は作れるかも。

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