僕らは全力疾走をしながら教室のドアを開けた。
クラスメイトたちは驚いたようにこちらを見る。
まあ無理もないか、初日でみんな緊張しているのに遅刻してくるんだからな。
「遅れてすいませんでした」
克也が頭を下げる。
翔は驚いていたが続けて謝罪の言葉を
「始業式ってどういう順番で並んでいくんですかー?」
言えなかった。
克也を含め、クラス全員が口をあんぐりとしていた。
「い、一応出席番号で行くことになっています」
先生は引き攣りながら教えてくれた。しかし翔は引き攣っている相手の表情に気付けるわけがなく、お礼を言った。
「え?あ、いえ」
先生はどうすればいいのか分からない、そういう顔をしていた。
克也は目を抑えた。分かっていたがこいつは凄いな、謝るよりも先にこれから先のことを聞くんだもんな。全く反省していないというか悪いと思っていないのか?
額に手を乗せ悩んだがそれを中断する。
始業式の時間が近づき生徒たち体育館へと向かう。慌てて追いかけるように翔たちも走る。
「ほう、お前らはDクラスか」
突然聞こえてくる声に僕らは後ろを振り向く。
そこにはさっき怒っていた先生がいた。
「チッ、まずい!散開だ!」
克也の言葉に僕は頷き二方向へと走り出した。
先生はその行動に驚いたがすぐに我に返り声をあげる。
「始業式をサボるつもりとはいい度胸だな!」
体育系の先生っぽいから体力には自信がありそうだ。
走りながらそんなことを思う。とりあえずどこかに逃げるか隠れるか…。
「いや、隠れるのはやめよう。こんな先生を相手に隠れるなんてとんでもない」
「いい心構えじゃないか、だがそれは勉学に向けてもらいたいものだ」
後ろから聞こえた声にとっさに逃げ出す。
高鳴る鼓動の音を聞きながら翔は笑っていた。
「先生!」
走りながら翔は声をかける。
「なんだ?新入生の問題児」
先生も走りながら応答する。
「今、すっごく楽しいです!これから三年間よろしくお願いします!」
「まったく…お前らと三年間過ごすのはとてつもなく疲れそうだ」
苦笑しながらもペースを落とさず追いかけてくる。
翔は笑いながらも全力で逃げていた。
廊下を駆ける音が響き、不思議な感覚に陥る。この鬼ごっこが続いたらいいな、と。
だが現実は非常である。
「ずいぶん走れるじゃないか、もう少し別のことに使って欲しい体力だな」
先生に掴まれ腕が悲鳴を上げていた。
「痛いです先生!そんなんじゃ逃げられないじゃないですか!」
「アホか!逃がさないためにやっているんだ!」
そんなくだらないやり取りをしていると聞き慣れた声が耳に入る。
「マジでこの先生はやばい、化け物じゃないか?」
先生の上の方から声が聞こえ、見てみると克也が担がれていた。
「え、本当にこの人は人間なの!?」
そんなことを叫びながら先生にズルズルと引きずられながら体育館まで連行された。
本来座る席に案内されずに先生の隣に座らされた。
「お前ら静かに逃げずに聞いていろよ?」
ゴゴゴゴゴと初めて会った時と同じような威圧を感じる。
翔と克也はガックリとうなだれていた。
少しして生徒全員が着席し始業式が始まったが始業式があまりにも退屈で気が付いたら半分ほど進んでいた。
「続きまして、新入生代表の挨拶」
そういえばそんなのあったなー。
そう思いながら新入生代表を見る。
「あたたかな春のおとずれと共に、私たちは夏園高校の入学式を迎えることができました。本日は、このような立派な入学式を行っていただき、ありがとうございます。夏園高校の教育方針は私の中で一番印象に残っています。今日から、私たちも夏園高校の教育方針に則り夏園高校の仲間入りです。受験勉強は大変でしたが、家族や周囲の方々の協力、自分自身の努力で夏園高校に入学することができました。高校の新しい友達との出会いや学校生活がおくれることに、今は希望と期待で胸がいっぱいです。勉強だけでなく学校行事や部活動にも一生懸命取り組まれている先輩方がおられる高校の良いところをたくさん取り入れ、悔いのない高校生活を送り自分自身を向上させていきたいと思います。校長先生をはじめ、先生方、上級生の皆様。しっかりした生徒になれるようこれからも努力していきますので、よろしくお願いします。○○年度夏園高校入学式新入生代表、姫松千代」
挨拶を終え一礼すると大きな拍手が生まれた。
克也と翔も拍手を送っていた。
「珍しいな翔、お前が誰かに拍手を送るなんて。けど確かに今の挨拶はすごいな、普通ならカンペを持ったりしているのによ」
「知ってるでしょ克也。僕はそれ相応の努力をしている人とそうじゃない人の区別くらいできるよ。暗記なのかとっさなのかは分からないけどあれだけ喋れるのはすごいと思うんだ」
拍手をしながらお互いが意見を述べる。
「お前ら…ただの問題児だと思っていたがきちんと見るところは見ているんだな」
なぜか先生が驚いた声音で話に入ってくる。
心外だなぁ、僕が問題児なわけないじゃないか克也ならともかくさ。
心の中でぶつぶつと呟くがそんなことおかまいなしに先生が無慈悲な言葉を告げる。
「だが挨拶の前を寝ていたことに関してきちんと指導しておかないといけないな」
先生がいきなりそう言いだし僕は冷や汗が出る。
とっさに克也にアイコンタクトを送る。
(なんで僕たちが寝ていたのバレたの!?)
その様子を見ていた先生は呆れていた。
「アイコンタクトまでできるとは指導のしがいのある生徒が出来て嬉しいぞ」
翔と克也の頭を鷲掴みし反省文を要求してきた。
二人とも揃ってため息を吐き思った。地獄だ、と
「……」
翔と克也は気付いていないがこの一連の流れをずっと見ている人がいた。