高校最初の授業が終わり、翔は先生に連れていかれた。
「待ってください先生!僕は悪くないんです!全部克也が…克也がぁぁぁ…」
教室の柱を掴み連れていかれまいとする翔。
「ったく小学生じゃねえんだ、諦めてさっさと来い!」
それを一生懸命引っ張る武田先生。
その姿をヘラヘラと笑いながら見る克也を鬼のような顔で見返す翔。
この異様な光景を見たクラスメイト達はどう反応すればいいのか困惑してしまう。
「最初の授業から問題を起こすとはやはり貴様らは要注意人物みたいだな」
唐突に聞こえる低い声。
その声に翔と克也はすぐ振り向く。
そこには翔たちの天敵である桐生谷先生が立っていた。
「げ…なんで先生がこんなところにいるのさ!」
翔が柱を握る力を強くしながら文句を言う。
理不尽極まりない言葉を無視して桐生谷先生は翔を引っ張る。
ミシミシと木でできていた柱は嫌な音を立てる。
それを聞いた翔はすかさず手を離す。
力強く引っ張っていた桐生谷先生もとっさのことに対応できず尻餅をついてしまう。
翔は全く気にせず起き上がり埃を払うと
「柱がコンクリとかだったらなぁ…」
と、ブツブツ言いながら武田先生のところへと歩んだ。
武田先生は色々と理解できていなかったがとりあえず翔を職員室まで運ぶことにした。
だが、肩を二回叩かれ振り向くと桐生谷先生がとても爽やかな笑みを浮かべていた。
「星宮…放課後俺のところまで来い…いいな?」
その声音を聞き翔と克也は背筋がゾッとするのを感じる。
翔の悲鳴とそれを無視して連れていく先生たちが姿を消すと、今まで一連の騒動を見ていたクラスメイトたちは克也の元へ集まった。
その時の克也の顔は驚きで間抜けな面をしていたのだろう。
翔は見れないことをとても後悔していた。
「あ、あの…宮本くんって呼んでいいかな?」
「……。ん?あぁ、できれば下の名前で呼んでくれ。そのほうが聞き慣れてて反応しやすい」
少し間が空き克也が喋りだす。
「ところで俺はなんて呼んだらいいんだ?」
「わ、私のことは青木でも佳那でも…」
「そっか、それじゃよろしくな佳那」
克也の笑顔を見た佳那は俯きながら席に戻ってしまった。
何かやっちまったか?顔が赤かったような気がしたが…。
だが、次の瞬間克也にそんなことを気にしている余裕は無くなった。
女子たちが一斉に克也の元へと寄ってきたのだ。
「わ、私のことは愛って呼んでね!」
「あ、ずるいわ!私のことは飯島でも千佳でも好きな方で呼んでね!」
キャーキャーと女子たちに囲まれ焦っていた。
克也は自分の顔を特に気にしていないが容姿端麗、運動神経も抜群で知能以外は羨ましがられるほどだった。
そんな克也に女子が騒がないわけもなくこうして集まっていた。
それを見ていた男子たちは嫉妬の視線を送っている。
「ちくしょう…イケメン羨ましい…」
クラスの男たちは憎悪の念を出していた。
少しして教室のドアが開き、翔が疲れた顔で戻ってきた。
クラス中の視線を集めたが翔は全く気付かなかった。
「ちくしょう克也め…どうやって仕返しをしてやろう…」
ブツブツと計画を考えながら自分の机に戻ろうとしたときにある女子と目が合った。
「……」
他の女子と違い克也の近くには行かず教科書を読んでいた。
そのことに関して翔は多少なりとも驚きをもっていた。
僕が思うのもアレだけど克也くらいの容姿ならアピールしに行くと思うんだけどなぁ…。
「えっと、姫松さんは克也のところに行ったりしないの?」
先ほどの授業のこともあり小声で聞くが、あっさりと首を振られる。
「別に…ああいうのあまり慣れていなさそうだし。それに、私には勉強のほうが大事」
その言葉を聞き翔は顔を輝かせた。
姫松はやや驚きながらもその表情をジッと見ていた。
「姫松さんって人のことよく見ているんだね!」
「あまり人に似たくないからよく見ているだけよ」
これは深く聞かないほうが良さそうな雰囲気だね、うん。
「うーん…。難しくてよく分かんないけど…とりあえずこれから一年間よろしくね、姫松さん!」
翔は手を差し出し握手を求めた。
姫松は驚いて様子を窺うが、翔に他意はなさそうだった。
「えぇ…こちらこそよろしく」
握手を交わし翔は笑いながら席に戻った。
姫松はその握った手を見ながら考える。
「やっぱり不思議な人…」
また誰にも聞こえない小さな声で呟くのだった。