ゆらぎ荘の蹴る人と殴る人   作:フリードg

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第8話 強制成仏は無理

 

 

「…………ふぅ」

 

 色々と今日も大変だったが、何とか乗り越える事が出来た、とホムラはしみじみと実感してる。その手には先ほど自販機で購入した《BASS ブラック珈琲》が握られており、散歩の後の一服中……、と言う様な場面だ。

 

 勿論、ホムラは未成年。タバコの類はしてないので、悪しからず。

 

 あ、話は戻すけど、ホムラは こういった様な《大変だった日》と言うものが、本日初めてだ、と言う訳では無い。

 

 生きていれば 辛く、大変な1日が終えた感慨深さは きっと誰しもが味わっているだろう。それは学生であれば学校の終わり、部活の終わり。社会人であれば、終業後……etc。 つまり、そんな大した事ではない、と言う事。ホムラにとっては。

 

 

 それに 何はともあれ、もう、日付も後ちょっとで変わろうと言う時間まで来たのだから、現時間的には当然と言えばそうだが、今日は特に実感をしていたのだ。

 ……ホムラは、ゆらぎ荘で就寝を……と言う訳ではなく、気分的にゆらぎ荘の外で、珈琲を片手に黄昏ていたかった。

 

 何故夜に、ゆらぎ荘の外で? と思われるかもしれないが、少々散歩に出たかった、と言うだけであり、大した理由ではない。……とりあえず、腹部に多大なるダメージを受けてしまった為、気を紛らわせる為に 真夜中の散歩を、と言う所だった。(正直、ギャグ攻防だし、そこまでのダメージではない)

 

 

「はぁ、それにしても 狭霧にも困ったもんだ……。感謝してる、って言ったら、鉄拳制裁かよ」

 

 

 やれやれ、と 項垂れているホムラだが、盛大にツッコミを入れたい。

 

『困ったもん、って、それ、絶対他人の事言えないだろっ!』

 

 と、盛大なツッコミを入れたい。ああ、入れたい。

 

 だけど、そんな事をホムラに言っても正確には伝わったりしないだろう。

 正直に、真っ向から伝えなければ、きっと難しい。……だが、それは狭霧がきっと了承しない。つまりは、面倒くさい2人だと言う事だ。

 

「だが、狭霧、大分腕を上げたんだなぁ……。反射が完全に追いつかなかった。まともに受けたし、もし コガラシ(アイツ)があの場にいたら、笑われそうだ……。ん。そう考えたら、いなくてよかった……」

 

 狭霧からの一撃。それは、彼の心を射止める一撃には、当然ながらならず、ただ ホムラは狭霧の腕が上がった事に関心していた。……普通に考えたら、女の子に言う様な、思う様な事ではなく、そのくらいはホムラも判っている。だが、狭霧の職業? を考えたら、その腕っぷしが、力量が向上する事は好ましいから、と言う理由があったのだ。

 

 そして、盛大にボディに一発入れられて、ダウンしてしまった自分の姿を想像して、コガラシに場面を見られてしまってたら、と想像していて……何処かほっと一息つくホムラ。

 

 つまりは、斜め上方向に突っ走っていくのがホムラである。

 

 狭霧の精一杯、自分自身で出来うる最大限の嫉妬をしたのにも関わらず、1mmも判ってくれていない。まぁ、所謂 ある種の技能、アビリティの様なモノだから仕方がない。

 

 

――めちゃ、ありきたりだけど、主人公は鈍感なのです。はい。

 

 

 

「ん……んくっ。 よっ……と」

 

 ホムラは、最後まで珈琲を飲みほした。そろそろゆらぎ荘に戻ろうと思い、空き缶を放り投げる。(勿論、ポイ捨てをした訳ではない。一応その辺りの躾面では ホムラはしっかりとしている)

 

 放り投げられた空き缶は、放物線を描きながら 備え付けられた空き缶入れに吸い込まれる様に収まった。 それをちゃんと見届けた後、ホムラは歩き始めたその時。

 

 

 

『やああああああっっ!!!』

『どああああああっっ!!!』

 

 

 

 どがっしゃぁぁぁんっ! と、盛大な騒音が静まり返った夜に響き渡る。

 一体何が? と 周囲を見渡してみると ゆらぎ荘の2F、南側、右端から2番目の部屋の襖扉が吹き飛び、そこから 人が降ってきた。

 

『親方! 空から男が降ってきた!』

 

 と、言う状況だ。……男なら、盛大にスルーをするのも有りな気がするが、そうもいかない。振ってきた男は その下がコンクリート等の地面であれば危険だったが、丁度池だった為一先ず安心。勢いよく、2Fからのダイビングヘッドで、これまた盛大に水柱を上げて、着水した。

 

「……………………はぁ」

 

 長い沈黙の後のため息。

 ホムラは、一先ず濡れるのを覚悟で池の方へと向かった。

 

 そして、もう1人 今度は空から女の子が! である。……ふつうの女の子ではないが。

 

「あああっ、す、すみませんっっ、コガラシさんっ!! ご、ご無事ですかぁぁぁ!!?」

 

 空から降りてきたのは、幽奈だった。

 どうやら、彼女の必殺技の類がまた、炸裂したのだろう、と言う事は理解できたホムラ。幽奈の力は、十分過ぎる程に身に染みているから。

 

「あー、大丈夫だ。このくらいじゃ、コガラシは死なないよ。幽奈」

「あっ、ほ、ホムラさんっっ。す、すみません、私のせいでまた……」

「いや、オレは別に良いよ。っと、ほれ、コガラシ」

 

 ぶくぶく~……と沈みかけているコガラシなのだが、この池、そこまで深くは無い。

 ひょい、と引っ張り上げると、コガラシは やや放心した様子で呟く。

 

「……オレだって、死ぬ時は死ぬわ。……早く除霊せんと、オレの方が成仏する羽目になる……」

「この程度、ヌルイし、甘いだろ。地獄の釜に浸かり、血の池地獄の血溜まりを呑んできたあの特訓の日々に比べたら。温泉に、温泉まんじゅうだ」

「……確かにそうだが………」

 

 妙に説得力があったのだろう。 空から降ってきたコガラシは復活すると、一先ず池から脱出。 そして、幽奈がしっかりと手を引いてくれた。

 

 因みに彼女は、幽霊だが触りたい物にはしっかりと触れ、逆に通常は常人であれば 触る事の出来ない幽奈の身体だが、触らせたりもできる(滅多にしないが)。幽霊歴が長いからこそ、出来る芸当だ。

 

「ふぇぇ、すみませーーんっ……。わ、わたし また ご迷惑を掻けちゃって」

「いや、コガラシもケガ無いって、だから大丈夫だ」

「まぁ、ホムラが先に言うのもおかしいけど。幽奈、マジ、オレ大丈夫だから」

 

 涙目の彼女を慰める2人。そして――、漸く、今の今までずっと言いたかった指摘を、ホムラはする事にした。

 

「……それに、幽奈」

 

 ホムラは、視線を明後日の方向へと向けながら、指摘。

 

「その……/// ゆ、ゆかた、ちゃんと着直せ………// みない様にするのにも、限度があるから……、た、頼む////」

「ぅ………」

 

 幽奈は、謝罪をするために、2人の前に浮いているのだ。何度も何度もそっぽを向いていたら、怒っているのではないか? と勘違いもされてしまうかもしれないだろう。2度、幽奈が謝罪をしているのも、もしかしたら、そう思ってしまったからなのかもしれないし。

 

 だから、ちゃんと指摘をするのも、正直な所 ホムラには厳しかったのだが、無限ループの方がもっと無理だから、と意を決した様だ。

 

「は、は、はっっ……///////」

 

 それを訊いて、幽奈は はっ としながら 自身の身体を見た。

 

 急いで飛び出してきた事と、先ほど コガラシを吹き飛ばした時に乱れてしまったのが合わさって、凄い状態になっている。

 浴衣は、肩に引っかかっているだけになっており、ずれ落ちてないのが奇跡だと言える状態であり、幽奈は羽織りも身に着けている筈だが、それも無い。腰ひもも当然ながら 無い。(多分、両方とも部屋の中に落ちてる?) 幽奈の場合 身に着けているモノも、幽奈自身が具現化した幽体の一部だから、肌蹴る事自体、おかしいのだが……、そこはツッコまない事にする。

 

 ツッコまないのは良いのだが……、問題は幽奈だ。

 

「お、おい! 幽奈っ!? 落ち着け……っ!?」

 

 コガラシが必死に宥めようとするのだが、最早手遅れ。

 

 

 

「み、み、み、見ないでくださ―――いっっ!!!!」

「どわあああああああっっっ!!!」

 

 

 

 動揺すればするほどに、強くなる幽奈のポルターガイスト現象。

 それは、大の男2人も楽々宙に浮かせ、吹き飛ばす事も容易だ。

 

 だが、ホムラはしっかりと今までの経験があるから、池の周囲に備え付けられている手摺をがっちりと掴んでいる為、飛ばされたりはしないのだが。

 

「っっぐええっ!! こ、こ、こら! コガラシ!! オレの服、掴むなぁ! し、しまっ、締まるっっ」

「ん、な事いったてっ、うわわわわっっ」

「っっ!!」

 

 コガラシが、ホムラの襟首を握り込んでしまった為、上手い具合に首が締め上げられてしまったのだ。

 流石に、落とされて、意識を手放すのと、また 池にダイブ! するの、どっちが良い? って訊かれたら……、後者を取るだろう。

 

 

“ぼちゃ~~~んっ!!”

 

 

 と言う訳で、最終的には 2人仲良く、再度池の中へとダイブするのだった。

 

 

(勿論、その後 これでもかーー! と言わんばかりに幽奈から謝罪の言葉は貰った)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ 翌日 □□

 

 

 

 

 昨夜は色々とあって、正直な所寝不足も良い所なのだが、今はさしあたって、コガラシの働き口を絶賛模索中である。

 

「ほんと、ありがとうございます!」

「すいません。急なお願いで」

「いやいや、ホムラ君のお友達なら、信頼できるよ。コガラシ君、腕っぷしもよさそうな子だし、今人手不足で、大助かりよ。早速だけど、来週辺りから、もうシフト組んでも良いかな?」

「はいっ! 大丈夫っす! バリバリ働きますんで、宜しくお願いします!」

「ふふふ、ほんと、元気ねぇ。近頃の若い子も捨てたもんじゃないわね」

 

 と言うやり取りがあり、無事にミッションクリア、である。

 

 色々と面倒を見てあげてる部分を見て判る通り、ホムラも相当な世話焼きなのだ。勿論、コガラシがズボラ、と言う訳ではない。あくまでフォローの範囲内で、ホムラが手を貸しているだけに過ぎない。しっかりと手に職を付けたのも、ちゃんと ゆらぎ荘にまで来られたのも、基本的な生活力が身についている賜なのだ。

 

 つまり、これまでの荒波に比べたら、小波以下に等しい―――、と言う事である。

 

「よっしゃー、バイトも今日中に決める事が出来たな!」

「しっかりとやれよ? この町の人達は良い人ばかりで、面倒見も良いからな。あまり 迷惑かけない様に……って、愚問か」

 

 うるうる~~ と目をうるわせているのは、コガラシ。これまで 彼の失敗談は全て、悪霊の仕業。それから、血の滲む、地獄が生易しい、とまで感じる修業を経て、抗う術を身に着けたのだ。

 

「勿論だ!! 迷惑かける様な悪霊がいたら、ぶん殴って更生、じゃなく 成仏させてやるよ!」

「まぁ、気合が空回りしない様にな」

 

 コガラシの後ろを苦笑いしながらそういうホムラ。

 

 

 

 そして、その後……もう少しでゆらぎ荘、と言う所でコガラシは立ち止まった。

 

 

「なぁ、ホムラ」

「ん?」

 

 振り返らずに、コガラシはホムラを呼び、……そして 続けた。

 

「ホムラが言っていた、『手を焼いている』って言葉の意味、判った」

「……ああ。そう言えばそういったな」

 

 そう、それは 初日にコガラシに言った言葉だ。

 最初は、コガラシも息まいていて、『ホムラよりも先に、解決してやる!』 程度にしか考えていなかったのだ。高難易度である事も重々わかっていた。

 

 あの(・・)ホムラが何ヶ月も解決できない案件なのだから。

 

 だけど、それだけに遣り甲斐がある、と言うものであり、口に出して言うのは 少々気恥ずかしくて言えないが、色々と世話をしてくれた事への感謝があり、追い抜く、と言う気持ちも嘘ではなかったが、力にもなりたかった、とも思っていたのだ。

 

 この体質のせいで、人付き合いが完全に疎遠になり、寧ろ ずっと厄介者 として扱われてきた頃も、決して見限ったりしなかった。

 

 同じ境遇だから、と言う理由もきっとあるのだろうが、ホムラと長く付き合っていくうちに、もしも――、同じ境遇じゃなくても、この男は変わらないだろう。と思う様になってきたのだ。だからこそ、感謝する面が徐々に大きくなってきていた。

 

 

………………

 

 

 まぁ、男同士の熱き友情話は需要があるかどうか、正直判らないので、一先ず終了して、話を戻す。

 

 幽奈の件。

 その難しさを昨日からずっと感じ続けてきた事だ。

 コガラシは、ゆっくりと振り返って ホムラと対面し、訊く。

 

「……幽奈が地獄に落ちる様な所は見たくない。それは 同じだよな?」

「勿論だ」

「未練を綺麗さっぱりに晴らしてやるのが、一番なのは判る。……だけど、そう簡単にできりゃ、何年も幽霊なんか、やってないよな?」

「……ああ。そうだな」

 

 それが、一番難しい所だ。

 

 幽奈自身が、自分の未練が何なのか、長らく幽霊をしてきたから判っていない……覚えていないのだ。

 

 だから、現在では 彼女を成仏させるのには、強制的な除霊方法以外無い。

 そして、彼らが出来るのは、とりあえず 肉体派的な成仏方法であり、小難しい術の一切を習得していない為、出来ない。

 

 ……そもそも、コガラシも、ホムラも、幽奈に対しては、その方法はとれない。

 

「……女は絶対殴れないからなぁ」

「だな。……オレもだ。いや、オレの場合は、蹴れない、か」

 

 そう、彼らには異性を殴ったり蹴ったりは出来ないのだ。

 絵的にも、文章的にも……、女の子を攻撃する様な場面は 見たくないし、見せたくないし……、正直書きたくも無い。2人が痛い目を見るのはオールOKなのだが……。

 

「……………」

「……………」

 

 2人は、何故か、一瞬 ぶるっ!! と震えていたが、たぶん気のせいでしょう。

 

 

「兎も角、今は様子を見る他ない。……幽奈は大切な友達だ。ゆらぎ荘の皆にとっても、オレにとっても。それに、コガラシの事も幽奈は想ってる。入居者が増える事を喜んでいたからな。………だから、この件は 絶対にオレ個人では 突っ走らない、と決めている。……皆、同じ仲間だから。皆で決めて、相談して、納得した形を取りたい。 コガラシ。お前が、今回の件、かなり時間がかかってる、とオレに言ったが、これでも 短いくらいだ。まだまだ、話したりないよ」

「ああ。……判ってる。判ったつもりだ。だが、オレは無料永住権を諦める訳にもいかない。……幽奈とも約束した。しっかりと果たす」

「……だな」

 

 そして、2人は ぱちん、とタッチを交わした。

 

 コガラシの決意を訊いて、自分自身の考えと変わらない答えを訊いて、ホムラは軽く笑った。心強い援軍が来た、と感じていたから。コガラシが204号室で良かった、と改めて感じた瞬間でもあった。

 

 

 

   □ ◆ □ ◆ □

 

 

 

 

 

 え?

 

――ホムラは204号室じゃなかったのか? って?

 

 ああ……、因みに ホムラの入居した当初は、訊いた事は間違いではなく、204号室でしたよ?

 

 なのですが……、今まで使われてなかった205号室があって、そこを、誰かさん(・・・・)が鬼のような形相と、韋駄天の様な速度で、清掃、整備をして そこに強引に部屋替えをさせた。と言う経緯がある。

 

――……誰が?

 

 と、野暮な事は訊かない様に、宜しくお願いたしまする。

 

 

 

 

   □ ◆ □ ◆ □

 

 

 

 

 

 そして、2人はゆらぎ荘へと帰ろうとしたその時だ。

 

 ゆらぎ荘へと続く道――、ゆらぎ荘へ入る為の橋の上に、人影があったのに気付いた。

 

 

 白装束に包まれ、杖を持った人影が2つ。身形から僧侶、坊さん辺りを連想出来る。

 

 

 

 その人物は、微動だにせず、直立不動で ただただ、ゆらぎ荘をじっと、見ていたのだった。

 





Q:「ホムラくん、鈍感だけど、過去に何かあったり?」

A: 特に。主人公スキル。強いて言えば、師匠に色々とされた。とだけ今は。



Q:「鈍感で、さぎっちゃんは、大丈夫?」

A: ほぼいつも通り、ルーティンワークだから。今後、進展があれば判らない。



Q:「コガラシ君とホムラ君。……2人、仲良いねぇ……? 意味深な関係だったりする?」

A: ……ちょっと何言ってるか判らないです。はい。(真面目顔)

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