問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!?   作:天崎

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消える痕跡

男の話をしましょう。

彼に始まりなどは無く、彼に何かがあった事はありませんでした。

両親も知らず、情も知らず、愛を知りませんでした。

彼にあったのは内から湧き上がる”衝動”だけでした。

 

彼はそれに従い、延々と人を斬りました。

彼の通る道には血しか無く。

残る物は残骸ばかり。

血肉に屍、折れた刃に砕けた鞘。

そこに意味は無く、残る物はありませんでした。

それは、そうでしょう。

彼はただ”衝動”のままに血を求めて斬っているに過ぎないのですから。

まさしく愚行、まさしく無駄に等しい行いでしょう。

 

けれど、それにも変化はありました。

手段と目的の逆転が発生したのです。

より強い者を打ち倒して斬った時の感覚が彼を変えたのです。

ただ、血を見る為だけだった行為に”意味”が生まれたのです。

より強い者と戦って勝つという一つの指針が刻まれたのです。

それからの彼は強者との戦いを、そして、強者を打ち負かす程の力を求めました。

虚無に等しき心に、”我”を一切持たない心に火が灯ったのです。

火は貯めに溜め込まれた燃料の中で燃え広がり、狂気となりました。

それで彼は戦闘狂になったのです。

 

元々持ち合わせていた力もありました。

数多の斬り合いで培ってきた経験がありました。

それらによって積み重ねられた彼の実力は多くの者を打ち破りました。

けれど、彼が満足する事はありませんでした。

所詮は井の中の蛙の狭い視界のことであれ、彼より強い者が減少していったのもまた事実。

それが彼に退屈を覚えさせたのです。

戦闘の味を覚えた身にとって雑魚との戦闘は退屈そのもの。

満たされないというのは”戦闘”しか内に無い彼にとって苦痛そのものです。

でも、だからこそ、強敵を求めて内の焔は大きくなる一方。

それが余計に狂気を加速させる。

 

戦いに戦い、延々と屍の山を積み上げる日々の中で彼は一人の男と出会いました。

軽々しいくせに底の見えない男は飄々としながら彼を自身の組織に勧誘します。

彼にとってそんな誘いはどうでも良い事でした。

ゆえに激突は必然でした。

二人の力は拮抗し決着は付かずにお互いが倒れる結末に。

そこで彼は渋々と誘いに乗りました。

再戦のチャンスを増やす為でもありました。

それよりも何よりも彼はその男が気に入らないのでした。

加えて言うなればそこでようやく彼は井の中から出て外の世界に視界を向けれる様になったのでした。

 

外で見たのは自身より遥かに上の強者。

それも一人や二人では無く無数にでした。

それはある意味念願が叶えられ、それはある意味彼を更なる変質に誘う物でした。

格上を見た彼は更なる力を望みました。

手が届かないところにある物を手に入れるべく、力を求めました。

それは正に渇望でした。

心の底から力を求めた彼は自身の変化にも気付かないままにひたすら修行を重ねます。

 

彼の周囲には何時しか人が増えていました。

けれど、彼の眼中にはそれらは入ってませんでした。

仲間として接する者も、友人として接する者も彼にとっては意味の無い物であり彼にとっては価値の無い物でした。

彼にとって他人は敵か、味方ですらなく越えるべき壁かどうかでした。

自分より弱い者に興味は無く、ひたすらなまでに自身より強い者を目指している。

そんな彼にも例外はありました。

一人は何時までも決着の付かないいけ好かない男であり。

もう一人は自身を息子と呼ぶ鬼でした。

かの総大将にならぶ程の実力を持つ鬼は彼を見るなり何を感じたのか息子扱いし始めたのです。

彼にとっては迷惑なはずであり、実際迷惑でした。

それでも、明確な拒絶はしませんでした。

明確な拒絶は出来ませんでした。

彼自身何故だかは分からないけれど、他人とは思えていないのでした。

 

 

彼を一言で表すなら単純明快に”戦闘狂”と呼ぶのが正しいでしょう。

彼の戦闘に対するスタンスはまさしく狂気です。

戦いに意味は無く、ただ戦うことを求めるだけが彼。

本当に愚かで虚ろな存在でしょう。

 

 

けれど、彼も変化の途中ではあります。

幾つもの出会いは彼に少なくない変化を与えていきました。

では、此度の女性との出会い。

それが何を齎すか、それがどういう意味を持つか。

それはまた先のお話。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

茨と鈴姫は出会ってから来る日も来る日も延々と戦っていた。

実際には茨が延々と挑んでいるだけで鈴姫からしたら遊びに近かった。

最初の一週間は最初の内は楽しんでいた鈴姫も退屈になっていった。

次の一週間でその退屈はガラリと変貌した。

 

「あら、あらあらあら?」

 

「いきなり何だ?」

 

期待外れかと失望し掛けていたが再び光が見えたと言える眼であった。

茨の成長速度は鈴姫の想像を遥かに超えていたのだった。

まるで何かに影響されたかのごとく動きが変わっていた。

遊び気分とはいえゾクリと寒気を感じさせる事すらあった。

出会ってから三週間で鈴姫の茨を見る目は完全に変わっていた。

 

「どうした?気持ち悪い顔しやがって」

 

(わらわ)にとっても意外でね。まさかこんな楽しみがあるとは思わなかった。いや、本当に(わらわ)は今が愉しくて仕方がないのよ」

 

「あいつに同調するわけじゃないが、本当にどうした?俺から見ても気味が悪いぞ」

 

罪牙の指摘を笑ってスルーする。

鈴姫は本当に心の底から愉しんでいた。

鈴姫から見れば弱者である茨。

それがひたすら挑んで来るのを鬱陶しいと感じる気持ちは最初の内はあった。

だけど、だからこそ、その弱者が遥か格上に挑み続ける姿が、必死になってる姿が可愛く見えてきたのだ。

そして、それがどんどん成長している事を感じて喜びも覚えていた。

まるで師匠が弟子の成長を見てる気分であった。

同時に茨の姿に目を奪われてもいた。

格上に挑戦し続けるなど普通ならば出来はしない。

何処かで諦めを感じる物だ。

けれど、茨は諦めはしないし歩みを止めたりもしない。

意地があるのは分かっている。

根底にある純粋な狂気も分かっている。

その上で見ていて好ましく思うのだった。

出会ってから四週間。

鈴姫が鬼の力を使っていても対応できるくらいには茨は成長していた。

未だに鈴姫が一方的に押すだけではあるが、成長度合いとしては凄まじかった。

 

「ははっ、出会って間も無い頃のあんたが懐かしく思えてくるわね。(わらわ)に一方的に蹂躙されていた姿を、ね」

 

「黙れ」

 

「つれないわね~」

[馬鹿が][阿呆が][鈍感が]

 

刀が責める様に呟いていく。

今回は嘲笑は混じっていなかった。

どちらかと言えば鈴姫が褒めたのに素っ気無い態度をする茨に怒るかの様だった。

毎度のごとく鈴姫が刀達を叩く。

 

「はいはい、静かにしてなさい。それにしてもあんたも暇よねぇ」

 

「それはテメェが言えることじゃねぇだろうが!!」

 

「何よ、人がせっかくあんたの無謀な挑戦に付き合ってあげてるのに」

 

「無謀じゃねぇよ、クソが」

 

「そっちに反応する~?」

 

ガッカリした様に呟く鈴姫。

同時に踏み込んで不満を合わせて蹴りを放つ。

茨はギリギリのところで受け止めながら後方に自ら跳んで勢いを殺す。

前ならば勢いを殺せず吹き飛んでいただろう。

前ならば受け止めれずに地を転がってようやく止まっていただろう。

成長を感じて無意識に微笑む。

鈴姫からすれば期待以上の存在になり始めていた。

自身を運命の輪から外す駒になればいいと思っていたが。

それに収まるどころか、愛おしささえ感じるくらいになっているのだった。

鈴姫は急所を狙うかの様に茨を攻めながら出会いに感謝するのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

とある路地。

不自然に腹が凹んだ死体が幾つも転がっていた。

その周囲には内臓を刺した串が無数に壁に刺さっていた。

一見内臓は死体の物に思えるかもしれない。

だが、それでは不自然だった。

何故なら死体の腹には(``````)傷一つ無かった(```````)のだから。

内臓は手術で取り出したかのように綺麗な状態だった。

こんな状態の内臓を腹に傷を付けずに取り出すなど不可能に近かった。

 

「ふむ。どいつもこいつも詰まらんのう……………」

 

そんな惨状の中心に立ちながら呟く人影があった。

唐笠を被った老人。

目立ちそうな外見の割に恐ろしい程に気配が希薄だった。

老人の体から何かが広がると死体と内臓は溶けて姿を消した。

 

「次の街ではもう少し楽しめる中身(``)に出会えるといいが」

 

そして、老人もまた風景に溶ける様に姿を消した。

老人が去った後には何も残らなかった。

血も肉も骨も痕跡も。

死体があり、老人がいたという痕跡は残さず消滅しているのだった。

 

 





またまた茨サイドの話でした
ラストのみ悟サイド関連です
次回は悟サイドメインになるかもです

茨に関しては実は茨木童子としては不完全だったりします
人から鬼になる中間にいるのが茨です
鈴姫と出会ってから急速成長しているのは鬼へと進んでいるからです
その原因が何なのかは後々

それでは、質問があれば聞いてください
感想待ってます!
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