体力テストが始まりみんな移動を始めた。
だが、体育館に二人、正座させられている人がいた。
「それで、お前ら。何か先生に言う言葉があるんじゃないか?」
僕は克也のほうを向く。克也は翔のほうを向く。
二人は頷くと桐生谷先生のほうを向く。
「「はやく体力テスト始めま(しょうよ)せんか」」
「……?」
桐生谷先生は理解できないような顔をしていた。
あれ?どして?
翔は桐生谷の不思議そうな顔を見て悩んでいると突如掴まれる。
「悪気がなかったとしてももっと別の言葉があるだろうが!」
「うがぁぁぁ、すみませんでしたぁぁぁぁ!」
翔の苦痛な叫びが聞こえ克也がビクッとする。
「この度は本当に申し訳ありませんでした」
深く頭を下げ謝罪の言葉を述べる。
桐生谷はその姿を見ると翔を解放する。
「…次からは容赦しないからな。それじゃ体力テストを始める、まずは立ち幅跳びだ」
翔と克也は楽しそうな顔をしながら立ち幅跳びのところまで走って行った。
その様子を見ていた桐生谷先生はやれやれと言わんばかりのため息を吐いた。
「まったく…楽しそうなバカだな。生まれてくる時代が一世代ばかり遅かったんじゃないか?」
そんなことを漏らしながら準備運動をしている翔たちの元へと向かう。
メジャーを持っていることを確認した翔がテープの前に立つ。
「それじゃ行きます!うりゃっ!」
翔が綺麗に弧を描きながら飛ぶ。
よろけることなく着地を終えくるりと顔だけ先生のほうへ向かせるとすでに記録を測ろうとしていた。
「先生どうでしたか!?」
「分かってはいたが…お前ら二人は運動能力が高いな。3メートル16センチだ」
その言葉に翔は喜び克也は戦慄が走る。
嘘だろ…去年まで3メートルジャストだったじゃねえか。
「それじゃ次、宮本」
「っ、はい!」
負けじと足に力を込めながら飛ぶ。
克也も綺麗な弧を描いていたがそれでも翔ほど飛べてはいなかった。
「…3メートル2センチだ。お前らの体の構造がどうなっているのかつくづく気になってくるな」
先生は呆れながら記録用紙にメモを取る。
「くっ…!まさか翔があんなに飛べるなんて思わなかった。だがまだ種目はたくさんある…!」
二人は睨みあうと次の種目へと移る。
次の種目はハンドボール投げのようだ。
翔は克也のほうを見ると全身の準備運動をしていた。
「ハンドボール投げって腕や肩だけ準備しておけばいいって思われがちだもんね」
翔も準備運動を行いながら克也に話しかける。
克也はその言葉に頷きながら応答する。
「あぁ、ボールを遠くまで飛ばすには全身の力が必要だからな。最初に手首や肩をほぐしてから屈伸や股関節のストレッチとかな」
準備をおろそかにしてはいけない。
それは何も今回の勝負に限ったことではない。
常日頃から準備を怠ればそれは自分の破滅を導くであろう。だからこそ、全力で挑み翔に勝ちにいかねばならない。
きっと今の俺は顔がほころんでいるだろうな。
そんな笑顔の克也を翔は不思議そうに眺める。
克也とっても楽しそうだけどどうしたんだろ、何かいいことがあったのかな?
「でも、だからって負けないんだからね!」
宣言すると負け時と準備運動を始めた。
克也は十分に体をほぐし終えハンドボールを持ち円の中へと入る。
その真剣な表情は今までのふざけていた時とは違い気迫を感じる。
その光景を野次馬で見ていた生徒たちは静かに見守っていた。
「よし、宮本。準備ができたらいつでも投げろ」
言葉を聞き頷いた克也は助走をつけハンドボールを投げる。
山なりを描くように飛んでいきグラウンドギリギリのところに落下する。
それを見ていた生徒たちは大騒ぎをしていた。
「すごいぞあいつ!あんなところまで飛ばしやがった!」
「キャー!宮本くんこっち向いてー!」
そんな声を一切無視し桐生谷は落ちた付近の生徒のところに距離を聞きに行った。
他の生徒は凄い飛距離に満足していたが翔と克也は満足いった様子ではなかった。
「どうしたの克也。ネットまで届くと思っていたんだけど」
翔に声をかけられ振り向く。
当然の質問をしてくるな、翔。俺だってそう思っていたさ。
「あぁ…そのはずなんだが…」
何がいけなかったんだ?距離的には50メートルくらいは飛んだと思っていたんだが…。
記録を聞きに行った桐生谷先生が戻って来て克也に飛距離を教える。
「52メートルだ。まったく…、野球部とかのエースが知ったら対抗心を燃やすんじゃないか?」
記録を聞き今度は黙ってしまう。
それは驚きから来るもので次第に顔がにやけていく。
「ふ、ははは!52メートルか!これは勝ったな!」
「ムッ、そんなこと言っていられるのも今のうちだよ!」
さっきまでと全く違う表情をした克也が翔を見下す。
それに軽くイラッとした翔はハンドボールを持ち円の中へと入る。
「くっそぉ!負けるかぁぁぁ!!」
翔は大きく声を出し思いっきり助走をつける。
そしてボールを投げる瞬間、翔は力を緩めるタイミングを誤る。
「あっ…」
それを見た克也は目を逸らし、桐生谷先生は翔を捕まえようと走り出し、翔は逃げ出す。
三人の行動は投げてから窓ガラスが割れるまでの短い時間よりさらに短い時間で行われたのは言うまでもない。
翔は何度も謝りながら逃げているが、桐生谷先生は気にせず追いかける。
「謝るくらいなら逃げる必要はないだろう!逃げるということは誠意を込めて謝ってない証拠だ!」
「そんな無茶苦茶な…!これでも悪かったとは思っていますよ!先生にはどれだけ迷惑かけても気にしませんけど学校の物や生徒に関しては罪悪感を感じます!」
「貴様…今日という今日はもう許さん!その精魂を叩きなおしてやる!」
翔はグラウンドを全力で逃げ回る。
それをお見ていた克也は水道のところまで行き水を飲んでいた。
「ふぅ…それにしてもこのままじゃ翔の記録は0になっちまう。それだけは嫌だしどうしたもんか…」
ある程度水を飲み喉を潤した克也は二人の元へと走っていった。
桐生谷先生と翔の走り合いは克也のハンドボール投げよりさらに人を集めていた。
一年生だけに限らず上級生までもが見る事態となっていた。
克也はこの野次馬たちの多さに驚き状況を把握しておきたかった。
「あー、この集まりはなんです?」
「ん?あぁ、なんでもターミネーターに毎日のように追っかけられている新入生がいるって話題になってな。気になっていたんだがそいつが追いかけられてるって新入生たちが騒いでるのを見かけて見に来たわけよ」
あー、だからこんなに上級生が多いわけか。それにしてもこの光景を見るために来るなんて上級生は暇な奴が多いのか…?
「なるほど、ありがとうございます。それにしても凄い人の集まりですね」
克也は周りを見ながら上級生との話を続ける。
それを聞いた上級生も改めて周りを見回す。
「あぁ、でもああいう奴は見ていて面白いから俺らとしては大歓迎だ。まあ全員が全員そう思っているわけじゃないだろうが大半の奴らは気に入っていると思うぜ。てか上級生に話しかけてきょどらないあたり案外図太い神経?」
「あ、いや、気に障ったならすみませんです」
やっぱ敬語って慣れねえ…。
申し訳なさそうにする克也を見て上級生は慌てて否定する。
「いやいや気にしてないから問題ないぜ。…ん?そういや噂になっている新入生の相方がいるって聞いてたが今日は一緒じゃないみたいだな。なんでも相当なイケメンですでにファンクラブがあるとかなんとか」
上級生の言葉を聞き雷を打たれる克也。
翔が噂になったとしても先生に目をつけられるようになったとてもそれは昔からのことで気にはしないが俺まで巻き込まれるとは…。それにファンクラブか…嫌なものが作られてるなぁ…。くそ…眩暈がしてきたわ…。
「そ、そういえばそうですね…。あ、自分まだ種目が残っているのでこれで失礼します!ありがとうございました!」
克也は走ってその場を去っていった。
それを見送った上級生は再び噂の新入生を見るためにグラウンドのほうを向く。
「ん?なんかあいつ相方のイケメンに似ている気が…」
ふと頭によぎったが考えるのをやめる。
「星宮そろそろ諦めろ!俺はどこまででも追い続けるぞ!」
「いや…ですよ…!」
どれだけ体力があるんだこの人は…!
と心の中で叫んでいるが表情はとても楽しそうだった。
「いつもより長い時間逃げられてるし自己ベスト更新したかな!?」
どのくらい経過したか考えながら逃げていると目の前に克也がいきなり現れる。
「翔!絶対に許さん!よくも…よくも…!」
突然のことに驚き足を止める翔。その瞬間を見逃さずがっしりと克也は捕まえると桐生谷へと差し出す。
その行動に驚き目を白黒させていたがすぐに我に返り翔を捕まえる。
「どうしたんだ宮本、だがまあよくやった感謝する」
「な…克也よくも売ってくれたな…!許さないからな、覚えてろよぉぉぉぉ…」
徐々に聞こえなくなる翔の声を聞きながら克也は空を眺める。
どうして翔のことを桐生谷に渡したんだろうか。翔のせいで目立つなんていつものこ とだろ。となると―。
少し悩み一つの答えに辿り着く。
「まぁ…あいつが勝負を中途半端に終わらせたことにムカついて拗ねてるんだろうな…ったく子供みたいだ」
髪をくしゃくしゃすると一息吐く。
翔が戻ってきたら謝ろう。そう心に思う克也だった。
うーむ…恋愛のタグつけたけどなかなか恋愛に発展しないなぁと書きながら思う男爵芋でしたm(_ _)m
のんびり時間が過ぎていく感じを味わえなかった高校生活を悔みながらまったり更新していきます。