ゆらぎ荘の蹴る人と殴る人   作:フリードg

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第20話 お礼とお礼

 

 

 

 

 

「……はぁ、ひどい目にあった」

 

 それは ゆらぎ荘を出て学校へ向かっている途中の事。

 昨日の夕刻からの衝撃映像のおかげで記憶が飛んでしまっているホムラ。兎に角 凄い所を見てしまった、という実感は残っているものの 記憶にすっかりとフィルターが掛かってしまっていて、思い出す事が出来なかったりしている。

 

「ホムラさん、大丈夫ですか……?」

「ああ、大丈夫だ幽奈。心配ありがとな」

「い、いえ……私はいつもホムラさんのお世話になってますし……、今朝もその……」

 

 幽奈は両手の人差し指を合わせて恥ずかしそうにしていた。

 今朝と言うのは当然ながら コガラシとのやり取りでいつも通りのポルターガイスト。

 

 朝日がゆらぎ荘を照らすのと殆ど同時(と思える)に衝撃音と大きな水柱、着水音が響く。それが朝の起床アラームとなっている感じとも言えるだろう。

 

「それこそいつも通りだ。コガラシだって寝坊防止になっていいんじゃないか? なぁ」

「……そう言われて否定も出来ねぇけど 荒々し過ぎるのも困りもんだよ」

「はぅっ! す、すみません……」

 

 それはもう見慣れた光景だから、ホムラも気にしてないし 吹き飛ばされてるコガラシも同じ感じ。寧ろ無くなってしまった方が違和感を覚えてしまうというものだった。

 

「はぁー と言うかオレのため息はさ、幽奈。どっちかと言えば狭霧なんだがな」

「え? 狭霧さん、ですか」

「ああ。昨日狭霧に何言ったんだ? 殆ど目を覚ました直後の攻撃なんか、回避するのは流石に無理だぞ。幾らなんでも」

「あ……」

 

 ホムラの言う『ひどい目にあった』と言うのは昨日の気絶してしまった一件ではなく、寧ろその後にあった。コガラシにどうにか連れて帰ってもらった事は後々に判った事で、礼も言ったのだが 狭霧が何故か怒っており その意味合いが全然ホムラは判ってない。

 

「それもいつも通りの光景なんじゃねぇか? ホムラ。狭霧がお前に苦無投げるなんてよ」

「いつも通りの光景、恒例にはしたくないな。……吹き飛ばされるのも大概だとは思うが、刃物投げられる方が過激だとオレは思うし。コガラシの部屋の外は池に直行だ。まだ楽だろ」

「オレだって楽じゃねぇって」

 

 コガラシとホムラは互いに色々な女難の相が出ている様だが、口では何といってもそこまで気にしていない様子だった。幽奈はおろおろとしてしまうけど。

 

「と言うか、お前ら狭霧になんて言ったんだ? まっ 狭霧が苦無投げてくる事自体は全然珍しくないけど」

「あ……え、えーと そのー」

 

 幽奈は言い淀む。

 

 そのホムラの疑問に答える為には 昨日まで時間をさかのぼる必要があるだろう。

 

 

 

 

 

 

□□ 昨日 ゆらぎ荘 □□

 

 

 それは コガラシがホムラを背負って帰ってきた時の事だった。

 いつも通り 玄関先で仲居さんに迎えられたのだが……。

 

「おかえりなさ……、って ホムラさんっっ!?!?」

 

 ホムラがコガラシに抱えられて帰ってきた。

 ホムラの強さはよく知っているからこそ、いつも落ち着いている仲居さんも驚きを隠せられなかった様だ。

 

「えっとね。ホムラ君は 千紗希ちゃんのおっぱいに感激しちゃってー」

 

 ぴょんっ とゆらぎ荘の中に遅れて入ってきたのは こゆず。

 ……先ほどの会話にこゆずの話が出てこなかったけれど、しっかりとゆらぎ荘であずかろう、という事で連れて帰ってきてます。

 

「え、えっと…… あなたは? それに おっぱ……って、ええ……っ!?」

 

 突然の状況だった。

 ホムラが気絶? している状況もそうだし、こゆずが来た事もそうだ。更には言っている意味がいまいち判らない事もそう。だから 仲居さんが更に混乱をしている所に……。

 

「…………それはどういう事だ?」

 

 ゆらぎ荘の階段から降りてきた者がいた。

 並々ならぬ殺気が出ている様な気がする。

 

「おや~☆ ホムラちゃんもついにヤっちゃったのー?」

「ホムラ……寝ちゃったの? 夜々も眠い……」

 

 そして もう1人。酒瓶を片手に笑顔で降りてくる者、くぁ~ とあくびをさせて眠そうにしている者もいた。

 

「わ、わぁ~~!! すっごーいっ!!」

 

 こゆずが目を輝かせながら見ている先は、当然ながら豊満のぼでぃ。ゆらぎ荘で暮らす女性陣の中ではNo.1とも言えるバストを持つ者、そう 酒瓶を持ってるのは、呑子。眠そうにしてるのは夜々(自分で名前を言ってるが一応説明)。 

 で 怒ってるのは当然ながら狭霧である。

 

「えっと、さ、狭霧さん落ち着いてください……。まず 私から説明しますね。この子はこゆずちゃんで……」

 

 色々とこじれてしまいそうだったから、気を利かせた幽奈が先程の出来事をしっかりと教えた。

 

 こゆずの事、宮崎の事。そして今回の騒動も…… なるべくオブラートに ホムラに非は無い、という所を強調させて(狭霧に対してである)

 

 一通りの説明を受けて、ゆらぎ荘の皆はそれなりに納得してくれた。

 そしてこゆずの事も歓迎してくれている。

 

 色々と騒動を起こした張本人ではあったが、その理由を聞いて悪意は無かった事と凄く反省している事、宮崎自身が許している事もあって それ以上何かを言うつもりもなく、更に元々愛らしい容姿のこゆずを邪見にする者などここにはいなかった。

 

「や~ん、可愛いっ!」

「ふゎぁぁぁ。すっごーいっ! おおきいっ……!」

 

 呑子が抱き着き、こゆずは その胸に顔を埋めて感激している。目を輝かせて やたら活き活きしている、とも言えるだろう。

 

 そして等の狭霧はと言うと。

 

「……それで幽奈。ホムラが婦女子を辱めた、というのは 本当だろうな。……もう一度確認しておく」

 

 何だか凄く怒っている様子。

 幽奈がしっかりとやわらかぁぁく包んで話をしたんだけれど、やっぱり怒ってる。

 

「い、いえ! ホムラさんは 何も……。え、えと こゆずちゃんがちょっと。それに 宮崎さんも許してくれてるんで……」

「婦女子のハダカを見た男は如何なる断罪も受けるべきなのだ!!」

「はうっっ、で、でも ホムラさんは今は……」

 

 幽奈が見つめる先にはホムラ。

 居間で介抱されていて、まだ顔が赤く目を回している。

 

 流石にそんな時に攻撃する様な真似は狭霧には出来なかったのだろう。

 

「……仕方あるまい。話は起きてからだ!」

 

 ぎらっ、と苦無を鈍く光らせながら…… 構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う事で場面は元に戻る。

 

 

「……スゴク理不尽だ」

「ま、まぁ 狭霧さんも悪気は無かったと思います……」

「ゆらぎ荘の風紀委員だ。しゃーねぇだろ」

 

 狭霧だから、という事で納得をするしかないのだろう。

 

「何だか解せないけど。……オレは覚えてないんだし………、そ、その宮崎さんの……を見、なんて……」

 

 覚えていない。だが 何を見たのかは 幽奈からの説明で理解している。

 

 確かに、はっきりくっきりと見てしまう様な事など、早々ある訳がない。温泉内で 何度もそう言った とらぶる には見舞われた事はあるが、湯煙で包み隠してくれているし、そういう場面が来たら、何となく 雰囲気で判りだしているから、ある程度覚悟が出来るのだ。

 

 宮崎の場合は、不意打ちも不意打ち。予測不能の攻撃も良い所だったから、これこそが仕方ないと言えるだろう。

 

 

 そんな時だった。

 

 

「あ……! 夏山くん! 冬空くん! おはよー」

 

 学校に登校中だ。

 ばったりと出会う事だって当然ある。無いとは言えない。だけどタイミングが悪すぎた?

 

「っっ!!」

 

 まさかのタイミングで宮崎が声をかけてきたのだ。

 覚えていないとはいえ 再び頭の中で認識させていた所に、視界の中に宮崎が入ってきたから、ホムラも思わずパニックになってしまった。

 

「あ、そのっっ、み、宮崎さん?? え、えと……き、昨日は……その……」

 

 顔を真っ赤にさせて俯くホムラ。

 

「え、ええ? ………ぁっ」

 

 宮崎も当然ながら何を言っているのかは理解できる。

 当の本人は忘れよう忘れようとしていたんだけれど……、そうも言ってられない。

 

「ご、ごめん! オレ……えと、わ、わざとじゃ……」

「い、いや 夏山くんは悪くないよっ! だ、だから 忘れてくれたら……う、嬉しい……」

「あ………う、うん。判った……」

 

 顔を赤くさせて俯き合う? 2人。

 良い甘酸っぱい青春を送っている様で、幽奈も弁明を必死にしようとしているが、それでも暖かい目で見てしまう。

 

「……ここに狭霧がいなくて良かったな。苦無の本数が増える所だ」

「はぅっ……。そ、そうでした……」

 

 ぼそっ、と言うのはコガラシ。まさに的を射ている話であり、それの話は当然な事であり、自明の理である。

 

 それは兎も角、昨日の事はすっかり忘れる、という事を約束してこの話は終了させた。(無理矢理)

 

「え、えっと! それより、こゆずちゃんは?? 元気にしてるかな? ね、ねぇ。冬空くんも!」

「ん? ああ。なんかやたら活き活きしてたぞ」

「うん。皆にはちゃんと受け入れてもらって、すっかり仲良くなってるよ」

「そっか! 今度遊びに行くから、って伝えておいて」

 

 こゆずの事を心配しているのは宮崎も同じだ。色々とほっとけない子だったから。

 一先ず安心すると、宮崎は鞄の中を探った。

 

「えっとね。昨日は本当にありがとう2人とも。こんなので お礼になるかどうかわからないんだけど……」

 

 数秒探った所で、見つかったのだろう 小さく『ぁっ』とつぶやいて 手に取り こちら側に差し出した。

 

「クッキー焼いてきたの。2人の分あるから、よかったら食べてみて」

 

 宮崎の手の中にあるのは、何処かのパティシエが作って店頭に並べている物ではないか? と思いたくなる程綺麗に包装され可愛らしいリボンで止められた小さな袋。その中には数種類の形のクッキーがこれまた綺麗に収まっており、彩を見ても美味しそうだという事が判る。……食べる前からはっきりと判る。

 

「く、くっきー……だと……?(しゃ、借金生活で節制に次ぐ節制……、まさか おやつを食べようなんてこと、考えもしてなかった……)」

「わぁ…… こちらこそありがとう。宮崎さん。美味しそうだ。……これは高い依頼料だって思う」

「えへへ……。ほんとかな。上手く焼けた、とは思うけど…… あまり味は期待しないでね」

「いや 店の売り物と間違うレベルだと思うよ。ああ、そうだった」

 

 コガラシは、数秒固まっていて、その理由がはっきりと判るからこそ、代わりに受け取るのはホムラだ。『ほら。コガラシもお礼を言えよ?』と云いながらその手に渡す。

 コガラシも慌てて宮崎ほ方を見て 涙を流す。

 

「……最ッ高のお返しだぜ……! ほんと、ありがとな……、宮崎……」

 

 涙を流すコガラシ。当然普通なら『そこまで!?』と言いたいかもしれないが、若くして借金地獄に陥っているコガラシだ。その内情を知っているホムラも幽奈も この時ばかりは何も言わなかった。

 

「そ、そう? 喜んでくれたなら良かったよ……」

 

 宮崎はそこまで喜ばれるとは思ってなかった。泣くほど喜ばれると、やや引いてしまうが そこまであからさまではない。

 

「あ、後その 幽奈さんにもよろしくね?」

「了解。……あ、そうだ幽奈も確か食べれるよな? 食べれる、というか味わう事が出来たよな?」

「はい。お供えしていただければ」

 

 ホムラは袋の中のクッキーを2つ取る。

 コガラシも同じ様にクッキーを取って、再び涙。

 

「わぁ、とてもおいしいですっ」

「美味い! 美味いぜ 宮崎っ!! 最高だ!」

「美味しいよ」

 

 3人は大絶賛だ。(幽奈の事は見えないが)

 

「え、えへへ…… そこまで喜んでくれると私も嬉しいよ」

 

 照れくさそうに はにかむ宮崎。その姿を見て、ホムラは幽奈に耳打ちをした。

 

「あ、はいっ。判りました」

 

 幽奈は 話を訊いて 両手をぽんっ と叩いて 少し上に飛んでいたが、ふよふよ~、目線の高さにまで降りてきた。

 

「宮崎さん。幽奈も美味しいって言ってるよ。……感謝の気持ちを、受け取ってもらいたいから、ちょっと手を出してもらえないかな?」

「え…… 手?」

「うん。驚かないでね」

 

 ゆっくりと宮崎は手を差し出す。

 

 その手を幽奈は、両手でゆっくりと包み込んだ。柔らかく、優しさも判るかの様な手。見えない筈なのに 目の前に女の子がいる……と 何処か錯覚してしまう程だった。

 

『ありがとうございました。宮崎さん』

 

 幽奈は、暫く包み込んだあと、手を放してメモ帳に大きくお礼の言葉を書いて見せた。

 

「……そんな、こっちこそありがとうだよ。幽奈さんっ。これからも よろしくね!」

『はいっ』

 

 すっかりと打ち解け合う2人。

 最初は信じられなかった様だけれど、本当に良かった。

 

「なぁ、コガラシ。色々と大変だったが 結局 幽奈が騒ぎを起こしたおかげで、こゆずや宮崎さんと仲良くなれた。友達が増えたんだ。……これは 歓迎すべき事だよな?」

「その上、久しぶりにオヤツを食べれた。色々と大変な事はあったが、今はオレは幽奈には感謝しかないぜ。勿論、クッキーくれた宮崎にだってな」

 

 いつか、本当に幽奈の姿を見て 話せたら良いな、と2人は思いながら 仲睦まじく会話(筆談)をしている幽奈と宮崎を見ているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして まだちょっとした問題が……。

 

「……狭霧の件だが、宮崎さんに弁明してもらうのが良いかな? ほら、宮崎さんなら引き受けてくれると思うけど……」

 

 狭霧が怒った事も当然ながら忘れてないホムラ。

 

 

 だけど、この行為は火に油を……、どころではなく 火に火薬だと思うので 幽奈は勿論 コガラシにも『それは止めとけ 少なくとも今は』と 止められて 何だか釈然としないままその後も 暫く狭霧の折檻から逃げ続けるホムラだった。

 

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