そんなことなど露知らず翔たちは50メートルを測ろうとしていた。
翔がハンドボールをやっていたこともあり、並んでいた時より人はだいぶ減っていた。
「へー、さっきはそんなに並んでたんだ。でも全部まとめてやってもいい成績なんて取れないんじゃないかなーって思うんだよねー」
準備運動をしながら克也へ言葉を投げる。
克也は頷き返し、口を開こうとするがそれよりも先に桐生谷先生が声を出す。
「俺もそれは思うがそこはこの学校のルールだ。疑問に思うかもしれんが今はテストに取り組め」
桐生谷先生はやや難しい顔をしながらストップウォッチを持ってくる。
翔たちはお互い見合わせ小さくため息を吐いた。
「ま、あの堅物先生がそう言うなら仕方ないか」
と、桐生谷先生のことをチラチラと見ながら言う克也に対し
「そうだね、ターミネーターがそういうなら深く気にするわけにはいけないよね」
翔は桐生谷先生をジッと見ながら言う。
「くだらんこと言ってないでとっとと準備しろ。お前らが一番遅いんだぞ」
桐生谷先生の言葉を聞き遅いということを忘れてたと言わんばかりの顔をする。
二人は慌ててスタートラインの前に立ち気持ちを落ち着かせる。
「記録を測る前に一回走れ。どんなにバカな問題児だろうが立つ土俵は同じでなければいけないからな」
二人は声を揃えてお願いしますと言うと前を向く。
先ほどまでのふざけた表情ではなく真剣な表情となっていた。
「on your marks」
合図を聞き二人は指を地面へとつける。
後ろ足の膝を地面につけるとき翔は小さく笑う。
この構えの時に砂が付くときのジャリッって音はいつ聞いてもいい音だなぁ。
「set」
腰を上げ開始の合図を待つ。
沈黙すること数秒、翔たちは旗を振り上げる音を聞くため神経を研ぎ澄ましている。
桐生谷が旗を振り上げると二人は一斉に走り出した。
その光景は誰の目にも留まり注目を浴びるほど速かった。
実際にその様子を見ていた生徒は驚き口を開いている。
二人は走り終え練習でのタイムを聞こうとしたが、計る人は翔たちの走りに目を釘付けにされ止めるのを忘れていた。
「ありゃりゃ、まあそういうこともあるよ!変に気にしちゃダメだよ?」
翔はタイムを計る人を慰めると再びスタートラインの前へと歩く。
その後を克也がついて行きながら周りを見る。
既に終わっている生徒たちなのか、こっちを見ながら話しているのが分かる。
ま、誰かに見られていようが関係ない。俺は翔に勝つ。
燃え滾るような闘志を出しながら足を進める克也を翔はいつものように笑いながら見ていた。
「今度はちゃんとタイムを計れるよう先生を呼んでおいた。全力で走ればいいさ」
いつもの怖い声音ではなく明るい声音に二人は驚いていた。
しかし彼らも学ぶ力がある。ここで下手に言えばまたいつも通りになってしまう。そうならないためにも下手なことは口走らないようにしなければならない。
二人はスタートラインの前に立つと深く深呼吸をする。
気持ちを落ち着かせるという目的だけでなく走る相手に対し全力を出すために深く深く深呼吸する。
深呼吸を終えるのを確認した桐生谷先生は合図を取る。
「on your marks」
二人は再び地面へ指をつける。
「set」
腰を上げ開始の合図を待つ。
旗を振り上げるまでのこのわずかな時間。ほんの数秒のことだが、この瞬間は何分にも感じる。
桐生谷が旗が振りあがると同時二人は再び走り出す。
風のように走り抜ける二人は見ていた生徒の視線をさらに釘付けにする。
あっという間に走り終え息を切らせながらタイムを中島先生のところへ聞きに行く。
「星宮くんが6秒41で宮本くんが6秒46よ。二人とも凄いわね!こんなタイム初めて見たわ!」
記録を聞き終えた二人は互いに握手をする。
「…ふぅ。今年は負けたが来年は勝つからな!」
「うん!全力で迎え撃つよ!」
そして翔は一瞬だけ記録用紙を見た。
記録的は僕が一番かぁ、嬉しいな!えっと他の人はっと。
翔たちは桐生谷先生に報告をし自分たちの教室へと戻った。
戻る際に克也は女子に囲まれてしまい翔は一人先に教室へと戻って行った。
こうして夏園高校の体力テストは終わった。
この後桐生谷先生に呼ばれていることを忘れ帰った二人は翌日放送で呼び出されるのであった。
もっと日常の話も膨らませたいなと思いながら次話を考えようと思い知らされました。と言いましても次の話は種目決めの続きになりそうですが…汗