色々と一悶着はあったが、とりあえず宮崎家へと到着。
住宅街の一角にある家、特に邪気がある様には見えなかった。
「……周囲に何かあるかもしれないな。曰く憑きの物件とかあったりするのかな? 宮崎さん」
「………」
「宮崎さん?」
家に近づくにつれて、何処か心ここにあらずな様子になっていってる宮崎。
ホムラは 幽霊問題があって家に帰るのに抵抗があるのではないか? と思っていたのだが、流石に聞かなければならない事はあるから何度か呼んで 身体を揺さぶった。
「っっ!! な、なに??」
「大丈夫か? 宮崎」
コガラシも様子に気付いて声をかけた。
「だ、だいじょーぶだよ! ごめんね。聞いてなかったよ」
「いいや。大丈夫だ。この周辺で曰く憑きの物件とかあったりするかな? と思って聞いただけだよ」
「んー、そういうのは 私は聞いた事無いし、噂も聞いた事ない……かな? ちょっと離れてるけど、ゆらぎ壮くらいじゃないかな? 色々と言われてるのは。それ以外は聞いた事ないかなー」
その答えにやや複雑な気分なのは 幽奈を含めた3人。だからただただ苦笑いをするだけだった。
「そうか……。だけど 見落としてる可能性もよしな。こういうのは。 よし、周囲も一応見て回っておいた方が良いな。コガラシは宮崎さんと幽奈で部屋ん中を頼む」
「おう」
「わかりましたー」
「っっ!!?」
ホムラの言葉を訊いて、コガラシも幽奈も元気よく返事。でも、宮崎だけは 複雑極まりなかった。
『夏山くんは兎も角――』
と言ってる事もあって、コガラシの事はまだまだ信用しきってる訳じゃない。幽霊が本当にいる事は 幽奈の事もあったり自分自身に降りかかってる怪奇現象もあって 疑う余地は無いのだが……それでも、スカートを捲られた事は確かだから『はいそうですか』と簡単に受け入れる様な事は出来なかった。
でも、……それでも ホムラが信頼しているコガラシだから。
「ん? どうした?」
「や、やー ナンデモナイヨーー」
平常心を心掛けて2人? を 家の中へと案内するのだった。
「……さて」
3人が家の中へと入っていったのを確認すると、ホムラは目を3秒程閉じた後、勢いよく見開いた。仄かな光をその瞳の中に宿している様に見えるのは、ホムラが霊視をしている証で、霊感があればはっきりと見えて、たとえ霊感が無くとも その雰囲気だけで判ったりする。
「仄かだが残滓が見えるな……。霊子線の残滓。……浮遊霊の類じゃない。妖怪にしろ霊能力者にしろ 誰かが宮崎さんの家に飛ばしているのは間違いなさそうだ」
本来は霊子線と言うものは、術者が術を行使する時、霊気を流すから その時にし見る事は出来ない。だが、鍛え抜かれた眼力は 空間中に残された微かな匂いに似た残滓をもとらえる事が出来るのだ。
但し、1~2日程度までしか見えない。匂いと同じ様に元が無くなってしまえば 完全に霧散してしまうから。そして何より残滓はしっかりと形成してなくて不安定だ。自然界の気の流れで簡単に流され漂ってしまうから。
「兎に角追える所まで追ってみるか……」
ホムラは 視線を鋭くさせながら、そして周囲にも気を配りながら 追跡を開始したのだった。
そして、追跡を開始して30分程経った所。凡そ2km程の範囲内を散策した所で脚を止めた。
「……駄目か。残滓が残ってないな。仕方ない一度戻るか」
霊子線が完全に見えなくなった為、これ以上は追う事が出来なくなった。ただ、闇雲に、がむしゃらに追えば良い訳ではない。こう言う調査もメリハリが必要で 次の手掛かりはコガラシ達が調べている宮崎の部屋にある、と言う事で戻る事にした。
足早に宮崎家に戻ってみて――、その玄関先での事。
幽奈とコガラシが外に放り出されてしまっているのを確認できた。
更に言うと……、宮崎の声も聞こえてきた。怒声が。
『もうっっ!! 帰って!! やっぱりただのえっちな人じゃん!! 夏山くんにも そーやって上辺だけの付き合いをして 騙してるんでしょ!! あんな優しい人を騙すなんて最低だよ!! バカっ、 信じた私もバカだったよっ!』
一瞬で分かった事がある。
また、コガラシ・幽奈コンボを食らわせたのだという事が。
『ご、誤解なんですっ! 話を聞いてください 千紗希さんっっ!!』
幽奈も盛大に謝っているんだが、見えてないから意味がない。
ホムラがしっかりとフォローをしたりして、小道具を使ったコミュニケーションをしていたのだが、今の幽奈は完全に慌ててしまっていて、駄目だ。
「……やっちまったな」
「ああ、そうだな。……マッタクだ」
「!!」
コガラシの後ろに背後霊? の様に近付いて相槌を打つホムラ。
その表情は何処となく怒ってる様子だ。
「……ったく、おまえらはまた問題を起こして」
「は、はううっ……」
「う、す すまん……」
後々のフォローをするホムラにとっては 色んな意味で頭が痛い。
もうこうなったら 見限っちゃえ と言われそうだが 生憎そういうつもりはホムラには 全く無かったが。
「宮崎さんにナニしたのかは、もう訊かんからな。……大体、何となく、……十中八九 判るし」
「ぅぅ…… す、すみません……っ」
ホムラは また幽奈の力が暴走して コガラシが飛ばされでもして 最終的に宮崎が巻き込まれた、と言う形になったのだろう、と思っていた。
100点満点の答えだ。いつもの事だから当然だけど。
「あ ホムラ。周囲の方はどうだったんだ?」
「ん。霊子線は もう完全に途切れてしまってたから 追いきれてない。……だが」
ホムラは 軽く視線を動かした。
その先をコガラシも見た。……人影が動いたのもはっきりと判った。
「周囲の確認は 鎌かけのつもりだったが…… 思いの外 効果があったみたいだな」
「成る程な。……今のが?」
「多分な。尾行が凄く杜撰だから 最初は違うかな? と思ったが。結構長くついてきたし、此処までついてきた所も見ると。可能性は高いだろ。ほら、幽奈」
ホムラは、まだ涙目になってしまってる幽奈の頭を撫でて上げて。
「幽奈も行くぞ。空から色々探ってみてくれないか?」
「あ、はいっ。頑張りますっ! ば、挽回しますっ!」
「肩の力を抜いてな? 宮崎さんには……また しっかりと謝ろうな。見えなくても伝える手段はあるだろ? ……驚いてしまうと思うが」
「……あ、はいっ! でも……、どうやってすれば……?」
幽奈は何度も何度も叫んで謝っているんだが、当然ながら伝わる事は無かった。伝わる事が出来ればどれだけ嬉しいだろうか……? と何度か思ってしまっているのだ。
「ほら。幽奈 字はかけるよな?」
「あ……っ!! そ、そうですね! そうでした! 流石ホムラさんですっ!!」
取り出して、手渡したのはメモ帳とボールペンだ。
それを見て、幽奈は何を言わんとしているのかが判った。
「おお、筆談か。その手があったな」
「オレはコガラシなら そっこーで気が付くと思ったんだがな……。
「ぁー……そんなのもあったなぁ……」
2人して遠い目をしている。
色々とトラウマだったから、記憶の底に封印でもしていたのだろうか……? とホムラは思ったが大体正解である。
「さ、3人とも行くぞ。挽回するなら 宮崎さんの悩みくらい解決してやらないとな」
「おうっ」
「頑張りますっ!」
その後 3人は 周囲の散策を始めるのだった。
□□ 宮崎家 □□
その日の夜の事。
宮崎はお風呂から上がって自室で髪を乾かしていた。
「うぅ…… 冬空くんに悪い事言っちゃったかなぁ。追い出したりして…… それに夏山くんも 私の為に 家の周りを見てくれてたのに 何も言わずに……。帰ってきてくれてないし 冬空くんと合流して 帰っちゃったんだろうなぁ……」
コガラシの事は追い出した。
だけど、ホムラは何もしてないどころか、世話になりっぱなしだったから 宮崎は複雑だったのだ。
「……夏山くん、入学式の後、助けてくれたし………」
そう、宮崎は入学式の後、トイレに行っていた為 クラスに集合する時に少し皆より遅れていたのだ。
1人で歩いてる時に――不良に分類されるであろう男達に声を掛けられた。学校内で それも入学早々に校内でナンパの類をされるなどとは想像もしてなかったから、はっきりと断る事も出来ず、困っていた所をホムラが助けたのだ。
その後も流れ弾を防いでくれて――。これは比喩ではなく本当の流れ弾。運動場を横切る時に、バッティングの練習をしていた野球部の見事なホームラン球が迫ってきてて ホムラがナイスキャッチをしたのだ。もしも 取り損ねていたら、直撃をしていたかもしれない程の危険球だった。
「(…………明日 学校で謝っておこう。夏山くんには。……冬空くんは やっぱりしょうがないよ。幽奈さんはいるかもしれないけど、夏山くんについて行ったかもしれないんだし。……あんな事されたらやっぱり誰だって……!)」
宮崎は明日謝ろう、と決めた後 もう1つの心配の種である部屋に飾られたぬいぐるみ達に視線を向けた。今はしっかりと並んで座ってて動く気配はない。……でも まだ判らないのだ
「(……この子たち 今晩も勝手に動いたりするのかな……? まだ何にも解決してないんだよね……)はぁ どうしようかなぁ……」
深くため息を吐いたその直後だった。
部屋中のぬいぐるみ達の目が妖しく光ったのは。光ったと同時に、宮崎に襲い掛かった。
「っっ!? な、なにっ?? ちょ、ちょっと……!」
背中を抑え、前に回り込むと ぬいぐるみには在る筈のないもの。熊のぬいぐるみの爪がその手から生えてきていて 宮崎の上着を破いた。
「きゃ、きゃあ!」
肌蹴てしまい豊満な胸が露わになってしまった。
だが、まだぬいぐるみの攻撃は続く。上着を完全に脱がそうと引っ張ったり、宮崎の腕を取ったり、と集団で襲っているのだ。
「や、やだっ! み、みんな やめてよ! なんで、なんで こんな事をっ……!」
子供のころから大事にしてきたぬいぐるみ達。その1つ1つに名前を付ける程可愛がっていた。……コガラシがぬいぐるみをいきなり殴った時は コガラシを殴り返す程だった。
「やめてっ! だ、誰か……! 助けて……!」
完全に上半身の服を脱がされた上に、ぬいぐるみが迫った所で。
ボスッ! と言う音がした。その後も 何度も何度も聞こえてくる。
「え……?」
宮崎が目を開けてみると、迫ってきていたぬいぐるみ達全員が吹き飛ばされていた。
散らばったぬいぐるみ達の前には 追い出してしまったコガラシが立っていて。
「大丈夫か? 宮崎さん。……その、これ着て」
宮崎の隣にいたのはホムラ。
上半身が完全に脱がされてしまった宮崎の事を直視する事が当然ながら出来ない為 自分の制服の上着を渡した。
「夏山くん……、冬空くん……」
追い出してしまったのに、来てくれて 助けてくれた姿を見て 宮崎は 思わず泣いてしまいそうだった。
「コガラシ。幽奈に聞いたけど 宮崎さんは ぬいぐるみを大切にしてるんだろ? あまり手荒に扱うなよ」
「そうだな。また 良いパンチ貰いそうだ」
「ちょっ! ふ、冬空くんっ!?」
因みに、追い出す前に宮崎はコガラシを殴ったのである。今回の様にぬいぐるみを殴っている。……今回の様に襲われたりはしてなかく、除霊するという名目で殴りつけたのだ。
大切にしているぬいぐるみ達を全員KOしてしまう姿を見て思わずぬいぐるみの名前を呼びつつ、その敵であるコガラシを殴った。
ぬいぐるみはそれぞれ 《くまマン》《ナゴさん》《たぬまさん》《かめきちさん》などなど。
「とりあえず、このぬいぐるみ達を相手にしても埒あかねぇな。本体の所に行くか」
コガラシは 倒れたぬいぐるみ達を見てそう言った。霊能力者であるコガラシの拳は、浄霊、除霊の効果がある為 全く効果がないと言う訳ではないが ぬいぐるみは、本体ではなく ただ操っているだけの媒体だから効果が薄い。
「宮崎さんも行こう。……しっかりと詫びを入れさせる」
「え……、大丈夫、かな……?」
襲われた事が恐怖となり、自分の縛る鎖の様になってしまっている。
だけど……。
「大丈夫。オレ達が守るから」
「犯人ぶん殴って さっさと解決してやるよ!」
ホムラに笑顔でそう言われた。
コガラシにも力強く言ってくれた。
それに ホムラの笑顔は あの時と同じだった。
ナンパ男達から助けてくれて――お礼を言ったその時の様に、笑顔で。
とても――安心できる笑顔で。
「う、うんっ!」
だから、ホムラの手を取る事が出来た。
安心する事が出来たから。
大きくて、とても温かい手だった――。
「うーん。何だかやーっぱ ホムラと扱いが違うなぁ。……扱いがよりひでぇ事になってく気がする」
「……殆ど自業自得だろ。ちゃんと働いて信頼を勝ち取れ。今までと同じだ。今までに比べたらなんでもできるだろ?」
「……そりゃそうだな。手始めにきっちりと解決するか!」