問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!? 作:天崎
茨と鈴姫が出会ってから一ヵ月以上。
今日もまた二人は向き合っていた。
だが、鈴姫の方は何時もと様子が違った。
まず服装からして普段ははだけている着物をしっかりと着ていた。
何時もは雑に束ねているだけの髪も今日は綺麗に結ばれていた。
とはいえ、茨は欠片もそんなことを気にしないのだが。
「始めるぞ」
「いや、
「あぁ?別に何もねぇよ。何時も通り殺し合うだけだろうが」
「……………」
「……………」
[最低][鈍感][女泣かせめ]
鈴姫も罪牙も黙り、刀の言葉を止めもしない。
少し気合いを入れた鈴姫が馬鹿みたいだった。
鈴姫は額に手を当てると大きく溜息を吐く。
茨の察しの悪さはかなりであった。
鈴姫としては大事な話をする為に気合いをいれただけではある。
それでも、服装の変化に男が何も言及しないどころか気にもせず、促しても気付かないのはさすがに傷付くのだった。
もちろん茨は此処まで見ても一切察することなく刀を肩に担いでいる。
むしろ、何時までも戦闘を始める気配の無い鈴姫に多少イライラしている様でもある。
その様子には鈴姫の方こそ怒りたいくらいだった。
それでも、踏み留まる。
ここ一ヵ月で茨の成長を見て気に入り、話す気になった物である。
気を逃すわけにもいかない。
男の鈍感さを受け入れる寛容さを持つべきと自身に言い聞かせて鈴姫は改めて口を開く。
「ねぇ、茨。少し話があるのだけど」
「今話す様な事か?」
「話すべきことよ。そして、これは
その時だった。
鈴姫が本題を言おうとしたその時だった。
何処からともなく巨体が降って来た。
全身筋肉質ではあるがスラッとした印象を与える肉付きでもあった。
腰には自身の体とほぼ同等の大きさの大剣をぶら下げているが重さは感じさせない。
額には大きな角が二本あり、鬼の類なのは間違いなかった。
いきなり降ってきた男は茨と鈴姫の間に遮る様に立つと憎々しそうに茨を睨み付ける。
「貴様が…………貴様が俺様の女に手を出そうという身の程知らずか?」
呪詛でも籠ってそうな声で茨に問うのだった。
◆◆◆◆◆
四方八方から放たれる鉄串を悟は呪爪で払いのける。
だが、弾けるのは鉄串だけである。
油取り自身による攻撃は受け止めるのが精一杯である。
「犬神使ってもまだ足りないか」
「小僧程度に後れを取る程ワシは弱く無いのでな」
また刀が折れる。
油取りの攻撃は物の弱い点を正確に突いてくる。
さすがに一撃で壊れる事は無いが弱い部分に衝撃が集中すれば本来より速く砕ける。
油取りはそのまま指の間に鉄串を挟んで殴り掛かる。
回避は無理、刀は砕けた。
このままでは串刺しが確実。
そういう状況ではあった。
だが、手はある。
袖の下から小刀を油取りの額に向けて放つ。
折れた刀を持つ腕で視界を塞ぎ、盲点を作る。
「届くと思ったか?甘いのう…………」
当たる直前に油取りは座標を移動していた。
悟の真横に現れると犬神ごと悟を殴り飛ばす。
「ガッ」
肋骨を貫くかの様に鉄串が突き刺さっていた。
とはいえ、犬神を纏っている上からなので浅い事には浅かった。
少なくとも内臓に傷はついていなかった。
鉄串を抜いて投げ捨てる。
即座に犬神で傷を塞ぐが、今すぐもだえたいくらいには痛みが走っていた。
そんな状況とはいえ悟の口にはうっすら笑みが浮かんでいた。
「あら、傷付けられて嬉しいのかしら?」
「俺は別にマゾじゃねぇよ」
「それで、どうするつもり?このまま続けたら死ぬわよ」
「とはいえ、妖力開放も今やったら制御出来ずに死ぬしな~」
マクスウェル戦は一撃入れるだけの間だったからやれた事だ。
今の様な状況では制御出来ずに暴発する。
けれど、手詰まりなのは確かだった。
素の実力で負け、犬神を纏っても差が埋まりはしない。
「となると、これしかないか」
「正気?」
「さぁな?」
答えながら悟は
直後に悟が纏っていた”憑武装・犬神”が黒い嵐へと姿を変える。
その変化を警戒して油取りは一旦距離を取った。
小瓶を握り潰した事で発生した傷口に
見る物から見れば悍ましい光景だが、悟はむしろ笑みを浮かべていた。
「いいぜ、腕一本くらいならくれてやる。だから、テメェの力をもっと俺に寄越せ」
傷口から紋様の様な物が現れ、左腕を侵食していく。
内部から書き換えられる様な激痛が走るが悟は顔色一つ変えない。
むしろ受け入れるかの様にされるがままだった。
◇◇◆◇◇
”憑武装・犬神”を手に入れたのは悟にとっても偶然だった。
過去に”百鬼夜行”が”何か”を封じた祠。
そこに何か使える物はないかと踏み込んだ時に手に入れた物だった。
厳重に封じられていた小瓶を悟は躊躇無く掴み取り、蓋を開けた。
どうやら小瓶そのものが縛りになっているようであり、蓋を開けても本体が出て来る事は無かった。
それでも、呪いは漏れ出る。
悟は平然と呪いを受け入れ、押さえ付ける事で憑かれても正気を保っていた。
とはいえ、何が封じられているかは一切分からなかった。
なので、仮称として”犬神”としていた。
使い続けても特に害は無かったので悟は強化装備として運用するのだった。
◇◇◆◇◇
侵食される中で悟は内から声が響くのを感じた。
それが幻聴で無いと気付くなり、悟は眼を閉じた。
「お前が”犬神”の本体か」
「よもや、余を開するのがあの男の息子とはな」
見えたのは黒い人影だった。
実際にどのような顔で、どのような体格か。
それすらも一切分からない影そのもの様な姿であった。
ただ、それを構成するのが純粋な怨念から発生する”呪い”である事だけは確かだった。
「それにしても余を”犬神”ごときと一緒にするとは……………」
「じゃあ、テメェは何者だ」
「我が名は●●● ●●●●。神に等しい
「ガチな祟り神じゃねぇか。漏れ出た呪いにしちゃ強過ぎだとは思っていたがそういう事か」
顔を引き攣らせながら呟く。
だが、口元は大きく笑みを浮かべていた。
隠そうともせずにただ何かを愉しむかの様な笑みを浮かべる。
「奇妙な奴よ。余を前にして笑みを浮かべるとはな」
「悪いな。まさか此処まで大物が手元にあるとは思わなくてな」
「ほう。ならば、余の名を知ってなお余の力を使う気か」
「当たり前だ。使える物は何だろうが使う」
「そうか。では、あるのだな?」
「あ?」
「我が憎悪を、我が憤怒を、我が怨念を、我が呪いを背負う覚悟があるというのだな?」
「
「ぬ?」
「俺はお前を利用するだけだ。その為ならそのくらい幾らでも抱え込んでやる」
特に誤魔化す風でも無く完全に素で言い放つ。
たとえ呪いに全身が犯されようと、力が手に入るならば平気で受け入れるのが悟なのだ。
力の代価に自身が削られていこうがそれでも自身の望みが果たされればいいのだ。
「ふむ。これは中々面白そうな
「はっ、何にせよ。俺の力になるなら構わねぇ。ところで、」
「何だ?」
「
「先程答えたはずだが」
「違うだろ?似た類であってそのもんでは無いはずだ」
「変なところで鋭いな。そう、余はバラバラになった肉体の欠片に過ぎない。だが、関係は無いだろう?」
「そうだな。”呪い”に関しては変わりは無い」
「それでは、契約成立だな」
そうして悟は眼を開く。
そこまではほぼ一瞬に等しかった。
けれど、その間に紋様は顔の左側まで侵食していた。
左眼まで侵食した途端に眼球が破裂し、血を撒き散らした。
「はっ、これが契約書代わりって事か?」
左眼から血を溢れさせながらも悟は笑みを浮かべて立ち上がる。
左腕と顔の左側に広がる紋様は侵食そのものは止まったが常に不気味に蠢いていた。
加えて羽織も何か変質したかのように紋様が浮かんでいた。
「どうやら制御自体は出来たようね」
「まぁな。とはいえ、色々と犠牲にしてる気もするが」
「それを気にするタイプじゃ無いでしょう?」
「まぁそうなんだがな」
何時の間にか黒い嵐も晴れていた。
油取りは悟の顔を見ながら怪訝な顔をする。
「何じゃその姿は…………何故その濃度の”呪い”を抱え込んで平然としていられる?」
「さぁな?けど、そんな事はどうでもいい。知りたいのはこれでどれだけ戦えるかだ」
言外に油取りを実験台にすると言いながら悟は刀を構える。
合わせる様に不気味な気配が空気を揺らすのだった。
茨の前には何かが現れ、悟は新たな力を得るのでした
得ると言うより失うに近いですがそれを気にする悟ではありません
茨は鈍感というより戦闘以外見て無いのでそもそも服装変わった事にすら気付いてません
仮称”犬神”の正体は遥か格上の大怨霊にして荒魂でした
”犬神”と仮称されたのは首繋がりな面もあります
それでは、質問があれば聞いてください
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