問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!? 作:天崎
____そして、地獄の窯は開かれた。
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活火山の噴火によって、戦線は一時的に静止した。
皆、誰の命令を受けたわけでもない。
火龍も古豪の戦士も巨人族も、巨峰から溢れる溶岩を目の当たりににして一斉に動きを止めたのだ。
球磨川と悟達は目まぐるしく変わる戦況を見定めようと足を止める。
彼らが異変を察したのは、その時だった。
『?』
ゾクリ、と特別に何かあった、というわけではない。
ただ背筋に冷たい悪寒が走った。
ある意味において慣れてるはずの彼らでさえ、悪寒を感じた。
寒気というような軽々しいものではない。
まるで死神の指が彼らの背を撫でたかのような不快感があった。
そして蛟魔王、混世魔王、ぺスト、黒龍、が活火山に視線を向ける。
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同刻、忍、暦、ウィラも同様の気配を感じて、天を仰いだ。
気配の元凶は、姿を隠してさえいなかった。
濃い雲海に包まれていた曇天の隙間を縫うように、朧月が姿を現す。
零れ落ちそうな黄色の月明かりと被さる様に、翼を広げる小さな影が見えた。
「何だあれ!?」
夜天を照らす凶星の様な紅玉の眼。
顎から頭蓋を貫通した杭を打たれた異形の三本首。
三つの双眸と六つの眼球は敵の胆力を根こそぎ枯れさせるだろう。
生物としての機能性も感じられなければ、神秘性を高める為の崇拝さも感じられない。
見る者全てが生理的に嫌悪を抱くその造形は元より異怖されることを目的にしているとしか思えない。
全長は十尺前後しかないというのに____その筆舌に尽くし難い威圧感は、巨龍すら凌駕している。
「あれが最強種とやらかの?」
三頭龍は“煌焔の都”の上で滞空し、六つの眼で俯瞰する。
それぞれの頭が別々の方角を見下ろしているのは現状を把握することに努めているからだろう。
その仕草からこの怪物に知性があることを誰もが確信する。
三つある首を各々動かし、幾度か首を傾げる仕草を繰り返した後____三頭龍は、翼を数倍にまで拡大させて羽ばたく。
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無造作に行われた三頭龍の羽ばたきは____月夜を覆い隠す曇天を瞬く間に消し飛ばし、一瞬にして夜の帳を掻き消した。
「マズイな!!“裏百鬼夜行・雪女×雪女×河童”。【超氷壁】」
悟が地面に刀を刺すと、氷のシェルターが球磨川や若頭派を包んだ。
しかし表面から削れていく。
だがどんどん水を補給してシェルターを保つ。
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「こりゃ……凄いわね」
三頭龍の羽ばたきによって雲海は左右に引き裂かれて消失し、大気を揺らす衝撃は波となって星の光を捻じ曲げる。
その波は大きな二つの竜巻となって都市部を駆け抜け、蛟魔王の造りだした海流までもを瞬く間に掻き消したのだ。
狐川はアルマの上でそれを見ながら呟く。
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三頭龍の双眸と眼が瓦礫の上に立っている黒ウサギを見付けるや否や、この世のものとは思えぬ絶叫を上げて急降下する。
「____GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!」
その絶叫は活火山の溶岩さえも押し返し大地に巨大な亀裂を発生させた。
ペンダントランプは砕け散り、最後に硝子の華を都市にばら撒いて消えていく。
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黒ウサギの下に狐川が着いた時には十六夜は致命傷を受けていた。
それを見て狐川は呆然とする。
そこへ、十六夜がありったけの声で叫んだ。
「くっ、ぁ………黒ウサギを…………連れて逃げろ、狐川!!アルマテイアッ!!」
「了解です……」
[っ、心得たッ!!]
決死の叫びにより、我にかえる狐川。
蹄を翻すアルマテイア。
アルマテイアは黒ウサギを捕らえる。
狐川としては、主様を置いていくのは不本意で、自分も残りたかった。
しかし十六夜が叫びに込めた万感の想いを察せない狐川ではない。
アルマテイアが飛び去るその一瞬、十六夜に一言告げる。
「____死んだら許しませんよ主様、いや“十六夜さん”」
「……それは分からねぇな。だけどそいつの事を頼んだ。この龍は………俺が足止めする………!!」
その言葉に。
その背中に。
黒ウサギは、追憶の彼方に見た両親の姿を重ねる。
「だ………駄、ぁ…………駄目…………!!」
黒ウサギは知っている。
あの背中が物語る覚悟を知っている。
その覚悟の行く末を知っている。
黒ウサギはアルマテイアの背中から身を乗り出し、必死に十六夜の背中に手を伸ばす。
それに気が付いた十六夜は苦悶の表情を無理矢理笑みに変え、首を横に振った。
「____ごめん。旗を取り戻す約束は……………果たせそうにない」
十六夜にとって、生涯で初めて、真っ直ぐな言葉で謝罪した。
黒ウサギは言葉にならない叫びを上げて身を乗り出そうとする。
見かねた狐川は黒ウサギの腹に蹴りを入れ、意識を刈り取り大人しくさせた。
そして狐川は十六夜の下に行きたい衝動を抑えつつ、十六夜の背を見る。
遠ざかる彼の背中は、天から降り注ぐ漆黒の紙吹雪の中に消えた。
[いざ来たれ、幾百年ぶりの英傑よッ!!
死力を尽くせッ!!
知謀を尽くせッ!!
蛮勇を尽くし____我が胸を貫く光輝の剣となってみせよッ!!]
十六夜がいる方向からそんなことが聞こえるのだった。
◆◆◆◆◆
その夜、星々が揺れた。
三界を突き抜ける嵐が吹いた。
静止していた世界を廻る歯車が、激動と共に動き出した。
七巻分終了!!
十六夜vsアジ・ダカーハ開始ですね。
夏休みも今日で終了なので毎日投稿は今日で最後と思います。
狐川が最後に呼び方を変えてましたが特に深い意味はありません。
関係としては変わらず主従です。
次は八巻に入りたいところですが、最新刊をやると次の巻で致命的な矛盾が出る可能性があるんですよね。
そこらへんは次回にて。
以下雑談
傾は次回で終わりそうですね。
また総集編あるみたいですが、尺は大丈夫なのですかね~
何はともあれ、囮の終盤は撫子ファンに対するサバトですね。
仁藤ですら防げないサバトですね。
閑話休題
それでは質問、感想待っています。