ゆらぎ荘の蹴る人と殴る人   作:フリードg

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因みに今日ホムラの師匠の1人。脳内会議でキャラを決定しました。


第22話 狭霧さんとお仕事②

 

 場所は変わって夜の街。

 

 商店街がすぐそばにある交差点付近で まだまだ夕食時である為にそれなりに人の往来は多かった。

 そこで ホムラは狭霧と待ち合わせをしている。

 

「妖怪退治依頼……か。狭霧とは何度か一緒にした事はあるんだが、それは対象が複数いる場合のみだった。……今回はオレとコガラシ、それに狭霧か。大分強敵の様だ」

 

 ホムラは、待ち時間の間に今回の件について考察をしていた。

 話にある通り ホムラは狭霧と共に仕事を数件行った事がある。うららからの依頼も含めたら それなりに回数を熟している。だから 信頼し信頼されている間柄になっていると自覚していて、依頼をされる事事態は 何ら問題ないのだが 3人で仕掛ける程の相手ともなれば、ホムラも慎重になるというものだ。

 過信と慢心は何よりも強敵だという事をよく自覚しているから。

 そして、もう1つ疑問があった。

 

「幽奈は危ないから判る。だけど、何でコガラシは別行動なんだ……? それに学校から一緒に来れば良かったとも思うが…… まぁ その辺りも狭霧が来たらだな」

 

 そう 3人で討伐をする と言う話だが此処に集うのはとりあえず狭霧とホムラの2人だ。その訳も狭霧は会ってから詳しく説明する、と言われているのだが やはり疑問に思えるのも仕方がない。それは コガラシの実力の高さを知っているからこそだ。3人揃って倒せない様な相手が現れでもすればとんでもない事になりかねない。

 

 そう――非常に恐ろしい事なのだ。

 

「……そうなったら アイツ(・・・)が無茶苦茶怒りそうだな。『この未熟者が!』って感じで 思いっきり蹴っ飛ばされる。……確実に」

 

 連想をさせてしまったのか、或いはその確かに予測を、未来の姿を頭の中で鮮明に思い描いてしまったからか、ややげんなりとしてしまうホムラ。

 

 と、色々と考え込んでいるその時だった。

 

 

「ねっ、ねぇキミかわいいねぇ~!?」

「わぉ、ほんとだ。むちゃくちゃかわいいじゃん! どうだ? オレらと遊ばねぇ?」

 

「いや、他に約束があるので………」

 

 

 街中で時折この手の会話はきこえてくる事は多い。

 云わば ナンパと言うヤツで こういった手合いは、断られても直ぐに別へと ひっきりなしに女性に声をかける事が多い。

 

 そして もう1つがナンパした相手によっては(容姿等が優れている女の子等)非常にしつこい、と言うパターンがある。

 

「ええ~~、そんなこと言わないでさぁ~ いいじゃん。遊ぼうよ」

「そうだそうだ。なんならオレらでおごっちゃうよ? 晩飯。それに色々と買ってやるよ~~」

 

 断られたのにも関わらず、一切退く気が無い性質が悪いパターンの男達。

 

「(やれやれ……、春先はこういったのが多い、と聞いた事があるが その通りなんだな)」

 

 ホムラのすぐそばで絡んでいた為、そのナンパ男達には心底呆れつつ 見てみぬ振りはせずに近づいていく。

 

 男達は軈て、女の子の肩に乱暴に手をかようと手を伸ばして言った。

 

「なぁ。けちけちしないでさぁー!」

 

 後数センチで その肩を掴んでいた距離だったが、掴む事は出来なかった。

 

「その人は断ってるだろ? なのに無理に誘うのは迷惑じゃないのか?」

 

 ホムラは掴む寸前で、その手首を握り 止めていたのだ

  

「……ああ? 何だテメェ」

「なにオレの連れに馴れ馴れしく手ぇだしてんだコラ」

 

 馴れ馴れしく女のひとの肩を掴もうとした癖に、何を言っているんだ? とブーメラン発言に対してツッコミを入れようとしたのだが。

 

 

「慣れ慣れしいのは 貴様らだ!!」

 

 

 と、怒声を浴びせつつ ホムラに迫ろうとした男を見事に一本背負い。ずどんっ! と背中から叩きつけられて、立ち上がる事が出来ず、白目をむいていた。まさに一発KO。

 

「………はぁ!?」

 

 突然投げられてしまったのを間近で目の当たりにした男は サァ~…… っと背中に冷たい汗が流れ出ているのに気付く。もしも、あの肩を掴んでいたら、自分も投げられて、叩きつけられてしまっていただろう事がはっきりと判ったから。

 

「……良かったな? もしも オレがお前を止めてなかったら、きっと こうなってたぞ? いや無理に掴もうとした分、威力が上がってるかもな」

 

 ホムラは、その心情を読み取ったのか、軽く男の肩を叩く。そして、見事に一本背負いを放った女性を再確認したホムラ。それが誰なのか判った所で軽く微笑む。

 

「相手が狭霧だ。……運が悪かったなお前ら。これに懲りたらもう止める事だ」

 

 そう言って、ホムラは男を離した。

 つまり待ち合わせをしていた狭霧にナンパをした、と言う事。男達には一切の容赦をしない狭霧に手をかけて、無事で済んだ男子は思いの外少ない事をホムラは一緒に暮らす過程でよーく知っているから、男達には多少の同情をしていた。

 腰が抜けている男は、そのまま放心し続けるのだった。

 

 

 

「来ていたのか。待たせたなホムラ。それで今回の件だが」

「……ああ。話は聞きたいが、場所を変えようか。滅茶苦茶目立ってるぞ。オレ達」

「む……」

 

 狭霧の見事な一本背負い。そして ナンパ男達を撃退した事。

 それらもあって、男女問わず、周囲の注目を非常に集めていた。強く格好いい女の子 と同性からは憧れの視線が。異性からは、ナンパ男に対して憐れむのと同時に、強く可愛い女の子と言う事で好意的な視線が集っていて、ホムラも一応止めたのだが殆ど霞んでいる。

 でも、目立つ事をあまり好まないからそれ自体は問題ないが、これから話す内容を考えたら、狭霧もあまり目立たない方が良いのだ。妖怪退治ともなれば……。

 

「……ああ 判った。こっちだ」

「了解」

 

 狭霧に先導されて、2人はこの場を後にした。

 

 

 

 

 狭霧と共に向かったのは、街中のとある公園。

 

「ここがそうか?」

「ああ。先程伝えた通り、この公園では夜間に訪れた人が黒い霧に襲われる……という事件が頻発していた」

「黒い霧……か。夜とは言えこの公園には街灯がある。視界は良好だ。にも関わらず 一般の人達が現れたのを『黒い霧』と表現するんだ。……それが ただの霧じゃないのは一目瞭然か」

「その通りだ。……非常に厄介な霧だ。それに 被害も相次いだため 現在この公園は立ち入り禁止となっている。誅魔の里で霊視を行った結果、妖怪の仕業だと断定された」

 

 街灯の明かりが一定間隔で公園内を灯し、夜だが歩きやすい。そして景色も見事だから とある人気スポットの1つになっている公園だ。

 

「被害者は決まって若い男女。被害者と同じく男女で公園を歩き、妖怪をおびき出す為に 今回はホムラも同行してもらった」

 

 因みにこの辺りのセリフ、狭霧は事前に必死に練習をしていた。今は平静を装う事が出来ているが、それは何度も何度も脳内にて ホムラが目の前にいる……と意識しつつ練習を重ねたからだ。

 

 そう――この公園は所謂デートスポットなのだ。

 

 若い男女がよく此処に逢引を……、つまりデートをする場所でホムラと共に行動する。その事実が狭霧に色んな意味で悶えさせてしまっていた。今日ほど実感した事はないだろう。どんなものにでも修練を重ねる事で乗り切る事が出来る。練習は嘘をつかない。と言う事を。

 

 狭霧の涙ぐましい努力なのだ。

 

 勿論 そんな事は露知らずなホムラはただただ狭霧の言葉と現状の分析をただ冷静に行っていた。

 

「ん。いつもは大体が分かれての行動だったからな。納得したよ。……それで コガラシはどうしたんだ? 狭霧とオレがいたら とりあえずおびき寄せる事は出来そうだが」

「………………………」

 

 流石の狭霧も少しくらいは意識をしてくれても――と全く思わない訳ない。

 だが、一先ずはこれは任務である事。誅魔忍の大事な任務である事を強く意識した。

 

「……冬空コガラシには 着かず離れずの監視を任せた」

 

 何度か気持ちを飲み込んだ後狭霧は続ける。

 

「この霧の範囲は極めて広いという事も調査で判っている。もし 今回の件で自らに害を成そうとする者がいれば別の場所へ逃げる恐れがあるからな。それを防ぐ為に。いわば我々は囮役だ。冬空コガラシの腕はホムラが信頼しているのだろう? ……不本意だが、腕がたつという点においてだけは 私も信頼するとしよう」

「成る程……な。まぁ コガラシなら大丈夫だな」

 

 周囲を少し見回した後 ホムラはニヤリと笑った。

 色んな不純な事を考えてしまっていた狭霧だが、この時ばかりは真面目に考えていた。

 

 単独行動は危険が伴うのは 狭霧はよく判っている。相手は人間ではなく妖怪なのだから尚更だ。だが ホムラは一切の心配をする素振りも見せなかった。それ程までに信頼をしている事も、よく判った。

 

 この時 少しばかり狭霧は妬けてしまっていた。

 

 

「それで、被害者はどうなんだ? あまり考えたくないが 霧に呑まれて攫われたのか?」

 

 霧に包まれ方向感覚を霊的な力で完全に麻痺させて、更には自由を奪って――と言うのは出来ない事はない。ホムラは 過去に似た様な力を持つ妖怪と対峙した事があるからだ。そして 妖怪にとって人間と言うのは色んな意味で栄養源となりうるから。

 だから少なからず心配をしていたホムラだが……、それは杞憂となる。

 ただし、新たな問題が発生してしまうが。

 

「被害者は――男女問わず、黒い霧に衣服を融かされて、全裸にされた」

「………はぁ!?」

 

 まさかのセリフに思わず声を上げてしまったホムラ。

 狭霧も少なからず判らなくもないが、とりあえず続ける。

 

「フェロモンの染みついた各種繊維を好んで喰らう。そんな新種の妖怪の様だ」

「……何なんだ。その妙な偏食は。服とは言っても色んな種類がある。化学繊維とか天然物とか関係なくか?」

「ああ。関係ない。……報告では例外なく全て裸にされてる」

 

 とりあえず、狭霧の言葉を訊いた途端にホムラは数歩前に出た。

 

「前は任せろ。……狭霧は後ろを頼む」

「……おい」

「とりあえず、被害者たちが無事なのは良かったが、人を……辱める妖怪とは容認は到底出来んな。……それに そんなのを続けさせたら 人間側からも馬鹿なのが沸きそうだ。この場所に」

「おい、ホムラ」

「どの辺りにその妖怪が現れるんだ? 衣類を喰う妖怪は。その辺りのデータは取ってないか?」

「………」

 

 狭霧は何度も呼んでもホムラは視線を真っ直ぐ。

 こちらに振り向く様な事はしなかった。服を融かされる、と言う事はホムラ自身は勿論 狭霧自身も言わずもがなだ。

 そんな展開になってしまったら…… と考えただけでも ホムラは耳まで赤くなってしまう。だから 必死に平静を装うとしていたのだ。つい先ほどの狭霧の様に。

 

 だが、そんなホムラに狭霧も容認できない事はあった。

 

「訊けっ!! ホムラ!!」

「っっ」

 

 前を行くホムラの両肩をがしっ、と掴んで無理矢理に振り向かせた。

 

「ホムラがどういう行動をとるのか。……その位は私も判る。いつも、わざとじゃない事も、私でも判る」

 

 狭霧は 自分自身にも言い聞かせる様にホムラに言った。

 

「私は、婦女子のあられもない姿を見た者は如何なる理由があっても断罪するとホムラに言い聞かせてきた。……だが、今回は別だ」

 

 目を見開き訴え続ける狭霧。

 今回は別、と言う意味。ホムラは次の言葉ではっきりと理解する事になった。

 

「人を仇なす妖怪を放置など出来ない。婦女子を辱める様な妖怪であるのなら尚更だ。……私は その妖怪に天誅を下せるのなら 女である前に誅魔忍であると決めているんだ」

 

 僅かながらに頬が赤く染まっているのは ただ熱弁しているからではないだろう。

 狭霧自身もきっと恥ずかしい。見られてしまう事もそうだし、何より相手が相手だから。

 

「だから――決めろ。私もホムラの性質はちゃんと判っている。だが、それでも……覚悟を決めてくれ。……見たくない(・・・・・)かもしれんが、ホムラが盲目になって 万が一にでも逃げられでもすれば被害が広がるんだ」

 

 やや視線を鋭くする狭霧。

 それだけで、ホムラは強い意志を感じ取った。狭霧の強い意志を。

 

 だからこそ、ゆっくりと深呼吸をした後に――両頬を思いっきり叩いた。

 ばちんっ! と言う乾いた大きな音が静寂な公園内に響く。

 

「……悪かったよ。少々安易に考え過ぎていた。すまない」

 

 自分自身の非を認めて、頭を下げるホムラ。

 

「……苦手だからって、駄々をこねる訳にはいかないからな。コガラシがいるとはいえ 100%確実なんてこの世には存在しないって事を忘れていたよ。……限りなく100%に近づく事が出来るだけ、だった」

 

その後は、狭霧を見て軽く微笑んだ。

 

「今回は狭霧も許してくれるんだ。……その、オレも頑張るよ」

「……ああ。頑張れ」

 

 ふぅっ、と狭霧も肩の力を抜いた。

 

 ホムラの最大の弱点でもあるのが女性関係だ。以前の宮崎の時程の事はこれまでには無かったが、ホムラは似た様なので隙だらけになってしまった事は何度かあるから。

 少々不満があるが……それは考えない様にしたその時だった。

 

「狭霧――」

「……?」

 

 前を行く狭霧に、ホムラは声をかける。

 

「その……、どういったら良いのか……判らないけど……その……」

「どうした?」

「狭霧は、さっき……『見たくないかもしれん』って言ってたけど……」

「っっ!?」

 

 ホムラは、頭を思いっきり掻き毟り、何度か深呼吸をした後。

 

「返事を返せないから。……だって、その…… 頷くのは 失礼、だろ……? だから……うぅ……えと……。そ、それだけだ!」

 

 そう言うと、それ以上は何も言わず 狭霧に追いつきその隣に並んで歩いた。

 そのホムラの横顔をじっと見て……、そして 狭霧は笑った。

 

 任務中であると言うのに笑ってしまっていた。

 

 

 

「さぁ、さっさとおびき寄せて退治するぞ!」

「ああ」

 

 

 

 直ぐに切り替え、真剣な顔に戻った2人は夜の公園の更に奥へと入っていくのだった。

 

 

 

 

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