いつもの学校。いつもの授業。いつもの平和。
そんな何事も無いいつもの風景……だったんだけど、1つだけ違う所があった。
「…………」
放心状態、と言うかげっそりしている、と言うか 心ここにあらずなホムラである。
時折気になった兵藤や柳沢が声をかけるも、なかなか反応してくれず、身体を揺さぶるとどうにか反応してくれる。それでも聞いてなかった様だが。
いままでそんな事無かったから、宮崎も気になった様で、幽奈に訊いてみる事にした。
「……ねーねー、幽奈さん。夏山くん、何かあったの? 近頃ずっとあんな感じなんだけど……」
授業中にこっそりと少々筆談をするのも恒例になってきている。
勿論、しっかりと授業内容も理解した上での事。
『あ、あははは…… そのー、ホムラさんは毎朝、いえ、毎朝と毎晩色々大変みたいで……』
「え……? 朝と夜にバイトとかしてるって事??」
『いえいえ、ここ最近はそこまで多くは……。 え、えっと……そ、その~』
幽奈が何処となく話しにくそうにしているのは宮崎にも判った。
口に(筆談)出しにくい、と言う事は 霊能関係だろうか? と宮崎は思った様で。
授業が終わった休み時間。今度はコガラシに訊く事にした。
「ねぇ、冬空くん」
「ん? どーした宮崎」
「その、夏山くんなんだけど……、どうかしたのかなぁ? あんなに 元気ないと言うか、生気ないと言うか…… 体調不良にしてる夏山君初めて見たからさ」
「……あー」
コガラシは宮崎の話を訊いて、頭をポリポリと掻き出した。
「まぁ、アイツも色々と大変なんだ。でも、宮崎も心配する程の事じゃねーって思うぞ。なんたってホムラだ。どんな事だって、さらっと涼しい顔して乗り越えてきてたし、今回も時期になる様になるって」
「うーん……。まぁ 付き合い長い冬空君がそう言うなら……」
と、引いた宮崎だった……が。
その後もやっぱり心ここにあらずな状態は続く。抜け殻!? って思いたくなる様だが、ちゃんと授業中は話聞いてるみたいで、当てられてもしっかりと答えているし、体育中も自分の順番が来たら、しっかりこなしてる。
全部をそつなく熟してるから、確かに大丈夫かな? とは思っちゃうんだが それでもやっぱり心配してしまうのは宮崎。
「ねぇ幽奈さん。今週末にゆらぎ荘に遊びに行っても良いかな? こゆずちゃんにも会いたいし!」
『勿論、大歓迎です~~!』
ホムラの事は一切話題に入れず、ゆらぎ荘への訪問を決めた。
こゆずに会いたいと言う理由も勿論本当だから 嘘を言ってる訳ではないし、誤魔化しても無い。ただただ、気になるから。
そして、あっという間に今週末――金曜日。それも十三日の金曜日。
□□ ゆらぎ荘 □□
黄昏時で、夕焼けの空の下。綺麗に彩るゆらぎ荘――だけど、何処か不気味にも思える。
「ここが……、幽奈さんたちの住んでるゆらぎ荘……。な、なんとなく予想はしてたけど、まさか本当に
それは、ゆらぎ荘が 激安下宿になる前の名。
怪奇現象が続き、潰れたと言う温泉旅館の名が ゆらぎ庵。
閉館後も幽霊が出た、化け猫を見た、等々 恐ろしいウワサの絶えない場所であり、この辺りじゃ有名な心霊スポットの1つだった。
「……カワイイ管理人さんがいる賃貸アパートになってる、って噂もあったけど、本当だったんだ……。でも、今思えば噂の幽霊って幽奈さんの事だったんだなぁ……。う、ぅぅ 夏山くんや幽奈さん、こゆずちゃん、冬空くんが住んでるんだし、こ、こわくない……筈なんだけど、やっぱり……」
ここの妖気? か何かにやられてしまって、ホムラが大変なのでは? とも考えたが、その点は違うらしい。何でも ホムラとコガラシの2人組は相当強い霊能力者だとか何とかで、生半可な霊などでは ビクともしない、との事。宮崎も実際に助けてもらった事もあるから、その辺りは信じられる。……けれど、心配なものは心配だった。
「夏山くんもそーだけど、冬空くんと幽奈さんが同じ部屋に住んでるって言うのもなぁ……、どんなのか確かめなきゃだし。場合によってはこゆずちゃんの情操教育に良くないと思うし……。その辺りも夏山君に相談してみたいし……よしっ」
意を決して、がらっ と扉を開いてみると―――そこには、日常とはかけ離れた光景が広がっていた。
殆ど全裸な女の子が、ホムラを押し倒している。
ぎゅっ、と強く目を瞑っていて、顔は真っ赤な茹蛸。もう されるがままに~ と言った様子。
ぎょっ、と驚いている宮崎。丁度、ホムラを押し倒していた女の子と目が合い……。
「……ふむ。興が削がれたな」
と言いながら、ホムラを解放していた。
誰かが来たのを感じ取ったのだろう。ホムラは、女の子…… 朧を見ない様に すっ と素早く立ち上がると、宮崎の方を見た。
「あ、ああ…… 宮崎さん。来たんだね……。いらっしゃい。こゆずも楽しみにしてたよ……」
「な、夏山君!!? し、しっかりしてっっ! 今、すっごい顔になってるよ!?」
思わず駆けつけてしまう程、疲労困憊なホムラを見て、ホムラに朧が裸で大接近! と言う衝撃映像は頭から消えてしまった様だ。
「朧ぉぉぉ!! それにホムラぁぁぁぁ!!」
そんな時に 殆どいつも通りになりつつあるタイミングで狭霧が乱入してきた。苦無の乱れ打ち! がいつものパターンなのだが、宮崎がいた事で、とりあえず それは止める事が出来た。
「いつもいつも言っているだろう! 人間の世界の節度と言うものを身に付けろと!!」
「ふむ。確かにそれも大事だと思っている。私とてお前達とは友好関係を築いておきたいと思っているからな」
「む! ならば行動で示せ!!」
バチバチバチ、と火花が飛ぶ両者。否、狭霧の方が一方的だ。
朧は そんな狭霧の剣幕に何の反応も見せない暖簾に腕押し状態だ。
「だがしかし、私はそれ以上に夏山ホムラの子が欲しい。それを第一優先にしている。節度とやらは後回しだ」
「だぁぁぁぁぁ!! 全く判っておらんではないか!!!」
キーーンッ! とゆらぎ荘中に響く狭霧の怒声。
その声に皆が集まってきた。
「あ! 千紗希ちゃんだ!! わ~~い! 千紗希ちゃ~~ん! ほんとに遊びに来てくれたんだ!!」
「え、えっと あ、こゆずちゃん?」
狭霧と朧のせいで 殆どフリーズしていた宮崎だったが、こゆずが抱き着いた事でどうにか正気? に戻る事が出来た様だ。
「ひさしぶりだねー、こゆずちゃん。……で、でも 今はそれどころじゃないんじゃ……」
喧嘩しそうな2人を見て、動揺してしまう宮崎にこゆずは笑いながら話した。
「あははっ、朧ちゃんと狭霧ちゃんは、知り合ってからはいつもあんな感じだよ? ホムラ君を取り合ってるんだー。ほんとモテモテだよねー」
「……そう、なんだ。(夏山君、やっぱりモテるんだね……… あれ? なんだろ……胸が)」
あはは、と笑いながら言うこゆず。
こんな衝撃映像がいつも通りな風景がいつも通りだと言う。
喧嘩する程仲が良い、とは言うが宮崎は苦笑いが止まらないのと同時に、ここ最近ホムラが疲れてしまっている理由がよく理解できたようだ。
そして、何処か2人を見てたらチクリと胸に引っかかる物があった。
「ほら、宮崎。こっちこっち。こいつらがやり合ったら周りなんか見えないっつーか、見てないからあぶねぇぞ」
「あ、冬空くん」
『千紗希さん! いらっしゃいませ~~』
「幽奈さんも」
コガラシと幽奈も合流し、とりあえず宮崎は言う通りに離れた。無論ホムラも一緒だ。
「……基本的に、2人がこうなったら離脱するのが一番手っ取り早いんだ。色々と冷めるまで待つのが一番。触らぬ神に祟りなし、とはまさにこの事だ……」
その横でホムラが頭を掻きながらため息。朧は
『ホムラさんには刺激が強過ぎって感じです……。朧さん程積極的な子は今までいらっしゃいませんでしたし』
「アレは行き過ぎだって……」
「オレはホムラのおかげで助かってる感じだ。サンキュな?」
「……コガラシも毎朝ぶっ飛ばされて水責めだし、それを考えたら少しくらいは、って最近思いだしたよ……。サンキュ、と言うならせめて狭霧をどうにかしてくれ」
「そりゃ無理」
「……はぁ」
その後は、朧と狭霧は一先ず置いといてコガラシは玄関口へと向かった。
「オレ、バイト行ってくるわ。今日は泊まり込みになりそうだから、多分明日になると思う」
「あ、はい。了解しました。気を付けてくださいね? コガラシさん」
「あ、冬空君、泊まり込みでバイトなんだ。大変だね……?」
コガラシは軽く笑いながら、自身の学ラン、一張羅を見せながら言った。
「以前に、オレの一張羅ボロボロになっちまったからな、早く新しいの買いたいんだ。毎日こゆずに作ってもらう訳にもいかねーし」
「制服って結構良い値段するんだよな……。オレも何とか掛け持ちバイトでいけた。コガラシの方は オレが紹介した。掛け持ちじゃないけど深夜手当が出るから、割りに良いバイトなんだ」
「へぇ……、あはは、何だか夏山くんが紹介って、なんだか夏山君自身がサンキュー・ワークみたいだね?」
宮崎は笑いながら言ってた。コガラシのバイト先、その紹介をした事は何度か学校で訊いた事があった。何でも、普通じゃ探しにくかったり、あまり良い所が見つからなかったりらしいのだが、ホムラの紹介だったら あら不思議。給料面も色を付けてくれたり。つまり信頼、信用されている証拠なのだろう。
「まぁ、この辺りに限っては オレの方がコガラシより先輩だからな。3カ月だけど」
「……いやいや、マジで助かってるよ。まさに、サンキューだ」
「おう。頑張れよ……コガラシ」
コガラシは涙目になるまでになって感謝を伝える。気持ちは痛い程判るから、ホムラはうんうん、と頷いていた。
「うぅむ。あれ程の力を持ちながら、借金苦とは……、理解に苦しむ所だ」
「いや、関係ねーだろ?」
「力って……、オレ達を何だと思ってるんだよ……」
力がある、と言うのは確かに認めるが、それとこれとは話が別。力を存分に活かしたバイトはしているが、それでもバイトの域だ。……つまり、堅気な仕事以外をしろ、とでも言うのだろうか、朧は。
「ああ、コガラシ。お前のトコのバイトだけど……、たまに早めに上がったりする時あるから、気を付けろよ?」
「うん? どういう意味だ?」
「ああ。多分、今日宮崎さんは、幽奈と一緒に泊まるつもり、だろう?」
ホムラは 幽奈の方を見た。それを聞いて横からぴょんっ と割って入るのはこゆずだ。
「ボクも一緒だよー! 幽奈ちゃんと千紗希ちゃん、皆で一緒に泊まろうよ!」
『はい~ 私も一緒が楽しそうで良いです!』
「あはは。うん、そのつもりで学校でも話してるよ」
宮崎の泊まる部屋は幽奈の部屋……つまり、コガラシの部屋だ。
「ほら、コガラシ。ひょっと仕事が早く終わった時だ。オレの部屋に来て良いぞ。流石に4人は狭いだろ?」
「あー、成る程。確かに そうだな。んじゃあ、終わったらホムラんトコにお邪魔させてもらうわ」
「ああ。……鍵、閉めても意味ないって判ってるし、開いてるから好きに使うと良い」
ホムラの言っている意味がよく分かる鍵を閉めても意味ない、と言う部分。何故なら、朧がその横で きらりっ、と目を光らせているから。
「あ、その…… ごめんね? 冬空くん。私が閉め出しちゃうみたいで……」
「いやいや、構わねぇさ。女同士の部屋に男ってのもヤバイし。丁度良い」
「あ……、そ、そうだねー。ありがと」
「……そんなトコにコガラシが入ったら、十中八九どうなるか判るし、先に対処するって感じだよ。宮崎さんも……、判るよね?」
「まぁ……ね。まだ短い付き合いだけど、何となくは……」
あはは、と乾いた笑みを浮かべる宮崎とホムラ。コガラシも何処か遠い目をしていた。
「後は狭霧」
「……なんだ」
「……頼むから部屋で暴れないでくれ」
「や、やかましい!!」
朧が乱入してきたら大体狭霧もセットだ。気配で判るらしく、その察知能力はホムラ関係では倍増しになるらしいから。はた迷惑な話だが。
「んじゃ、今度こそ行ってくる」
「ああ、親方さんに宜しくな?」
「いってらっしゃいませ~~」
こうして始まる宮崎 千紗希さんとゆらぎ荘。
こゆずは、大好きな宮崎が来てくれて、宮崎にとっても幽奈と沢山話ができ、こゆずとも話ができ、楽しい楽しい修学旅行気分。
普通なら、何事もなく、このまま楽しく平和に終わるだけだろう。
――だが、それらの単語は このゆらぎ荘では一番 そぐわないもの なのである。