問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!? 作:天崎
今回で六巻分終了です。
殿下が十六夜の方に視線を向けた瞬間を忍は見逃さなかった。
忍は全力で跳躍すると、殿下が認識するより速く、殿下の横腹に蹴りを放つ。
「クッ……」
殿下は吹っ飛ぶものの空中で体勢を立て直し、地に足を着けようとする。
そこに十六夜の山河を打ち砕く蹴りが放たれ蹴り抜かれる。
「ガッッッ……!?」
守る両手は弾き飛ばされ蹴り抜かれる。
殿下は警戒していなかったわけではない。
むしろ奇襲に奇襲を重ねた者達を相手にしていた直後で普段以上に警戒していた。
それでも蹴り抜かれたのは十六夜の万感の怒りを込めた一撃がこの一瞬、殿下の反応速度を遥かに上回っただけのこと。
十六夜は今回は周囲への影響を全く気にしていない。
それを感じた一同は避難を始める。
黒ウサギを介抱していたジャックは大慌てで黒ウサギを抱き上げて空に逃げる。
悟と球磨川は反坂の上に乗り、少々離れる。
「こんな距離でいいのか?」
「いいんだよ。まだ終わっちゃいないからな」
『もしかしたらがあるからね』
完全に距離を離さないのは球磨川と悟の意思である。
狐川は十六夜が来た時点で邪魔にならないように避難している。
忍は暦を掴み、空へと避難する。
◆◆◆◆◆
十六夜が殿下にトドメの拳を放った時、殿下の姿が消えた。
「っ、消えた!?まさか、昼間の野郎か!?」
「御明察」
芝居がかかった口調で嘲笑う声が響く。
陶酔にも似た声は、闘技場の瓦礫の上から発せられた。
◆◆◆◆◆
ぺストが宣戦布告し、リンがぺストに決別の意思表示をする。
リンが殿下の隣に戻った途端、魔王連盟の一同を中心に吹雪が渦を巻いた。
彼らが消えると思われた時、吹雪が斬り裂かれ、無散した。
「な!?」
マクスウェルが驚きの声を上げた瞬間、その喉元に刀が当てられる。
マクスウェルの背後にいたのは忍だった。
忍は【心渡】で瞬間移動の起点である吹雪を斬り裂き、瞬間移動を防いだのだ。
「斬りたいなら斬ったらどうだ?」
「望むならそうするかの」
忍は躊躇なくマクスウェルの首を斬り落とす。
同時に他の魔王連盟のメンバーも奇襲を受ける。
黒い鷲獅子とアウラは焔と稲妻の槍を放たれていた。
そしてリンには悟と球磨川が、
「相変わらず奇襲が好きですね!!」
リンはナイフで螺子を弾きながら言う。
『いや~彼が話しがあるっていうからね』
直後、リンの目の前に悟が現れ、刀を振り降ろした。
リンはナイフでそれを防ぐ。
おそらく球磨川が【大嘘憑き】を使って悟とリンの距離をなかったことにしたのだろう。
「話しってなんですか?加盟する気にでもなりましたか?」
「いや、逆だ。俺はお前達と完全に敵対する。これから俺がお前ら側につくことは絶対にない」
「つまり宣戦布告ということですね?」
「ああ、潰してやるよお前ら全員な!!」
鍔迫り合いを続けていた二人はそれを最後に互いを弾き合い、距離を取る。
一方、殿下は十六夜の拳をギリギリ避けていた。
「そう急ぐな。この決着は後日、必ずつける。…………必ずな」
そして殿下がバックステップして距離を取ると、リンがギフトを発動する。
それにより奇襲組の攻撃が魔王連盟に届かなくなる。
その間にマクスウェルは生首と胴体を繋げる。
マクスウェルは生首と胴体が繋がるのに何時も以上に時間が掛かった事に首を傾げるがとりあえず吹雪を渦巻かせる。
殿下は姿を消す最後の一瞬、黄金の双眸で十六夜を見ていた。
十六夜も同様に、消えるその一瞬まで殿下睨みつけていた。
恐らく____この少年とは、殺し合うことになるだろうと。
そんな、宿命のような感慨を胸に抱きながら。
◆◆◆◆◆
「この場ではこれくらいかな?」
闘技場での騒ぎを何処か離れたところで見ている者がいた。
「でも次に動く時には戦争だろうね」
その者は先の展開を考え微笑する。
「面倒な縛りから解放されたけど、僕はもう少し準備をさせて貰うよ」
それを最後にその者は姿を消した。
◆◆◆◆◆
魔王連盟が消えた後、“ノーネーム”のメンバーは間諜の疑いをかけられていた。
サンドラを連れ出した容疑でジンとぺストは投獄され、召集会に参加させるかどうか審議にかけられていた。
本来は悟率いる“百鬼夜行”の一部も審議にかけられるべきなのだが、逃げられたので疑いの強い“ノーネーム”が審議にかけられている。
逃げられただけではなく、この状況でぬらりひょんを敵に回したくないのも少なからずあるだろうが。
審議にかけられていた十六夜、球磨川、反坂、暦、狐川は正論で黙らせた後に逆に情報を聞き出していた。
そこにジャックが慌てて入ってきて、黒ウサギが大変なことに、と言うので審議を抜け、黒ウサギの病室へと走った。
ドアの前に着いた五人は一斉に病室に飛び込んだ。
「おい、黒ウ__」
____サギ、とは続けられなかった。
他の四人も同様だ。
先ほどまでの勢いはなんだったのかと拍子抜けするぐらい唖然と黒ウ__否。
“彼女”を見つめていた。
「み、皆さん……!!」
幸いなことに、彼女は意識を取り戻すぐらいに回復していた。
傷も大部分が癒えて大事ないように見える。
あったとしても球磨川が【大嘘憑き】で何とかしている。
しかしそれで何とかならない問題が今の彼女にはあった。
【大嘘憑き】でも何とかならないレベルに根本が書き変えられたように。
「く、くろう、」
「……詐欺?」
「『うわ、こりゃ酷い』」
ポロポロと瞳に大粒の涙を溢れさせている彼女に対しては失礼極まりないが、前者二人の言い分は正しい。
比喩がない程度には正しい。
ベッドの上で泣き崩れている彼女は側頭部の耳を押さえ、絶叫を上げた。
「う、うしゃ…………黒ウサギのウサ耳が………ウサ耳が無くなったのですよッー!!」
六巻分終了!!
いや~ サーカス編以下の話数になるとは……
十六夜やジンの視点が多かった巻ですからね。
後半部分の忍は影の中です。
それでは質問、感想待っています。