超スランプ中です( ;∀;)
「………………狭霧だな」
「む。ああ、そうだ」
まさに今のホムラは、明鏡止水。
如何に誅魔忍であり、苦無術から分身の術と様々な術を習得し、気配絶ちも勿論十八番な狭霧とはいえ、ホムラの察知能力からは逃れられはしなかった。
少しだけ複雑な狭霧だったが、短い合間でも修練を積み続けているホムラの事は感心している。決して自身の力を過信しない所も当然ながら。
「大体ホムラが終える時間を仲居さんには確認したのだが、……すまない。修練の邪魔をしたか?」
「いや、大丈夫だ。……もう終わった所だから」
「そうか。……ほら、仲居さんから差し入れを頼まれた」
「ん。ありがとな」
ひょいっ、と渡されたのは ゆらぎ荘の温泉上がりには定番! 珈琲牛乳だった。
受け取ったホムラは蓋を開けると、きゅっ といっき飲み。
「さて、夏山ホムラ。一杯飲んだ後は一発私とヤらないか?」
「んぐっっ!! ごほっ ごほっ!」
ホムラはついさっきまで、狭霧の接近をすぐに察知。明鏡止水状態だったのに、終わった事と一息ついて珈琲牛乳を飲んでた事が重なって、散漫になってしまっていたらしい。
が、それは言い訳である。
空間を移動してきた朧に気付く事は確かに難しいが、殆ど半裸状態で急接近されるまで気付けなかったのは落ち度だと言えるだろう。
「朧! 貴様と言うやつはそれしかないのか!!」
「私の目的は最初から伝えているであろう。夏山ホムラの子を授かる事だ。手段を選ぶつもりは毛頭ない。が、公衆の面前で行わない、と言う点に関してはちゃんと従っているぞ。人間界の常識とやらで」
「ゆらぎ荘内でも当然却下だ! 馬鹿者!!」
と、狭霧と朧が言い争っている隙にホムラは脱出。朧の抱きつきを受けた時硬直するのは止められない様だが、いつも一瞬でも隙を見つけては脱出するのがホムラだ。それなりに耐性はついてきたのだろう。それなりに――だが。
「………はぁ、カンベンしてくれよ、朧。正直身体に悪い……」
頭を掻きながら 苦言を呈するホムラ。
ある意味修行時代。あの地獄に匹敵するかもしれない? と割と本気で考えてしまっていたりもした。
そして、その後姿をじっと見た朧はある事をホムラに聞く。
それは、時折想い、そして一度でも頭に過ぎれば、なかなか離れてくれない事だ。
「夏山ホムラ。一つ聞きたい」
「ん? なんだ?」
この時、朧は自然と声に出ていた。狭霧の説教はまだ終わっていない様だが
聞きたかった事。ずっと感じていた事を。
「夏山ホムラは、私の事が許せないか?」
「……んん? 何だそれ。裸で迫ってくる事か? ……確かに止めて欲しいのが正直な所なんだが、許さない! とかじゃないのだが……」
朧の突然の発言に、ホムラもそうだが狭霧も少なからず困惑気味だったようだ。
朧はそのまま続ける。
「そのことではない。……私は、ゆらぎ荘の皆を傷つけたも同然だ。何よりも、私は雨野狭霧を殺めかけた」
「…………」
朧が気にしているのは、以前の黒龍神による幽奈誘拐事件の事だった。
どれだけ理不尽な事をしたのか、人間の世界に触れてみて、漸く理解し始めていた。だからこそ、しこりが朧の中で強く残っている。如何に他の皆に歓迎されようとも、どうしても考えてしまうのだ。 皆に何事もなかったかの様に、優しく接し、迎えてくれた。そのような資格があるのか、と思ってしまう。
確かに、任務が最優先。自分の感情など二の次にしているのだが、それでもだ。
そして、狭霧はまさか自分の話題が出るとは思ってなかったので、少なからず困惑したが 直ぐに首を横へと振った。
「いや、それはお互い様だろう。私はそんなことを引き摺るつもりはないぞ」
狭霧自身も殺す気で苦無を放った。やらねば やられると思ったからだ。狭霧が否定をしても、朧は考えを変えない。
「雨野狭霧はそうであってもだ。夏山ホムラは違うだろう? 私は、夏山ホムラが、雨野狭霧に対する強い情を、あの時感じたのだから」
「なななっ! い、いきなり何を……!!」
今度、狭霧が驚くのも無理はない。
あの時――黒龍神の城に潜入し 囚われてしまった時は自分の不甲斐なさ、最後はホムラやコガラシに頼らなければ解決しなかった事への無力さが殆どを占めていたのだから。
その事ばかり考えていたから、まさか ホムラが自分の事を~などと連想は一切出来なかったから。
「雨野狭霧を捕えていた時。夏山ホムラに昏倒させられた。……覇気、怒気、殺気。あらゆる感情を込めた眼力。門兵たちは ただ睨まれただけで気を失ったのだ。……普通ではありえない。私も直接叩き込まれていれば、どうなったか分からない程だった。……それ程までに強い怒りがあったとしか考えられぬのでな。私の目的の最大の障害だと思っている。……夏山ホムラが私に怒りを感じている。許せないというのであれば、私を罰して欲しい。許しを得るまで、如何なる事でも成そう」
朧は、少し混乱していた。
この場所には、ただいつもの様にホムラに迫る為だった。怒っているのかどうかの確認は 確かに篭絡させる為には必要だろうとは思うのだが、なぜ今聞こうとしたのか、なぜ、許しを請う様に口に出たのかは判らなかった。
龍雅家を守る事が全てである朧。如何なる手段を用いても、と先代黒龍神に誓いを立てている。
仮に、ホムラが許す条件に龍雅家の存亡を、と言えばどうするというのだろうか。
その先は、決別しかないのではないか。
「(……どうしてしまったのであろうな私は)」
少し俯きがちな朧。それを見たホムラは朧に対して軽く頭を叩いた。
「狭霧自身が引き摺るつもりはないと言ってるんだ。なのに何でオレがこれ以上怒ったりするんだ? それに狭霧が怒ってない事位は判ってたつもりだったし」
「……なら、なぜそこまで頑なに拒むというのだろうか。荒覇吐から勧められた書物では裸で迫れば、男はいつかは落ちる、とあった。他には他者に見られながらも燃えるものがある、複数でもあり、と」
「……なんてものを勧めてるんだ、呑子さん」
頭をがくっ、と下げるホムラ。
狭霧は、少々険しい顔をしているものの、何も口を挟む事なく、ただ見届けていた。勿論、如何わしい真似をしようものなら即座に止める準備をして。
「あのな? 朧。フィクションの世界、と言うものがあってだな……。漫画は結構ご都合主義で進んでいくもので」
「………ふむ?」
朧に説明するが、納得してもらえるのかどうかは怪しいから、とりあえず漫画の様に上手く進むなど早々ないものである、とだけ強調した。
「ならばなぜ、ホムラは私を拒むのだ? 私には胸が無いからだろうか?」
「何で急に
「好むもので無ければ やはりその気になれないのだろう?」
「そ、そんなわけ無い!! 断固否定する! そして狭霧は苦無しまえって!」
「ふんっ!」
今度は我慢できなくなりそうだった狭霧は、目を光らせて両手に苦無をもって構えてたので ホムラはきっちりと止めた。
「ならば、少年のような見た目だからだろうか? ……いや、そもそも人ではなく、私は神刀。人ですらないからだろうか?」
「って あぁーもうっ! 朧! 妖怪だろうと神刀だろうと女の子の姿をしてたら、女の子だって! 見た目とか、種とか、そんなの全然関係ない」
「……なら、なぜなのだろうか」
朧の表情は普段と変わらない。
でも、その表情には何処かいつもとは違ったものがある、と狭霧は直感した。だからこそ、口を挟まずに聞いていた。
「と言うか判らないのか……? その、朧は……子、子供を……なんだろ? そんなの好きあった同士。恋人。夫婦。伴侶……言い方はたくさんあるが、本当に好きになった同士じゃないと駄目だって事だ。オレ自身、初めての相手……っ。するつもりは無い!」
「っ………」
裸で迫る朧。
そして、朧だけでなく、夜々、呑子、幽奈、そして狭霧自身や時折 仲居さんも素肌を、裸を晒してしまう事が多い。その度に狭霧は強制的にホムラを止めていたのだが、最早不要なのかもしれない、と強く感じた。
「(いや、そうだった。……そういう、男だったな)」
狭霧は最初から判りきっていた事だった。ホムラが誠実な男であるという事くらい。
「……純な男なのだな。随分と。荒覇吐の文献ではこう言う男を草食男子と呼ぶらしい。あの時の夏山ホムラとは程遠いと思うが」
「……別に良いだろ、うるさいな」
「ふむ。なら私が取る行動は1つだ。最早、雨野狭霧がいようと関係ない。――――私は本気で私の事を好きになってもらうまでだ」
「っ! き、貴様は最初から私の事など考えていないだろうが!」
「では、日を改めよう。……さらば」
「逃げるな!!」
素早く別空間へと逃げられてしまった。歯ぎしりをする狭霧。
「はぁ……。ん?」
ホムラは 嵐がさった……と安堵していた所、扉の向こうに気配を感じた。
感じたのは2つ。1つは霊気を感じられるのだが、もう1つは妖気や霊気の類は全く感じられない。つまり、普通の人。
「宮崎さん? と幽奈もか」
『っっ……!!』
ホムラは名を呼びながら扉を開くと、そこには罰が悪そうに俯かせていた宮崎がいた。
「ご、ごめんねっ! そ、その盗み聞きするつもりはなくって……」
『そ、そうですそうです! え、えーと。こゆずさんがお部屋でトランプをするから、ホムラさんも誘おう~との事で! ね、ね? 千紗希さん』
「う、うん。でも、ほんとごめんね? 結果として その……聞いちゃって」
「いや、別に聞かれて困る事じゃない……と思うし。まぁちょっと恥ずかしいケド……」
「狭霧さんもすみません~~。勿論狭霧さんも宜しければどうですか? 多い方が楽しいですよっ」
「む……。そうだな。夜も遅いが少しくらいなら」
コガラシと幽奈の部屋へ移動した。
「わーい、ホムラ君! 狭霧ちゃんもいらっしゃーーい!」
「修学旅行みたいで楽しいですねー」
「トランプしよー! あー、あと恋バナっ! 皆の恋バナ聞いてみたいなっ」
「こいばなっ!?」
「あー、ボクとしては 狭霧ちゃんとホムラくんの事聞きたいなー!」
「べ、別に話す様な事は……!」
『凄く興味がありますっ!』
「わたしも聞いてみたいかも………」
大盛り上がりだった。
女の子4人に男子1人と言うのは聊かアンバランスな気もするが。
そして――それぞれの部屋へと戻る事が出来たのは深夜0時を回った後だった。