問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!?   作:天崎

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それぞれの決断と進路相談
欠けた物と広がる波紋


とある森の中。

一際大きな木の頂点に天狗面を付けた山伏姿の男が立っていた。

その下では悟や茨が木の枝を足場に登ってきていた。

 

「今度こそ!!」

 

天狗面の男の目の前に迫り、刀を握り強く踏み込もうとした時だった。

悟が足場にしていた枝が折れ、悟は落下するのだった。

 

「力を入れ過ぎじゃ」

 

「くそッ」

 

激しい音を立てながら落ちるが割と平気そうに立ち上がり、また登っていく。

茨は木の幹を足場に跳躍を繰り返し、天狗面の男の頭上に辿り着き刀を振り下ろす。

天狗面の男は木の葉を二枚浮かすとそれを指で挟むようにして刀を掴み取る。

 

「軽いのう」

 

「なッ!?」

 

茨が目を開くがそんな物はお構いなしに投げ捨てられる。

そのまま落下することなく木の幹に刀を刺して止まろうとするがそこに木の葉が手裏剣の如く飛ばされてきて妨害される。

 

「ちゃんと下まで降りてから来るんじゃな」

 

盛大に舌打ちしながら茨は落ちていくのだった。

それを天狗面の男の後ろで見ながら皐は苦笑するのだった。

 

「かれこれ、もう数十回は落ちてるな」

 

「体重移動が重要なのは気付いてはいるようなんじゃがな」

 

「このくらい簡単な気もするんだがな」

 

「そうだね。私も慣れればすぐに出来たし」

 

「お前らは元より身軽じゃしな」

 

「にしても、鞍馬の爺さんもよく修行なんて引き受けたな」

 

「俺も暇じゃからな」

 

仮面の下で笑いながら男は、鞍馬天狗は言う。

その周囲を皐と夏歩がヒラリヒラリと歩いていく。

始まりは悟だった。

アジ=ダカーハとの戦いで力不足を感じ、修行をすると決めたのだ。

それでぬらりひょんの知り合いで百鬼夜行から身を離して隠居している鞍馬天狗の元に来たのだった。

鞍馬天狗にはかつて後の源義経である牛若丸を鍛えたという伝承がある。

それに目を付けたのだった。

土丸のように勧誘するつもりなら断るつもりだったようだが、修行だったので快く引き受けたのだった。

ちなみに茨と皐は無理矢理付き合わされ、夏歩は皐に付いてきただけだった。

 

「そういや、何で剣術じゃなくてこの修行にしたんだ?」

 

「あいつらの剣は基本的に我流じゃからな。無駄に仕込んで型に入れるよりこういうスキルを鍛えた方が伸びるんじゃよ」

 

修行の内容は単純明快。

木の頂点にいる鞍馬天狗に一撃入れるという物である。

しかし、彼が選んだこの森は枝の強度がまちまちであり、踏み込み次第では即座に落下する。

なので、枝の動きに合わせて体重を移動させる必要がある。

着地と跳躍もそこらへんを意識する必要がある。

足場の性質を理解し、効率良く動く為の修行なのだ。

 

「身軽とはいえ、猫の嬢ちゃんはともかくお前は修得が速すぎる気もするんじゃがな」

 

「俺はただ単に面倒がりなだけさ」

 

「いっそ、お前には剣術を仕込んでみるか」

 

「やめてくれ。俺にその気は無い」

 

「まぁ修行が次の段階に以降すれば嫌でも剣筋は覚えるじゃろうがな」

 

「寒気がすることを言わないでくれよ」

 

今後の事を考えて震える皐なのだった。

その間にも悟と茨は登って落下を繰り返すのだった。

半ば意地になっているとはいえ徐々に修得していくのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

"風浪の鉱山"六本傷の街。

 

『十六夜君、そろそろ昼だよ。君は予選もあるんだしそろそろ起きた方がいいんじゃないかな?』

 

「男に起される程目覚めの悪い物は無いな」

 

「そりゃ、同感だが俺達がやる羽目になってる仕事に比べりゃマシだろ」

 

「それもそうだな」

 

球磨川と皐に起され、"悪夢"を見ていたこともあって最悪の目覚めの悪さの中で十六夜は準備していく。

皐辺りが入れた緑茶を一気に飲み、ついでにコーヒーを入れて一気に飲み干す。

顔を洗い、風呂に入り、鉱山に相応しい作業服を着こむ。

採掘用の鶴嘴を脇に抱えてオリジナルの土建屋スタイルを着込んで仁王立ちする。

 

「うっし。それじゃあ、元気に掘りまくるか」

 

ヤハハと軽快に笑いながら宿を出る。

男三人で鉄火場を歩いていく。

 

「そういえば、狐川は今頃ゲームの予選か」

 

『悟君や忍ちゃんもだね』

 

「まぁ、あいつらなら応援しなくても普通に勝つだろ」

 

『悟君は普通と言っていいか微妙だけどね』

 

「何か不正でもやってるのか?」

 

「いや、ルール的には問題無いが手段としては汚いとしか言えないな」

 

『それも悟君らしくはあるんだけどね。本戦で見掛けたら懐に気を付けた方がいいよ』

 

球磨川と皐の言葉で十六夜は大体察するのだった。

それから、思い出した様に球磨川が言う。

 

『そういえば、ゲームの前に"六本傷"のポロロ君と話し合いだったよね?』

 

「自分で把握しておけよ。今後の相談だとさ」

 

「ポロロ?…………ああ、あのネコミミチビッコ頭首か」

 

「ああ、採掘した”金剛鉄”の使い道の相談だとさ」

 

六本傷の旗を指差しながら面倒そうに欠伸をする皐。

球磨川も疲れたのか、やる気が無いのか気力が薄い。

十六夜は遠い目をする。

 

「”金剛鉄”の使い道………ねぇ。お前らが実質暫定的にリーダー代行してるとはいえ御チビが見付かるまで待たなくていいのか?」

 

「俺としても面倒な限りなんだけどな」

 

『予算出してくれてるし、保管のコストも掛かるし、あんまり世話になりすぎるのはよくないからね』

 

三人とも六本傷の旗印を見上げながら言う。

三頭龍アジ=ダカーハとの戦いから三カ月が経過している。

下層は平穏な日々を過ごしてはいるが傷跡は多く残っている。

”ノーネーム”もジン=ラッセルと安心院なじみが行方不明になっている。

安心院は球磨川の証言からして遊んでいるだけなのが分かるが、問題はジンだ。

 

「これだけ探しても見付からないとなると」

 

「”ウロボロス”の連中に拉致られたんだろうな」

 

「だな。………あのお馬鹿。身の引きどころを間違えやがって」

 

舌打ちして悪態を吐く。

ジンは自分の意思でウロボロスの許に残ったという。

何か考えがあったんだろうが、組織の最高責任者がいなくなったままでは”ノーネーム”の活動のほとんどが凍結されてしまう。

球磨川はある程度事情は聞いていたが、あえて黙っているがゆえに顔を反らす。

球磨川が何かしら情報を得ていることは薄々感付かれているが、背後にあの人外の影があることも察しているので深くは追及されていない。

ジンを取り戻す方法もあるにはあるのだが、現状ではどうにもならない。

仮のリーダーとして球磨川がある程度仕事をし、皐が補佐をしてはいるがそれも限度はある。

”ノーネーム”は幾つかの決断を迫られていた。

 

「しっかし、このタイミングで今後の方針を決めにかかるとはね。六本傷のチビッ子頭首がやり手っていう噂は本当らしい。中々に容赦が無い」

 

『これでも粘り強く待ってくれた方だとは思うけどね』

 

「百鬼夜行の幹部連中だったらもっと催促してくるとこだぜ」

 

わかっている、と十六夜は相槌を打つ。

頭首が欠席したままでは決めることも決められないという”ノーネーム”の事情をポロロはよく汲んでくれた。

むしろ感謝すべきかもしれない。

 

「いつまでもそのままじゃいられないってことだな」

 

諦めたように面倒そうに皐は呟く。

その言葉には何か別の意味も含まれていそうだったが球磨川も十六夜も触れはしなかった。

そのまま三人は雑踏を歩いていく。

鉱山の街の賑わいは何処か遠い景色を思わせる。

ノーネームが健全な状態なら、さぞや楽しかっただろう。

鉄火場の横道をしばらく歩くと、会議室前の洞穴前に着いた。

皐は頭を掻きながら適当な調子で二人に言う。

 

「まだ新参に近い俺が言うのも何だけどさ。来るときが来たら覚悟だけはしといた方がいいかもな」

 

『分かってるよ、それはね』

 

「その時が来ねえと分からないかもな」

 

二人はそれぞれ答える。

球磨川はいつも通りの調子でありながらも何かを思うように影を見せる。

だが、相変わらずそれが何かは察せない。

十六夜も軽薄な笑みを浮かべながら洞穴に足を踏み入れる。

箱庭に来る以前の何処か自嘲を含んだ笑みを浮かべて。

皐はその二人を見て他人事の様に首を振る。

しかし、どれだけ深く巻き込まれないようにしても、どれだけ面倒そうにしても彼はそれを避けられないだろう。

 

 

 





第一部最終巻に突入です!!

冒頭の修行は本編部分より時系列的に多少前です。


それでは、質問があれば聞いてください
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