日もすっかり沈み夜がきた。
電車やバスを乗り継いで信濃へ向かっていた道中の事。
「ここまで来て今更だが こゆずまで付いてくる事無かったんだぞ? ……怖い思いをしたんだし」
幽奈を助けに一緒に行く! という事で葉札を使って小さくなったこゆずがホムラの肩に乗っていた。話を少し訊いてみたら、その龍神の側近? とやらに攻撃をされそうになったとか。龍神の側近ともなれば相応の使い手のハズだから、こゆずが本当に無事でよかった、と改めて皆で安堵したのは言うまでもない。
「だ、だいじょーぶ! こわいって言ったら、あの時のホムラ君やコガラシ君だってすっごく怖かったし! あれくらいへ、へっちゃらだもんっ!」
こゆずが思い出すのは、ホムラやコガラシと初めてあった時の事だ。
普通の人間だと思ってた2人のまさかの戦闘力に度肝を抜かれ、恐怖のあまり術が解けてしまった過去があったから。
「まー、こゆずが良いんなら構わないけどよ。無茶はすんじゃねぇぞ? ホムラから離れるなよ」
「う、うんっ!」
「うむ。今のこゆずなら混乱に乗じて逃げる事だって可能だろう。……危険を感じたら 迷わず逃げる事を約束しろ。こゆず」
「う……うん。分かったよ。狭霧ちゃん……」
皆を見捨てて逃げる、という事を約束してしまったこゆず。正直そんなのは嫌だと強く想ってる。ゆらぎ荘の皆は大切なひとたちだから、と。だから、そんな危険な場面など起こらない。とも強く思っていた。如何に龍神とは言え ホムラやコガラシ、そして狭霧の事を信じていたんだ。
「ああ、後コガラシ。足代は忘れるなよ? ほれ借用書ちゃんと書いてるから」
「くそう……。また借金が増えちまった……」
「大丈夫だ。元々の金額を考えたら大した事ないだろ? これまで通りしっかりやればいいだけだ」
「……って、大した事ないなら、奢ってくれよ!」
「い・や・だ!」
「ぅぅ……」
金銭のやり取りは一段とシビアなのは2人。
この若い美空でどれだけの修羅場をくぐってきたのか…… と狭霧は苦笑いをしていた。
だが、その笑みも直ぐに消える。
目的地へと到着したから。
「お前達。……この先だ」
そこは立ち入り禁止の札が立てかけられた洞窟の入り口。
「この中か」
「……まぁ 城を大々的に地上で構えるような真似は出来んはな。この現代で」
「ホムラは楽観し過ぎてないか? 少しは緊張感と言うものを持て!」
思った事をそのまま口に出すホムラ。それもいつもと変わらないやり取りだから、この敵地とも呼べる場所にきたからには 相応の緊張感を持て、と狭霧は檄を飛ばしたが、ホムラは軽く首を振った。
「何言ってんだよ狭霧。オレにコガラシ、その上狭霧とこゆずだぞ? 神だろうが悪魔だろうが、大丈夫だ」
その瞳は信頼しきっているのが見て取れるのだが…… 過大評価し過ぎではないか?
「ぼ、ボクも戦力に入れるの!?」
「いやいやいや。戦えーなんて言わないって。ほら、場の空気的な意味で。それともなにか? こゆずは 仲間外れにした方が良かったのか?」
「あ、それはヤダ!」
「ははは……」
コガラシは苦笑いをしていたが。少し懐かしくも感じる。
以前、2人で組んで妖怪大戦争? でもおっぱじめそうな妖怪の大部隊を相手にしようとした時も、こんな感じだったから。
「ったく。……む。灯りが見えてきたぞ」
洞窟の中に入ればそこは暗闇の世界……だったのだが、暫く進むと洞窟の中とは思えないほどの光がそこには存在していた。
「龍雅湖とは日の光が届かぬ地底湖である、と誅魔忍軍の資料にはある。……だが、この灯りは普通の灯りではない」
「あぁ。多分釣瓶火の類だろうな。仄かに妖気も感じる」
「んー…… その感覚はオレ、あんま持ってねぇんだよなぁ。今度教えてくれよホムラ」
「ああ、構わないぞ」
何か、宿題教えて~ 良いぞ~ みたいな。 漫画貸して~ 良いぞ~ みたいな軽いノリで第六感の力を教え合う間柄には 妙な違和感を感じるが、そこはもうあえてツッコまない狭霧。
「今は目の前の事に集中しろ馬鹿者。この先の地底湖の畔に佇むのが黒龍神の城、龍雅城だ。もう見えてきた」
狭霧が指さす方には城があった。
いや、国宝にでも指定されても不思議ではない立派なお城だ。姫路城や大阪城などと比べても何ら遜色ない。
「どうどうと主張してるな……。まぁ 人払い結界みたいなのがあるから普通の人間じゃ近づけないとはいえ。これは凄いな」
「洞窟ン中にこんなモンがあるなんてそもそも誰も思わねぇだろ」
「ぅぅ…… なんだか寒気がしてきたよぅ……」
「んー……」
ホムラは眼を閉じて 何やら考え込む? 様にしていた。
何をしているのかは直ぐにコガラシは判った為。
「大体どれくらいだ? ホムラ」
「大小様々で数えるのは面倒だが、3ケタは超えてる。当然だが大きいのは奥の方にいるぞ」
「それがその龍神サマか?」
「多分な。気配断ち…… 妖気断ちをしてるヤツがいるんならそれ以上いてもおかしくない。……因みに、判ってると思うけど 頭上の灯りの妖怪は数に入れてないからな。アレ数にいれたら跳ね上がる」
目を瞑って妖気を感じ取ったホムラ。
それを訊き、狭霧は少しだけ表情がほころぶ。コガラシだけでなく狭霧も以前に何度か一緒に仕事をした事があり、本当に助かっているからだ。
「ホムラの索敵能力には 毎度世話になる」
「……まぁ 万能なもんじゃないって思い知ったけどな。ほら あの髪喰いの時とか。霧や靄みたいな障害が紛れてるだけで 一気に精度が落ちてたって事かな? ……んんん、あんな姿見られたらヤバイかも……な。……
「?? なにがヤバイの? ホムラ君」
「いや、こっちの話だ」
面倒な相手の事でも思い出したのだろうか、ホムラは渋い顔をしていたが 直ぐに表情を戻していた。
「ふむ。……私も備えておく。数が数だしな……」
次に術を披露したのは狭霧。身に纏っていた制服が周囲に現れた煙にかき消された様に消え去り、そして 纏っているのは……。
「(……全身、タイツ!?)」
「…………」
紋様が特徴的な全身タイツ。狭霧のスタイルは学校の中でも屈指であり ピチッピチのタイツは 狭霧の豊満な身体、凹凸の主張を増長させてしまう。幾ら 色んなとらぶるで もっと過激な姿を見てしまったとは言え、直視する事は出来そうになかったホムラは 途端に目を逸らせた。 コガラシは少々遅くなっていたが。
「……じろじろ見るな」
コガラシの視線を不快に思った様で、いつも通り? じゃきんっ! と苦無を構える狭霧。でも、いつものノリで苦無乱れ打ちでもされたら いっぺんにバレてしまうから勿論止める。
「……狭霧。ここで騒いだら面倒な事になるから それ仕舞え。あと、オレはじろじろなんて見てないからな!」
「ふ、ふんっ!」
「ちょっと待て、いきなり変身して 見るなってのが無理があるだろ! そんな格好なら尚更だ!?」
「わー、狭霧ちゃん、カッコイ~~!」
男性陣には刺激が強い姿だが、こゆずには ただただ格好いい姿にしか見えないらしく、目を輝かせていた。
「それ、前に言ってた術か?」
身体を見ない様に、狭霧の顔周辺に視線を固定しつつ ホムラは訊いた。
真っ直ぐ目を見てくるホムラをみて 今度は狭霧が赤面しそうだったが 辛うじて堪えて説明をした。
「あ、ああ。そうだ。霊装結界という。身に付けている限り、あらゆるダメージを肩代わりしてくれると言う代物だ。この先、どんなワナがあるか判らんからな。万全の備えはしておくべきだ」
「……だな。さて 此処からの事だが、オレの案を聞かないか?」
「お、オレも考えてる事がある」
ホムラとコガラシの2人は案、プランがそれぞれにある様で 少々2人だけで密談。
勿論、狭霧を仲間外れにする訳はないので 直ぐに向き直った。
「おい。貴様らだけで共有するな。ここまで来て、私を外そうなどとするなよ!」
「違う違う。ちょっと確認しただけだ。オレらって結構考える事が似たり寄ったりする事があるんだ。……特にこういう類のモノなら尚更な」
「あぁ。……案の定だった。幽奈を助けた後の黒龍神たちのその後の行動も考えてたんだが、その辺も一緒だったよ」
「……力は兎も角、ちょっとお頭が弱そうな相手だから通用するとオレは思う」
「む?」
狭霧に全て説明。
幽奈を助ける方法、そして その後に起こりそうな事とその対処法をだ。
「成る程。……上手く行けば 幽奈を助けた後も全て収まるかもしれんな」
「だろ? 追っ払ったって、こゆずの話じゃ 空間跳躍してくるらしいから ゆらぎ荘ひいては、周囲の住民の皆にも迷惑を被る。流石にそれは勘弁だからな。オレも大分世話になってるし……」
「バイト先の店長に色々と面倒と給料に色も付けて貰ってるし、オレも全く同感」
という事で皆が一致した。
「でも、そんな上手く行くのかな?」
「大丈夫。最終的には『なる様になれ』。……オレ達が全部被れば大体はカタがつく」
「えぇ!! そ、それじゃ ホムラ君やコガラシ君が人柱になる! って聞こえるんだけどっっ! か、神々の怒りを鎮めるのは人柱を~~ ってボク、昔話とかで訊いた事あるんだよ?? そんなの嫌だよーっ! 幽奈ちゃんもだけどボク、皆と一緒が良いんだからっ!」
ホムラの言葉に驚きつつ反対の意を唱えるこゆず。
少々声が大きかったのが悪かった。見回りをしていた妖怪に声を聴かれてしまったのか 近付いてきているのを感じた。
「っ……コガラシ」
「おう」
素早く 目配せをして コガラシは右の岩陰に避難。ホムラは、狭霧と一緒に左側の岩陰に素早く移動。
その数秒後、気配だけではなく声も聞こえてきた。
「……気のせいか? この辺から声が聞こえてきたんだが」
どうやらはっきりと訊いた訳ではなかった様で、そのまま通り過ぎていった。
「ふぅ……こゆず。ちょっと声をおとせ。な?」
「う、うん…… ごめんなさい……。で、でも 嫌だからね? ホムラ君やコガラシ君がいなくなっちゃうの。狭霧ちゃんだって嫌だよね?」
「……と、当然だ。幽奈や仲居さん、呑子さんだって悲しむだろ」
「……じぃー 狭霧ちゃんも、だよね?」
「む……あ、ああ。
「あははは…… 大丈夫だ。そんな事になったりしない。ちゃんと皆でゆらぎ荘に帰れるから安心しろ。って事でここからは狭霧。幽奈を任せる。オレとコガラシは 手筈通りに動くから」
ちょいちょい、とコガラシを手招きして呼び出す。
「おう。オレは何時だって行けるぜ。何より、それが一番手っ取り早い」
「よし。思いっきり行けば、狭霧の隠密性もより増す。そう言うの大得意だったよな?」
「忍の文字が入っている軍だ。……その程度出来ない訳はないだろう」
すっ…… と視線を鋭くさせた狭霧。まるで存在感そのものが薄れたのか ピントがズレた様に狭霧の姿が一瞬ぼやけた。
「流石」
「すげぇな狭霧。目の前にいるのに」
「ふん。貴様らの方が大役だぞ。……大丈夫なのだろうな?」
「おう」
「任せておけ。こゆずは狭霧と一緒に頼む。こっちは力技になりそうだ」
「うん!」
「よし。作戦開始だ」
こゆずは、ホムラの肩から狭霧の方へと移る。
それを確認した狭霧は、ロープを繋いだ苦無を城壁に撃ち込んで 一気に跳躍。まさにフックショット。任○堂 某ゲームで出てくるアイテムみたいに器用に使う狭霧。
「う、おお…… アレ良いな……?」
「あんな器用な事出来ると思う? オレ達が」
「無理」
それは 自分達が力技主体である、と自覚しているからこその言葉だ。
狭霧の様に道具や武器を器用に使いこなせる訳もなく、高度な術を行使する事も出来ない。妖気探知は とある師匠…… 師匠………の
「……さて、狭霧は見送ったし」
「んじゃ、やるか」
2人は城門の方へ歩いていった。
そこには見張りの兵士が左右に2人見張っており、当然遮蔽物など無いから 視覚的に見つかってしまう。
「む……? 何奴!?」
「そこの者ども! 止まれい!」
刺又を構えてながら 迫ってくるが 御構い無く2人は大きく息を吸い込むと……一気に吐き出しながら叫んだ。
「おいコラ色ボケ黒龍神! 幽奈を解放しろーーー! 恥ずかしくないのかーーっ! いきなり嫁(笑)ってーー! バカみたいだぞーー! そんなカミサマはサイテーだぞーーっ!」
「カミサマの癖に、何 人里で堂々とセクハラしてるんだーー! わいせつ行為だぞーーっ! 犯罪行動だぞーーっ! そんなカミサマで良いのかーーっ!? ってか、そんなん笑い者もいいトコだぞーーっ!」
それは本当に幼稚染みたモノなんだけど、これが効果は抜群だった。
『ほぉう………!? 百歩譲って不審者はまだ目を瞑るが、余を犯罪者扱いとな……? 余を笑い者……だと!??』
怒れる龍となって、なんと直接本人が城から出てきたのだ。
どっしり奥で構えているだろう、と予想していたが ここまで出てくるとは予想してなかった様だ。
「犯罪者はまぁ判るとして、不審者? なんで?」
「……さぁ」
怒れる神サマを前に陽気な2人。
「……………」
そんな2人を射るような視線を向けているのは黒龍神の従者・朧。
「どういうつもりだ。……人間如きが」
如何に幼稚とは言え 主君を馬鹿にされておいて黙っていられる程寛容ではない。
直ぐにでも斬り割こうと腕を剣に変えかけていたのだが…… 主の方が早かったから刃を収めただけだ。
だが、それ以上に解せないと感じていたのだ。
ここまでこれられた以上、2人はただの人間ではないと言うのは判る。
霊能力者である事は幽奈が攫われた際に2人の存在については こゆずの口から聞いていたから。
霊能力者であれば 黒龍神と言う存在がどういうものか判らない筈はない。
攻め入る事の意味が判らない筈はない、と感じていたのだ。
「貴様らには相応の罰を与える……が、その前に聞きたい事が随分とある。……余の幽奈をどこまで辱めたのか、全てを吐かせてから黒龍神自らが罰を下そうではないか…………!!」
額に怒りマーク(四つ角?)を沢山作っている黒龍神 玄士郎。
「んーー……。幽奈に色々してるのは、コガラシだよな? オレはした事なんて無いし」
「んな!! 変な言い方すんなよ!!! ふ、不可抗力っつーのがあるだろ!!」
「……ほほぅ。不可抗力ぅぅ…………?」
2人とも標的だったんだけど、このやり取りで主にコガラシに移ってしまったのは言うまでもない事だった。