緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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よし、間に合った!(何が?)
やりたいことが多いとたまにNARUTO -ナルト-の影分身できないかなって思います。
趣味が多いとリソースの振り分けが大変です。
ゲームのイベントとかアニメ鑑賞とか小説の資料集めとか。


97:体育祭(ラ・リッサ)後編

 

 そして、教育委員会の関係者が帰って時間的にも体育祭などやる時間帯ではない午後5時。

 ここから"第2部"が始まる。

 つまりは武偵高特有のドンパチが始まる訳である。

 男子は実弾サバゲー、女子は水中騎馬戦。

 競技名を聞いただけでキンジは卒倒しそうになってることだろう。

 ちなみにバスカービルの女子はやる気まんまん。

 全員戦闘員で出るつもりで誰もセコンドをやりたいとは言わない。

 私? 決まりきったことだよ。

 面白そうな方をやるに決まってる。

 ただ騎馬戦は4人1組。

 別で組むしかない。

 生憎と交流関係は私はそれなりにあるから、問題ない。

 バスカービルのメンバー5人中2人はコミュ障、1人はお嬢様って言うか高嶺の花的な感じで誘われない。

 私という殺人鬼が精神的にはアレでも一番生活的にまともなのは毎回皮肉だよね。

 前も考えてた気もするけど。

 そして、キンジはこういう時に運がないのは分かりきった話。

 どうやらセコンドがいない件についてキンジが蘭豹に電話したら「お前がやれや!」とぶちギレられたらしい。

 どうやら機嫌が悪かったらしい。

 なのでキンジがセコンドに来る。

 普通の男なら鼻の下を伸ばしまくりなラッキーイベント、だけどそこはほら……キンジだから。

 なので私は全力で目の毒にするつもり。

 かといって痴女みたいな水着は着ない。

 あからさま過ぎたら間違いなくキンジは見てくれないし、避けるからね。

 女生徒は更衣室でそれぞれの水着へと着替える。

 水着の指定はないからみんな思い思いの水着を着る。

 正直、私もキンジみたいに持病持ちみたいなものだからある意味この空間はダメだ。

 目の前に……いい感じの柔肌が。

 ああ……こういうの見てるとやっぱり殺りたくなる。

 ……別のことを考えよ。

 白雪さん、いくら女子しかいないからってマイクロビキニはいくらなんでも際どすぎ……

 乳の肉がはみ出してる。あとお尻も……

 それを見て、着替えてる途中の神崎は歯ぎしりしてた。

 分かりやすい嫉妬をしてるので肩を叩く。

「諦めなよ……」

「いきなり話し掛けてなによ!?」

 だって高校生の割に悩殺ボディ過ぎる白雪さんと一部の性的嗜好にしか刺さらない体型の神崎では比べ物にならない。

「キーちゃん、黒ビキニってセクシーだね。誰を悩殺するつもり?」

 スクール水着というニッチな格好の理子が話し掛けてくる。

 理子の言うとおりシンプルに黒ビキニ。

 動きやすいようにポニーテールに髪を結わえて、私は答える。

「そんなの決まりきってるよ」

 私はそこでにっこり笑う。

「お熱いね……」

 理子は呆れたように言うのだった。

 

 さて、プールサイドへと行けば案の定キンジがいた。

 しかも大きなバリスティックシールドを持って。

 流れ弾対策と視線をカットするための策で先生ーー高天原先生辺りに貰ったんだろう。

 他の先生は気合いで避けろとか、当たるところにいるなとか言ってきそうだし。

 準備体操も終わったところで、色々と作戦タイムやら騎馬を実際に組んだりして動きの確認をしている。

 しかし、準備体操中はキンジこっちを全く見なかったね。

 当たり前と言えば当たり前だけど。

 いの一番で私はキンジの正面へ行く。

 シールドには覗き窓的なスリットがある訳だけど、位置的には腰辺りの高さ。

 それから面白半分で盾をノックする。

「入ってますか~」

「正面に来るな……頼むから!」

「いい機会だし耐性でもつけたら?」

「いくらなんでも無理だろ、ここは俺にとっては最後の楽園なんだ」

 キンジは言いながら微妙に盾を動かして主張する。

「随分と無機質なオアシスだね」

「うるせえ……。既にここはアフガンみたいな紛争地帯だよ」

「まだ誰も撃ってないよ」

「どこもトラップだらけだろ……」

 いい感じにジョークが冴えてるね、キンジ。

「でもせっかくだし私の水着の感想でも聞かせてほしいな~?」

 言いながらちょっと腰を突きだして、盾のスリットを覗き込む感じ。

 お腹周りとか腰周りには結構自信あるよ、私。

 レキもなかなかだけど、あっちはシャープって感じで私はセクシーって感じ。

「あー……似合ってるよ。病気(ヒステリアモード)になりそうなほどにな」

 と、キンジはさっさと感想を述べてやり過ごそうとしてる。

 でも、本音で言ってるので良しとしよう。

 適当に流すかと思ったら真面目に答える辺り、堅いというかなんというか。

 まあ、素直に感想を言ってくれたので私はその場を離れる。

「よろしい。それじゃあセコンド頑張ってね~。まともに見れるか知らないけど」

「そう言えば……お前は誰と組むんだよ?  バスカービルは5人だろ? って言うかお前がセコンドやってくれればよかったんじゃねえか」

「ただ見てるだけじゃあ面白くないからね。いつもみんなと一緒にいるけど私は交遊関係広いんだよ」

 それだけ言って私はそこを後にする。

 それから背後でギャーギャーと騒ぎが大きくなる。

 どうやらバスカービルのメンバーがキンジに絡んでるみたい。姦しいね。

 そして、私のところにメンバーが集まってくる。

 すっかり影の薄くなってしまった私をライバル視する女生徒、東海林(しょうじ) 夏海(なつみ)、いつぞやに試験で戦った百地(ももち) 桃子(ももこ)、あと1人は同じクラスの女子で名前は名取(なとり)

「白野さんと同じ騎馬とは感激です!」

 彼女はキャラが濃いというか、私を見る視線が熱っぽい。

 今も微妙に鼻息が荒いし。

 ジャンヌ程じゃないけど、私も何故か一部の女子に人気がある。

 何でも子供っぽい無邪気さと、時に真剣な目になる時のギャップに惹かれるらしい。

 ふ、我ながら罪な女だね。

 と内心でおちゃらけてみたり。

「それでどうすんだよ?」

 競泳水着姿の東海林が男勝りな感じで聞いてくる。

「うーん、私が上かな~。この中じゃあ一番小柄だし。東海林さんが前なのは決定で、あと2人の左右は……右側が百地さんで、左が名取さん。安定性は崩れるけど片手でも騎馬は組めないことはないし、名取さんは左利きだもんね」

「なんで知ってるんですか?!」

「まあ、人間観察が好きでね。なんとなーくクラスの人の癖とか、そういうの見てるんだよ」

 嘘は言ってない。

 ちなみに2年生全員の観察はほとんど済んでる。

 だから誰でもなれる。

 家庭事情、筆跡に指紋、声調に肌の質感まで私は記録してる。

「だから利き腕の方側に配置しておけば弾倉(マガジン)とか取りやすいでしょ?」

「なるほど、理にかなっておりまする」

 と、百地はサラシにフンドシという水着じゃないマニアックな格好できた。

 言ってる本人は理にかなってない格好してるんだけど大丈夫かな?

 それなりに身体能力高いからそこは安心してるけど……

「で、どのように動くんですか?!」

 さっきから名取がグイグイと私に迫ってくる。

 ワンコっぽい無邪気さで何とも騙し甲斐のある感じ。

 別に何もしないけど。

 こういう無垢な人を絶望に叩き込んだり、都合のいいように使ったりするのもそれはそれで興奮するんだけど……

 私はどちらかと言うと変にプライドが高かったり、自分の思うとおりに世界を動かしてると思ってる役人とか小悪党染みた人を絶望に叩き込む方がいいリアクションをしてくれるというか……興奮するというか……そんな感じ。

 あとは闇深い感じも好きだね。

 ……何を考えてるんだか。

 ともかく、今は騎馬戦の作戦を私は説明する。

「ちょっとした道具を使うよ。手堅く行こう」

 

 ◆       ◆       ◆

 

「使用弾は非殺傷弾(ゴムスタン)粘着弾(スティッキー)潤滑弾(アンカケ)や。弾倉にいれてぎょうさんバラまいたから好きに使え! 1年入水! 続けて2年いけや!」

 とうとう蘭豹の怒声……ではないがデカイ号令と共に競技が始まってしまった。

 屋内プール棟の外から銃声。

 つまりは実弾サバゲーも始まってしまったらしい。

 今思えば不知火辺りに頼んで軽く撃たれてリタイアした方が楽だったかもしれん。

 女子達は「きゃー!」とか「冷たーい!」とか黄色い声を上げながら入水している。

 しかし、これはありがたいぞ。

 騎馬の上の騎士はともかく下の女子達はプールの水で危険な水着姿が見えなくなった。

 あと競技に夢中なのと俺の存在感が薄いお陰でこっちに注目することもない。

 恥じらいを見せられるとヒスる可能性が何故か高まるからな。

 そして、あまり見たくはないが何となく俺は白組であるバスカービルのチームの様子を見てしまう。

 試合の行方は少なくとも気になるからな。

 見つけたのは霧だ。

 黒ビキニでポニーテールという運動しやすい感じの霧だが……見るんじゃなかった。

 白雪ほど暴力的ではないがレキよりも女性らしい曲線が目に映る。

「残念だけど、このハチマキは安くない、よ!」

 いつもの軽口を叩きながら霧はグロックで応戦している。

 流石にフルオートは禁止らしい。

 こんな機動力がとれない騎馬戦で連射できるサブマシンガンやアサルトライフルを持ち出したら、そりゃ競技にもならないただの戦争になるだろう。

 あと、霧は左腕にビート板をバンドで装着して盾にしている。

 あいつのことだから事前に先生に有りか聞いて他に情報は回さなかったな……。

 ちゃっかりしてやがる。

 あ……俺が見てるのに気づいたみたいだ。

 そして、霧はニッコリ笑ってウィンクしてグロックを持ってる右手で投げキッス。

 ドクンと、俺は見事にやられた。

 ……完全にはならなかったが、ほぼ今ので血流が来る一歩手前までやられた!

 お前は……マジで……!

 前までは俺の病気(ヒステリアモード)を配慮してあんまりそういうのしてこなかったのにッ……。

 最近は妙にアピールしてきやがる。

 別の、別のことを考えるんだ!

「フハハハ! 蹂躙せよ!」

 アリアではないアニメ声に視線を向けると、あれは……2年の諜報科(レザド)鐘撞(かねつき)友美(ともみ)

 アニメーション同好会の会長だ。

 小学生みたいな小柄な体格を生かしての潜入が得意らしい。

 アニメーション同好会は専門科や学年を越えて繋がりがある一大勢力だ。

 その周囲にはおそらく同じ同好会のメンバーであろう赤組の騎馬複数が霧に向かっている。

 ビート板のシールドなんて持ってるから目をつけられたらしい。

「仕方ない、転進! 敵の射線を利用して味方と合流!」

 分が悪いと判断したのかすぐに霧は後退した。

 流石の判断力だな。

 そして敵の射線を被らせたりしながら、撃てない位置取りを指示しながら霧は後退していく。

 まるで密林を抜ける蛇のような素早さだ。

 しかし、それを遠目で霧に対し狙撃主が狙っていた。

 マズイ気づいていない。

 叫ぼうとしたがすぐに霧はニヤリと笑って、ビート板を自分の腰辺りに動かすとその場所に着弾する。

 相変わらず立ち回りが上手い。

「今だ! 撃ちまくれ!」

 と思いきや狙撃を防いで硬直した瞬間、誰かが叫んだのを合図に一斉に霧に撃ちにかかった。

 流石に面倒だと思ったのか本格的に潰しに掛かってきたようだ。

「キャアア!?」「これはヤバい!」

 一斉掃射に霧の騎馬を組んでる女子たちが悲鳴を上げる。

 っておい、何だか段々とあられもない姿になってってるぞっ?!

 潤滑弾(アンカケ)の比率がやたらと多いせいかバランスが悪くなってるのもそうだが……霧がその影響でテカテカになってエロい感じになってしまってる。

「もらったー!!」

 諜報科(レザド)の騎士が背後に忍び寄り、そのまま霧のハチマキを取ろうと肉薄する。

 霧は滑り落ちないよう大きな動きをせずハチマキを狙う手を払った。

 瞬間、その手は霧のハチマキの方向を逸れて黒ビキニに引っ掛かりーー2つの丘が……ってあぶねえ?!

 今のはマジでヤバかった。

 とっさに下を向いたお陰で直視せずに済んだが……とにかく今のはヒスるの確定な光景が目に飛び込んで来るところだった。

 ここでプールを見るのは危険だ。

 しばらく下を向いてーー

「おいコラ、遠山! しっかりセコンドやらんかい!」

 と、蘭豹から後ろから蹴られる。

 くっ、無防備な背後から蹴るとは卑怯な。

 って言うか痛いぞ普通にッ。

 蹴られた衝撃で盾のスリットからプールが見えてしまった。

 しかも霧の方向に。

 そこでの霧は……今まで見たことない表情だった。

 腕で布がない胸の部分を隠しながら、俺の方を少し見て、悩ましげな顔を少し隠した。

 照れてる、のか?

「今よ!」

「合理的に包囲殲滅ってね」

 アリアの合図でいつの間にか白組が赤組を包囲している。

 かなめもアリアの隣で奪ったらしい豊和M1500・ヘビーバレルを構えている。

 そして霧の背後にいる騎馬を組んでる手とかを的確に狙撃して崩させる。

「貸し1つだよ、お姉ちゃん。しっかりしてよ」

 かなめは霧に対してイヤミっぽい言い方をする。

 それに対して霧は、

「生意気な妹だこと」

 言いながら落ちたビキニを拾って何とかつけ直す。

 それからすぐに霧はクロックで素早く左右から迫って挟撃してくる騎馬を撃ち抜き、崩した。

 そのまま包囲を突破してアリア達に合流する。

「あんた……べちゃべちゃね。それでよく崩れなかったわね」

「気分は崩れたけどね。もう手も今のでヌルヌルだよ」

 アリアに言いながら霧は実際に手の方にまで潤滑弾が来たのかグロックをぼちゃんとプールに落とした。

 さっきの射撃が最後の抵抗だな。

「あとはこっちに任せて」

「もう終わりでしょ……散々引っ掻き回して良い感じにまとまったことだし」

 アリアの言葉に霧は終わりだとばかりに返した。

「我らが寡兵とて恐れるな! 敵は既に包囲されまとまっている。側面から突撃ー!!」

 と、ジャンヌがどこで売ってるかも分からないデッカイ真紅の薔薇が描かれた白いハイレグを着て、果敢に突撃する。

 ノリノリだなぁ、あいつ。

 ご先祖の真似事か、鼓舞して指揮してるがやってることはあられもない騎馬戦なのが何とも間抜けだ。

 

 さてあれからジャンヌの鼓舞により士気が上がった1年生軍団の側方の突撃と同時に散々に赤組を打ち負かした白組。

 サバゲーでも白組が勝利したこともあって、2倍以上の得点差で白組は勝利した。

 プールサイドで勝利の歓声を盾の裏で聞きながらも俺はそそくさとその場を立ち去る。

 不意に止まってアリアとかなめを遠目で見てる分に、あいつらは問題ないようだ。

 そして、霧と視線もあったがあいつから視線を外して、ちょっとだけ腕を組んで胸を隠すような仕草をした。

 ちょっと呆れ顔で視線を外し、見てないアピールをする。

 俺が自分からヒステリアモードになる要因を作る訳がない。

 さっきのは事故だ、事故。

 ヌメリが扇情的で若干ヒスり掛けたのは内緒だが……霧にも恥ずかしい気持ちが残ってるのは分かってよかった。

 理子と一緒で平気に触らせてきたり見せてきたりするからな。

 そういう羞恥心が全くないかと思ってたが、それが普通だよな。

 そう考えながら俺は今度こそその場を後にした。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 ロッカーで着替えながら私はさっきのアクシデントを思い出す。

 事故とは言え、さっきの姿はあまりにもあられもない姿だとは思う。

 何てことはないと思ってたんだけどね。

 今までキンジに対してあの手この手で誘惑してきたし、今更何を恥ずかしがる必要があるのか。

 そう思ってたんだけど……思ったよりも私は熱に浮かされてるらしい。

 ロッカーの鏡を見て、霧じゃなく"私"を見る。

 あーあ、女の表情(カオ)だよ……完全に。

 思い出すだけで少し赤くなる。

 今までに知らない感情。

 観察ばっかりで体験したことはなかったから、どんなものかと楽しみにしてたけど……こんなに困惑するものだとは思わなかった。

 ハァとため息交じりに吐いた息も熱っぽい。

 霧じゃなく、私を見て欲しいって思っちゃう。

 ロッカーをパタンと閉じて取り敢えず落ち着く。

 だけど、殺したい、欲しい、そんな感情が微妙にうずく。

 最近はどうも安定しない。

 何とかしないと、と思ってたら連絡が来た。

 かなめから集合の連絡。

 話したい事があるって内容だけど、おそらく自分の出自を打ち明けるつもりなんだろう。

 何だかんだバスカービルのメンバーというかこの国の特有というか、誰も出自とかかなめがどういう存在かなんて微塵も気にしないだろう。

 場所は14区の廃車置き場。

 食事は基本的に競技の合間に食べるものだけど、「戦闘中に食事するやつがあるか」とか言う女教師の方針で体育祭後に食べるという訳の分からない習わしになってるから、みんな食事を持ってくるだろう。

 まあ、こうなると思って部屋に作り置きしてるから温めて持ってこよう。

 コンビニやら周辺の店は弁当を確保しようと他の生徒で混雑してる上に品薄になってるだろうしね。

 で、キンジはおそらく出遅れておにぎりすらないコンビニを見てたかりにくる、と。

 容易に想像できる。

 これでまた貸しが増えるね。

 そうと決まればさっさと用意して行こう。

 

 という訳で私は温め直した弁当を詰め込んだピクニックケースを持って廃車置き場へ。

「キーちゃん、こっちこっち」

 Volkswagen(フォルクスワーゲン)のバス、タイプ1とはまた骨董品だね。

 その車の扉の陰から理子が手招きする。

 中には既にバスカービルの女子メンバーが既にそろってる。あと、かなめも。

 そのかなめの表情は少し暗い。

 まあ、彼女からしてみれば自分の出自なんて普通と違いすぎて気持ち悪いと思われるって考えてるだろう。

「本格的だね、霧さん」

「人のこと言えないでしょ。バスケットなんて持ってきて……見越してるね、白雪さん」

「お互い様だよ」

 と、白雪は言い返してきた。

 張り合う訳じゃないけど、白雪も結構なお手前だからね。

 そんな中、理子がぶーと面白くなさそうに顔を膨らませる。

「またキーくんの為に作ったでしょ?」

「ちゃんと皆の分も作ってるよ。どうせキンジのことだから弁当類が買い漁られるのを予想できずにこっちにたかりにくるだろうとは、思ってるけどね」

「出た、キーちゃんの行動予測」

「キンジの行動を予測しても面白くないでしょ?」

 神崎は既にももまんを放りながら言う。

「面白くないとかじゃなくて、ただ貸しを作りまくって私の言うことを聞いてもらえるようにしてるだけだよ」

「あんた……その内刺されるんじゃないの?」

 ジト目を向けてくる神崎。

 失敬な……私は刺される方じゃなくて、どちらかと言えば刺す方だよ。

 性別的には刺される……これは下ネタ過ぎるからやめておこう。

「それより、本題はかなめちゃんでしょ?」

 さっきから俯いてるかなめに私は話を振ると、全員が視線を向ける。

 仕方ないから助け舟は出しておこう。

 一応はお姉ちゃんだし。

「かなめが私をどう思ってるかは分からないけど、これだけは言っておくよ。かなめはかなめで、それ以上でも以下でもないってね」

「たまには良いこと言うじゃない、霧。あたし達はかなめの話を否定するつもりは最初からないわ。話したいなら話しなさい。話したくないならそれでもいいわ、あたし達はそれを受け入れる」

 と、神崎はカリスマ性のある言葉を掛けた。

 何だかんだキンジとは別で妙に器が広いんだから。

 キンジに対しては狭いけど。

 それから意を決したかなめが静かに話し出す。

「あたし……あたし、はーー」

 

 かなめは自分の全てを話した。

 自分の出自、どういう存在かを。

 こっちが欲しい情報はそう簡単に話さなかったけど。

 ジーサードの目的とか。

 まあ、それは私は知ってるから正直どうでもいいんだよね。

 かなめが全てを話し終え、

「あたしは、人間じゃないの」

 自分が思い悩んでる事を吐き出した。

「それは違う。そんな訳はないわ! あんたは人間よ」

 アリアが真っ先に否定した。

 しかし、かなめは自信がなさげだった。

「だって、あたしは普通じゃないんだよ……」

「だからどうしたって言うのよ。兵器だって言うならそんな風に悩んだりしないわ。人間だからこそ悩んでるんじゃないの?」

 な~んか、誰かさんも言いそうなセリフだね。

 神崎の言葉にかなめは目を見開いてる。

 瞬間、神崎の携帯に着信があった。

 すぐに神崎は出てなにかを話してる。

「武偵憲章の悪用は禁止よ、ハイエナさん。あたしたちなら14区の廃車置き場にいるから。かなめもいるわ」

 そして電話を切った。

 予想通りキンジが弁当を買いそびれてたかりにきたね、おそらく。

「ま、取り敢えずは食事にしよっか。はい、かなめちゃんにはクルミ入りキャラメルマフィン」

 と、私はピクニックケースをいれてる袋の中からキャラメルマフィンを渡す。

「……ありがとう」

 警戒しながらも受け取っては貰えた。

 なあなあで心を開いたりはしてくれないよね~そりゃ。

 しばらくしてようやくリーダーがお出ましみたいだね。

 車内に顔を覗かせたキンジを見てかなめちゃんが声を上げる。

「あ、お兄ちゃん」

「……お前ら、リーダーである俺をハブるんじゃねえよ」

「女子会に参加したいの? あと、弁当がなくなることくらい予想したら?」

 と、私が言ったところでギクリとした顔をする。

 図星だからじゃない。

 このあとの流れが分かってるからキンジは動揺してる。

「たかりにきたなら、見返りぐらいあるよね~。まさかリーダーだからって手ぶらじゃないよね~♪」

「そうだそうだ。ただ飯なんて都合よく貰えないんだぞ~」

 理子も私の悪ノリに便乗する。

「飯ぐらい少し分けてくれてもいいだろ……別に」

「別にいいけどね。そんなことだろうと思って用意したわけだし。さて、次はどう返して貰おうかな~♪」

「白雪、すまんが少し分けてくれ」

 あー、そういうことするんだ?

 貸しを作りたくないからって白雪を頼るなんて、酷い話だよ。

 しかし、意外なところから助け舟が出る。

「う、うん。いいけど……霧さんのも食べて上げてね」

「知らないのか、白雪。霧に貸しを作るとあとが怖いんだぞ」

「でも、せっかくキンちゃんのために作ってくれたんだから勿体ないよ」

 ここら辺はキンジを想う者ならではの気持ちを汲んでくれたみたい。

 仕方ない、白雪に免じて折れてあげよう。

「分かったよ、貸しにしないから。みんなも遠慮なく食べて」

 と、私は中身を広げる。

 鶏の唐揚げとかフライドポテト、それからマッシュポテトにおにぎりが何個か。

 神崎はいつもの勘が働いたのか、目を細めて笑う。

「あたし達とかなめが同じテーブルにいるのが不思議そうね。キンジ」

「まあな。前は銃やら剣やら向け合う仲だったし」

「いつものことでしょうに。それ言ったら白雪さんと神崎さんどうなるの」

 私のツッコミにキンジはそれもそうだと呟き、私に目を向ける。

「お前もかなり不機嫌だったろうに、もういいのか?」

「うん、神崎さんが空気読めないのはいつものことだし」

「よし、もっと空気読めないことしてあげるわ」

 ここで神崎が撃鉄(ハンマー)を起こす音がした。

 相変わらずだね。

「おいバカ、食卓で撃鉄(ハンマー)を起こすな」

 キンジは焦る。

 しかし、私はどこ吹く風でご飯を渡す。

「はい、キンジ。おにぎり」

「ありがたいが、今そういう流れじゃないよな?」

 対して神崎は冷静になる。

 というか呆れてる。

「まったく……ともかくもう遺恨はなし」

「そうか。まあ、仲良くしてくれるならそれに越したことはない。しかし、こんな穴場をよく見つけたな」

「ここには、かなめぇが呼んでくれたんだよ。自分の事を話すために」

 神崎と共にハンバーガーやらポテトやらを広げてた理子が、キンジとかなめを見る。

「……自分の事?」

 キンジがそれを聞き返して、

「かなめは人工天才(ジニオン)ーーロスアラモスの研究所から逃げてきた人間兵器(ヒューム・アモ)

 神崎の言葉に少し面食らう。

 ワトソンとは情報を共有してたけどそこら辺は、キンジに一任されてた。私にもね。

 キンジとかなめは何かアイコンタクトしてる。

 おそらくは自分達の体質に関しては話してないというアピールだろう。

「……どう思った。お前らは?」

「どうもこうも『ふーん、で?』って感じね。本人からしてみれば重要な事かも知れないけど、かなめはかなめ。それ以上でも以下でもないわ。自分のことを人間じゃないなんて言ったからそこは否定したけど」

 他のメンバーもそれに同意してる目をしてる。

 私? 私は割と最初からかなめは人間扱いしてるよ。

「……一番大事なこと、まだ、言ってなかったけどね……みんなのこと知らなくて、急襲した夜のこと……」

 かなめが少し振り絞るように言った言葉に神崎達が振り向く。

 そして、意を決したように顔をあげて瞳を潤ませ、

「……ごめんなさい」

 謝罪した。

 しかし、襲われた敵に謝罪されるなんて展開に困惑して神崎達は顔を見合わせる。

「誰も気にしてないよ。私襲われてないけど」

「あんたこそ空気読みなさいよ」

 私がおちゃらけて言うと、神崎がジト目を向けてくる。

「わざと茶化したんだけどね。みんなお互いに変な雰囲気を作っちゃって」

「いつもそんな感じだろ……ある意味では空気読んでるけど」

 私の言葉にキンジもおにぎりを食べながらツッコミが入る。

 それから、ピクニックみたいな感じになって色々と話した。

 かなめに仲直りの印としてバスカービル女子合作のキメラレオポンを渡して、それが嬉しいのかかなめが泣いて。

 彼女の色々な表情が見れた。

 そして、神崎と白雪は何やらバチバチと静かに女の戦いを繰り広げていた。

 意訳すればどっちが正妻に相応しいか的な内容だったけども。

 キンジは嫌な予感がしてただけでそれがどういう意味の争いなのかまったく理解してないのはいつも通り。

 

 

 その後ーー

 神崎とレキは何やら仕事で、白雪は生徒会の用事、我が妹の理子はニコニコ生放送があるからと帰った。

 3人だけがバスに残り、すっかり日も落ちた。

 キンジが武偵手帳に挟んでたLEDライトを天井から吊り下げて灯りにする。

 私は一番後ろのシートで横になり、かなめとキンジは頭を合わせてL字になる形で別のシートに横たわってる。

「キンジ、少し焦ったでしょ? かなめとみんなが一緒にいるって聞いて」

 私が話を振ると、キンジはまあなと答えた。

「お前も珍しく機嫌悪かったし、何か起きると思って身構えたぞ」

「私でも虫の居所が悪い時はあるよ。神崎さん、空気読まずに独断で突撃してくるし」

「そりゃあまあ、アリアだしな~」

 もう既に慣れたような感じの言い方してるけど、またどうせ爆発しそう。

「お兄ちゃん……あたしのこと、心配してくれたの?」

「そりゃ色々とあったしな。お前らが問題を起こしたらリーダーである俺が責任とるハメになりそうだし」

 かなめの言葉にキンジは最後に保身に走った事を言った。

 相変わらず素直に言わないね~

 そっちも本心なんだろうけどさ。

「ちなみにお姉ちゃんも心配してたんだよ?」

「お姉ちゃんはどうでもいい」

 バッサリ。

 やっぱりなあなあで心は開いてはくれないか。

 一緒に料理をしてキンジの話で盛り上がったのに。

 かなめは私を気にせずに話を続ける。

「ーー白雪さんは鋭いね」

「……鋭い?」

「お兄ちゃんが来る前にね、こっそり話してたの。『私には分かるよ』って」

「何をだ?」

「あたしとお兄ちゃんが、兄妹って事」

「……」

 そう言えば白雪、何か人を見ただけで性格とか素性を判別できる能力があったね。写真でもいいらしい。

 ハッキリと見える人と見えない人が分かれるらしいけど。

 波長を読み取ってるみたいな感じだから、私には通用しない。

 超能力(ステルス)方面の対策もしてるに決まってる。じゃなきゃ、グレードの高い能力者がいたら見破られるしね。

「お前なんか……妹じゃない。誰が何を言おうと認めんし、信じないから説明もいらん」

 不機嫌そうに言うキンジ。

 そして、かなめの心が動揺してるのが私には分かる。

 半ば諦めている感じではあるけど、それでも傷付くものは傷付くんだろう。

「えへ。ツンデレお兄ちゃんと2人。あたし、嬉しいな」

 あの~私もいるんだけど?

 と思ったけど、私は敢えて何も言わずに静かにする。

 がさりと何かがこの車の近くで動く音がした。

「かなめちゃん」

「分かってる」

 私が名前を呼んだところで、何も余計なことを言わずにそれだけ答えた。

 キンジだけは少し分からない感じの顔をしてる。

 もう一度がさりと音がした瞬間にかなめは横のドアから転がり出て剣を抜き、私は車の後ろのガラスがないとこから天井のLEDライトをかっさらいながら飛び出てグロックとライトを音のした方に向ける。

 撃鉄を起こして、かなめもテラナとか言うヘッドマウントディスプレイを装着する。

「おい、どうしたんだよ」

 何も構えずにキンジが素人みたいに車から出てきた。

 し、と私は静かにするようにキンジに人差し指でジェスチャーすると、キンジは黙る。

 しばらく構えても、リン、と鈴虫の音しかしない。

「誰もいない。逃げたみたい」

 暗視装置もあるだろうテラナを外してかなめは答える。

「最近は物騒だね。まあ、物騒な争いに首を突っ込んでるんだから当たり前だけど」

 私とかなめのやり取りにキンジは流石に気付いたのか。

「誰かいたのか?」

「多分ね。少なくとも動物じゃない」

 私が照らしたところには足跡がある。

 それも人の足跡が。数は1人分だけど。

「もう帰ろっか」

「そうだね」

 私の言葉にかなめは同意して剣を仕舞う。

 キンジも何も言わず頷く。

「ふふ……」

 唐突にかなめは何かを思い出して、少し笑う。

 キンジは不思議になり、聞いた。

「どうしたんだ?」

「ううん……今日みたいに、明日も過ごせるかなって。最後に少し台無しにされちゃったけど」

「ーーこんな時間、これからいくらでも作れるだろ。メシをダラダラ食うのは大得意だぞ、みんな。なんなら明日も一緒に食えばいい。俺も来てやるから」

「それよりも家族水入らずで過ごしたいけどね~」

「家族じゃねえって」

 私の言葉にキンジはこれはごっこ遊びだと続きそうな顔をしてる。

「ま、人生って楽しいものだよ」

 私は気にせずに言葉を続ける。

「人生……か……ふぁ」

 かなめは眠いのか、少しあくびをする。

 今日は嬉しかったり楽しかったり忙しかったしね。

 無理もない。

「背負ってあげたら、お兄ちゃん」

 私の言葉にキンジは少し困りながらも、ま、いいかと言った感じでかなめに背を向けてしゃがむ。

「ほら、疲れてるならさっさと来い」

「いいの?」

「いいんだよ。甘えるぐらいはな」

 かなめは嬉しそうにしてキンジの背中に乗って腕を回す。

 そしてキンジはゆっくり立ち上がって帰路についた。

「ふふ……おっきいねお兄ちゃん。それに温かい。……お兄ちゃん、ありがと」

 すぐに安心したように秒でかなめは寝た。

 そのまま歩きながら、私はニシシと笑いながら話し掛ける。

「流石はお兄ちゃん。妹であろうと女の子であれば手玉にとるとは」

「人聞きの悪いこと言うな」

「それはそうと、明日はかなめちゃんと一緒に2人で過ごしたら?」

「唐突に何だよ?」

「さっきもそうだけど、怪しい感じだからね。かなめちゃんが誰かに狙われてないとも限らない。楽しいことは楽しめる時にやっといた方が良いってことだよ。望みの1つや2つ叶えて上げてもバチは当たらないでしょ?」

「……そうだな」

 そうして私達は家族のように家へと帰った。

 キンジの背中にいるかなめを見て、私は笑顔になる。

 明日のことを考えて、楽しみに、笑顔で。

 

 ーーいつまでも、笑顔で。

 




何が始まるんです?
さあ、何が始まるんでしょうね。
年末までには投稿したいな~

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