「さぁてぇ……どうしてくれようかのぉ………」
青筋いっぱい顔面に作ってる龍のカミサマ。何だか威厳もへったくれもない気がするけど、今はそんな事より幽奈だ。
これだけ盛大に正面から暴れれば? 警備もこちら側に集中して 狭霧も行動しやすい筈だろう。案の定、龍神の周囲にはその従者らしき妖怪や警備を担当している妖怪たちが増えに増えてきていたから。
「つーかよー、龍神サマ。わいせつ~は置いといて、幽奈を嫁にするーって 言ってたらしいけど龍と幽霊で結婚なんてできるのか?」
「聞くトコそこか……? まぁ 気になると言えばそうだが」
コガラシの疑問は幽霊である幽奈との結婚の事だった。実体の無い幽奈。モノに触ったり、ある程度霊感がある者であれば認識出来たり触れたりはするんだけど、基本的に幽霊だし。
それを訊いた龍神は ふんっ! と鼻息荒くさせながら言う。
「古代より龍族は、異種類婚によって子を成してきた。必要なのは霊的遺伝子たる魂。肉体の有無など些末な問題よ」
「へぇ~~」
「成る程……。んじゃオレもひとつ。なんでまたカミサマが温泉街に? 湯浴みだったら こんな立派な城があるんだし、そう言う場所だってあるんだろ?」
人界に神族が降りてくる事は頻繁に起きたり…… は流石にない。 そんな事が頻繁に起こったりすれば、人に仇名す妖怪を滅する事を生業としている誅魔忍軍とかにはたまったもんじゃないから。基本 人間にはどうこうできる存在じゃないから。
「ふん。知れた事よ。源泉が沸く地、それは霊脈の集中地点でもある。温泉のせいぶんとやらは関係ない。余の身体に合う霊脈の中心地。それが温泉郷よ」
「んで、来たついでに 幽奈をナンパした、と。……神って オレには結構硬派なイメージなんだけど、崩れたな」
「やかましいわ! 余の目に適ったのが幽奈よ! 妻として娶るのは当然!」
何が当然なのかはわからないが、コガラシが言う様に結構な色ボケである事はよく判った。
「貴様ら。好き勝手聞きおって。余も聞きたい事が山ほどにあるのだ! 確かそちら側の男。貴様は余の幽奈と夜な夜なえっちなことに勤しんでいたそうではないか!!」
「はぁぁ!?」
「……そりゃ、強ち間違いって訳じゃないよなぁ」
「よけーな事言うな!!」
「ほれ見てみぃ!! 証言者もおる! 吐け! ど、どこまでいったのだ……!? よ、よもや…… せ、せせせ…… 接吻までも!?」
「してねぇよ!!」
明らかに先程より平常心じゃないカミサマ。
それを見たホムラは。
「(コガラシ。ある程度時間、稼ぎたい。その話をもっと繋げろ。そこで終わらすな)」
「(わーってるよ。幽奈とオレの関係が気になって仕方ないらしいし、……なんか納得いかねぇが ホムラは容疑? から外れたみてぇだからな。何とかする)」
と言う事で作戦開始だ。
「おおう……、そうであったか! 幽奈の初物は余の為に残されておったか……」
「まぁ……、接吻はしてねぇよ? だけどそれ以外の事ならそこそこやってないとも言えねぇー………かな?」
「何ィ!?」
安心しきってたカミサマは再び目を見開いて、コガラシを射貫く様に睨んだ。
「な……、何をしたと言うのだ……!?」
「な、何を……だと思う?」
「こ、この小僧めが! 吐かんか、小僧ーーー!!」
頭から湯気出てる程にまで血が上ってる様子だ。
「(かかったぜ! これなら 結構時間稼げそうだ!)」
「(まぁ、あんま調子に乗らすような事は言わない方が良い……かもな。やんわりと、それでいて興味を持ちそうな事、それを選べよ?)」
「(任せとけって)」
と、意気込んだのは良いんだけど そこから10分後の事。
用意させられた搾木の上に正座させられたコガラシ。
世に言う《石抱》と呼ばれる江戸時代に行われた拷問のひとつだ。今はまだ石を乗せられてないから比較的マシだけど、どこまで重ねられるか……。
「ふ……、良い恰好ではないか。貴様がしてきた報いを考えれば当然。これも貴様の罪状のひとつだと心得よ!」
「ほーら、言わんこっちゃない…… 調子に乗って言いまくるから」
「や、喧しいぞ! てか、なんでホムラは何にも無いんだよ!」
「何にもなくはないだろ。縛られて吊るされてるし。うぅ……腕抜ける…… いたいよぉー」
「演技くせ!!」
「ほほぅ…… 小僧。貴様はまだまだ余裕がある様だ。特別さーびすとして、増やす石を倍にしてやろうぞ! さぁ、石を乗せよ!」
石。それも二枚ずつとはなかなかに情熱的だ。
「ちょ……!! (マジで調子に乗り過ぎた……。狭霧急いでくれーー!)」
幽奈や狭霧が無事でない以上、むやみやたらに暴れるのは得策ではないだろう。と言う事で狭霧に期待をする2人だったのだが……。
その希望は潰える。
「玄士郎さま。曲者を捕らえました」
ひとりの従者。それは 最初に龍神と対面した時にはその傍らにいた片目眼帯の従者が現れた。
その傍には 幽奈が……、そして 手下であろうか、半魚の妖怪に自由を奪われた狭霧も一緒だった。
「幽奈! 狭霧!!」
「………!」
「コガラシさん。ホムラさん……!」
苦悶の顔を浮かべている狭霧と、心配そうに見つめてる幽奈。
「もう一匹の子だ抜きを取り逃がしてしまいましたが、現在捜索中です。その男どもと共に、幽奈さまをさらいに現れたのでしょう。……しかし、この狭霧という娘もなかなかの霊力の持ち主、玄士郎さまの側室に迎えてはどうか……と」
「おおぅ……」
狭霧の身体。霊装結界が破られ、所々が露出している過激ともとれる格好になっていた。
当然ながら、幽奈以上の身体…… 豊満な胸にくびれ、容姿もトップクラスだと言う事でカミサマは即決。
「狭霧といったな! 合ーーーー格ーーーーっ!! くはーーっ!」
サムズアップしながら、鼻血まで出すと言う、最早神の威厳もへったくれもマジでない姿。
「そういってくださると思っておりました」
好き勝手やり続けるこの龍族たちにそろそろ頭に来ていたコガラシ。
「おいお前ら。あんま好き勝手言ってんじゃねーぞ」
「正座で凄まれてものぉ……」
「あぁ!? お前がやったんだろ!!」
確かに正座された状態で、啖呵切ろうにも 見下されている視点だから 何とも思わないどころか滑稽に映ったのだろう。
でも、そろそろ怒りを覚えてきたのはコガラシだけではなく、ホムラも。
「……とりあえず、狭霧も幽奈も無事だったんだ。もう、良いんじゃないか?」
「っ……。ああ。そうだな」
その怒気はコガラシの範囲までに伝わる様に放つホムラ。
威圧的なオーラ? を出せば、場に緊張が走ってしまう事を見越して範囲を限定させた。この手の捜査はコガラシよりも器用である。
「ま、まて。ホムラ。それに冬空コガラシ。……ここは退くんだ。そこの眼帯の従者1人ですら、私ではまるで相手にならなかった……やはり、人間が手を出していい相手ではなかったのだ……」
あのいつも強気な狭霧が完全に敗北を認めていた。
眼を瞑り、悔しそうに背けている狭霧。……いつもの強気な狭霧は何処にもない。
「あ、あの!! わたしはあなた方に従いますから、狭霧さんはどう「それ以上言うな、幽奈」っ……!」
自分が犠牲になる。と言い出すのが見てわかったホムラは 最後まで言わせずに遮った。
「んっ……しょ」
力任せに、縛られてたロープを引き千切り、手かせも落下の勢いで砕く。
「貴様。これ以上狼藉を図るか!」
狭霧を捕らえてる半魚の妖怪がこちら側に睨みをきかせてくるが、……それは、最大の悪手。
「狭霧を―――――離せ」
鋭く、射貫く眼光が 半魚妖怪の目に叩きこまれた。
その瞬間、金縛りにでもあったかの様に身体が全く動かせなかった。声も出ない。
「っ…… (なんだ、この気配は……? この男…… 本当に人間……?)」
直接叩き込まれたわけではない眼帯の従者、朧は 動く事は出来ているが、それでもその威圧の片鱗は横で感じる事は出来る。
そして、ホムラの言霊は再び発せられた。
「聞こえ―――無かったか? もう一度言う。狭霧を―――― は な せ!」
ずんっ! と場の空気が一段と重くなったのを感じた途端、半魚妖怪は 口から泡を吹いて地に伏した。
「……馬鹿な」
何もしていない。ただただ凄んだだけで、部下の1人が行動不能にされた事実を目の当たりにして、言葉を失う朧。
「貴様………!」
興奮しっぱなしだったカミサマもただならぬ雰囲気を十分に感じた様で 立ち上がろうとしたのだが、そこはコガラシの出番だ。
「なぁ、龍神さまよ。質問に正直に答えようか? オレは幽奈と……一緒に風呂に入るくらいの仲だ」
「!?!?」
さっきまで、狙いはホムラだったのだけど コガラシの衝撃発言にアッと言うまにコガラシに変更。
その隙に 狭霧の傍へと移動するホムラ。
「(いつの間に……!?)」
「大丈夫か? ったく、無茶して……」
「ほ、ホムラ? ば、ばか! 今は冬空コガラシが! あの馬鹿、挑発をして……っ!!」
「大丈夫だって。幽奈が無事なら。……狭霧も無事だったのなら、こっちのものだ。もう付き合う事もない」
そう言ったと殆ど同時に、龍神の蹴りがコガラシを捕らえた。
その威力は、遥か高い天井部にまで到達し、大地を揺らす程の威力。
「こ、コガラシさぁぁんっ!!」
思わずそれを見た幽奈は泣き叫ぶが、ホムラはただただ笑う。
「大丈夫だ。あの程度でどうこうなる体じゃない。そんな軟な鍛え方されてないよ」
「な、なんだと!❓ あれじゃ 普通は助からんぞ!」
「普通じゃないんだ。悪いケド……なッ?」
パシッ! と受け止めるホムラ。
受け止めたのは、朧の攻撃。腕を刀に変化させて斬りこんできた。
「私の前で無駄なお喋りとは良い度胸だ。……下郎め」
眼にも映らぬ速さで距離を取る朧。
「どんな霊能力者であれ、玄士郎さまの本気の蹴りを受けて生きていられるはずがないであろうが」
「あぁ。普通な霊能力者じゃないんでな。コガラシは。……論より証拠だろ? 見てみろよ」
敵から目を離す様な愚行を犯してはならないのは基本だ。基本中の基本……なのだが、こればかりは朧を責める事はできないだろう。
蹴り飛ばされたコガラシは勿論無事だ。その勢いで手かせ、拘束が完全に解かれていた。
カミサマが高らかと 幽奈や狭霧と『初夜を迎えるのだぁぁぁ!』と宣言した途端の事。
素早く、そして 深く間合いに移動。瞬間移動でもしたのか、と思えるほどの速度で飛び込んだコガラシは、その勢いのままカミサマの腹部を殴りつけた。捻りを加えたコークスクリューパンチは、腹を抉り そのカミサマの体をも浮かす。幽奈のポルターガイストではビクともしなかった身体がいとも簡単に吹き飛ぶ。
「なぁ………!?」
「んな事させねぇよ」
明らかに先程のカミサマの…… 玄士郎の攻撃よりも遥かに強い一撃は、城の一部を貫通、崩落させながら天井部へと激突。更に落ちてくる様子はない。あまりの威力で深くめり込んでしまったからの様だ。
「オレは、オレたちはな。以前出鱈目に強い霊能力者の霊に、憑りつかれた事がある。無理矢理に弟子入りさせられたが……そのおかげで、地獄の修行と試練の果てに、この力を手に入れた」
「厳密にはオレは少し違うけどな。憑りつかれたのはコガラシだけだって」
「似たようなもんだろ。オレ達は2人であの地獄の課題を突破したんだぞ」
「……それもそうか」
地獄の修練は、2人に人外な力を齎せた。
神であろうが、悪魔であろうが、妖怪であろうが それらを凌駕する程の力を。
勿論、倒せない相手もいる。
「つまりだ。オレらは神様だろうが悪霊だろうが、関係ねーって事だ。オレらがぶっ飛ばせねぇのは女だけだからな」
そう、女に手を上げるのはNG。
そしてこれは とある人物の名言。
『男は女は蹴っちゃならねぇ! そんな事ァ 恐竜の時代から決まってんだ!!』
それが2人にとっての全てである。