『飢爛洞が、復活しました』
そして話は急展開を迎える。
コガラシが決勝戦で強敵ザクロを破り優勝した。
その後、まるで最初からそこにいると判っていたかのように コガラシは大会会場の外の海岸へと向かっていた。
向かった先にホムラがいたのだ。
どれだけ腕を上げたか見てやる、と言わんばかりに構えるホムラ。そして 同じく構えるコガラシ。
逢牙の修行を経て、一番の強敵ザクロと戦い、コガラシの力は想像をはるかに超えて成長をしていた。
故に、ホムラも《相応の力》で応戦する。正真正銘の全力の力で。
それは、武闘大会よりもさらに規模が巨大な戦いだった。
いつの間にか その海岸では観客がいて、席ができて、賭け事まで成立し、そして 大会でコガラシに敗れた者達も集っていた。
どちらを応援する訳でもなく、罵声をあげる訳でもない。
ただただ純粋に、想像をはるかに超えた子供達の実力を目に焼き付けたのだ。
そして 軍配が上がったのは……
『たった数日間。こんなに強くなるんだな……刮目せよ……だな』
『やっと、やっとお前に追いつけた。オレにとっては、たった数日じゃない。すげぇ長く感じたよ。……今は お前が先にいてくれて良かったって思う』
ごろんっ、と2人して倒れていた。相打ちと言った所だろうが、師匠同士での軍配は、ホムラに上がっていた。贔屓をした訳でもなく、ただ 最後に倒れたのがホムラだったからだ。
コガラシが先に倒れ、生殺与奪を言わば握ったのはホムラ。そこでトドメをするような事をせず、ホムラは持てる力を全て上半身に傾け、下半身の力を抜いて倒れた。
満足だ、と言わんばかりに。
これが縁で、師匠同士が手を組んだ。
お互いに終わりが見え始めていた師弟関係。だが、新たな刺激により、それは延長された。
互いに鍛え合い、そして 師匠同士もなぜか殴り、蹴り合って切磋琢磨していた。
因みに日常の会話は主に其々の弟子に関する事である。
『ホムラに女体は早すぎる!』
『あんたは弟子のコトえらく気に入ってんだね。どっちにしても女女言う性格じゃないだろうにさ』
『憑りつく女の霊は挙ってホムラに惚れこんで挙式まで上げようとしてるんだぞ? これが人間に行かないとも限らないらだろう??』
『いや、人間にいったのなら、そこは祝福してあげた方が良いんじゃないかい?』
『だから、そんなもん30年早い! 常に
『……なら、とっととホムラを喰っちまって夫婦にでもなっちまえば良いんじゃないかい?』
『っ~~……そ、それは……。私も帰る所があってだな……。それに、私は…… その……』
『全く。なーに可愛い顔してんのさ。……最後まで面倒見切れないのに、ホムラを縛るのはどうかと思うよ。吹っ切れないってんなら、盛大に背を圧してやんな。さいごは』
『うっ………』
からからと笑う逢牙。
ホムラ入れ込んでいるのがよく判る。師弟関係を超えてるであろう事も十分。だが、超えられない部分あるんだろう。その根幹を逢牙も知っているので、それ以上何も言わなかった。いつか、いつかは言うつもりだった。
でも、それが叶わなくなってしまった。
その原因が餓爛洞と呼ばれる存在のせいであり、そしてのちの大決戦である。
そして現在。話を聞き場は騒然とする。
「餓爛洞だと!? 馬鹿な!!」
「馬鹿な……!」
「ほ、本当なのですか? それ……」
朧、狭霧も、そして仲居もその名聞いて驚き隠せれなかった。
大多数は知らなかったようだが。だから疑問だった。その餓爛洞とはいったいなにか? と。
「……先代黒龍神様の仇だ」
「誅魔の里の教科書にも載ってたよ!」
「ああ……、だがその悪霊は百年も前に倒された筈……」
「おうよ。100前は帝都上空に現れてな。人・神・妖怪・幽霊。あらゆる者たちの霊魂を喰らっていった。日本中の霊能力者や神々、妖怪。その戦いで多くのモノが死んだ。……鬼も狐も、このあたしもだ」
そして現在。その大妖怪が復活を果たした。
時の実力者だけにそれを伝えて、秘密裏に対処した。
その決戦の舞台は 月の裏
まさかの宇宙空間での大決戦。生身では当然行けないので、全員が霊魂となりて、純粋な霊力のみで勝負に打って出た。
かつて強敵として、立ちはだかった妖怪たち。全てが結集して戦った。
だが、それでも餓爛洞は強大にして凶悪。次々に敗れていった。
そして―――ホムラも。コガラシを庇って消滅しかけた。
「ええええ!!」
「ほ、ホムラが死んだ!??」
「い、いやいや、ほら オレここにいるだろ? 死んでないから安心して」
話の最中に驚いて大声を上げて混乱するので、しっかりと諫める。下手に刺激してあげないでくれ、と逢牙に言い聞かせながら。
「まっ、何はともあれ、コガラシが全ての想いを背負って、必殺 霊・鋼・絶・覇!! って 餓爛洞をぶん殴って全てを終わらせたんだよ」
「おお!! 結局パンチなんだ!」
「凄いの。でも、夜々、ホムラが心配なの……」
「や、夜々……。大丈夫だから安心してって」
「ははは。その辺は大丈夫さ。溺愛してる師がしっかりと最後の手綱は握りしめてた。てか、死んじまったのなら、そこのホムラは何だい?」
生きてるのが一番の証拠。
そう言う事だから、心配は終わり、とした。
あの(ホムラの事以外では)冷静沈着な狭霧も心配に顔が彩られていたが、こちらもどうにか宥めた。
「とりあえず、昔話は終わりにして本題に入らないか? 逢牙師匠」
「なんだい? こっから並行世界の冒険とか、ザクロとの因縁決着とか色々とあるってのに」
何だか逢牙の言葉を聞いて、今度は目をキラキラさせている面々が増えた。
でも、申し訳ないが話は過去よりも未来だ。
「オレも同感だ」
コガラシは同調してくれた。勿論、コガラシ本人も一番の疑問だからだ。
目の前の師は……、確かに 目の前で成仏をした筈だから。
「……オレが未練を晴らした筈だ。それで、あんたは成仏をした筈だった。なんで此処にいるんだ? 師匠」
今度は皆が昔話よりも、コガラシの声の方に興味が移った。
「え、えっと どういう事、ですか?」
「千紗希さん。成仏すると、もうこの世に戻ってこられない筈なんです」
「降霊術等の一部例外はあるが……」
「あ、もしかして お盆が近いから!?」
色々と思案してみた。幽霊が戻ってくる事を考えれば、悪霊化するか、狭霧たちが言う様に降霊などの例外はあるが、どれも違うと首を横に振った。
「いやぁ、簡単さ。単純で簡単な話だ。あたしは成仏しそこねただけのこと。……何せ、餓爛洞が………、まだ現世に残っていると知ってね」
「「!!」」
その言葉に驚きを隠せれないのは、全員。
先ほどの話は全員が驚いて、何処か違う世界の話であると、夢物語の様な、空想上の話だと思っていた。でも、それがまだいる。簡単に世界が滅んでしまいかねない凶悪な存在がまだ此処にいるともなれば、当然驚く。実感は無くとも、驚きを隠せれない。
そして、逢牙は全てを話してくれた。
霊魂……魂だけは、決して消滅することなくあの世に流れていく。例え霊体が消されたとしても、その奥にある命の核……魂はあり続ける。流れる川……三途の川にのり、次の命へと宿る。
それは、あの大妖怪とて例外ではない。そして その三途の川で魂は見られなかったとの事だ。
あの大妖怪は悪霊となって現世に留まっている。
悪霊の定義は数多くあれど、共通しているのは人魂を纏っているという事。
《他者の魂を奪う》
それが悪事を行ったという証となるからだ。
とらわれた魂は悪霊が消滅すると、解き放たれる。100年前もコガラシが倒した時も 同じく無数の魂が解放された。――――そこで勘違いをしてしまったのだ。
あの餓爛洞は消滅したのだ、と。
だが、その実は違った。
人魂の纏い方も悪霊とバレない様に霊体の中、そして別の場所などに隠す存在もいる。その中で、餓爛洞は別格だった。月の裏と言う規格外極まりない場所に隠していたのだから。………そう、コガラシが吹き飛ばしたのは、餓爛洞がため込んでいた人魂の塊……貯蔵庫の様なモノだった。
「つまりあれだ。いまだに普通の霊のフリして、のほほんとしていやがる餓爛洞の本体を叩きに来たって訳さ」
「え? それってどういう……」
まだ、誰も気付けなかったが、この言葉を聞いてコガラシは気付けた。
なぜ、師匠がここに来たのか。……なぜ、こんな話をするようになったのか。…………なぜ、成仏せずに此処にいるのか。
「おい、待てよ師匠。それって」
「ああ。お前が考えてる通りだ。そこにいる天狐幻流斎の霊さ。今ゆうなって名乗ってるんだったか? ……違うね。お前は天狐幻流斎の霊だ。ゆうななんて名は存在しない」
「………え、えぇと、わたし、ですか? いえ、あの、人違い……じゃなくって霊違いじゃないですか?」
その言葉に疑いを持つ者は……いない。
「落ち着けよ師匠。オレたちが餓爛洞と戦ったのは中学2年の時、つまり3年前だ。その頃にはもう幽奈はとっくにゆらぎ荘にいただろ? ヤツな訳がねぇよ」
「そ、その通りだ! 3年前なら、ちょうど私がゆらぎ荘に派遣された年! その頃、幽奈は何御変りもなく………」
狭霧の中で、疑問が膨れ上がって来た。
丁度派遣された、そのタイミングだ。そして、呑子もそうだ。その年を境に、ゆらぎ荘で暮らし始めた。……これらが偶然ではない、としたらどうだろうか。
「ちょっとまつのじゃ。幽奈が御三家の一角……天狐じゃと!? 天狐家といえば、御三家の中で最も術に秀でた一族! そう考えれば支離術の呪いを解いたのも頷けるのじゃ」
「……湯之花、只者ではない、と睨んではいたが…… 合点がいったぞ。まさか、おまえが………先代黒龍神様の仇……? 餓爛洞………!」
厳しい視線が幽奈に集まる。特に直接的な関係がある朧は。
先代の黒龍神の仇である、と言っていた朧が一番表情が変わっていた。先ほどまでの幽奈を見ていた視線ではない。それはまるで――――……
「え、いや、そのっ」
幽奈は混乱し、何も言えなくなってしまっていた。
ただただ、自分はそんな存在ではない、と否定したかったのだが その視線が耐えられそうになく、声が出なくなってしまったのだ。
そんな中で、ホムラが立ち上がる。
「―――幽奈、下がってろ。朧も落ち着け」
幽奈の前に立ち、朧に声をかけるホムラ。朧も自分がどんな顔をして幽奈を見ていたか悟ったのか、気を取り直していた。
それを見てホムラはとりあえず1つ安心した。……だが、今は安心している暇などは無い、と首を軽く振る。
そして、幽奈と逢牙を遮る様に動いた。
「ホムラも もう大体判ってるんだろ? あたしが言ってからそいつを見てたしな。……こう言う念派、霊脈、そして霊波紋。それらを探る術に関しちゃ そこらへんの専門系の連中よりも遥かにお前の方が上。そんでもってこの中じゃ随一。餓爛洞とそいつ、両方をお前は知ってる。………答えないならあたしが答えてやる。餓爛洞とそこの天狐幻流斎が一致したんだよ。あたしが出張る理由はそれに尽きる。……もう、目の前でお前が消滅しちまうような場面を見るのなんざ御免だ。それにコガラシにも漸く訪れた平穏だ。………それを乱そうとするヤツが、あの悪夢を見せてくれたヤツが、おんなじ部屋で暮らしてるんだって、………てんで嗤ねぇ話だ」
立ち上がる逢牙。そして、コガラシも同じく立ち上がった。幽奈の傍にいる為に。
「どうするっていうんだ幽奈を」
「勿論。悪霊が行く場所はあの世さ。それが相場だ」
「させる訳ないだろう。オレ達が意地でも止めるぞ。納得できるかそんなもん!」
ぐっ、と力を入れるコガラシ。
だが、それを止めたのは 以外にも……ホムラだった。
「お前も下がってろコガラシ。……今の
「っ、何言ってやがる!!」
「ホムラの言う通りさ。……コガラシ。お前はこの2年ろくに修行してないんだろ? そんな体であたしを止められると思わない事だ。そんでもって手段に関してもホムラは合格。コガラシは不合格だ。一番の最善にして、最短はお前たち2人を離脱させること。……寝て覚めたら全て終わってる。―――――そうするつもりだ」
逢牙は力を少しだけ解放した。
とてつもない霊圧。ただその場にいるだけで吹き飛ばされかねない程の力を内包している。たった少し放っただけで、衣服がはぎとられた様になった。……普通の繊維ではなく、瞬時に霊装結界纏っていたので、それが千切られた様だった。
「無駄だ。手は出さないでくれ。皆」
静かに、それでいて圧力の籠った声が響く。
その圧は、逢牙とは全く違う種類のものだ。
隙を見て、朧が転送術で飛ばそうとしたり、かるらも同じく力では敵わぬ為、術で対応をしようとしたが、寸前でホムラの言葉で遮られた。
「へぇ、ホムラ。あんたは判っていて、あたしの前に立つっていうのか?」
「幽奈はやらせない。……そして、アンタを止めれるのは、オレだけだ」
その霊圧に気取らされる事もなく、ただただ逢牙を見据えるホムラ。
「ほほぅ……。まぁ、こいつらの話を実際に聞いたり、調査してみたりして、大体はこの天狐幻流斎と随分仲良くなってるのが判る。ほら、そっちの黒龍神に仕えてたヤツでさえ、今はもうあたしとやろうとしてる。そんな絆ってヤツで繋がっちまった奴らを断ち切るのは容易いなんて思ってもないさ。でもね、ホムラ。あたしも譲れない。暮らす世界は違えど、
逢牙は拳に力を入れた。たったそれだけの仕草で、霊能力値があっと言う間に上昇していくのが判る。尋常ではない程のモノに。それはかつての餓爛洞をも上回る。
対峙していたホムラだからこそ、鋭い眼を持っているホムラだからこそ 正確に把握出来た。 でも、それでも退かない。
「ちょいと一発入れて眠っててもらうよ。本気のあたしとやれるとは、思ってないんだろ? お前には全力。全身全霊で攻撃する。んで行動不能にして、ゆっくりとふん縛ってやるさ。それに 師匠として情けねぇって思うが、今のコガラシはあたしの1割の力がありゃ十分。……アイツは不器用で隠し玉、切り札みたいなのが無いのも解ってる。この力の差は埋まらないよ。……でも、ホムラ。……あんたは違うんだろ? さっきから、腕を抑えてるみたいだが」
ホムラは、言われるがままに腕を捲った。
いつも、夏でも半袖は着ず、長袖の服を身に纏っている理由が、此処にある。
「簡単に止めれるとは思ってないよ。オレは逢牙師匠の事も大切に想ってるし、恩人の1人だと今でも強く想ってる。……ただ、それでも このゆらぎ荘はオレにとってかけがえのない場所。幽奈もその大切でかけがえのないものの一部。天秤にかけるなんて出来ないが、ただでやらせるくらいなら、オレは命を懸ける。――――オレの全存在をかけて、あんたを止めてみせる」
思い切りホムラは腕を捲った。服が破れ、その右腕が肩口にかけてまで露になる。
そして、その腕には何か鎖の様なモノが巻き付いていた。
逢牙は、それを見て目を細めた。
そして、今はいない親友の声が耳に届いた。
『