「――というわけで、まさかの逆転サヨナラホームランで入部してくれた1年生の発中雀姫さんと赤弓妙歌さんだ」
「「よろしくお願いします」」
赤弓さんと並んで二人同時に頭を下げる。
部室で留守番をしていた上級生の部員に、室橋先輩が生徒会室での経緯を説明しつつ私と赤弓さんを紹介してくれた。
「3年の
腰掛けていたパイプ椅子から立ち上がり、会釈と共に気さくに返礼してくれた白瀧先輩は穏やかな微笑みを浮かべている。
テンションの高い室橋先輩やマホ先輩……おっといけない、夢乃先輩とは違い、落ち着いた物腰の白瀧先輩からは大人びた印象を受ける。
白瀧先輩は女子にしては高い背丈の痩せ型、セミロングストレートの髪型といった外見で、服装次第では高校生以上に見えるかもしれない。
ただ、やや垂れた目元が柔らかな表情を形作っており、体格的な特徴と相殺しあって年齢相応に見える……なんて思うのは失礼だろうか。
「新入部員が入ってくれたおかげで
「はい! マホも大賛成なのです!」
「それじゃ、私はお茶の用意をしてくるわね」
室橋先輩が提案すると、夢乃先輩と白瀧先輩が早速とばかりに準備を始める。
14畳程度の広さがある麻雀部の部室にはそれなりの設備、備品が揃っている。
やや縦長の部室の奥(窓側)には旧式の全自動麻雀卓が鎮座しており、四つの肘掛椅子が四方を囲んでいる。
入り口寄りの中央には、会議室で使われるような折り畳み長テーブルが4つ並べて置いてあり、長方形の大型テーブルを形作っている。無論、その周囲には折り畳みパイプ椅子がいくつか置いてある。
壁際には図書館で使っているのと同タイプの木製本棚が一つと、下段が鍵付き棚で上段がスライドガラスで閉じられた棚という、一般的な大型キャビネットが一つ設置してある。
室橋先輩と夢乃先輩はパイプ椅子をてきぱきと並べ、白瀧先輩はキャビネットの下段からティーパックのお茶やスナック菓子を取り出している。
「あの、私も手伝います」
「あ、私も」
手持ち無沙汰だし、何より先輩を働かせて自分は何もしない、というわけにはいかない。
そう思って赤弓さんと二人、先輩たちへ声をかけたのだが、
「いーよいーよ。二人の歓迎会みたいなものだし、後はお茶煎れるくらいだから座って待ってて」
と、手をひらひらさせた室橋先輩に断られた。
ここは先輩たちのご厚意に甘えさせていただこう。そう決めた私と赤弓さんは大人しくパイプ椅子に腰掛ける。
ほどなくして準備が整い、新人歓迎会兼ミーティングが幕を開けた。
☆★☆★
歓迎会と言ってもそう大げさなものではなく、お茶請けにしてはやや多めのスナック菓子とお茶をテーブルの上に広げてまったり雑談しているだけだったりする。
「へぇー、雀姫はお兄さんの影響で麻雀始めたのね」
「うん。兄様が幼い頃から麻雀やってて、それを側で見てた私も自然と興味を持つようになって。病弱で家に篭っていた私でも麻雀くらいなら出来るから、家族4人でよく打ってたの」
妙歌が興味津々という様子で私に昔のことを訊ねてくる。
ちなみに同じ部の仲間になったという切っ掛けもあり、妙歌や先輩たちには名前で呼んでもらえるように先ほど話をしたばかりだ。
すると妙歌も名前で呼び捨てにして欲しい、と妙に迫力のある表情で切望したので、気後れしつつも名前で呼ぶことにした。
初めて妙歌を呼び捨てにしたとき、彼女は「これで親友にランクアップだね」などと嬉しそうに言ってくれて、胸と顔が熱くなってしまった。
「雀姫ちゃんのお話を聞いてると、凄くお兄さんを尊敬してるって気持ちが伝わってくるのです!」
「そうだな。私も兄貴がいるけど、この歳になるとお互い無干渉って感じになるし、尊敬できるお兄さんがいて、仲も良いのはいいことだと思う」
夢乃先輩が目をキラキラさせ、室橋先輩は穏やかな眼差しを私に向けながらそう言った。
ちなみに位置関係は私と妙歌がテーブルの一方に並んで座り、向こう側に先輩方3人が座っている形である。つまりは新入部員と先輩方でお見合い状態だ。
麻雀の話となると、どうしても兄様について触れざるを得ない。いや、麻雀以外でも、私の生活、生い立ち、あらゆる面で兄様という存在が関わってくる。なので必然、私の話には頻繁に「兄様が~」というフレーズが出てくるわけで。
兄様の事を殊更強調するつもりはなくとも、それを他人がどう受け取るかと言えば、考えるまでもなく「この子ブラコンだな」と思われることは想像に難くない。
まあその見立ては寸分狂わず事実なのだけど。
とはいえ、世事に疎い私とて人並み程度には世間体を気にする。程度の問題もあるにせよ、非道徳的な感情や関係は隠し慎まなければならなかった。
一線を越えた兄妹愛が周囲に迎合されるなんて、ドラマや小説の中にしか存在していないお伽話なのだから。
「生来病弱だったためか、兄様はずっと過保護で……最近ようやく人並み程度には健康になったんですけど、未だ何くれと世話を焼こうとするんです。それはそれでとても有難いですけど、もう中学生なので、自分のことは自分で……と思ったりもします」
「せめて
私と同じく兄を持つ室橋先輩が実感の篭った声で言い、うんうんと相槌を打つ。
「んー、私はお兄さんの気持ちが解るかも。雀姫みたいな可愛い妹がいたら、私だって絶対放っておかないだろうし」
お茶請けのじゃがりこをぽりぽりと齧りながら、妙歌が呑気な口調で言った。
思ったけど、何となく妙歌と兄様は感性が似ている気がする。
「そういえば、幼い頃から麻雀やってたってことは、雀姫のお兄さんって結構強かったりするの?」
これまで聞き役に回っていた白瀧先輩が興味ありげに訊ねてきたので、私は客観的にわかりやすい兄様の業績を告げる。
「かなり強い……と思います。兄様は中学一年時にインターミドル麻雀大会で優勝してますから。身内自慢のようで恐縮ですけれど」
「恐縮です」などと言いつつも、口調が若干誇らしげになってしまったのは大目に見て欲しい。
インターミドルで優勝、それは即ち中学生最強というステイタス。その事実はさすがに先輩たちを驚かせたようだった。
「優勝!? 全国大会で!?」
「えっと……はい」
「それはすごいです!」
「はー……こりゃ驚いたわね」
先輩たちが割と大げさな反応を示す一方で、門外漢の妙歌はあまり理解が及ばなかったようで、わからない顔で私に聞いてくる。
「ねえ雀姫、それってどれくらい凄いの?」
「とってもすごいことですよ! インターミドル――全中大会で優勝ってことは、つまり中学生で最強の雀士ということなのです!」
「ほほー、なるほど、そりゃ確かに強そうだわ」
私が口を開くより早く、興奮した面持ちの夢乃先輩がまくしたてるように答え、妙歌は素直に感心したようだった。多分《最強》という形容が解りやすかったのだろう。
「それにしてもインターミドル優勝者だなんて、まるで原村先輩みたいな人だな」
「原村先輩?」
室橋先輩がいわくありげに呟いた名前を妙歌が拾う。
「ああ、うちの部のOGでね、1コ上で今年の春に卒業したんだけど、去年のインターミドル女子の部で優勝したんだ。凄い人だよ」
「なるほど、そんな方がいらっしゃったんですね」
誇らしげな表情で説明してくれた室橋先輩の声には、《原村先輩》という人に対する強い敬意が篭っていて、「尊敬してるんだな」ということが察せられた。
「ねね、そんな凄いお兄さんがいるのなら、もしかして雀姫もすっごい強かったりする?」
テーブルの上に左手で頬杖をついた妙歌が、右側に座る私へ期待の篭った眼差しを向けてくる。
私は首を横に振って否定した。
「ううん、私なんて全然だよ。兄様には全然敵わないし……」
「そっかぁ。ま、兄妹だからって得手も同じってことはないわよね」
妙歌は苦笑しつつ、少しだけ残念そうな声で言った。
「でも、経験者ってだけで助かるよ。私たちくらいの年齢だと麻雀やってる子自体少ないしね。大会まで時間もないし、1から教えなくていいのは正直ありがたいかな」
「そうです! マホなんて今だにチョンボばっかりして皆に迷惑かけてるのです! それに較べれば雀姫ちゃんの方がずっと強そうです!」
「いや、そーゆー自虐ネタはどうかと思うぞ……」
夢乃先輩のフォローに半眼で突っ込む室橋先輩。つい私の口からクスッと微笑いが漏れた。
麻雀部の先輩たちが良い人たちばかりで本当に良かった。気心の知れた妙歌も一緒だし、これならきっと楽しくやっていけそう。
「それなら早速、今から一局打ってみる?」
白瀧先輩が手振りで自動卓を指しながらそう提案した。
「はい。私は構いません」
「あー……私はルールとか役の知識が正直怪しいから、今回は見学ということでいいですか?」
実家を離れ、最近は雀牌に触れすらしてなかった私は麻雀がしたくて正直、欲求不満気味だった。
何時から打たせてもらえるかな、なんて考えたくらいだから、白瀧先輩の提案はありがたく、私は一も二もなく承諾した。
一方妙歌は気後れがあるのか、やや気まずそうな表情で断った。
「わかった。じゃあ私たち3人と雀姫で打とうか。妙歌には後で初心者向けの本を貸すから、自宅で読んでくるといい。もちろん、私たちに聞いてくれても構わないからね」
「はい、ありがとうございます」
「マホも頑張りますよ!」
「はいはい。でもその前に手を洗ってこようね」
白瀧先輩の指摘は適切だ。
なぜなら、今までスナック菓子を摘んでいた私たちの手に少なからず油が付いているからだ。流石にこんな手で牌に触れるわけにはいかない。
近場の流しで念入りに手の汚れを落とし、雀卓に着く。
室橋先輩からローカルルールの説明を受け、私にとって入部初となる対局が始まった。
☆★☆★
「ツモです。
宣告の声と共に手牌を晒す。
私の和了をもって、本日3回目の東風戦が終了した。
「だぁぁぁ……また雀姫の一人勝ちか……」
「マホなんて焼き鳥です……」
対局が終わり、脱力したかのように椅子の背もたれにもたれかかる室橋先輩と、雀卓に突っ伏す夢乃先輩。
「ここまで一方的だともう、悔しさとか全然湧いてこないね」
「やー、雀姫強かったねー。まあ正直内容はよくわかんなかったけど」
白瀧先輩がさばさばとした口調で言い、私の背後で観戦していた妙歌もまたあけすけな感想を述べた。
妙歌の言うとおり、都合3戦した対局は全て私の圧勝。初めての人と打つのは新鮮で楽しくはあったけど、正直に言えば物足りない気がしないでもない。
先輩方の実力を論じるのは不遜かもしれないが、兄様と較べるとやはり格段に落ちる。夢乃先輩にいたっては初心者とそう大差ない雀力だったりするし。
地力の差以外にも、兄様に教えられた《ギフト》のような特殊能力の有無も作用してるかもしれない。
「兄様に較べたら、私なんて全然だよ。麻雀って運の要素が強いし、たまたま調子良かっただけかも」
兄様を引き合いに出して謙遜する私に、室橋先輩がじとっとした眼差しを向ける。
「これで大したことないって、お兄さんはどんだけ強いんだ……。てか雀姫もさ、下手したら原村先輩より強いんじゃないか?」
疲れた口調で件の先輩を引き合いに出した室橋先輩に、夢乃先輩ががばっと顔を上げ、剣幕激しく食ってかかる。
「そ、そんなことはないと思います! 原村先輩より強い人なんてそうそういるはずないです!」
「けどこれだけ圧倒的に連敗したことは原村先輩相手でも経験ないぞ」
「そっ、それは……」
客観的な事実比較を指摘され、うぐっと口ごもる夢乃先輩。
突然始まった口論に、私は呆気に取られていた。
「まあまあ二人ともそのへんで。雀姫が困った顔してるよ?」
困惑してる私と、言い争う二人を見かねたのか、白瀧先輩がやんわりとたしなめた。白瀧先輩、ナイスフォローです。
室橋先輩と夢乃先輩はハッとして私の顔を覗うと、ばつの悪い表情を浮かべて口を閉ざす。
「――ま、まぁ、原村先輩より強いかどうかは置いといて、雀姫がこれだけ打てるなら団体戦ですごい戦力になってくれそうだね」
「そ、そうです! マホ的にもかなり心強いですよ!」
気まずい沈黙が部室を支配しかけたところで、室橋先輩が強引に話題を変え、夢乃先輩もそれに追従した。
私は場を和ませる意図で控えめにクスリと微笑い、二人の気遣いに応じる。
「どこまで力になれるかわかりませんが、精一杯頑張りますね」
「うん。ほんと、頼りにしてるよ」
私が気分を害していないことを感じたのか、室橋先輩はどこかほっとした様子で頷いた。
「そういえば雀姫さ、変わった打ち方してるよね」
既に冷めきった紅茶を一口啜り、テーブルの上にティーカップを戻しながら、妙歌がふとそんなことを口にした。
「そう……かな?」
「うん。私が素人だからそう思うのかもしれないけど……毎回毎回何度も……えーっと、チー? ポン? だっけ、そういう技みたいなのやってたでしょ。だからちょっと気になって」
どうやら妙歌は副露のことがよく解ってないらしい。
妙歌が言っていたゲームとネット麻雀が同じようなものだと仮定して、ネット麻雀ではシステムが色々自動的にやってくれるというか、リーチや副露といったアクションが可能な局面の場合、実行の有無を求めてくるので、ルール的な知識が欠けていてもある程度遊べるようにできている。
システム任せで遊んでいるだけでは知識が身に付くはずもないし、妙歌が知らないのも無理はないと言えた。
「ああ、それは私も思った。いつもああいう打ち方してるのか?」
「はい。――あ、でも、ネット麻雀では普通に打ったりもしますね」
室橋先輩の為人を知らなければ少々不躾とも取れる質問だったが、私は特に気にすることなく答えた。
すると室橋先輩は眉間に皺を寄せ、両腕を組んで何やら迷うようなそぶりを見せる。
「そうか。うーん……」
「あの、何か?」
私の発言に胡乱な部分でもあったのだろうかと、僅かに憂慮しつつ訊ねると、室橋先輩はしばし逡巡し、それから躊躇いがちに口を開いた。
「……今から言う事はあくまで一般論で、他意はないから誤解しないで欲しいんだけど、ぶっちゃけ雀姫の打ち方は対局者からウザがられたり、嫌われると思う」
前置きはあるものの、まさしく歯に衣着せぬ物言いで酷評される。
とはいえ、室橋先輩の見立ては十分に的を射ている。それに、何も言わずに不満を溜め込まれるよりは余程健全な対応だとも思う。
「ちょっとムロ、言いすぎよ」
白瀧先輩が室橋先輩を軽く睨むようにして嗜める。
――が、”言いすぎ”であっても発言そのものを否定したわけではない。それはつまり、指摘の方向性そのものは妥当だと白瀧先輩も思っている証拠と言える。
わざわざ善意の裏を読むなんて性格悪いのかな、私。
なんて、ちょっぴり自己嫌悪。
「いえ、いいんです。実を言うと、兄様からも同様の指摘を受けたことがありますから。”お前のスタイルは評価はされるが疎まれるだろう”と」
ルール上許された行為であっても、頻繁に鳴くのは対局のスムーズな進行を妨げ、場を荒らすことになる。他対局者にはどうしても迷惑に感じてしまうだろう。
しかし兄様はそれを踏まえた上で「そのスタイルがお前の最善であり最強だ。他人の都合なんぞ気にするな。自分の打ち方を信じて貫け」と力強く言ってくれた。
その言葉が私の胸にある限り、誰に何を言われようとも私の
だからといって、他人の心情を無視して良い、ということにはならないけれど。
「私が言うのも何だけど、お兄さんも随分はっきりと言う人だな。もっとこう、雀姫には優しいというか、甘々な人物像を描いてたよ」
感心した様子で室橋先輩が言った。
「麻雀の事に関しては、兄様は手加減とかしませんから。でも、それ以外に関しては室橋先輩のご想像通りですよ」
「良いお兄さんだな」
「はい」
私はてらいなく答え、頷いた。誰に憚ることもない、自慢の兄のことだから。
先輩方や妙歌から向けられる優しい眼差しが少しくすぐったかった。
――みんな善い人たちばかり。これなら、私の事情も真摯に受け止めてくれるはず。
そう考えた私は、これから何度も一緒に打つことになる皆にきちんと説明することにした。
「話を戻しますけど、私が副露を主体とした打ち筋なのは、理由あってのことなんです。決していい加減にそうしてるわけじゃありません」
「――うん。それは解る。まだ短い付き合いだけど、雀姫の性格は信頼できるし、何より結果に繋がってるからな」
居住まいを正した私の告白に、室橋先輩もまた真剣な様子で頷いてくれた。他の皆も黙して耳を傾けてくれている。
私は皆に感謝の念を抱きながら、話を続ける。
「上手くは言えないんですけれど……鳴けば鳴くほど、私の力が高まるんです。それは配牌に恵まれたり、どこにどんな牌があるかなんとなく判るといった、根拠のない不思議能力なんですが。ただ、それで実際に室橋先輩の仰ったように結果を出せてますから……。兄様もその能力を認めてくれていて、それが私の最善の打ち方だろう、と認めてくれました」
説明を終えた私は、微妙な緊張感からなる体の強張りをほぐすためにふぅ、と小さく息を吐く。
やや神妙な空気が漂う中、真っ先に口を開いたのはやはり室橋先輩だった。
「なるほど……事情は理解した。……が、完全に納得できたわけじゃない。荒唐無稽とまでは言わないが、運や勘が良くなるって話なら、単なる思い込みとも取れるしな。だからって雀姫が嘘やいい加減な事を言っているとも思わない。だから、とりあえず納得は保留かな。これから何度も打つだろう対局で、その話が真実かどうかを見極めるよ」
「はい、それで充分です。ありがとうございます」
元より、馬鹿馬鹿しいとか、自意識過剰だなどと鼻で笑われかねない胡乱な話なのだ。話半分でも信じて貰えたなら僥倖だと言える。
室橋先輩の実直な回答に私は満足し、目礼しつつ感謝を伝えた。
「まあ、そんな大げさに考えなくても、打ち方なんて人それぞれ自由だしね。あまり気にする必要はないと思うわ」
「マホも同感です! それに、雀姫ちゃんの言う”不思議能力”、マホはあると思います! だって雀姫ちゃんが鳴く度に、背筋が”ぞわっ”ってしましたから!」
白瀧先輩がやんわりとした口調で優しい言葉をかけてくれ、それに同調するように夢乃先輩がテーブル上にやや前のめりになって力説した。
二人の気遣いには頭の下がる思いだが、それはそれとして夢乃先輩の台詞は割と聞き捨てならない。悪い意味ではなく、私のギフトを肌で感じ取れるということは、夢乃先輩が相応の能力ないし才能を秘めているという証左に他ならないからだ。
ちなみにこれは、兄様に教えてもらった”特別と普通の見分け方”の一つ。
「私は麻雀の良し悪しなんてわからないけど、ルール違反じゃなければ別に何したっていいんじゃない。まぁ格ゲーのハメ技とか無限コンボみたいなえぐい手口ならイラッとするかもしんないけど、雀姫が好んでそんな真似するわけないし」
門外漢の妙歌もまた、彼女なりの言い方でフォローしてくれる。ハメ技とか無限コンボの意味はよくわからなかったけど。
妙歌の身も蓋もない発言に、先輩方は揃って苦笑していた。
「さて、話は変わるが――これからの活動内容について説明しようと思う。とりあえず腹案という前提で聞いてほしい」
私の話題が落ち着いたところで、室橋先輩がテーブルの上で両手を組みながらそう切り出した。
皆が首肯し、傾注の態度を取るのを確認してから続きを話す。
「まず最初に雀姫と妙歌に伝えておくが、ウチの部には顧問やコーチといった指導者がいないので、活動内容は部員が自主的に決めてやってる。といっても、やることは麻雀しかないんだが。なので、決めるべきことは多くない。とりあえずは、インターミドル県予選に参加するかどうか、参加するならどれくらい本気で頑張るか。その二点だ。ちなみに去年の成績だが、団体戦では初戦敗退。個人戦では原村先輩が全国優勝と目覚しい活躍をしてくれたが……。そんなわけで、正直情けない話だが、ウチら上級生3人ははっきり言って弱い。仮に雀姫が原村先輩並に強かったとしても、去年と同じように他メンバーが足を引っ張ってしまい、結局団体戦の勝算は低いと思う。そんな状況だから、大会で上を目指すなら、明日からでも本気で取り組んでいかなくちゃならない。そこでみんなの意見や希望を聞かせてほしい。なお私の希望――いや目標は、県予選優勝だ」
長広舌を終え、室橋先輩は皆の顔を見渡した。
仲間と一緒に目標を成し遂げるために努力する、というのは、私の経験してみたい事の一つだ。また、様々な同級の人と打てる機会、という意味でも大会参加は有意義である。
さらに言えば、良い成績を収められれば師である兄様の面目が立つし、人並みに何かを為せる、という自信を得ることにも繋がるだろう。
考えをまとめた私は口火を切って希望を述べる。
「私は前向きに頑張りたいです。具体的には、全国優勝を目標として」
視線を合わせている室橋先輩が僅かに瞠目する。
「全国優勝か。個人戦であれば、雀姫なら充分見込みがあるだろう」
「えっと、できれば団体でも全国優勝したいと思ってます」
少々不遜な物言いになってしまったが、熱意は伝わったはずだ。
室橋先輩は現実的な視点で県予選優勝を掲げたのだと思うけれど、個人的には目標を高く持ちたい。
「マホも雀姫ちゃんに賛成です! 今年こそは最低でも一回戦突破を……いえ、絶対に優勝してみせるのです!」
「そうね。原村先輩が抜けた穴は雀姫が埋めてくれそうだし、私たちが相応に強くなれば可能かもしれないわね」
「日和見なんて柄じゃないしね。私も大会までには一人前になってみせるわ」
私の発言に触発されてか、他の皆も口々に前向きな抱負を表明した。それは決して付和雷同によるものではなく、本心であることがそれぞれの表情から伝わってくる。
これで部員の意思統一は成った。
部長である室橋先輩に皆の視線が集まる。
室橋先輩は再び皆の顔を見渡してから、コホン、と咳払いをした。
そして、告げる。
「――よし。それじゃあこれから県予選まで、寸暇を惜しんで頑張っていこう。目標は……団体戦全国優勝だ!」
「「「「おーっ!」」」」
春の陽射しに負けないくらい明るい歓声が部室棟に響き渡った。
兄様、私は今――とても楽しいです!
改定前に比べ、妙歌がまだ猫を被っているというか、割とまともなので、憂の口調と微妙に被る。
雀姫のゲーム疎い設定を緩和しました。長年療養生活で暇してたのに、携帯アプリゲーすらやったことないとかちょっと無理があるかなあと。