問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!? 作:天崎
少女の話をしましょう。
乙女と言うには純粋さに欠け、女性と言うにはまだ幼い。
まさしく少女と言える女の話を。
彼女の運命は生まれた瞬間にある程度決まっていました。
彼女の血筋は子が生まれた瞬間から”名”と”霊格”の譲渡が始まるので。
その運命は出会いに左右はされど形は定まっている。
だから、あとはどう選ぶかしか自由がありませんでした。
それでも、彼女は拒絶を選びました。
自身に課せられた運命に従うのを拒み、自身の道を行くと決めたのです。
それでも、逃れられぬ強制力と言う物はありました。
三本の刀を母から受け継いだ時点で自身がレールに乗せられている自覚はありました。
けれど、諦めはしてませんでした。
彼女は血筋においていわゆる天才と言える個体でした。
突然変異に近い形で彼女は特異だったのです。
彼女の血筋は代ごとに役割を変える特徴がありました。
鬼女であり、盗賊であり、天女であり、女神でもあった。
姿を変えつつも代を重ねるごとに霊格を大きくしていく。
ある意味において無限の進化の可能性を秘めた血筋でありました。
そんな血筋でありながらも彼女は特異だったのです。
彼女は先代までの全ての力を十全に扱えたのです。
それゆえに運命に抗いたがり、それゆえに運命に縛られやすくなっているのです。
彼女は気ままに行動しながらも常に悩みは抱えていたのです。
男に振り回される立場でありながら、そうでなければ最悪死にさえする可能性を抱える立場でもある。
そんな彼女にも転機はありました。
何となく集めていた下僕未満の駒が狩られるという事態が起きたのです。
彼女からしてみればどうでも良い事でもありました。
ですが、何故かしら気になり見に行ったのが始まりでした。
そこで少女は自身の運命を変える出会いを得たのでした。
その時点では何という事は無い出会いでした。
けれど、それは確かに少女を揺らがすに相応しい物だったのです。
少女は歪つなれども恋を知りました。
愛おしく思うことを知りました。
少女は自身よりも弱々しいその男が可愛くて仕方なかったのです。
ただの弱者なら潰していたでしょう。
ですが、彼はただの弱者ではありませんでした。
何処までも強さを求め、一直線なその姿が酷く気に入ったのでした。
この出会いがあったこそ彼女は自身の運命を受け入れました。
それどころか、その運命を利用しようとさえしていました。
さてはて、その決断が齎すのは吉か、凶か。
その出会いが本当に彼女にとって良き物だったのか。
それが分かるのは先の話。
◆◆◆◆◆
大嶽丸の住処は山の奥にあった。
地形がそのものが要塞となっており切り崩すのは難しい立地となっていた。
その唯一と言っていい門に額に角を生やした大男が座っていた。
「
「その名で呼ぶんじゃないわよ、
「なら、姐さんこそ俺をそう呼ぶの止めてくれませんかね」
「何時
「はいはい、俺が悪かったですよ」
「分かればいいのよ、高丸」
普段の口調とは違い親し気に話し掛ける鈴姫。
大嶽丸に従って本拠に来た彼女ではあったが特に拘束されもせずに内部を歩き回っていた。
たとえ拘束されていてもすぐに出ていくのが鈴姫ではあるが。
大嶽丸もそれが分かっているので無駄に拘束はしない。
何よりも今は茨自体が十分な縛りとして機能すると考えているのだろう。
「あんま勝手に動くと大将に文句言われますよ」
「アレが
「まぁ確かにそうですが……………大将が本気で姐さんを好いてるくらい気付いてますよね?」
「当たり前じゃない。本当に面倒でしかないけど」
「大将泣きますよ」
「泣けばいいのよ」
本気で大嶽丸に興味が無い様子の鈴姫に呆れた顔をする悪路王。
二人はそこそこに長い付き合いであった。
大嶽丸と違い幼い頃からの付き合いなのだ。
だから、鈴姫も多少は素を見せる。
「それで、用も無く来たりはしないでしょう?何かあったんですか?」
「あぁ、あんたに一つ伝えたくてね」
「はい、何でしょうか」
「あんたは
「……………………」
短い沈黙が流れる。
鈴姫はサラッと言うが悪路王としては少し辛い物もあるのだった。
加えてそれは
けれど、笑った。
鈴姫の変化を感じて笑うのだった。
「そうか、そうですか。姐さんもようやく相手を見付けましたか」
「えぇ、
「それは良かったですね。俺としては少々残念ですが」
「まぁ一時はあんたと死ぬ事も考えてはいたんだけどね」
「それは聞きたく無かったですねぇ!!その男に嫉妬しちゃいそうですよ!!」
鈴姫、悪路王、大嶽丸は同じ物語に組み込まれた存在だ。
ゆえに根底では深く結びついている。
”形”は決まっていても流れは多少の変化はある。
多くは鈴姫の血筋が生き残る物だが、鈴姫の血筋も死ぬパターンはあるにはあるのだ。
一時はそれも考えた。
けれど、出会ったがゆえにその考えも変わったのだ。
そして、鈴姫が、
そうなれば、最早運命は動き出す。
悪路王と大嶽丸が生き残れる可能性はその時点でかなり低くなるのだ。
「だから、精々扱いてやるといいわ。あいつはまだまだ未熟だしあんたが背中押してくれると嬉しいわ」
「勢い余って殺すかもしれませんよ」
「それならそれでいいのよ。所詮はその程度だったというだけなのだから」
「相変わらず酷いですねぇ、姐さんは」
「分かってるなら一々言わないでいいわよ」
話は終わり、鈴姫は悪路王に背を向ける。
軽く手を振りながら歩き出す。
「それじゃあ、今生の別れだろうけど」
「えぇ、お別れですね」
「あんたは割と好きだったわよ」
「本当に相手を殺したくなるんで嫉妬を誘う様な言い方はやめてくださいよ」
互いに苦笑しながら二人は今生の別れを済ます。
軽いノリではあるが、それが彼らの関係性だった。
◆◆◆◆◆
鮮血は舞った。
だが、それは”呪爪”で油取りの腕が斬られたからでは無かった。
油取りが鉄串で自身の腕を刺し、抉ったゆえに舞った鮮血だった。
「おいおい、抉ったくらいで防げるはずがねぇんだが」
「ふん。抉っただけに見えるかの?」
よく見れば腕に全体的に広がっていた呪詛は消えていた。
更に抉った鉄串の先には黒い瘴気が漂っていた。
それこそが送り込んだ呪詛そのものであった。
方法は分からないが油取りは呪詛を自身の肉体から抜き去り、切断を回避したのだ。
「抜き取れるのは内臓だけじゃないんじゃよ」
「へぇ…………益々欲しくなった」
不敵に笑う悟。
油取りは瘴気の付いた鉄串を投げ捨てる。
途端に鉄串は塵すら残さずに朽ち果てた。
油取りの恩恵は単純に言えば”抜き去る”という現象を極限までに特化させた物だ。
油取りは因果をいじるレベルまでに至っている。
その因果の捻じれの極みがその恩恵だ。
”鉄串が刺さる”という事象と”内臓が抜かれる”という結果を過程を無視して繋ぎ合わせる。
これが基本だ。
これを更に深く極めた結果が内臓を内に抱える物に変えた物だ。
ようは内に抱える物、霊格や恩恵などすらも抜けるという事だ。
それを応用して呪詛を自身から抜いたのだ。
「こりゃ紅葉がいなければヤバかったかもな」
「そうよ。心の底から感謝しなさい」
「そうだな。マジで感謝だ」
珍しく本気で感謝する悟。
一撃で致命傷を受けかねないのを防いでいるのだから当然と言えば当然だった。
サラッと鈴姫の正体判明でした
正体は鈴鹿御前!
三本の刀を持った鬼女の時点でほぼ確定的なのでした
それでは、質問があれば聞いてください
感想待ってます