問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!?   作:天崎

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強いられて来た事

未開の樹海。

狐川は森林浴気分であった。

 

「里を抜け出してからの生活を思い出すわね~」

(森林の中で自給自足じゃったからの)

 

その隣では黒ウサギがうつむいている。

何時間も膝を抱えて、たまに火に薪を投げるくらいだ。

気持ちは分かるがはっきり言って、その姿にはイライラさせる物があった。

心配等は一応しているがそんな物は狐川も同じだった。

あの場面を最後まで眺めていたのは、狐川の方なのだから。

 

「…………狐川さんは、後悔していませんか?」

 

「何をよ?」

 

「“ノーネーム”に所属していることを」

 

その言葉だけで我慢の限界が来そうになるが必死に収める。

そこから黒ウサギは身の上話を始める。

が、その弱気な黒ウサギに遂に限界を向かえる。

近くのコップを手に取り、入ってた水を思いっきりぶっかける。

 

「………な、何をするんですか!?」

 

「暗い話をしてんじゃないわよ!!後悔なんてするわけないでしょうが!!里での暮らしに比べりゃどれだけの地獄だろうが構わないのよ!!」

 

思いっきり叫んだ。

本音ではあった。

“不知火の里”での暮らしを続けるくらいなら地獄にでも飛び込んでやるつもりではあった。

 

「自己を削られ!!影武者として生きる事を強いられ!!挙げ句の果てには“言彦”に体を捧げて“私”は死ね!?ふざけんじゃないわよッ!!私の生きる道は私が決める!!ただそれだけよ!!」

 

「こ、狐川さん?」

 

吐き出したい事を吐き出すだけ吐き出していたら黒ウサギが不安そうに声をかけてくる。

さすがに一旦落ち着いて、一度息を吐く。

 

「叫んで悪かったわね。と、ともかく!!あんな生活に比べたら私は主様と、貴女達と楽しくやれてる“今”に後悔なんてするはずが無いのよ」

 

小さく笑って言う。

話すつもりは特に無かった。

とはいえ、安心院や球磨川辺りは察していただろうが。

それはともかくとして狐川としては、“ノーネーム”の暮らしには満足している。

それだけで充分なのだ。

 

「こ、狐川さ…………ウヒャァ!?」

 

狐川の言葉に涙目になった黒ウサギが何かを言う前に狐川は、首根っこを掴んで自分の後ろに投げる。

そして、気配を感じた方を睨む。

 

「こ、狐川さん!?何を!?」

 

「天狐ッ!!」

(ほいほい)

 

状況の分かっていない黒ウサギを無視して、焔の衣を展開する。

橙の瞳で草葉の陰にいるそれを見据える。

炎槍を作り、投げ付ける。

 

「GEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!」

 

だが、無駄だった。

爆炎を物ともせずに純白の双頭龍が飛び出てくる。

静かだった樹海に獰猛な雄叫びが響き渡る。

狐火を出しながら、狐川は顔をひきつらせる。

 

「チッ…何でこう私は運が悪いかな!!」

 

狐火を火炎弾として放ち続ける。

アルマティアがいない現状では倒す術はない。

逃げる為の時間稼ぎが出来れば良しである。

 

「狐川さん!!もう一体隠れていますッ!!」

 

その言葉で完全に希望を砕かれる。

一匹なら逃げるくらいは出来たはずだ。

しかし、二体は許容オーバーだ。

灼熱の双頭龍が放つ気炎を全力の狐火でどうにかそらす。

 

「死ぬわけにはいかないのよ!!主様の生きた顔を見るまで死ぬわせにはいかないのよ、私はッ!!」

 

二体の双頭龍を前にしながらも叫ぶ。

だが、その叫びは虚しく響く。

黒ウサギは既に放り投げてある。

気炎はどうにかそらしているが、限界も近い。

それでも出来る事はする。

諦めはしない。

だが、更なる不運が狐川を襲う。

 

「ッ!?……こんな時に、グボッ!?」

 

元々ヒビが入っていた足の骨が悲鳴を上げ始めたのだ。

そして、それは双頭龍相手には大きな隙になる。

気炎を上手くそらせずに横合いに着弾させてしまう。

その余波に巻き込まれて吹き飛び転がる。

 

「まだまだァ!!」

 

痛む体を無視して立ち上がる。

だが、現実は非情である。

直後に純白の双頭龍が尻尾を振るってくる。

避ける間など無かった。

受け止めるだけの力も残っていなかった。

 

「狐川さんッ!!」

 

黒ウサギの悲鳴だけが響く。

ゴキャベキャと嫌な音を響かせながら双頭龍の尾は狐川を薙ぎ払う。

野球のボールの様に吹き飛ばされる。

木々に衝突し、数本へし折った所で勢いは止まる。

 

「…………ゲホ」

 

惨状だった。

木々の残骸の上に狐川は転がっていた。

足の骨は衝撃で折れた。

だが、そんな物が気にならない程度には酷かった。

手足には木々の破片が刺さり、内臓は傷付き、吐血している。

肋骨は折れ、砕けているのもある。

その破片が内臓に刺さっている可能性もあった。

血が水溜まりの様に広がっていく。

意識は朦朧とだがあった。

全身が激痛に襲われている。

それでも意識を失わないのは狐憑き故にだろう。

揺らぐ視界の中で灼熱の吐息が放たれる。

 

「………ハッ」

 

体は動く筈も無かった。

小さく息を吐けただけでも奇跡に近かった。

そこで視界の端で何かが動いている事に気付く。

 

「こ…………狐川さんッ!!」

 

黒ウサギが走り出していた。

やめろ、と叫びたかったが声は出ない。

ウサ耳を、霊格を失った今の黒ウサギに出来る事などはない。

全ては無駄かもしれない。

しかし、それも覚悟の上だった。

幾星霜の遥かな過去______仏話の“月の兎”が己の身を捧げた様に。

同士を守る為に、黒ウサギは灼熱に飛び込んだ。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

近隣の樹海。

マクスウェル及び鎧の天使達と戦う球磨川及び殿下達は、近くで誰かが双頭龍と戦っているのに気付く。

だが、マクスウェルと向き合う球磨川はそちらを気にもしない。

 

『いやいや、ウィラちゃんには全開パーカーがいいと思うよ?』

 

「私のウィラで妙な妄想をするなァ!!」

 

『別に君の物ではないだろう(笑)』

 

「いいや、私のだッ!!」

 

延々とマクスウェルに対して挑発を続ける。

殿下も適任という事で任せていた。

とりあえず作る隙を生かす為に天使を片付けるのを先決にしていた。

球磨川の挑発にマクスウェルは随分軽く乗せられていた。

 

「負け犬がァ!!私の私の私のウィラでぇぇぇぇぇぇ!!」

 

『うおっと、危ないね』

 

危ない、と言いつつ半身は焼かれているが即座に“なかったこと”にする。

ヘラヘラ笑って全く表情を崩さない。

それがただでさえ壊れてるマクスウェルの精神を逆撫でする。

そこに出来る隙を球磨川は突く。

 

『それにあながち、負けてもいないよ』

 

「なんだと?」

 

『だって、君は既に僕の螺子に貫かれてるじゃないか』

 

「なぁ!?」

 

その言葉にマクスウェルの瞳が驚愕に染まる。

言われた直後にマクスウェルの肩などに数本の螺子が刺さっていたからだ。

刺す所など見えなかった。

気付く間もなく刺したというのか、と思考を巡らす。

 

「何をし……」

 

マクスウェルが叫ぶ前に球磨川は姿を消していた。

周囲を見回そうとするが、その前に球磨川の声が聞こえてくる。

 

『なんてね。嘘だよ。“虚数大嘘憑き”で、僕が“なかったこと”にしていた傷を“なかったこと”にしただけだよ』

 

つまりはマクスウェルを転移前の座標に戻す時に刺し、消した螺子を元通りにしていただけだ。

分かれば簡単な物である。

だが、それでマクスウェルが取り乱せば充分だった。

 

「くだらん戯言を……ぬっ!?」

 

『………君、取り乱して空間跳躍するのを忘れてたでしょ?』

 

マクスウェルの背後で球磨川が呟く。

マクスウェルが振り向こうとするのだが、その体から力が抜けていく。

“螺子の刺さった”両腕を地に付き、憎々しそうに球磨川を睨む。

球磨川は気にせず続ける。

 

『はい、これで御仕舞いだね』

 

一瞬でも取り乱した時点で勝負は付いていたのだった。

 

 





灼熱に包まれる黒ウサギでした!!
狐川、天狐、アルマティアの三位一体で霊格を上げてた面もあるので狐火も弱まってます。
後半に関してはあの人が素直に終わるわけはありません。

それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。
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