ゆらぎ荘の蹴る人と殴る人   作:フリードg

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第21話 狭霧さんとお仕事➀

 

 幽霊・妖怪・悪霊。

 

 それは多種多様であり様々な呼ばれ方をする。

 呼ばれはするものの、本当の意味でその存在は正直な所あまり世間には浸透はされていない。誰もが子供騙しである程度にしか考えてなく、現実に実際に起こり得る事ではない 存在などしていない と考えるのが殆どだ。

 

 だが――、それは誤りである。

 

 それ(・・)は 間違いなく存在していて時には人に仇なす存在として恐れられているのだ。

 

 

 

  

 そして 満月の夜の事。男の悲鳴が街に響いていた。

 

 

 

 

「ぐわぁぁぁ!! わ、ワシの、ワシの髪がぁぁぁぁ!!」

 

 悲痛な叫びの割には 髪の毛かよ! とツッコミを入れたい気分ではあるが、それでも大層髪の毛を大事なされている中年の男性だったから、それも仕方がないかもしれない。

 問題は襲っている側だ。

 宙に漂いながら ゆらゆらと妖しく動く。頭だけしか存在してなく、その頭も長い髪で覆われていて普通の頭ではない。そして髪だけでなく、その中には大きな口も見えていた。

 髪と口だけの妖怪、と言えるだろう。

 

『髪…… モット喰ワセロ……、髪……ウマ……』

 

 毟り取った髪をムシャムシャと喰い尽したのと同時に、再び襲い掛かった。もう殆ど残っていない頭の髪の毛に向かって。

  

『カミィィィ! 喰ワセロォォォ!!』

 

 大口広げて襲い掛かったその次の瞬間だった。

  

「雨野流誅魔忍術奥義――小夜時雨!」

  

 月夜の空に掛ける一筋の光。

 空から瞬く一閃は、襲い掛かる妖怪に突き刺さった。

 髪を狙う妖怪は、穴だらけになり、じゅううう~~と薄い蒸気の様なものをあげながら消滅していく。

 妖怪の消滅と襲われていた男性の無事(髪を考えたら微妙だけど……)を見届けた後、何処かへと連絡をしていた。

 

「髪喰いは片付けたぞ」

『いやいや流石狭霧や! 仕事が早いで~~。その上 今ホムラ君もおったら、Loveパワー♪ でもっと早いんやから、末恐ろしいってもんや~』

「っっ! ほ、ホムラはかんけーないだろっ! それに変な事を言うなうらら!」

 

 ホムラの名を出されて、頬を赤くさせながら抗議するのは 誅魔忍の任務中である狭霧である。屋根から屋根へと飛び移る姿は正しく忍者のそれで、闇夜に紛れているからか その姿を捉えるのも難しい。

 でも、やっぱりホムラの名を出されて色々と言われてしまうと、平常心が失われてしまう様子。

 

「お、っとと!」

 

 着地をミスりそうになってしまって、たたらを踏んでしまっていた。

 

『なんやなんや~? 任務は終わっても、帰るまでが任務なんやでー? 綺麗な身体で帰らんと、ホムラ君もがっかりしてまうで?』

「っっ!! うららが変な事を言うからだ! 馬鹿者!」

『あっはは♪ 狭霧は腕は立つくせに、この手の話になると ほんまかわええわっ! おーっと それは置いといて 今度の仕事の件と――前に言うてた新たな霊能力少年が来たって話をするんやったわ』

「む? 冬空コガラシがどうかしたのか……?」

『そうやそうや。あの(・・)ホムラ君の友人なんやろ? 気になるんもとーぜん、ってもんや』

「確かに……それは判らんでもないが」

『やろ? その腕をいつか見てみたいなぁ~ って話や。勿論 誅魔忍(・・・)として』

 

 狭霧は 『誅魔忍として』と言う言葉を訊いて表情を引き締め直した。

 

「……確かに。冬空コガラシの腕は、その実力は 私自身も見たと言う訳ではない。ただ、ホムラから聞いているだけだ」

 

 狭霧はホムラの口からは、コガラシの事を何度か聞いていた。その実力の高さを。

 

 狭霧自身が実際にそれを目の当たりにした訳ではないから、そのまま全て鵜呑みにするつもりは無かった。ホムラの実力の高さは狭霧はよく知っている。そんな実力者がそう何人もいるとは思えなかったから。ホムラは嘘を言う様な男ではないというのは判っているつもりだが、それでも最後は自分の眼で見てから判断をする様にする事にしたから。

 

『むむ~ しかし 狭霧はずっこいなぁ。男2人もおるなんて。ヤキモチ妬いてもしらんで?』

「ぶっっ!!」

 

 真面目な話をしていたつもりだった狭霧だが、まさかの発言で思わず吹いてしまっていた。

 

「ななな、何を言っておるのだ!!」

『むっふふ~ 個人名出してないんやけどなぁ~。まぁ えっか。それより 何をも何も、ずるい言うとるんやでー? 狭霧は ホムラ君ともあろう者がおりながら、ほんまぜーたくな!! って』

「この馬鹿者っ!! それに ホムラとは そ、そんなんじゃない!」

『ほなら、コガラシ君とやらを紹介してーや。色んな意味で気になるんやー』

「ぅぐぐ………」

 

 今は真夜中だ。そんな真夜中の街中で大声で言い争い? をしないでもらいたい、と言いたいが 今の狭霧は面白い様にからかわれているから、そんな事考えてられてない様子だ。

 

『ははっ。ほんま里出身のエリート様はウブやなぁ~』

「っっ!! うらら! 貴様っっ!!」

 

 漸くからかわれた事に気付いた狭霧は、再び憤慨するのだが、何処吹く風の様子なのは 《うらら》と言う名の少女の声。

 

『それはそーと、次の仕事の話もしとかんとな。そん時はホムラ君と一緒に頼むでぇ。内容が内容やけんな。もー1人の……コガラシ君? も上手い事言うて実力1回くらい見たったらどうや?』

「ぐぐ……。む? 内容? ちょっとまて うらら。まだ仕事の内容は聞いてないぞ」

 

 ホムラと一緒に……、という時点で 何処か色々と違和感があった狭霧。

 仕事の内容を訊いた途端に、収まりかけていたのに、狭霧の頬が再び真っ赤に染まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ 翌日 湯煙高校 □□

 

 

 

 学生の本分は学業。

 そう 普通はそうだ。基本的には その筈だ。義務教育ではないとはいえ、まだまだ子供に分類される高校生。どう考えても 地獄の特訓の様な真似を延々とさせられたり、はたまた子供の身分で大人でも即倒してしまいかねない程の借金を背負わされたり、そんな事はあってはならない。

 

 でも ここに普通ではない例外の2人がいたりする。勿論 末期はとうに峠を越えていて、もう殆ど過去の話だが。

 乗り越える事が出来たから その顔は本当に爽やかなものだった。

 

 そして 3時間目が終了し休憩の時間に入ったから 一度外の空気を吸いに渡り廊下に出ていた。心地よい風を身体全体に感じながら両手をグッと広げる。

 

「ぅぅ……、やっぱ普通が一番だよなぁ……。学園生活万歳、霊能力万歳だ! どんな悪霊が来ても、どんなはた迷惑なヤツが来ても 拳骨1つで追っ払えるんだからな!」

「まぁ 判らんでもないが もうそろそろその口癖も止めた方が良いぞ? また色々と心配されるかしれんし。此処に通いだしてそれなりに時間が経っただろうに」

「ホムラさんもそうですが、コガラシさんもとても大変だったんですよね……。私 話を訊くだけで ゾッとしちゃいます……」

 

 爽やか穏やかキラリンっ♪ と表現できる表情をしているのはコガラシ。ホムラは比較的落ち着いている様だった。その2人の傍で見守っている(憑りついている?)のはいつも通り幽奈である。

 

「ああ、そうだった。幽奈とコガラシは昨日ユノワールに行ったんだってな? 仲居さんから聞いたよ。どうだ? 楽しかったか?」

「え……、あっ はい! その……とても楽しかったです……」

「まぁ な。幽奈のやりたい事を手あたり次第って事で一緒に行ってみたんだ」

 

 ユノワールとは《湯煙温泉》と言う名の温泉レジャーランドだ。この地域ではデートスポットの1つとして非常に有名だ。温泉と言えばゆらぎ荘も負けてはいない気持ちよさなのだが、気味の悪さが際立っているから仕方ない。光と闇 と言っても良いくらいに周囲の印象に差があるから。

 

「良かったな幽奈。オレも色々と協力したかったが 少しばかり用があったし、何よりデートだったら 2人きりが一番だからな」

「はぅっっ で、でーと……。そうですはい! 初デートとコガラシさんは、言ってくださいました! ……こ、コガラシさん。私ちゃんとできてましたかね……?」

「ぬ…… それはオレ自身もだ。どうなんだろうな……。幽奈との初デートだ! って言ったんは言ったんだが…… ちょっと自信がいまいちで。昨日も色々と考えてみたが……、しょーじきまだ判ってないってのが本音だったりするなぁ…」

 

 判らない、と言う2人。男女2人で楽しく遊べたのなら デートであっても 例えデートでなくたって良いだろう、と思えるのはホムラだ。自分から《デート》と言う単語を使った手前、そう言うのは気が引ける気がするが。

 

「楽しかったのなら、それで良いんじゃないか? それだけでも充分だってオレは思うな」

「はいっ! そうですね!」

「その点はオレも同意だ。確かに色々と楽しかったからな」

 

 コガラシも幽奈も良い笑顔を見せていた。

 それを見て ホムラも自然と笑顔になる。

 

「あっ そうです! 今度ゆらぎ荘ででもみなさんで温泉に入りませんか? ユノワールでは とても楽しかったので!」

「っっ!? おんせっ……!? み、皆で?? な、何言ってんだ幽奈!っ」

 

 幽奈の提案に瞬時に動揺してしまうホムラ。

 ゆらぎ荘の温泉での出来事には正直な所良い思い出が無い事が多いから敏感に反応をしてしまう様だ。顔を赤くさせているホムラを見て幽奈も自身の言葉足らずを理解した。

 

「はわわっ! ち、違いますよ、皆さん水着に着替えて、ですよ! 勿論っ!」

 幽奈の付け加えを訊いてホムラは少なからず安堵していた。

 

「みずぎ…… 水着、か。まぁ……それなら 多分」

「ユノワールの話をしてたんだから、大体想像がつくだろ? 慌て過ぎだろ ホムラ」

「う、うるさいな! コガラシだってオレの気持ち判るだろっ! 風当りはコガラシなんだから!」

「ぁー、まぁ確かに お前のセリフを取るつもりじゃないんだが、ホムラの言う事も判らんでもないな。やっぱ」

 

 ゆらぎ荘で色々とお世話になっている男性陣は、魅力的な女性陣達に囲まれて、色々と大変なのだ。様々な 《とらぶる》 が起こりに起こって 心身ともに疲れてしまう事も多々。ある意味過去の地獄の特訓にも匹敵しかねなかったりするから。

 コガラシ自身も色々な《とらぶる》に見舞われている。毎朝 幽奈に起こされるのは大変刺激的であり、最早習慣化されているのだから。

  

 それは兎も角 幽奈は改めて聞き直した。

 

「水着なら、良いですよね? ホムラさん」

「……なんでオレにそんなに訊くんだ?」

「呑子さんに聞きまして……、はずかしいんですけど や、やっぱり 男の人のお背中を流して差し上げるのが 一番お疲れがとれると、とても癒されるとの事で……、あ、もちろん狭霧さんにその役はお任せしますよ!」 

「……呑子さん、全くよけーな事を幽奈に……」

 

 彼女なら言いそうな事だ、と頭を抱えるホムラ。幽奈自身にも羞恥心はしっかりと持っている筈だから、あの手この手で美化させて伝えたのだろう、という事もはっきりと判る。

 確かに美女が『お背中、お流しします』と言って 本当に流してもらえるのは、世の男にとっては至福の時だと言っていいだろう。

 

 でも ホムラには色々と刺激が強すぎるというのが問題だ。

 

 それを置いといたとしても、水着着衣必須なのであれば、大丈夫だという事もよく判る。今までもその範囲ならホムラも大丈夫だったから。でも看破できない問題はまだある。

 

「呑子さんや夜々なら兎も角、まず第一に狭霧が賛同するとは思えんぞそれ。『混浴など ふしだらな!』と一蹴されると思う。ああ、勿論 男2人には苦無付きだろうな。またゆらぎ荘が壊れそうだ」

「あー その光景はオレも目に浮かぶ」

 

 コガラシもホムラの言葉に同調していた。狭霧はゆらぎ荘の風紀員の様なものだ。混浴などを行えば何を言うか…… 想像がはっきりとついてるホムラは狭霧のセリフをトレースして、コガラシはうんうんと頷いていた。

 

「うーん…… それもそうなんですが…… 狭霧さんは その、えと、だから ホムラさんの事を……ゴニョゴニョ」

 

 幽奈は最後まで言い切る事はなく口を噤んだ。

 狭霧の心情は 外から見てみれば誰でも判りきっている。色恋沙汰に非常に憧れを持つ幽奈なら尚更だった。それを伝えたい、と強く思う幽奈だが それは狭霧自身が言わなければならない事だという事もよく判る。ちょっとしたお助けをしたとしても、ストレートに気持ちを代弁するのはよろしくないだろう。

 

「ん? どうした 幽奈。狭霧がどうかしたのか?」

「それに、何か顔が赤いぞ。大丈夫か? 幽奈」

 

 ホムラとコガラシが、黙り込んだ幽奈を見て首を傾げた。

 

「は、はわわ! な、なんでもないですっ!(ほっ 聞かれなくて良かったです……)」

 

 安心をしているのも束の間だった。

 

 

「漸く見つけたぞ。ホムラ。それに冬空コガラシ」

 

 

 《温泉混浴計画》の渦中の人物になりそうな人が。

 狭霧がいつの間にかこの渡り廊下へと来ていた。

 

 

 

 何やら思いつめた表情をしている様だが、幽奈の計画についての話は訊いてない様だった。

 

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