緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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霧ちゃんカワイイ

スランプ&昇任。
いや、正確には昇任するための教育的なのがある訳なんですが……ともかく筆が進まない。

でも案外乙女回路的なのは少し書いてて楽しい。


96:体育祭(ラ・リッサ)前編

 

 ほとんど煙で何も見えなかったが、結果だけを見ればアリアのチームが勝利して霧が負けたらしい。

 だが、負けた霧の方が無傷でアリアの方がボロボロなのは何でなんだろうな?

 それを問いかけたらどっちの機嫌も悪くなりそうなのでやめた。

 特に霧は負けた割にスゴい笑顔だ。

 圧を感じる。

 いつも柔らかい雰囲気の霧がここまで威圧感を放っているってことは、負けたのが不満なのだろう。

 かなめも不満げだ。

「……それで? 気は済んだのか?」

 ジャンヌが霧とアリアを交互に見る。

「負けは負けだからね。それより神崎さんは医務室でも行ってきなよ。効果は薄めてるとはいえ、催涙ガスをモロに吸ってるんだから」

「ゲホッ……そうさせてもらうわ……ホント、あんたってやりにくい戦い方するわね。分かってはいたけど」

「それが売りなんでね」

 アリアの言葉に霧は淡々と返す。

 さっきまでの威圧的な笑顔が消えて、今は冷めたような感じだ。

 どうやら落ち着いたっぽいな。

「それでは私はアリアさんを医務室へ連れていきます。ハイマキも診てもらう必要がありますので」

 と、レキとさっきからくしゃみをしてるハイマキを見る。

 オオカミというか動物の嗅覚で催涙ガスはヤバイだろう。

 確かにそれは診てもらう必要があるな。

「ああ、分かった。こっちは任せてくれ」

 俺がそう言うとレキがペコリと一礼してアリアとハイマキを連れて去っていく。

 さて、問題はこっちだな。

「かなめも納得したか?」

「腑にはおちないけど、勝者には従うよ。あと実力と諦めの悪さも認める」

 かなめの様子は半分納得、半分不服って感じだな。

「ごめんね、かなめちゃん。アレだけ啖呵きって勝てなくて」

「別に……どうでも良いよ。お兄ちゃんに害がないのは分かったし」

 霧の謝罪にかなめは何ともよく分からない回答をした。

 そしてクルリと科学剣を回して仕舞う。

「それで? 私はキンジの部屋から出ていっても良いけど……かなめちゃんはそのままでいいでしょ?」

 と、霧がそう言ったところで俺はぎょっとする。

 え、そういう話だったのか?!

 ここで霧に離れられると困るッ。

 かなめは最近少し大人しくなったが2人きりになると何が起こるか分からん。

「ああ、それなら別に問題ないよ……キーちゃん。問題はアリアがそっちの部屋に入るつもりってところなんだけどね」

 理子の言葉に俺は少し眉間を押さえる。

 それもある意味で困る。

 しかし、霧がいるなら少なくともマシ……なのか?

 かなめの行き過ぎた兄妹愛よりは、アリアの方がまだ対応出来る。

 それにプラスに考えればボディーガードが増えたと考えられる。

 もしかしたら、矛先がこっちに向く可能性もあるが……

「そのあたりはアリア本人に聞いてくれ。今回の件は遠山、白野とかなめ……そしてアリア。お前達4人の問題だからな」

 ジャンヌがそう締めくくる。

 あとは関係ないとばかりに逐次解散していった。

 冷たい奴等だ……

 残された俺達は何とも微妙な雰囲気で顔を見合わせる。

「とりあえず……帰る?」

「そうだな……」

 霧の提案に俺は頷く。

 ここにいてもしょうがないしな。

 そして俺は失念していた。

 アリアのホームズ由来、いや探偵ゆえの行動力を。

 

 

 ピンポーン!

 こんな夕方に来客。

 珍しい、と思いつつ俺は思い当たることを考える。

 荷物とか別に頼んでないしな。

 かなめや霧が頼んでる線もあるが、それなら荷物が届く時間帯とか把握してるだろうし、真っ先に反応するはず。

 その2人は今日も仲良くキッチンで料理中だ。

 だったら来客の可能性。

 ピンポーン、ピピピ、ピンポーン!

 ……うるせえよ!

 早足気味で玄関に向かう途中で気付いた。

 どこか既視感のある、この力強いチャイム音はッ……!

 扉を開ける前に分かってしまった俺はドアスコープを覗く。

 いる……!

 アリアが、いつぞやのトランクケースを持ってドアの前にッ。

「キンジ~、アリアが来たなら通してもいいよ~」

 キッチンから霧がそんな風に言ってくる。

 予想してたみたいだがアリアをこの空間にいれて大丈夫か?

 そんな一抹の不安と共に霧から再び言葉が投げ掛けれる。

「早くいれないとドアがまた壊れるよ~」

 アリアならやりそうだ……

 そう思って素早く俺はドアを開ける。

「5秒以上経ってるんだけど?」

 腕を組んでアリアがフンスと、息を吐きながら偉そうに立っていた。

 そう言えばチャイムが鳴ったら5秒以内に開けろとか言ってたな。

「それじゃあ荷物、運んどいて」

 言いながらずけずけとアリアは玄関を上がる。

 このトランクも俺の部屋に押し掛けた時のヤツだな……

 大丈夫かよ……本当に。

 余計な面倒が増えた気がしてならない。

 荷物を居間へと仕方なく運ぶが、その前に中をチェックだ。

 アリアが入ってきたことにより、また家の中が台風の目になってる可能性がある。

 そして恐る恐る中を覗くと、

「…………」

「…………」

「…………」

 3人の間でバチバチと火花が散ってやがる。

 霧は相変わらず表情が読めない笑顔だし、かなめは目から光が消え掛かってる。

 アリアはそれに対して臆することもなく勝者だとばかりに仁王立ちだ。

 他の部屋に移動しようかな。

 武藤、不知火辺り泊めて……くれるか微妙だな。

 あいつら女子が絡むとあまり手助けしてくれなさそうだし。

「やめよ、不毛だし。キンジが入りづらそうだよ」

 ここでいち早く俺に気付く霧が雰囲気を柔らかくした。

「そうね。別に争いに来たわけじゃないもの」

「ふう……分かったよ、お姉ちゃん。ただ、お兄ちゃんは譲らないから」

「別に、キンジはどうでもいいのよ!」

 いきなり部屋に押し掛けてどうでもいいって……

 相変わらず俺の扱いの雑さにある意味では安心するよ。

「それで、いきなり来てどうしたんだよ?」

 一触即発とはならなかったみたいなので、俺は安心して居間へと入る。

「……確かめたかっただけよ。もう帰るわ」

 いきなりトランクまで持って押し掛けてまさかの帰る宣言。

 理子は部屋に居座るみたいなニュアンスで言ってた気がするんだが、安心していいのやら……

 流石に変に思って俺は呼び止める。

「まあ、その……なんだ。飯ぐらい食っていけよ。俺が作った訳じゃないけど。霧もかなめもいいか?」

 霧は少し息を吐いて、

「少し多めに作ってるから別に私はいいよ。かなめちゃんは?」

「お兄ちゃんがそう言うなら……」

 かなめはダメって遠慮なく言うと思ったが、何だか大分丸くなったな。

 俺的には喜ばしいが。

 案外敗北したのが効いてるのか。

 それに双極兄妹(アルカナム・デュオ)も破綻してるし実質兵器としてかなめは、言い方としてはアレだが失敗だ。

 だが、それでいいと思う。

 兵器だの存在意義だの、そんなのは普通じゃない。

 こうして普通に食事して、日常を送るのが良いんだ。

「まあ、あんたがそう言うんじゃ……仕方ないわね」

 アリアは胸を張ってツンとした言い方をしてるが……どことなく嬉しそうなのは気のせいか?

 そのあとは普通に食事をして、食後の紅茶を飲んでアリアは帰ろうとする。

 本当に帰るのか。

 一体何で来たのか分からないが、何となく感じたことはある。

「見送ってくる」

 俺はそれだけ言って、玄関へと向かったアリアを追い掛ける。

 靴を履いたところでアリアはこっちに振り返った。

「何よ、見送り?」

「そんなところだ。お前、心配して見に来てくれたんだろ? ありがとうな」

「ちち、違うわよ。別にあんたを心配してなんか……」

 あれ? かなめの心配じゃなかったのか?

 って言いそうになったが、多分聞いたらダメな予感がしたのでそういうことにしておく。

「それで、一体何を確かめたかったんだ?」

「ああ……それね。何でもないわ、前にも言ったか言わなかったか知らないけど、かなめとあんたは絆みたいな何かが繋がってる。言葉では言い表しづらいんだけど、それと、最近は霧にも何か違和感を感じるようになったの」

「霧から?」

「突拍子もない話で、あんたは信じないでしょうけどそれを確かめに来たってのもあるわ。結局何も分からなかったけどね。それじゃあ、せっかくの家族水入らずだからあたしは帰るわ」

「家族じゃねえって。まあ、気をつけて帰れよ」

 アリアはそのまま帰っていった。

 結局のところ、これは家族ごっこなんだからな。

「まだ認めないんだ。かなめちゃんのこと」

 廊下に出てきた霧が唐突にそんなことを聞いてくる。

「妹とはな。あいつは普通の女の子だ」

「それはそれで口実与えそうなんだけどね」

「……どういう意味だよ?」

「いや、別に。ただかなめちゃんの要望の1つや2つは叶えて上げたら?」

 それだけ言って霧はこっちに背を向けて居間へと戻ろうとしたところで、

「ねえ、キンジ。かなめちゃんは本当に家族じゃない?」

 顔を向けずにそれだけを聞いてくる。

 やたら確かめてくるな。

 霧はかなめが気に入ったんだろうか……?

「さっきも言っただろ? 普通の女の子だって」

「そっか」

 霧はそのまま短く答えると、そのまま居間へと入っていった。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 

 体調は微妙。だけど気分は遠足を楽しみにしてる子供のよう。

 早く体育祭終わらないかな~

 久々にキンジの部屋を離れて、理子の部屋で私は文字通りゴロゴロしてる。

「お姉ちゃんがウキウキしてる……これは誰か死ぬフラグ?」

「やだな~、私が上機嫌だからっていつも血生臭いことを考えてる訳じゃないよ」

「エグいことは考えてそう」

 理子がベッドの上で漫画を読みながらこっちに視線を合わせずにやり取りをする。

 そんな理子の上に私はうつ伏せでのしかかる。

 特に反応はしてくれない。

 何かイタズラしたい衝動に駆られて、思わず理子の耳にしゃぶりつく。

「ひゃぅッ?!」

 流石に唐突過ぎたのか、肢体が跳ねる。

 良いリアクションいただき。

「何やってんの!? 本当に!」

「お姉ちゃん落ち着かないんだよ。もどかしくて、もどかしくて。ねえ、理子ぉ~私なんだかキャラ崩壊しそう」

「キャラ崩壊どころか理性崩壊というか命の危機をすごく感じるんだけど?!」

「大丈夫だって先っちょだけだから」

「絶対にダメなやつ!? しかもお姉ちゃんの場合は刃物が貫きそう!!」

 別にそんな顔を青ざめさせなくても良いのに。

 妙なテンションなのは事実だけど、そこまで命の危機を感じなくても。

 明日の日曜日には体育祭。

 まあ、それは私にとっては前座。

 キンジは今頃は雨天中止を願っていることだろう。

 

 

 しかし、世の中そう上手くいかない。

 天気は見事な快晴。

 いやー、運動日和だね。

 朝5時に集合してリハーサルしなければ純粋にそう思えたんだろうけど。

 捜査や強襲で出掛けてるせいで事前の練習はほとんど出来ない武偵高。

 なので大体は当日の早朝に練習してそのまんまぶっつけ本番。

 体育祭に限らずほとんどの行事はそんな感じ。

 夏以降いなかったからメインの行事は去年ほとんど参加してない私だけど、情報はしっかり収集してる。

「私たち選手一同は、武偵憲章に(のっと)り、最後まで競技を諦めずにやることを誓います!」

 1年の高千穂がそう宣誓する。

 確か、間宮にお熱の子だったね。

 あと結構な目立ちたがり。

 有名な武装弁護士が親で、令嬢でもあるからお高くとまろうとするのは観察しなくても何となく分かる。

 しかし、それはともかくとして異様な光景だよ。

 生徒の全員が武装解除なんて。

 まあ、私は仕込みが1つや2つあるんだけど。

 ともかく武装が義務付けられてる武偵高で武装なしで行事をやるのは、どうやらこの国の教育委員会絡みらしい。

 色々と説明を省くと過去にフリーダムにバイオレンスし過ぎて児童虐待的なレッテルを貼られてしまったから、健全に学校生活やってますよアピールをしてる。

 そんな感じ。

 本番はその教育委員会の人達が帰ってから。

 なので体育祭は2部構成となっている。

 最初は普通にリレーやら玉入れやらよくある運動会の競技を普通にやってる。

 武偵高の生徒からしてみれば刺激が足りないだろうけど。

 前半は普通の競技をして、後半には教務科(マスターズ)にそれぞれ指定された個人競技をやる。

 個人競技をやる理由は教育委員会の接待にリソースを割くためである。

 つまり教師はそっちで忙しくて見ないから勝手にやってくれって感じ。

 訓練とかには注力するけどこっちの行事関係の方は相変わらず雑だね。

 私の個人競技は『パルクール』。

 建物の壁とか屋上を華麗に走り抜けるあれ。

 何でこんな競技があるかは知らない。

 とりあえず学園の敷地内を走り抜ける。

 スタートからゴールまでの一方通行で、周回するタイプじゃない。

 あと、ただ走り抜けて1位になればいい競技じゃない。

 一応はフィギュアスケートみたいに華麗にパフォーマンスを決めればそれもポイントになるから、多少は遅くなっても魅せる技が多かったら逆転も出来る。

 他にはこんな場所を犯人が逃げても全然追い掛けられますよ的なアピールもあるらしい。

 そこら辺は裏事情だね。

 プロテクターを肘や膝につけて、落下した時のためのエアクッションもコース上にはある。

 難易度の高い競技だから、選ばれてるからにはそんなヘマをする人はいないだろうけど。

「位置について、ヨーイ……ドン!」

 合図と共に一斉にスタート。

 まずは体育館に似た強襲科(アサルト)の専門科棟。

 壁を使ったり街灯を使ったりして出入口の(ひさし)へと登り、それから窓から中へ侵入。

 柵から飛び降りて私は空中2回転してから受け身をとり、そのまま走り抜ける。

 中から外へ出て、続いてはガレージ兼整備工場になっている細長い車輌科(ロジ)の専門科棟へ。

 中では様々な車輌、バイク、それを整備する工具が乱雑に置かれてる。

 これコースの配置じゃないでしょ?

 まあいいや……

 私は車のボンネットの上を滑り、乗り越え、さらに車体の下を整備するキャスターのついた寝板をうつ伏せで飛び乗り、勢いで車高の高いクルーザータイプの車の下を滑り抜ける。

 そのまま腕立ての要領で地面を押し出して、足をストッパー兼起き上がる軸にする。

 そのまま跳び上がって工具箱をバク転で飛び越え、着地して一気に反転して、走る!

 しかし……結構な人数が普通に走り抜けてる。

 順位的には中の上くらいかな。

 競技的にパフォーマンスも必要だから順位はあんまりこだわる必要はない。

 そのまま淡々とコースをクリアして最後に空き地に設営されたエクストリーム・スポーツのゴールへとたどり着いた。

 微妙な体調にしてはよく動けてたかな?

 順位プラスアピールポイントで10人中の4位ってところだね。

 まあ、こんなものでしょ。

「ん~!」

 背伸びをしてるとキンジが背後から近付いてくる。

「今ゴールか?」

 声をかけられて振り返り、キンジはスコアシートを持っていた。

「そんなところ。キンジはスコアの収集係?」

「まあな」

「どうせ個人競技が面倒だからって適当な雑用を買ってでたんでしょ?」

「否定はしない」

 どうせ見破られると思って開き直ったね。

 しかし、そうだと堂々とは言わない。

「別にいいんだけどね」

「それはそうと4位か。パルクールとかお前も運動神経いいよな」

「神崎さんには負けるよ。彼女、壁走るし」

 実際に神崎はパルクールの要領で壁を走る。

 あとゲームみたいに狭い通路なら壁キックして移動や上にも登ることが出来る。

 話しながらもキンジはスコアの集計をする。

「あいつは規格外だからな。さっきもインラインスケートでフラットスピンとか決めてたし」

「プロ顔負けの運動神経の武偵なんてザラにいるよ」

 言いながら髪を少しかきあげて、動きやすいように結わえてた髪をほどく。

 多少汗で濡れてた髪が落ちた勢いで少し雫が飛ぶ。

 それに見てキンジは顔を少し逸らした。

 こんなのでも反応するとか。

 いい加減私から視線を逸らしたら余計に追い討ちが来るって学べばいいのに。

「キンジのエッチ」

「言いながらシャツをパタパタするな」

「暑いんだから仕方ないでしょ?」

「せめて俺のいないところでやってくれ」

「断る」

 キンジはすぐに背を向けて、

「まだ競技が残ってるから俺は行くぞ」

 やれやれって感じでどっか行った。

 ふう……あの反応じゃあ何人か自分に魅力がないと勘違いする女子が何人かいそう。

 別にどうでもいいけど。

 そう言えば、キンジってば結構匂いに敏感だった筈だけど変な匂いしてなかったかな?

 もうちょっと意識しとけば良かった……

 


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