「ごめん、風佳」
狂気に染まってしまった妹を青年は、自らの持つ刀で切り裂いた。
生々しい感触が手に残る。
「ごめん、俺助けられなかった」
倒れてくる妹の体を両手で支える。妹の体には、大量の火傷の跡と切り傷が
刻まれていた。
青年は、妹を抱えて、膝をつく。青年の頬を涙が滑り落ちた。
これで、二つの国の争いは終わったのかもしれない。
しかし、青年の心には深い悲しみが残った。
***
三門市と呼ばれる町の上空を、急速に暗雲が広がる。
「うお、早いな」とある屋上から町を見下ろしていた青年は、呟いた。
次第に、快晴だった昼の空を暗い雲が覆い隠していく。
さらに、三門市内中に、『門』と呼ばれる黒い球体が次々と現れていった。
町に起きている変化を眺めていた青年の耳に、通信が届く。
「聞こえる、迅君」ボーダーと呼ばれる組織の本部長補佐である澤村響子の声だ。
「聞こえてますよ」
「門が開いたわ。急いで、北西に向かってちょうだい」
「了解です」迅と呼ばれた青年は、返事と共に屋上から飛び降りた。
迅は、風を受けながら、青の隊服をはためかせて、地上に着地。
そして、西へと駆け出した。
迅が目的地へたどり着くと、そこに町の姿は無く、ただひたすらにまっ平らな更地が
広がっていた。その更地で、瓦礫に座る黒髪の少年に、迅は声をかけた。
「おいおい」「まっ平らじゃんか、天羽」迅は、内心呆れてしまう。天羽はいつも
やりすぎだ。加減というものが無い。
「迅さん……」天羽と呼ばれる少年は、迅の声に振り返った。
「おまえなー、もうちょっと加減しろよ」
「やだよ、面倒くさい……」「どいつもこいつもつまんない色ザコばっか、ぜんぜん
やる気起きないよ……」気だるさを含んだ声で天羽は、答える。
「うんうん、余裕があっていいことだ」迅は、普段の軽い調子で、天羽の言葉に返事を
返した。そして、言葉を続けた。「悪いんだけどさ、お前俺の担当もやってくんない?」
「基地の西っかわ」そして、その流れで迅は、頼み事を天羽にする。
「ええー……、何で……?」気だるさが増した声で、天羽は、返事をする。
迅は、それに答える。
「そろそろ敵さんが本格的に動き始める。俺もいった方が良さそうだ」
はぁ、と天羽は、ため息をついた。瓦礫から腰を上げた。
「ほらよ、報酬の前払いだ」迅は、懐に隠していたぼんち揚げを天羽へと投げた。
「ん」天羽は、ぼんち揚げを掴み取り、西へと駆け出していった。
迅は、その背中が小さくなるまで、天羽の背中を見送った。
そして、迅が背後を振り返ると、黒い球体がその姿を現していた。
「来たか」迅は呟く。
黒い球体は、大きく拡張し、そして、縮んでいく。そこに、現れたのは、ブロンドの
長髪で、薄い灰色のロープを纏った女性と金髪で前髪の長めな体格の良い男で、女性と
同じローブを纏っていた。
その背後に、もう一人、同じローブを纏う人物の姿を迅は、視認する。
迅の目的だった人物だ。
目的の人物は、迅の姿を視認すると、頭に被っていたフードを外した。そして、
黒髪の男の顔が姿を現す。
迅は、その顔を見て、目を少しだけ見開き、いつもの軽い調子で、話しかけた。
「久しぶりだな。天羽さん」
天羽と呼ばれた青年も返事を返す。
「久しぶりだな。迅君」
かつて、仲間だった青年と迅は、再会した。