ゆらぎ荘の蹴る人と殴る人   作:フリードg

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第11話 歓迎 妖下宿ゆらぎ荘

 

 幽奈の必殺技(ポルターガイスト)で、散々身体をシェイクされたコガラシだが、やはり それだけで済むはずも無かった。

 

 

『幽奈に不埒な真似をした!?』

 

 

 と、幽奈の様子から更に判断した狭霧のくないによる攻撃が何発も、コガラシに直撃してしまっていたのだ。

 

 あ、後、呑子は 少々離れた位置にいて、ただただ笑っていて、ホムラはと言うと、 しれ~っ 被害を受けない様に、離れていて、巻き込まれる事は無かった。……まぁ、『たまたま』だと思うけど。

 

「ええぃ! 冬空コガラシ! 貴様の様な(ケダモノ)は、幽奈の部屋から出ろ! 浦山に丁度よい木の洞がある、そこなら似合いだろう!」

「さ、狭霧さんっ! せめて、人間扱いしてあげてくださいっっ!」

 

 退去希望を出すのは狭霧であり、その移動先が中々に酷い為、思わず幽奈も声を上げていた。

 

「あー、ダメダメ」

 

 右手をぶんぶん、と左右に振って割って入ってくるのは、離れていたホムラ。

 

「その手の場所なら、比較的住み易い。だから、コガラシの場合、既にマークしてるハズ。それに、あの洞、ちょいと問題があるから絶対断る」

 

 と、ホムラが説明した直ぐ後に。

 

「そうだそうだ。あんな雨でおぼれる様な寝床は二度とゴメンだ」

 

 コガラシも頷いた。

 ホムラとコガラシの全く違和感のないやり取りを訊いて、驚いてしまうのは幽奈。

 

「お友達だからこそ、コガラシさんの行動を推理しましたっ?? と、言うより、お2人とも、ご経験済みでしたか!? っていうか 深っっ!!」 

 

 今日もツッコミが冴えている幽奈だ。

 そしてホムラは、幽奈の驚愕を訊いた後に、軽く微笑んだ。

 

「……難はあるが、住もうと思えば、住めなくも無い(ばしょ)だが……、まだ、ダメだよな? コガラシ。約束(・・)をしたから」

「ん? ………ぁぁ」

 

 コガラシは、ホムラに促されるままに、ゆっくりと頷いた。

 少々恥ずかしいのだろう、幽奈に視線を向ける事なく、そっぽ向いたまま言う。

 

「他所に移る気なんざ、最初からねー。オレが借りてんのは、あの部屋だし、それに……ホムラの言う通り、オレは約束をした。幽奈をちゃんと成仏させてやる、ってな。皆も同じだと訊いてるし、オレも加わる事にしたんだ」

「……コガラシさん……」

「……ふふ」

 

 コガラシの言葉を訊いて、目をうるわせる幽奈。ホムラもまた、微笑んだ。

 

「ありがとうございますっ! コガラシさん!」

「HAHAHA! そして、あの部屋の無料永住権は、我が手中に収めるっ!」

 

 気恥ずかしさからか、誤魔化す様にコガラシは、芝居がかった口調になっていた。

 そして、コガラシの決意を訊いた狭霧は、それ以上は何も言わなかった。……嘘を言っている様にも見えないし、その場しのぎのでまかせ、と言う様にも見えないから。

 

「……そういう訳、だ。狭霧」

 

 そんな彼女の隣に移動して、肩をたたくホムラ。

 

「狭霧の心配は判るよ。その……幽奈は色々と、隙が多いしな。それに、オレはお前の性質も理解してるつもりだ。……だけど、コガラシは信用出来る男だ。だから、少しは信じてやってくれ」

 

 ホムラの真剣な表情を見た狭霧は、顔を顰めた。

 

「む………。私だってそれは……、って、だが それは兎も角、性質(タチ)とは何だ! 性質(タチ)とは!!」

「ん? 男嫌い」

「ち、ち、違うわっ!! わ、わたしはただ、苦手ってだけで……」

「あー判った判った。冗談、冗談だよ。本気では言ってはいない。オレだって男だし。狭霧には普段から良くして貰ってるんだ。本気じゃないよ」

 

 慌てる狭霧を見て、長くなりそうだったから、速攻でホムラは、話を切った。

 狭霧は、ホムラの言葉に思わず息が詰まりそうだったのだが、何とか堪えた。

 

 そんな事は露知らず、ホムラは、狭霧から視線を外して、隣の呑子の方に向いた。

 

「呑子さんも、良いよな? 以前(まえ)に、皆で決めた事……、その輪の中に、アイツが入っても」

「んー、アタシは、大歓迎よー? コガラシちゃん、面白いしー! ……んー、でも」

 

 呑子は、少しだけ、真剣な表情をして言った。

 

「……コガラシちゃんが増えて、心強いけど、……寂しさは やっぱりあるかな? そういうの、言葉で訊いちゃったら。……でも、仕方ないよね。幽奈ちゃんが地獄に落ちるのなんて、見たくないし」

「……同感です」

「……判っています」

 

 呑子の心情は、よく判っている。

 ここ、ゆらぎ荘の住人全員が判っている事だった。幽奈と長く、共に暮らしてきたからこそ、判る。

 

 それは――別離の時が必ずある、と言う事だ。

 

 今は、皆がそろっている事が当たり前、とまで思えるのだが、最後には別れなければならない。……じゃなければ、幽奈自身を苦しめる事になるのだから。

 

「ま、辛気臭いの無しにしましょー! ほーら、コガラシちゃんたちも、楽しそーだしっ?」

 

 呑子は、猪口を右手で上げて、乾杯の所作をしつつ、笑顔でそう言った。

 

 それに関しても、狭霧とホムラの2人は同感である為、それ以上は 考えない様に、ただただ 表情を緩めるのだった。

 

 そして、場が更に賑やかになってきた所で、がらっ と扉が開いた。

 

「みなさん、おはようございますー」

「仲居さん! おはようございます~!」

「おはようございます」

 

 入ってきたのは、仲居さん。今の時刻を確認すると、朝食の時間帯だった。

 

「直ぐに朝食の支度しますねー」

「あ、手伝いますよ」

「ホムラさん。いつもいつもありがとうございますー」

「いえ、好きでやってますから」

 

 ホムラが、仲居さんの手伝いをする、と言うのは いつも通りだ。

 

 最初こそは、仲居さんは 申し訳ない、と断っていたのだが、手際の良さが際立っていて、最終的に 手伝った時間、日数に応じて、少額ではあるが お給料を支払う、と言う形に収まったのだ。……それこそ、ホムラは断っていたのだが、『働いてくれている以上 当たり前です』と言われて、受け取る形になっていた。

 

「じゃあ、直ぐにご用意しますねー」

「あざっす!」

「あ、コガラシくん?」

「はい?」

 

 仲居さんは、コガラシの方を見て、何処となく暗い笑みを見せていった。

 

「お食事代の支払いを待てるのは1ヵ月までです。1日でも遅れたらご飯抜きですからね? ホムラさんのお友達だから、と特別優遇はしませんから」

「は……はい……!! って、なら オレも手伝うっす!! バイトはしてますけど、今後の為にもっ!」

「残念。もう定員オーバーだ。ゆらぎ荘は今は求人は出してない」

「う……、ホムラ、ずるい………」

「ずるくない。早い者勝ちだ。それに働き口紹介してやっただろ」

「ふふふ、ほんと、仲が良いみたいです」

 

 仲居さんは2人のやり取りを見て、微笑む。ホムラは、一本取った事に意気揚々としながら、仲居さんと一緒に出て行った。

 

「うー……。ん、それにしても」

 

 コガラシは、2人を見送った後、ホムラの事より、仲居さんの事を考えていた。

 

「仲居さんって、小さいのに妙にすごみがあるんだよな……」

「あっははー、そりゃそうよぉ。仲居さんがゆらぎ荘で一番年上だもの」

「へ?」

 

 まさかの、呑子の発言に、思わず 変な声を上げてしまう。身形を見れば、明らか……なのだ。だが、よくよく考えたら、ホムラも以前言っていた、このゆらぎ荘を1人で切り盛りする凄腕仲居さん、と言う事も訊いていた。その容姿からは、想像もつかない程の腕だと言う事は、納得出来そうだ。

 

「ふむ。そして 二番目が幽奈だ」

「わ、わたしは、永遠の16歳ですよ~~!!」

 

 歳の話題は、あまり出したくないのは、女の子と言うもの。そして、長年幽霊をしている幽奈であれば、咄嗟に否定したくなるのも仕方がないと言うものだ。……それに強ち、永遠の16、と言っても間違ってはいない。

 

 と、それはどうでもいい事。

 

「仲居さんも見た目通りの年齢じゃないって事か。……そう言えば、ホムラが色々と教えてくれるって言ってたけど、結局訊けてなかったが、つまり、ここにいるメンバーは……」

 

 コガラシは、頭の中で仮設を立ててみた。

 明らかに見た目は子供だと言うのに、一番の歳上だと言う事、そして 幽奈の事が見える、と言う事実。それらが示す答え……。

 

「う~……、夜々、眠いけど……、ごはんも……。……ホムラが戻ってくるまで、寝る~……」

 

 そんな時、コガラシの前を横切るのは夜々だった。

 夜々は ひょいっと、こたつに向かって頭から飛び込んだ。

 

「って、無防備すぎ……ん?」

 

 その拍子に……、夜々のスカートの中が捲れてしまった。

 

 夜々の下着がばっちり見えてしまったのだが……、それ以上に驚く事がある。その夜々のお尻からは、人間では決して有りえない長い尻尾が備わっていたのだ。

 

「し、しっぽ……??」

「う~?」

「夜々さんっ! しっぽ、しっぽが! それに下着も見えてますよっ!!」

 

 慌てて、隠す様に促す幽奈。だが、夜々は全然動じてなく、頭をこたつから出す気配が無かった。

 

「ちょ、ちょっとは隠せよ!!」

 

 捲れたままの状態をずっと見られる訳も無く、コガラシは視線を外す……が、既に見た事を許せないのは狭霧である。

 

「冬空コガラシ! 貴様……!!」

 

 くないを、眉間に突き刺さんばかりの勢いで突き立てるが、コガラシも黙って刺される訳も無く、くない白羽どり、である。

 

「テメーも、いい加減飽きねぇな………!?」

 

 非が無くても、狭霧にとっては関係ないのは、ホムラとのやり取りを見たら一目瞭然。男子に対してでは誰であっても同じ、と言う事だろう。

 

「えー……」

 

 そうこうしている間に、夜々は こたつの中で身体をくるっと回転させ、頭だけをひょい、と出して答えた。

 

「……コガラシも、ホムラと一緒、れーのーりょくしゃだから、別に隠さなくても良いんじゃ……?」

「あ、それもそうでしたね!」

「バカモノ!! 下着は隠せ!!」

 

 段々と、ここ ゆらぎ荘の実態が見えてきたコガラシ。

 

 

「――大体判ってきたんじゃないか?」  

 

 

 ホムラも、両手に朝食の一式を抱えて戻ってきた。仲居さんも勿論同じく。

 

「あぁ。ここまで来たらな。アイツの猫耳っぽいのも、全部自前、って事だったんだな……。つまり、化け猫?」

「ん、少々違う。惜しいな」

「そーそーっ! もうちょっとコガラシちゃん、捻ってみて~~」

 

 呑子もそういうが、一体どう捻ったら、正確な答えが出るのか? 

 それは、判らないが、一先ず今度こそ、しっかりとした説明は必要だろう。

 

「ここ、ゆらぎ荘はな? コガラシ」

 

 ホムラが、一から説明をしようとした時。仲居さんが一歩前に出た。

 

「ホムラさん。ここには皆さん揃ってますし、自己紹介は各人でやりませんか?」

「ん。そうですね」

「ふふ、折角ですしね? では、まず私から――『たのもぉぉぉぉぉ!!!』???」

 

 自己紹介のトップバッターに立った仲居さんだったが、突然の大声に遮られてしまう。

 

 その大声はどうやらゆらぎ荘の外から聞こえてくる様で、皆は直ぐに窓から外を見た。

 

 そこには、ゆらぎ荘の玄関前にゆうに20人は超えているであろう数の坊主達が立ちふさがっていた。

 

 昨日、追っ払った2人組もそこにいて、早速リベンジにやってきた様だ。

 

「昨日はよくもやってくれたな小童共よ!! そして、その屋敷、よくよく霊視してみれば 悪鬼羅刹の巣窟ではないか!!」

「この現世に、留まるとは神罰覿面。今度は手加減せぬ、全身全霊を懸けて、貴様らを地獄へと送ってくれる!!」

 

「んだと……!?」

「手加減してた様には見えないがな」

 

 手加減したかどうかは置いといても、先頭にたっている2人はやる気満々なのだが、後ろに控えた大勢のメンバー、モブキャラ達は 何処となく覇気が無かった。

 

「お、お2人共! 彼奴らは皆、女子の姿をしており申す……」

 

 1人が進言をした。全員が同じ気持ちの様だ。

 

 ゆらぎ荘に住むメンバー皆……色々(・・)とあるのだが、それを抜きにすれば、この町でも指折りに数える程の容姿の持ち主達だ。……ゆらぎ荘の評判故に、なかなか日の当たる事が少ない、と言うのがあったりするのは周知の事実。

 

「そ、そうでございまする。それも存外愛らしい姿……、手荒な手段はいかがなものかと……」

 

 まさにその通り。

 問答無用で祓おうとする姿は 正しいのかもしれないが、害を及ぼした訳でもない幽奈を問答無用で攻撃するなどと、大の男がする様な事ではない、と思うのが心情と言うモノだ。

 

 だが、訊く耳を持たない。

 

「手段など! 我らは、速やかに悪鬼とそれに組する者どもを滅するのみだ!」

「そう。彼奴らを野放しにすれば、この町おろか、延いてはこの日の国にも害を及ぼすやもしれぬ!」

 

 まだなーんにもしてない。

 強いて言えば、この2人をぼこぼこ……とはしてないが、軽く打ちのめした。その程度だけ。それをきっと根に持っているのだろう。……小さい。

 

「し、しかし……!」

 

 だが、それでも女の子に手を掛けるのは忍びない、と小さく抗議をする男達。

 なかなかに、話が判る連中だな、とこの時は思ったのだが……あっという間に撤回する事になる。

 

「……ならば、女子達は捕らえるがよい! その後は、主らの好きに修行を付けて良いぞ!」

「うむ。そうだ。主達で矯正してやれば良いだろう。それで更生する事が出来れば、召使にする事を許そう」

 

 その一言で――、男達の眼付が一斉に変わった。

 

 

 

――好きにして良い。

――矯正してやれば良い。

――召使にする事を許す。

 

 

 

 それらの言葉が頭の中を廻り―――、彼らの想像力を掻きたてる。

 

 修行と称し――彼女達を縛り上げ、仕置きをする。

 

 そして更生する事が出来たならば―――、自分達に奉仕をさせる。

 

 めくるめくる妄想。彼らのつるっつるの頭の中はピンクワールド。

 

 

「「「ふぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

 

 奇声を上げる男達。先ほどは躊躇っていた筈なのに、何処吹く風。気合が入ってしまうのが、悲しきかな、男の性。

 

「成る程!! それならば、寧ろ彼奴らを救う事にもなりましょう!!」

「そう、拙僧の手で、更生をさせてやりましょうぞ!?」

「拙僧もそう考えておりました!」

「拙僧も!!」

 

 下心満載で、飛びかかってくる男達。

 一気にゆらぎ荘の玄関口にまで、走ってきた。

 

 そんな男達の姿を見て、怒りに湧くのが約1名。

 

「………下衆どもが」

 

 ぎりっ、と歯を食いしばる程の怒りを覚えたのは当然狭霧。

 

「……手はいるか?」

「無用だ。いや、寧ろ出すな」

 

 ホムラが狭霧にそう聞き、拒否する狭霧。どうやら、狭霧はかなり怒ってる様子。狭霧はあの手の人種が何よりも嫌い、だと言う事はホムラもよく判っている。

 不快感はホムラにも十二分程にあるのだが、ここは狭霧に従って一歩下がった。

 

「って、ホムラ! オレらのせいでもあるだろ!? 奴らが強引に来るなら、オレらが何とかしねぇと!」

「いいや、大丈夫だ」

 

 下がるホムラを見て、コガラシが迎撃に行こうと促すが、ホムラは首を振った。

 

「それに狭霧の邪魔をすると、後で怒られる」

「ふんっ! うるさい!! 良いから、下がっていろ! 2人共だ!」

「……撤回する。もう狭霧、既に怒ってるよ。怒られた」

「………みたいだな」

 

 ため息を吐くホムラと対照的に青筋を立てている狭霧。

 大勢で攻めてきている、と言っても良い状況だというのに 何故こんなにも楽観的なのか、とコガラシは思ったのだが、直ぐに疑問は解消される事になる。

 

 狭霧は、跳躍して窓から屋根の上に立つと、無数のくないを投げ放った。

 

 扇状に空中に静止しているかの様に並ぶくない達は、其々に意志があるかの様に佇み。

 

 

 

「雨野流 誅魔忍術奥義―――叢時雨(むらしぐれ)

 

 

 

 狭霧の合図で、一斉に迫りくる坊主どもに襲い掛かった。

 

「ぎゃああああっ!!」

「ぐえええええっ!!」

 

 雨霰の様に降り注ぐ くない は、何の悟りも開いていない煩悩の塊の(オス)どもを次々に薙ぎ払ってゆく。

 

 大の男が、吹き飛んでいくシーンはなかなかに強烈だが、はっきり言って同情は誰もしない。相手が悪かった、と言う事もあるが何よりも自業自得だ。

 

「………なんだ? あれ?」

「あれが狭霧の実力。只者じゃない、と言う事はホムラも判っていただろ?」

「まぁ…… 確かに、色々感じる所はあったが……、それにしても……」

 

 想定範囲外。と言う言葉が頭の中を過ぎっているコガラシ。それも仕方のない事だ。少々男勝りな所があるとはいえ、女子高生が 複数の男達を薙ぎ払うシーンなど、予想出来る筈も無いから。

 くないを武器として使ってくる時点で、色々とあったのだが、まさか複数の男を吹き飛ばせるとは……。

 

「ふふふっ、私も解説しますねー! 狭霧さんは、誅魔忍なんです。更にあの武器は、霊気の忍具! 神出鬼没、変幻自在なのですっ!」

「ま、まぁ……確かに 忍者と言えば忍具とか忍術? くないとか、手裏剣、って判るんだが……、ソモソモ誅魔忍(チューマニン)ってナニ?」

「それは追々、だな。まぁ 霊能力者に似たり寄ったりだ。と考えていれば良い」

 

 強引に進められて、まだ はっきりと理解はしていないのだが……、まだあの坊主達は結構いるので、とりあえず 追及はしないコガラシ。

 

 

 

 そうこうしている内に、更に続く。

 

 

「ぐぐっ、おのれ!! ええぃ! 怯むな! かか……「わぁ~~、みぃんな、つるっつるでボールみたい!!」……れ!?」

 

 リーダー格の1人である洩寛が檄を飛ばそうとしたのだが……、いつの間にか 背後を取られた事に唖然としていた。全く気配が感じられなかったから。

 

 坊主達の後ろを取ったのは、まだ酒が抜けきっていないであろう女性……、呑子である。

 

「き、貴様!いつの間に……!?」

「ねぇねぇ、そんな事より、ボウリングしてもいーい? いいかなぁ……?」

「ぼ、ぼうりんぐ?」

 

 言っている意味はよく判らない。

 頭がボールみたいだからと言って、『ボウリングしても良い?』 等とはふつうは訊かないから。そして、勿論コガラシもおかしい、とちゃんと思った様だ。

 

 

 

 

「あぁ……、ホムラ? やっぱ 呑子さんも……何やらあったりすんのか……?」

 

 先の狭霧の剛の術を目の当たりにして、もう 何しても驚かないつもりなのだが、気になった様で、ホムラに訊くコガラシ。

 

「ん? ああ。呑子さんもそうだ。ほら、見てれば直ぐに判る」

 

 ホムラの言う通りだった、とコガラシが納得するのにも時間がかからなかった。

 

 呑子は、その身体の何処にあんな力があると言うのだろうか……、成人男性を片手でつかみ上げると、本当にボーリングをしてしまったのだ。

 所謂、人間ボーリング? 坊主の頭を鷲掴みにして、投擲。1か所に集まってた1グループを全てなぎ倒して『すとらーいくっ!』と威勢よくガッツポーズまでして見せた。

 

 

 その呑子の額には、人間であるなら決して有りえない鋭利な角が生えていた。

 

 

「……おい、人が吹っ飛んでんぞ?」

「あれも アイツらの自業自得だ。死んでないから、大丈夫だろ」

「ま、まぁ……、死んでないからOKと言うのもどうかとは思いますが、呑子さん、ちゃんと加減はしてくれてますよー」

 

 少々青ざめてしまったコガラシに慈悲の心皆無なホムラ。

 この辺りは、云わばゆらぎ荘での経験の差だと言えるだろう。ホムラは、彼女達の力をコガラシよりも先に、そして長く知ってきたのだから。

 

「呑子さんについて、私が解説しますねー!? ホムラさんっ!」

「んん? 幽奈、解説役にあこがれてたのか?」

 

 先ほどから、生き生きと(幽霊なのに、それも変だが)している幽奈を見て ホムラは訊いていた。幽奈は、それを言われて、ちょっと照れてしまい。

 

「あ、あはは……、その、少し、少しだけですよ?? 以前にテレビを見まして、それで――」

「ん。成る程な」

 

 ホムラは、軽く笑っていた。

 幽奈は地縛霊ではあるものの、基本的に自由だ。幽霊歴が長いからこそ、出来る芸当であり、最近のテレビ番組は勿論、まだまだ不得手ではあるものの、ネット環境にも手を出したりもしているのだ。(ホムラが教えた)

 

「こほんっ」

 

 幽奈は、説明を今か今かと待っているであろうコガラシの為に、一度咳払いをして 解説を進めた。

 

「呑子さんはですねー。酔えば酔う程強くなる! かの鬼の首領(ドン)、酒呑童子の末裔なのですっ!」

「……酒の神(バッカス)とどっこいどっこいだな。あの酒豪は」

「あー………、確か 以前その手のヤツに憑かれてた事、あったっけか」

 

 ホムラのため息、言葉にコガラシが頷く。

 しれっと、《神》の名が飛び出してきたから、驚くべき所だと言えるが……、今は幽奈もはっきりと訊いておらず、ただただ、ゆらぎ荘の住人が暴れている所を見ていた。 

 

 

 そして、3番手……。

 

 

「お、おのれ! よもやこれ程とは……!」

「ええぃ! 悪鬼その者が相手とはいえ、情けないぞ! 気合を見せるのだ………ぬ??」

 

 弟子たちに発破をかける2人。

 だが、突如現れた巨大な影に思考を完全に奪われてしまった。

 

 大きい影だが、何処となくラブリーな影。

 

 だが、それだけに気味が悪いと言える。……恐る恐る振り返ってみると、そこには大きな大きな猫がいました。大きいけど、しっかりと鈴付きの首輪がはめられているから、野良猫ではないだろう、と どうでも良い事を一瞬だけ考えてしまう2人。

 

「「……は?」」

 

 だが、直ぐに考えるのをやめた。

 何故なら……、その猫の頭上に座っている少女――夜々が命令を下したからだ。

 

「……うん。あいつらで遊んできていいよ」

 

 その一言を待っていた、待っていました! と言わんばかりに、巨大な化け猫は『ンニャッ♪♪』とご機嫌な啼き声を1つ上げると、まだそれなりに残っている坊主達の中に飛び込む。

 

 

 

「ぎゃあああああ!!」

「どわあああああ!!」

 

 

 

 呑子の時とは、少し違い、何処となく 猫がじゃれ付く、にゃんにゃん♪ にゃーんっ♪ とされれば癒されるし、優しさにあふれている気もするが、それは体格が普通の猫であれば、の話だ。

 

 自分達の身体の何倍も有ろう腕を存分に使われ、じゃれ付かれた。肉球を利用して、まるで お手玉のよーに、ぽんぽんっ と、弾かれ続けたのだ。

 

 

 ……幽奈のポルターガイストよりもきついかもしれない。

 

 

「夜々さんは、あんな可愛い猫さんに憑かれてるのですっ!」

 

 幽奈は再び解説。

 大きさは一先ず置いといて、その愛らしい姿に悶えてしまっている幽奈は、猫派だろうか。

 

「あそこまでいったら、『憑かれる』って表現も違う気がするがな」

 

 普段は、確かに夜々の中で眠っているが、時折外に出てくる事もあるし、ホムラが作る魚料理を好んで食べたりもするから、どちらかと言えば、飼っている……とは一応神に分類されるから言えない。……つまり 家族同然だと言う事だ。

 

「ってか、アイツ自身は何もしねぇのね??」

「ん? 夜々は基本あんな感じ。あー、今の時間だったら特に」

「んー……そ。ホムラの言うとーり……。だって、眠いもん……」

 

 くぁ、と欠伸をしつつ 猫神の姿をしっかりと見続けている夜々だった。

 

 

 そして、数分も立たない内に―――、終了した。

 

 

 狭霧の忍術。

 呑子の剛力。

 夜々の猫神。

 

 

 3つの強大な力は、あっという間に坊主達を根こそぎ戦闘不能状態に追いやってしまったのだ。 ……1人ずつなら兎も角、3人一緒に、となると はっきり言って無理だ。並みの使い手では話にもならない。……この場にいる坊主達の面子の中で、並と言える使い手がそもそもいないから。

 

 残っているのは、まだ混乱が続いているリーダー格の2人。

 今回は万全を期して、多人数で攻めに来た、と言うのに まさかの結果。一蹴された事に驚きを隠す事が出来ない様だ。

 

「莫迦な……、まさか たった数秒でこんな……」

「と、取り乱すな! 何の、我らが救沌衆は まだまだいる! きょ、今日は そう、衆の中でも最弱。体勢を立て直し、次こそは、奴らを……」

 

 と、気を入れ直しつつ、体勢も整え直そうと画策していたその時だ。

 

「すみません、お客様。それは困りますー」

 

 ひょい、と背後に現れたのは、仲居さん。

 

 仲居さんは、倒れている坊主達の前に立ち、両手をいっぱいに広げた。

 すると、不思議な光が彼らに降り注いでいく。

 

 

「……ん? なんだ? あの光……」

「仲居さんも、そうだ。ある意味では 彼女が一番最強……」

 

 苦笑いをしながら そういうのはホムラ。

 一体何が起こるのか? ホムラにそこまで言わせる仲居さんの恐るべき力はいったい何なのか?? とコガラシは釘づけになった。

 

 

 そして、それ(・・)は訪れる。

 

 

 倒れている男達から、其々に設定されているメロディーが流れた。どうやら、着信音の様だ。……坊主のくせに、携帯(スマホ)? と思うが、文明の力をしっかり携えている、と言う事だろう。便利なのは当然だし。

 

 坊主たちは、まだ痛む様だが 着信があっては無視はできない、と皆其々電話に出ると――――。

 

 

 

『なっっ!!!』

 

 

 

 全員が呆気に取られていた。

 これは夢か? 幻か? と疑いたくなるほどの内容だったから。

 

 

 

「拙僧の宝くじが一等当選ッ!?」

「拙僧が、ジョニーズに合格ぅぅぅ!?」

「拙僧が、大富豪の遺産相続人にぃぃぃ!?」

 

 

 

 かかってくるのは、幸福の知らせ。

 それも生半可なものではなく、一生かかっても一度もお目に掛かれない程のモノ、と言っていい幸福だ。それも2~3人ではない。この場にいる者達全員。

 

 

 

「億の借金がチャラっっ!?」

「ポチが帰ってきた!??」

「ハゲ治療薬の治験者に!?!?」

 

 

 

 後半部分は、やや幸福度が低い様だが、彼らにしてみれば、前半部分の者達とは然程変わらない様子。喜々とさせながら 歓声を上げていた。

 これは、単純な力ではない。狭霧や呑子の様な体術、腕力、夜々の猫神の様な力でもない。だからこそまた、驚きを隠せられないリーダー格の2人。

 

「よ、妖術か……?」

「この場の全員に!?」

 

 何度目か判らない。呆気に取られてる2人を他所に。

 

 

 

『もー、妖怪退治なんざやってられっかーーー!!』

 

 

 

 弟子達はあっという間に職務放棄を宣言した。

 

「なっ!?」

「こ、これだからゆとり共は!! 修行が足らんっっ!」

 

 と、弟子達の心変わりに憤怒していたのだが、直ぐに彼らにも着信がかかってくる。

 

 

“ナンミョーホーホケキュー♪”

“ナームアーミ~ ダダン ダダンっブー♪” 

 

 

「ぬ?」

「一体何が?」

 

 2人は殆ど同時に電話に出た。

 すると―――。

 

 

 

『父さん、ごめんなさい――。親になってようやく私が間違ってたって気づいたの……! だからお願い……。出家なんてやめて家に帰って来て――』

 

 

 

 愛娘の懇願。

 

 

 

『兄貴っ! ずっと行方知れずだったおかんが見つかったんだ! どうやら、事故にあったらしく、ずっと記憶をなくしてたらしい! 最近見つかって、経過も良い! 早く帰って来てくれ!! お、おかんがーーーーっっ!!』

 

 

 

 兄弟の歓喜感涙。

 

 それを訊いた2人は――、時が止まったかの様に、静止した後。

 

 

「ちぃぃぃ!! 今日はこれくらいで勘弁してやる!!」

「だが、忘れるな悪鬼共!! 今日の礼はかならず、いつか、必ずしてくれる!!!」 

 

 

 ずぉぉぉぉ! とすんごい剣幕で凄んでいるのだが……、次第にその表情は崩れ、涙が目に浮かび……、完全に破顔した様子で。

 

 

 

「「誠に有難う御座いましたーーーーーっっ!!」」 

 

 

 

 感極まり、弟子達を引き連れて、来た道をスキップしながら帰っていった。

 

「お幸せに~~」

 

 その後ろ姿を、いつもの笑顔で見送る仲居さん。

 

 

「……な?」

「あー、いやー、『な?』 って言われても、呆気にとられちゃって言葉がでんって……」 

 

 見守っていたコガラシだが、自身が考えていた想定よりも大分外れていたので、はっきりと理解出来てなかった様だ。

 武力で鎮圧をしていたのに、突然の幸福の雨霰、戦意喪失どころか、お礼を言って帰っていったのだから仕方ない。

 

「ふふっ。ゆらぎ荘最古参にして、管理人の仲居さんは、運命を操る座敷童子さんなんですよっ!」

 

 早速解説に入る幽奈。

 

 これで全員の紹介が一通り終わった。

 

「……確かにすごいけど、なんで一番最強?」

「仲居さんは、運を操るが、無限じゃない。本人の生まれ持っている運気を使われるんだぞ……?」

「ぁ………」

 

 コガラシはそれを訊いて、漸く理解できた。

 

「うむ。アレは奴ら自身の運だ。運気と言うモノは減れば増える、様な物じゃない。何より、良いも悪いもあるだろ、《運》と言うのは」

「そーよねー? とーつぜん 隕石が頭に落ちちゃって~ とかも運だしぃ~」

「ぅ…………」

 

 それを訊いて、更に怖いと感じるコガラシ。

 今のは全て良い方向、つまりは大吉だったのだが、大凶である可能性だって無きにしも非ずだ。際限がない、とすれば 末恐ろしく感じる。

 

「ここがゆらぎ荘だ。大体わかっただろ?」

「……手を焼いてる、って言う理由もな」

 

 まだやや青い顔をしているコガラシだが、それを見て軽く笑うホムラ。その肩を二度程叩いた。

 

 

「ふふ。では皆さん。本当の自己紹介もすんだところで、新しい住人さんに歓迎の言葉を!」

 

 

 仲居さんが ぽんっ! と手拍子をしたタイミングで、幽奈が ぴょんっ! と空へと浮き上がり。

 

 

『妖下宿、ゆらぎ荘へようこそ~!』

 

 

 幽奈の歓迎の言葉に、皆も笑顔。……夜々は眠そうにして、狭霧はやや微妙だが、一先ず歓迎ムードの雰囲気は出してくれた様だ。

 

「ま、これからまた、よろしくな。コガラシ」

「お、おう……」

 

 

―――ホムラの精神力はいったい何処から出てきているのだろうか?

 

 

 コガラシは、ここに住めば、もしかしたら、幽奈を成仏させる前に、自分があの世へと逝ってしまうのではないか? と冷たい汗が背中を伝って流れていた。

 

 そして、まるでそれを見越しているかの様に、ホムラも笑顔を見せて一言。

 

 

 

「大丈夫だ。直に慣れる」

 

 

 

  

 

 





Q:「大丈夫? なんかあった??」

A: 鬼の様に忙しかった。



Q:「さぎっちゃん、ホムラ君に男嫌い、って言われて大丈夫??」

A: その後のホムラの言葉で、内心感激したから大丈夫。



Q:「ずばり! ホムラ君がゆらぎ荘に慣れるのにかかった時間は??」

A: 2~3ヶ月?


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