問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!?   作:天崎

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霧の開戦

___そして、長い夜が明ける。

閑散とした尖塔群の街に乾いた風が吹く。

夜明けが近くなり、昼と夜の気温差で風が強くなる。

月から零れる光は徐々に鳴りを潜めていく。

街には夜明けの時間に現れる霧が立ち込めている。

視界は不明瞭で一寸先は闇の中。

三頭龍は三つ首のとぐろを解いて四つん這いのまま臨戦態勢に入っている。

敵の姿はないが、仕掛けてくる気配を鋭敏に感じ取っている。

先制攻撃を許されるのは主催者のみ。

そして、仕掛けてくるならこの時間だ。

夜目が利く三頭龍に夜戦を挑む意味はない。

奇襲を仕掛けるならばこの霧を利用した方がいいのだ。

三頭龍は四肢を獣の様に構えて敵を待つ。

主催者側は、アジ=ダカーハの位置を探る為の間諜を放っているだろう。

それを潰せれば状況は五分だ。

三頭龍の勝利は確実に近付く。

朝日さえ遮る濃霧は奇襲にはちょうどいい。

三つ首は全方位を常に確認し、蛇が持つ熱源探査器官_____ピット器官も備えている。

動く熱源があればすかさずに噛み千切ろうと牙を剥く三頭龍に。

予想外の所から___否、予想外の攻撃が放たれる。

 

[_____!?]

 

三つ首の一つが真下から蹴り上げられる。

気配は無かった。

殺気も無かった。

足音も無い。

姿も無い。

今まさに三頭龍の首の一つを蹴り上げたというのに姿が見えない。

否、認識出来ない。

だが、この状況には覚えがある。

大気の動きすら錯覚させるような“恩恵”。

その持ち主に心当たりがある。

ならば、やる事は一つである。

眼を大きく見開く。

感覚を研ぎ澄ませる。

そして、本能に従い翼の龍影を放つ。

 

「……ぬぅ」

 

小さなうめき声が聞こえる。

ガギィ!!、と龍影と何かがぶつかった様な音が響く。

同時に走ってくる様な“足音”も聞こえ始める。

そして、陽炎の様に揺らめいてはいるがぼんやりと姿も見え始める。

そこへ龍影が襲い掛かる。

龍影は触れただけで建築物を弾き飛ばす。

一撃でも当たれば、身体は砕け散る。

それでも突っ込んで来る。

龍影はその手に持つ刀で軌道をそらす。

そうして龍影をやり過ごすと、三頭龍へと飛び掛かり、刀を振るう。

そして、鮮血が舞う。

 

[やはり、貴様か。ぬらりひょん!!]

 

「ほぉ~儂を覚えていたか。まともにぶつかった記憶は無いんじゃがのう。何にせよ、“絶対悪”に記憶して貰うとは光栄じゃのう」

 

向き合う二人。

もはや姿はしっかりと見えていた。

三頭龍の前には老人が、ぬらりひょんが立っていた。

その頭部からは血が流れてる。

おそらく弾き切れなかった分が掠ったのだろう。

とはいえ、これだけで済んだのがむしろ凄いのだ。

対して三頭龍の肩からは血が流れている。

擦れ違い様に斬ったのだ。

 

[まさか、貴様と正面から戦う日が来るとはな]

 

「儂も思って無かったんしゃがのぅ。雇われたからには仕方無いんじゃよ」

 

[よく言うな。何よりも戦いが好きなのは貴様だろうに]

 

「否定はせんがな。戦ってみたくはあったからの。戦力が整う前に封印されて残念とも思っていた。本当に……これが最後になるというのに正規の百鬼で相手出来ないのが残念じゃ」

 

[まるで正規の百鬼を率いていれば私に勝てる様な口振りだな]

 

「いや、それはやってみないと分からんがの。とはいえ、一つ誤解をしてるぞ。今の百鬼もそこそこやるもんじゃぞ?」

 

ぬらりひょんが不敵な笑みを浮かべる。

三頭龍はそれを怪訝に思うが即座に思い出す。

ぬらりひょんは百鬼を率いる。

つまり、集団戦が前提だという事に。

直後に天空に輝く雷光が、三頭龍を襲う。

 

[ヌゥ………!?]

 

幾重もの落雷が三頭龍を穿つ。

稲妻の熱と光の中で苦悶の声が僅かに漏れる。

閃光の中で身を焼く三頭龍は、己を襲う稲妻の霊格に覚えがあった。

 

[この神雷………まさか、帝釈天か…………!!]

 

三頭龍が帝釈天の存在に気を取られた隙にジャックとフェイスレスが物陰から襲ってくる。

二人の刃が煌めき、三頭龍に裂傷を与える。

 

[小賢しい!!]

 

龍影を放つ。

だが、二人は避け捌いていく。

 

(これが狙いか?……いや、違う。“呑まれ”た!!)

 

「儂から視線を外したな?」

 

ぬらりひょんの声が響く。

だが、その姿は消えている。

ただ、声だけが響く。

気配すらも消えている。

これこそがぬらりひょんの力だ。

かつて、三頭龍が封印される前。

“百鬼夜行”とアジ=ダカーハは何度か出会っていた。

それでも“百鬼夜行”は目立った被害を出さずに逃げ切っていた。

その事実もほとんど広まってすらいない。

それは“彼ら”の本質も関係する。

だが、理由は単純だ。

気付かれない。

それだけだ。

“百鬼夜行”は例え相手がアジ=ダカーハだろうと二次被害をそこまで出していなかった。

目撃者など、そもそもアジ=ダカーハが近くにいる時点でいない様な物だ。

さて、“百鬼夜行”の面々がどうアジ=ダカーハから逃げ切った、かという所はそれまた単純だ。

ぬらりひょんが囮となり、残りは全て即座に撤退したのだ。

相手にすればそれだけ被害が出る。

だから、相手にしない。

そうして残ったぬらりひょんはアジ=ダカーハの気を引き付ける。

引き付けれるだけの理由があった。

ぬらりひょんの力こそ、その理由だ。

ぬらりひょんの力にはバリエーションが割りとある。

その中でも特にぬらりひょんが好んで使う物だ。

敵の認識から消える力の応用みたいな物だ。

いわゆる第二段階と言う物だ。

まず、第一段階は“気付かれない”という物だ。

どれだけ近付こうとも存在を気付かれないそんな状態だ。

それを応用したのが第二段階。

相手の視界から外れた瞬間、第一段階と同様の状態になるという物だ。

何かに気を取られ、ぬらりひょんを視界から外せば姿が消えるのだ。

だからこそ、ぬらりひょんを相手にする時は視界から外せない。

外せば何時奇襲されるか分からない状態になるからだ。

とはいえ、こんな力があってもアジ=ダカーハを相手にするならそれ相応の実力が必要だ。

それはぬらりひょんにそれだけの実力があっただけの話だ。

そして、これを利用し、囮となり、仲間が逃げ切れば自身も逃げ仰せたのだ。

そして、今アジ=ダカーハはぬらりひょんを視界から外した。

 

[ぐぅ……!?]

 

三頭龍の胸元が斬られ、鮮血が舞う。

その時にはぬらりひょんに“気付いて”いる。

これがデメリットである。

干渉しなければ気付かれる事も無い。

だが、触れるなり、攻撃するなりすれば“気付かれ”やすくなる。

三頭龍くらいになれば、第二段階であれば一撃で気付ける。

逆に言えば奇襲を受けなければ、“気付け”ないのだが。

今度こそ見失わない内に仕留めようと龍影を放とうとする。

しかし、そこへ榴弾の雨が放たれる。

 

「撃て!!」

 

加えて火龍達が一斉に気焔を放出する。

普通なら気にするまでも無い攻撃である。

だが、“これ”は威力が大きく違っていた。

それに気付いた三頭龍は龍影でそれを阻む。

だが、生まれたばかりの双頭龍は殲滅されていく。

残ったのは無傷のアジ=ダカーハだけである。

 

[また、見失ったか!!]

 

ぬらりひょんもまた姿を消していた。

そして、火龍達の気焔の威力が増しているのもぬらりひょんの仕業だろうと気付いていた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「だぁぁかぁぁぁらぁ!!なんで、あの人は平気で作戦を無視するんですか!?此方が折角組み立てた作戦を!!あんたも温存しておくべき、主力でしょうが!!」

 

暦の肩の上でラプ子IIは荒れていた。

おそらくコマンダーの方もかなり荒れているのだろう。

ぬらりひょんは、本来の作戦を無視して独断先行で三頭龍に攻撃していた。

本来ならば場所を伝えるだけで良かった物をだ。

しかし、それ故にギフト“百鬼夜行”は発動した。

ぬらりひょんはその行動を持って、実力を示し、参戦した者達を“呑んだ”。

希望を持たせる事でギフト“百鬼夜行”を発動可能な精神状態まで持っていったのだ。

故に参加者達は強化されていた。

とはいえ、本来ならば戦闘開始前にその状態にするつもりだったのだが。

とはいえ、そんなアドリブに合わせて援護を出来るラプ子も優秀ではある。

 

「魔王も爺さんも半端無いな………」

 

「儂の出番はまだか?」

 

「まだです!!」

 

地上を確認して驚きの声を漏らす暦。

早く戦場に出たい忍。

忍の言葉にやけくそ気味に返すラプ子。

そして、暦の視線は火龍達に向く。

 

(この分なら……彼らの出番もないかな?)

 

心の中で呟く。

聞くと、彼らは外法に手を出したらしい。

全ての火龍が、ではないようだが外法は外法である。

当然代償はある。

故に戦いが穏便に終わればいい、と思うのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

何度かの奇襲を繰り返し、また三頭龍とぬらりひょんは向き合っていた。

 

「やはり、戦場にいると血が騒ぐのぅ。儂の妖力も高ぶる!!」

 

[ふん……相変わらずのらりくらりとした戦い方だな。だが、それでは私には勝てないぞ?]

 

ようは決め手が欠けるという事だ。

それはぬらりひょんも分かってる。

“故に”、ぬらりひょんはニヤリと笑う。

 

「安心せい。“百鬼”もどうにか整った様じゃ。“ワシ”もそろそろ全開じゃ!!」

 

その言葉と共にぬらりひょんの姿が揺らめく。

視界は外してない。

なのにその姿が不安定になり、モザイクの様に見えなくなる。

そして、姿は霧に包まれ影だけになる。

 

「久しぶりじゃのう………この姿になるのも!!」

 

霧が払われる。

姿が現れる。

だが、それは別人のようだった。

否、正確には別人ではない。

三頭龍にも見覚えがある。

この姿は封印前に見てきた物だ。

現れたのは三十代程度の外見となったぬらりひょんだった。




開戦でした!!
若返りってわけでもないです。
詳しくは次回です。
ぬらりひょんについてはかなり強い部類です。
能力に関しては悟と同類ではありますが質が違います。

それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。

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