緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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今回はちょっと短め
だが、この章は長くなる(確信)

AAを経由して本編に戻るので……
実際に2巻ぐらい続くからねジーサード編。


89:人間と兵器の境界

 

 そして、翌日。

 キンジはげんなりした感じで登校してきた。

 まだ神崎達は入院中なので久々にキンジと2人で話せそう。

 いつも通り、軽口の挨拶をする。

「おやロメオ。どうして君はロメオなんだい」

「お前が配役したんだろうが……」

 机に突っ伏すキンジは、恨めしい視線を私に向けている。

「で、進展は?」

「まあ、最初から俺のことは信頼してるみたいだしな。色々と意味の分からん事を話してくれるよ」

 なるほどね……

 キンジにとっては意味の分からない事でも、ちゃんとした情報だよ。

「じゃあ、例の物をちょうだい」

「あまりこういうやり方は好きじゃないんだがな」

 私はキンジからボイスレコーダーを受け取る。

 情報の取得のためひっそりと渡してたんだよね。

「キンジ、どうでもいい情報はあまり覚えないでしょ? 主に女性関連。まあ、聞いてる以上は頭のどっかに残ってるんだろうけど……HSSにしたら引き出せそうだし」

「そんな事のためにアレには絶対にならないからな」

 心底嫌そうな顔をするキンジ。

「どうせかなめちゃん……部屋に泊まったんでしょ?」

「泊まったよ」

「一緒に寝たりした?」

「してねえよ。というか普通一緒に寝ないだろ?」

「まあ、普通はね。世の中には近親相姦って言葉があって――」

「俺でもその言葉は絶対にろくでもないモノだって分かるぞ」

「何にしても、あとで聞いてみるよ」

 ボイスレコーダーを見せて、自分の席へと戻る。

 会話って結構色んな情報があるからね。

 声量や言葉選び、話す間隔。

 それらでどれだけ本気とか、何が真実で何が嘘か分かる。

 まあ、私ぐらい人間観察してたら結構な精度で絞り込めたりもする。

 ミアも出来るだろうね。

 そう言えば、以織やキアは元気かな?

 3人とも、仲良く暮らしてると良いけど。

 時間は流れて、昼休みに入った。

 キンジが学食に行くつもりで席を立ったところで、

「あの……お兄ちゃんを呼んでくれませんか? 私、遠山 かなめっていいます」

 後ろのドアから彼女が入ってきた。

 私に敵意剥き出した時と比べて、随分としおらしいことで。

 すごい勢いでキンジは振り返った。

 『!』(ビックリマーク)が見えそうなくらいのいいリアクション。

 女子は既にかなめを小動物に触るような感じで「カワイイ~」と言いながら撫でてる。

 見た目チワワぶってるけど、中身はドーベルマンだよ。

 私もキャラ作ってるけどね……

 いや、白野 霧っていうキャラはほぼ素の私だけど……まあ、少し化けの皮はかぶってる程度のキャラ作りだし。

 男子も自称キンジの妹に目の色を変えた。

「お、おいッ……! 何しに来たんだよ?!」

 キンジが慌ててかなめのところに行くと、ぞろぞろとアヒルの行進みたいに他の男子もついていった。

 こういうところ……男は単純だよね。

 扱いやすくて助かるけど。

「もう! お兄ちゃん、お弁当を忘れちゃダメだよ!」

 さっきまで大人しかったのに、身内には遠慮なくいく。

 家族っぽい一コマではある。

 キンジは家族と認めてないけど。

 小さなバスケットを押し付けたかなめだが、キンジは困惑してる。

 さては……キンジの反応からしてお弁当の話なんて初耳だね。

 届けに来るって、今朝は言ってないんだろう。

 そもそも来るって分かってるなら、昼休みになって席を立ったりはしないだろうし。

「出た! 噂の妹!」「ホントにいたのか!?」

 などと男子は(はや)し立ててるけど、狙いが分かってきた。

 かなめは、より一層に自分の存在を周知の事実として確固たるものにしようとしてる。

 キンジの妹としての立場も確立しようって魂胆だね。

 っていうか、騒がしいね。

 キンジには悪いけど、仕方ないので場所を移す。

 ボイスレコーダーの会話の内容も聞きたいしね。

 

 

 キンジってば、本当に私を飽きさせないね。

 今回もちょっと呆れてるけど。

 屋上で1人、昨日のキンジの部屋でのかなめとの会話をボイスレコーダーを聞いてみた感想は、そんなところ。

 キンジが他の女子に触ったりしないなんて無理な話だよ。

 そういう引力でもあるのかってぐらいに、女性トラブルの事態はキンジに収束していくんだし。

 で、会話の内容からしてかなめは自分以外の女性を排除すれば自分を愛して貰えると思ってる。

 あとはキンジの傍にいる限り、他人の乱暴へは禁止って約束、それって"キンジが傍にいなかったら"問題ないってことだよね。

 交渉の下手さが垣間見えるよ……

 そして、キンジの部屋には遠山家の者しか……家族しか入れない、か。

 さて、どうしたものか……

 色々と過程をすっ飛ばして早々に排除しても良いんだけど。

 まあ、今は結構幸せみたいだししばらくは夢をみさせてもいいでしょう。

 私が思うに……一番残酷なものだよね、幸せって。

「っていうわけで。しばらくは人間観察したいから、粛清は最後でお願い」

 誰もいないはずの屋上で独り言をすると、

「……非合理的」

 それだけ聞こえて、足音が遠ざかる。

 非合理的、かなめの口癖だね。

 やっぱり似てる部分はあるもんだよ。

 リリヤはしばらくは自由にさせてみるか……

 きっと人間らしい行動に出てくれるはず。

 私は私で引き続き情報でも集めようかな?

 こういう感じで裏で動くの好きだし。

 あの様子からして、転入してきた設定だろうから……中等部、いやインターンで1年にいる可能性もあるから先に後輩に聞いてみるか。

 

 

 と言うわけで放課後。

 ライカと会う約束をして、強襲科(アサルト)の体育館っぽい専門科棟で待ち合わせ。

「やっほ、呼び出してゴメンね」

「別に良いですけど……珍しいっスね。組み手以外に呼ぶなんて」

「まあ、ね!」

 素早いナイフ投擲。

 ライカは「い"ッ!?」と驚いたあと、手持ちのナイフで上に弾いて、私に警戒しながらも落ちてきた刃の潰したナイフをキャッチした。

「お見事」

「いきなり何するんスか!?」

 本人はおっかなビックリって感じだけど、今の不意討ちは回避を選択する人が多いんだけどね。

 そしたら肉薄するチャンスだったのに。

 ちょくちょく組み手やってた時に教えてた、瞬時に次の行動を考える癖が出来てる。

 無意識だろうけど。

「知ってる人でも油断しなかったね。いい反応だったよ」

「先輩の戦い方って本当にいやらしいですよね……」

「まあ、つい試したくなったけど成長してて良かった良かった。戦姉(あね)としては嬉しいよ」

 対してライカは呆れた顔をする。

「で、お話ってなんですか?」

「いや、この間インターンで入ってきた。キンジの妹についてね……学校ではどんな様子かなって」

「バスで見かけた、あの子ですか? どんな様子って聞かれましてもクラスが違いますし。C組に転入してきたってのは、聞きましたけど」

 ライカはA組だったね、確か。

 間宮の子と佐々木と同じクラスだったはず。

「何でそんなことを聞くんですか?」

 当然の疑問か、ライカは聞き返してくる。

「ちょっとばかりお兄ちゃんが好きすぎて暴走する可能性があってね。まあ、愛は人を狂わせるって事だよ」

 はぁ? と、首を傾げるライカはいまいち状況が分かってないだろう。

 転入して初日じゃあそんなに大した情報は持ってないか。

「ああ、もし何かあったら相談してね。それと、遠山かなめにはあまり関わらない方が良いよ。聞きたかったのはそれだけ、呼び出してゴメンね」

 私はそれだけ言って投げたナイフを受け取り、ライカの前から立ち去る。

 仮の姉としてちょっとだけ面倒はみてあげるよ。

 

 

 ふーむ、今のところは大きな変化はない。

 問題は、キンジがかなめと約束をしてしまったこと……

 約束を守るって大事だよね。

 そこはかなめに同意してあげよう。

 って訳で――

「ボイスレコーダーの中身は聞かせて貰ったけど……キンジ、約束は守ってる?」

「女子に触れたりしないってヤツか? そもそも俺が女嫌いって、みんな忘れてないか?」

 男子寮の近くでキンジを呼び出して、少し距離を置いて話す。

 お互いに壁を背にして、夜空を見上げながら。

「女嫌いでも事故でくんずほぐれずで触ったりしてるでしょ? そういうトラブルに遭遇する性質は間違いなくあるんだから……。私とこうして話す前にそう言ったトラブル、起こしてないよね?」

「………………」

「キンジ、まさか……」

「いや、何もないから……ッ! 大丈夫だ」

「私、約束を破ったり心配してるのに嘘を言われるのは嫌いだからね。本当に何もないの?」

「………………」

 キンジさん、暗闇で分かるほど冷や汗出てるよ。

 今、多分結構考えてる。

 これはトラブルとは言え、手を出したね。

 正直に話してバスカービル唯一の仲間になってくれる私まで敵視されて孤独になるのが嫌なんだろう。

 長い付き合いでしょうに……そろそろ分かって欲しいものだね。

 その程度で見放す訳ないでしょう?

「それじゃあ私は帰るよ。サポートがなくてもやっていけそうみたいだから、進展があったら教えてね~」

「頼むからそれだけは勘弁してくれ!」

 懇願するようにキンジが頼み込んでくる。

 余程にかなめと2人きりが恐ろしいらしい。

 キンジの話を聞く限り……彼女のスキンシップは異常に近いみたいだ。

 キンジは観念して真実を話した。

 自分なりにかなめの動向を探るために風魔に依頼をしたらしい。そして報告を受ける際にアクシデントが起こった……と。

 詳しい内容は流石に話してくれなかったけど……早くも1アウトじゃん。

「キンジ、悪いことは言わないから慎重に行動しなよ。かなめはきっと、根に持つタイプだから」

「分かってるよ。ところで何でさっきから若干距離があるんだ?」

「念のため、だよ。彼女鼻が利きそうだし……あんまり近くにいると匂いが移っちゃう。早くも2アウトにしたいの?」

「別に風魔の件は見られてねえよ。多分」

 自信なさげに反論するけど、多分私は見られてると思うな……

 

 

 かなめが転入して翌日。

 まだ大きな変化はない……観察も兼ねてかなめが所属する1年C組を覗いてみたけど、他の女子と何やら談笑してるみたいだった。

 馴染めてる。不自然なほどに。

 遠くから見れば普通の学生だね。

 まあ、私は何か行動を起こすって確信があるけどね。

 あれだけキンジに固執してるなら何かしらの準備はしてるでしょ。

 自分以外の女性を排する準備をね。

 しばらくは様子見かな~

 私はそのまま、自分のクラスへと帰る。

 そして昼休み。

 キンジにはあまり近付かないようにする。

 私の都合で約束を破らせる訳にはいかないからね。

 久々に1人で学食でも行くかな。

「白野先輩……一緒にお話、いいですか?」

 呼び止められて、振り向いてみれば……かなめがいた。

 目の光はどっかお出掛けしてるみたいだね。

 こうして見ると、雰囲気がリリヤに似てなくはない。

 普通なら冷や汗を流して変な声が出そうな視線だけど……そこは私、どこ吹く風ってね。

「どうしたの、かなめちゃん。お話って」

 かなめはついてこいと言わんばかりに、私に背中を向けて階段へと向かった。

 仕方ないのでお話に付き合ってあげよう。

 私に手を出した瞬間、命運は決まっちゃう訳だし。

 どうやら屋上へと向かったらしい。

 人目につかない場所のチョイスがキンジにそっくりだね。

「お前……何者なんだよ」

 屋上へたどり着いての第一声がそれとはね。

 キンジの感情的な口調と似てる。

 造られた存在とは言え、血は争えない……か。

 でも、血縁だけじゃあ家族にはなれないと思うけどね。

「その様子だと私の経歴は調べたみたいだけど、ファイルのまんまだよ。中学にキンジと出会ってパートナーをやってた白野 霧。強襲科(アサルト)所属のAランク武偵、バスカービルのメンバーの1人――」

「違う! あたしが聞きたいのは、家族じゃないのにどうしてお兄ちゃんにそこまで信頼されてるの!? 意味分かんないよ! 家族でもないクセに!」

 ヒステリックに叫ぶかなめの胸中は嫉妬か、羨望か……

 キンジってば、かなめに私に関して何か余計なことを話した?

 じゃないとこの敵愾心(てきがいしん)は異常なんだけど。

「お前について聞いたとき、お兄ちゃんが言ったんだ『かけがえのないパートナーだ』って。私はお前は得体が知れなくて、気味の悪い存在だって言った。そしたらお兄ちゃんは『あいつの悪口を言うなら出ていけ』って……怖い、顔を、して……。病院に送った連中の時も怒ってたけど……それ以上に、怒ってた」

 私を貶めようとして、キンジに拒絶されかけたか。

 義理難いキンジのことだから、昨日の暴発でキンジ含めてかなめを守ったのに対しても怒ってるんだろう。

 守ってもらったクセにその言い方はないだろっ、てね。

 涙目になりながらも、私に敵意を向けたまま立ち向かう姿は……嗜虐心をそそる。

 そんな歪ませがいのある表情までキンジに似なくていいのに。

「お前は、お兄ちゃんにとっての何なんだ?」

 私にとってキンジは何かって聞かれても答えは決まってる。

「かけがえのないパートナーだよ」

 もっとも、私とキンジじゃ言葉の意味合いは違うかもしれないけどね。

 私にとっては退屈しない日々の象徴で、唯一、私の衝動を緩和できる人物。

 人を殺すのは嫌いじゃないけど、衝動であまり行動はしたくないんだよね。

 まあ、それに……私が理解出来ない感情がキンジの傍にある気がしてる。

 それを確かめたいってのもある。

「ふざけないでよ……お兄ちゃんとあたしの間に、入ってこないでよ!」

 どこから出したのか、かなめは剣を一振り構えた。

 ただの剣じゃない。

 先端科学刀(ノイエ・エンジェ・エッジ)――文字通り科学の(すい)が詰まった剣。

 確か、かなめは13種類の剣を持ってたはず。

 高周波ブレードとか、磁力で形成する剣とかあったはず。

 あれはどのタイプかは知らないけど。

「やっぱり、お前はおかしい……こんな状況なら普通は武器の1つでも構えるのに、どうして構えないの?!」

「――何を焦ってるの? "ジーフォース"」

 私は敢えて、製品名(プロダクトネーム)で呼んだ。

 今の言動で私は確信した。

 彼女は焦ってる。

 異常にキンジと自分の間に誰かがいることを嫌い、独占したがってもいる。

 その目的も、大体分かった――

「――!?」

 かなめはいきなりのことで言葉を失い、目に光が戻った。

 それは恐怖の色。

 私に見透かされるのを恐れてる感じだった。

「得体が知れないって言うなら……教えてあげるよ。キンジの前ではあまりこういう事はしたくないし、強襲科(アサルト)のやり方じゃないしね」

 人の追い詰め方はよく知ってる。

 どうすれば恐がってくれるか……とかね。

「ジーフォース……あなたは、キンジの周りから女性を排除しようとしてる。それはなぜ? お兄ちゃんのため? それとも、"自分だけを愛して貰うため"?」

「黙れ……」

「そんなやり方したって非合理的なのは分かってるでしょ? それとも、心の中で気付いちゃってる? 誰かがいると自分の力じゃキンジを振り向かせられないって」

「やめろ……」

「そりゃそうだよね。キンジの仲間を傷付けた挙げ句に妹です、なんて。得体が知れないのはどっちだと思う? 君か、私か……考えるまでもないよね?」

Shut up(黙れ)!」

「いいや、黙らないよ。キンジが言ってるでしょ? "お前なんか、妹じゃない"って。君はキンジの家族なんかじゃないんだよ」

「……あ、う……」

 カタカタとジーフォースが構えた剣が震えだす。

 今の言葉は結構効いたでしょ。

「私を排除したいならすれば良いよ。キンジがそれを知ったら、君はどうなるんだろうね? 目的も果たせず、()てられちゃうのかな?」

「やめて……」

 かなめは私から意識を逸らした。

 視線はこっちに向いてるけど、動揺しすぎてきっと何も見えてない。

 酸欠で視界が狭まるのと一緒。

 私はそれを利用してするりと移動し、かなめの傍に笑顔で近寄る。

「はい、おしまい。気に入らないからってあんまり排他的になっちゃダメだよ」

 そして、終わりを告げた。

 このまま潰すのはもったいないからね。

 楽しみは最後までとっておかないと。

 まあ、変な疑惑を植え付けちゃったかもしれないけど、彼女1人程度なら大丈夫でしょ。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 お兄ちゃんの元パートナー、白野 霧。

 書類上ではお兄ちゃんと同じ武偵中学に3年の時に転入してきた。

 その関係が今でも続いてるだけの話。

 でも、あたしには邪魔でしかない。

 双極兄妹(アルカナム・デュオ)を完遂させるには、お兄ちゃんがあたしを愛してくれないと――あたしだけを見てくれないと、ダメ。

 だから周りの女を排除しようと思った。

 目の前でキスをして、関係が最悪になるように仕向けて……あたしだけはお兄ちゃんの味方で。

 でも、1人だけ……お兄ちゃんが気を許してる(ひと)がいた。

 家族でもないのに、兄妹でもないのに。

 そこまで信頼されてるのが理解できなかった。

 得体が知れない。

 その人をバカにするような事を言ったら、お兄ちゃんは怒った。

 今まで以上、それこそあたしを追い出そうとするくらいに。

 どうして?

 非合理的過ぎるよ。

 血の繋がってない他人なのに、どうして……

 それをあたしは、確かめたかった。

 実際に会ってみても評価は変わらなかった。

 あたしを助けた意味も分からないし、それは今でも分からないまま。

「っは、あ、う……」

 気味が悪いよ……吐き気が、する……

 あたしが先端科学刀(ノイエ・エンジェ・エッジ)を構えても、あいつは何もしなかった。

 それどころか……笑って――

 恐いよ……

 体が、震える。

 ジーサードに逆らえないのとは別に、恐怖が出てくる。

 今までこんなことはなかった。

 お兄ちゃんの事は、何でも分かる自信はある。

 けど、アレに心を許す気持ちだけは理解できないよ。

 

 ――守らなきゃ。

 

 きっとお兄ちゃんは、あの女に騙されてる。 

 だからあたしが守らなきゃ。

 早くこの学校で軍隊を作らないといけない。

 あたしの同性へのカリスマ――人工女人望(アイドルフェイク)で学校の女の子を兵隊(ともだち)に変えて、お兄ちゃんに近付く女を排除する。

 あの女を排除するには基盤が必要だ。

 強固な基盤が。

 そのためには、間宮 あかりのグループを排除しないといけない。

 あいつらは既に女人望(アイドル)の影響にある。

 既に影響のあるヤツはあたしの人工女人望(アイドルフェイク)の影響を受けない。

 お兄ちゃんとの約束で乱暴な事はしない。

 だから、お友達同士で仲良く死んでもらうしかないよねぇ。

「うん、切り替えなきゃ」

 キャラメルを1つ口に放り込み、考える。

 まずは間宮のグループの仲を険悪にして、最後はグループの中心であるあかりを排除する。

 まずは外堀を埋めて、最後は本丸。

 あは♪ 合理的だよね。

 

 

 ◆       ◆       ◆

 

 

 危なかった。

 あまりにかなめがいい反応をしてくれるものだから、本性を出しかけた。

 遠山の一族は私のニーズによく応えてくれるから困ったものだよ。

 まあ、キンジがかなめを家族と認めないなら普通に排除するけど。

 本人も迷惑してるみたいだし。

 さてと……かなめは私をどうにかして排除しに来ると思うから、今の内に目がつけられそうな後輩に注意でも向けておくかな?

 別にあまり手を貸さないけど、観察はしとかないとね。

 1年の教室があるところへ降りてみると、何か騒がしい。

「聞いた? また転入生が来るらしいよ」

「マジで? そんなに転入生って来るもんだっけ」

 廊下ですれ違いざまに、1年の女子生徒からそんな会話が聞こえた。

 転入生多すぎ。

 絶対に教員達は違和感とか気付いてるだろうけど、まあ政治的に手が出しにくい部分もあるだろうね。

 しかし、かなめが来てすぐに転入生か。

 案外、知り合いだったり――

「…………」

 いや、知り合いどころか身内だった。

 見覚えのあるプラチナブロンドの髪に、微妙に濁ったエメラルドグリーンの瞳。

 人形みたいな顔立ち。

 ファンタジーのエルフ、あるいは妖精のような雰囲気のするこの感じは間違いなくリリヤ。

 彼女が武偵高の制服を着て廊下に立っている。

 いやはや……自由にしてていいよとは言ったけど、まさかここまで自主的に行動するとは思わなかった。

「……あー、初めまして? 見ない子だね」

 当然、武偵高の中で会ってないのでそんな挨拶をする。

「……初めまして」

「私は、白野 霧。あなたは?」

「……リリヤ」

「そっか、初めましてリリヤ。顔を合わせる事が多くなるかもね。これからよろしく」

 それじゃ、と私は挨拶をそこそこに立ち去る。 ふふ、兵器であろうとする人間と……人間へと近付く兵器。

 この対比は興味深いね。

 これを分け隔てるのは何か、これは観察しなくちゃ♪

 


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