今日も一日が終わる――。
夕日が沈むと共に、今日と言う日も終焉を迎えつつあった。太陽が徐々に姿を隠し、辺りがだんだん薄暗くなっていく。霊的な存在が横行になる時間帯にはまだ早いと思うから、帰宅時は大丈夫だと思われるが、今日はもうあまり時間をかけるのは宜しくない。
「ん――。ちょっと時間、かかったみたいだな……」
季節は桜が咲く春だ。
まだ、冬の名残が少々残っている様でそれなりには肌寒いのだが、日が沈む時間はだんだんと遅くなっていっている。だからこそ、少しばかり 時間の経過が判らなかった様だ。
だが、それは無論あの霊を捕まえるまでの話である。
その後の、説教したり、慰めたりしていた時は……、完全に時間の事は頭から抜けていた。だから、ここまで遅くなってしまったのだ。
「ん。20時、か……、そう言えば、遅くなるとは言ってなかった」
腕時計で現在時刻を確認しつつ、歩く速度を速めた。
彼が暮らしている下宿先には、確かにまぁ……、
それに、そこに暮らしているのは そう言う物好きだけ、と言う印象が強いだろう。
が、それはあくまで、一般的な観点。彼にとっては 180度反対、と言っても良い場所なのだ。
「夕食、遅くなるのも迷惑がかかるな。……次からは、説教するにも、時間をちゃんと見ないと……、と言うか、遅くなる場合は、ちゃんと連絡入れないと。……遅い、って他の皆にも怒られそうだ」
いかんいかん、と頭をぽりぽり、と掻いて 自分を戒める。
気を取り直して、帰ろうとしたその時だ。
びゅっ!! と言う風切り音が頭上から聞こえてきたのは。その
「んっ」
高速で飛来する物体? に別に驚く様子も無く、ただただ 半歩、後退した。
頭に当たっていたであろう軌道だったのだが、彼が半歩退いた事で、直撃する事は無く、地面に、がっ! と言う鈍い音と共に、飛来した何かが突き刺さっていた。
飛来した何か――、それは 《くない》。大きさは8~10cmの小苦無だ。
アニメやドラマとか、或いは有名どころで言えば映画村等でしか まずお目にかかる事はないであろう、所謂忍者が使用する飛び道具、両刃の道具だった。
普通に考えたら、
が、当の命を狙われた本人は気にする素振りを一切見せてない。……彼にとって、これは異常でも何でもない状況だから。
軽くため息をすると、突き刺さっているくないを引き抜くと、ゆっくりと振り返る。
「……まぁ、確かに、オレは隙あらば 別に攻撃してきても――とは言ったが、こんな場所ではやめた方が良いんじゃないか? ってか、他の人が見てたらどーすんだ。大騒ぎになるぞ……」
後ろに、ひょいっ! とくないを放り投げると、突然風と共に現れた影が、素早くそのくないを受け取っていた。
「ふん。見縊るな。周囲には誰もいない。気配が無い事くらい、察している」
現れた影――、それは 女の子だった。
学生だと思われる制服、そして 長い紫の髪を左側で縛り、サイドテールに纏めている女の子。……美少女、と言って全く差し支えない容姿で、女子学生だと言う事も判るのだが……、そこに武器装備とは、非常にアンバランスも良い所だ。それも護身用の武器、とも思えない古風装備なのだから、尚更である。
別にツッコミを入れる様子も無く、話を進めた。
「……くっ、だが ああも あっさり躱されるとは……。私もまだまだ……」
「あー、あれだ。ちゃんと当たれ、って言うなら 勘弁してくれ。……正直、痛いじゃすまんと思う」
「ば、馬鹿にするな! 情けをかけてもらうのなど、私が許さん!」
「はいはい、判った判った。ん……、そっちも終わったんだな? 挟霧」
顔をやや赤面させながら、興奮気味に話す女の子は、少々納得がいっていない、と言う表情をしていたのだが、彼の言葉に 渋々頷いていた。
ここで、紹介をしておくと、彼女の名は、狭霧 《雨野狭霧》。
ん? あれ? 何か、忘れている様な気が……。
□ ◆ □ ◆ □
「ああ、終わった。……その、ホムラも終わったのか? お前にしては 随分と時間がかかっていた様だが」
「ん。こっちも大丈夫だよ。……ただ ちょっと、アフターケアに時間がかかっただけで――。……ぁ……、そう考えたら、大丈夫でもない。……ある意味では疲れた」
首を横に振る
それを見て、何処となく呆れ顔の狭霧。『その程度、どうって事無いだろ』と言わんばかりに、同じく首を横に振っていた。
ん?
んんん??
………あ、そうだ。
「…………」
「ん? どうしたホムラ」
「いや、なんか 雑に扱われた様な気がした――」
「?? 夜々にでも 何かされたのか?」
「……いや、そんな事は無いが………」
何か薄暗いモノを感じた彼だったのだが、狭霧が ひょい、と指をさした。
さした先にあるのは、何処か古風な建物、色々と老舗な風格漂う旅館。……件の下宿先だった。
「中居さんに、連絡は入れておいた。食事の時間だが、何時でも良いそうだ。他の皆はもう済ませているらしい」
「そうか。それは良かった。――ん。先に汗を流しておきたかったんだ」
すんすん、と自分の身体の匂いを確認する。
色んな汗をかいたからか……、やはり あまり宜しくない香り? を漂わせている様だった。
「そこでだ。狭霧」
「ん? なんだ」
こほん、と咳払いを1つし、改めて向き直る。真剣な表情を作って。
「オレ、これから、風呂入る。……ドゥー・ユー・アンダスタン?」
「――は?」
「だから、オレ、これから風呂にh「言ってる意味くらい分かるわ!」……」
訝しむ表情を見せた後、再度狭霧の顔を見て。
「リアリー?」
「下手な英語やめろ!!」
「……なら良い」
理解してくれたのを確認すると、気を取り直して、帰ろう先へと進む。……が、当然ながら、それを追いかけるのは狭霧。
「こら! さっきのは、どういう意味だ!? って、なんで、私に了解を得る必要があるんだ!!」
「……も、いい加減学習したから」
「はぁ??」
「あそこの風呂場で ……《とらぶる》があったら。ってか、高確率、とらぶるスポットだ。幾ら、リスクアセスしたって、無理な、アンタッチャブル!(それでも……、温泉は好きなんだ……) んで、真っ先にお前が、色々とオレに攻撃仕掛けてくるだろ? 善し悪し関係なく」
「……なんだと??」
大きく、長く――ため息をついた後。
「だーかーら、オレの最低限度の処世術だって事だ! 疲れを洗い流す温泉で、疲れる様な事になりたくない!」
そこまで力説した所で、狭霧も漸く言っている言葉の意味が判った様だ。
……と言うより、判るのが遅すぎる、と言える程だ。一定周期の恒例行事? って思える程、色々と起こっているのだから。
「きき、貴様っ! それは、貴様が悪いんじゃないか!! お、乙女のあられもない姿を視姦したんだからなっっ!!」
「誤解を招く様な単語、大声で言うな! 大体、オレが入る時、《入浴中♪ byホムラ》って、呑子さんが凝りに凝ったイラスト付き札まで作ってくれた上で、それをちゃんと入口にぶら下げて入浴してんだから、ぜーーんぶ、不可抗力だろっ」
「だぁぁぁ!! 女の裸を見た男など、どんな制裁をしても良い法律になっているのだ!」
「ムチャクチャ
きゃいきゃいと、言い争っているのだが、傍目から見れば 仲が良い、 と言う事は 見てわかる。『喧嘩する程仲が良い』と言う言葉を見た通りに体現してくれているかの様だ。
「ともかく! オレ、先に入るからな!」
「お前こそ、大声で言うな!! ふ、ふ、ふしだらな!!」
「何でふしだらなんだよ! それだけで!」
最後の最後まで、楽しそうに――下宿先《ゆらぎ荘》へと入っていったのだった。
と、言う事で 遅れちゃいましたが、
今年から、湯煙高校へと入学が決まった男子高校生にして、ひょんな事から、霊能力に目覚め 地獄の鬼も裸足で逃げ出しかねない、地獄の底の底の底……、つまり 八大地獄の最下層《阿鼻地獄/無間地獄》に落とされかねない悪鬼も、裸足で逃げ出しかねない程の修練を経て、霊能力を手にした。
彼の名はホムラ。――夏山ホムラ。
大変で騒がしく忙しく……けれども楽しく、ちょっぴりエッチで、心温まって、ハートフルな物語の主人公である。
因みに、そっち方面の耐性は皆無であり、あっという間に赤くなってしまうから。それは、最早ご愛敬。
紹介遅れてしまったのは、ゴメンアソバセ。
「別にー。ゆっくりと温泉に浸かれればなんだって良い……(………耐性、なんか一生無理…………)」
□□ ゆらぎ荘温泉 □□
「ふぃ………。ぁぁぁぁ――――――――」
タオルを頭に、肩までしっかりと使って、今日一日の疲れを吹き飛ばす。
温泉……。日本人にうまれて良かったぁ、と言いたくなるし、自然と 1つ、歌でもうたいたくなる様な癒しの空間だ。
随分年寄り臭い事を言っている気がするが、彼はこれでも歴とした高校生。
……それでも、哀愁染みたオーラまで出せるのは……彼が 色々と、本当に濃い人生を歩んでいたから、の一言に尽きるだろう。
「んー……」
とぷんっ、と口元まで浸かり、目を閉じて考え事をした。
いつもの彼であれば、温泉と言う至福の時間帯は 殆ど何も考えない。いや、ただただ 癒される~、と考え続けているのだが、今回ばかりは 少々違っていた。
「(何年ぶり、かな……、確か 来るのは 明日、って言ってたな…………)」
考えているのは、この下宿ゆらぎ荘にもう直にやってくるとある男について。
さる事情があって、この場所で暮らしているホムラだった。そこに遅れてやってくる男は ホムラとは無関係ではない。
色んな意味で関係がある男であり……、いろんな意味で心配が尽きない、と言う男でもある。
「……………癒しの空間にちょっと陰り、だな」
軽くため息を吐くホムラ。
関係を言えば、幼少期よりの知り合いの為、幼馴染っぽかったり、同業者であったり、互いに研鑽を積む間柄だったり、だが 簡単に説明できる程、薄い関係ではない、と言う事だけ。(……今回は忘れません。彼が出てくる時に、しっかりと説明をさせていただきます)
「色んな意味で大変になりそうだが………、何とかなるだろ。……うん、たぶん」
そう結論をして(無理矢理)ゆっくりと湯船から出ようとしたその時だ。
『おふろー………、はいり……まぁぁす……よぉぉ………』
「っっ!!」
ふよふよ~、と揺らめくナニかが、この場所に現れた気がした。
その言葉を訊いたホムラは、まるで 油の切れたロボットの様に、ギギギ、と首の骨の音を奏でながら、ゆっくり、ゆっくりと その声の主がいるであろう方向へと、視線を向けた。
向けた先は頭上。……ある意味、あのくないよりも 強力な威力。
そこにいたのは、白く揺らめく女の子の姿――。何も羽織っていない裸体。
女の子を裸姿を惜しげも無く象徴している。
そんな世の男性にとっては、天国の天使が舞い降りてきたも同然な光景なのだが――、彼、ホムラはそうはいかない。
「っっ~~~~/////」
声にならない声を発した後に目を思いっきり伏せていた。
軈て、『きゃーー!』 と言う女の子の悲鳴と共に、轟音、巨大な水柱が立ち上り……、温泉の一部を損壊してしまい、更に、ホムラの処世術が無駄になってしまう展開に見舞われるのだった。