問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!?   作:天崎

184 / 188
騒速

 

前兆自体は前々から存在した。

不自然な傷の治りに、刀の破片の共鳴、死体の欠損。

どれも微々たる物であり気付く物はいなかった。

本人すらも気付いていなかった。

全ては茨の変化に起因する物であった。

茨木童子としての霊格の完成が近付いたのも要因の一つだ。

腕が奪われた事によって物語のなぞりに入り、霊格が変質を始めたのも確かだ。

鈴鹿御前の物語に取り込まれたのも要因だろう。

だが、始まりは違った。

変化の、変質の始まりは双頭龍を相手にした事にあった。

双頭龍の血に触れた事が始まりだったのだ。

双頭龍の血はその大元である三頭龍の血と同じ性質を持つ。

怪物を生み出すだけでは無い。

血を浴びた物質の性質を取り込んで怪物と化す。

その血に触れた事によって茨木童子の霊格は変質した。

茨木童子の逸話には床屋に拾われ、その手伝いの中で客の血を舐め、その味を覚え、幾度も失敗を繰り返して客の血を舐める。

それを続ける内に何時の間にか”鬼”となっていた。

という物がある。

血を舐め続けた結果により異形となる逸話と触れた物を取り込み異形にする血が接触した結果、突然変異が起きたのだ。

普通の血を舐めたくらいでは霊格の変質は起きない。

三頭龍という特大格の霊格を持った血だからこそ起きた変質だ。

触れた血によって茨木童子の霊格そのものが大きく変わった。

奪われた腕を取り戻すという点は特に大きく変わった。

失われた身を奪い自身の物に戻す。

その範囲が大きくなり、対象と現象が細分化された。

失われた物を奪い、己の血肉に変える。

それが三頭龍の血によって奪われた物を己の身にする霊格へと変質させたのだ。

今まで屠った屍から血肉を奪い、己の血肉にする事で傷の再生を促す。

その過程で徐々に己の霊格も強化されていく。

更に戦いの中で砕けていった幾つもの刀を失われた物とし、自身に上乗せする形で取り戻す。

積み上げてきた屍と残骸、その全てを背負う霊格と化したのだ。

それに加えて鈴鹿御前の霊格に組み込まれた影響がある。

鈴鹿御前と結ばれし者に選ばれた。

その影響は”鬼殺し”の霊格として現れる。

初代の坂上田村麻呂は生粋の”化生殺し”だった。

それが鈴鹿御前と結ばれ、協力する事で数々の名を轟かせし鬼達を葬った。

その逸話が霊格と成り、鈴鹿御前と結ばれし者に付与されるのだ。

茨に付与された”鬼殺し”の恩恵は対象である鬼を本来の意味である怪異全般としていた。

そして、怪異全般を相手にする時に己の霊格を高める恩恵となった。

変質した茨木童子の霊格がその恩恵によって強化される事で凄まじい力を発揮した。

それが今の茨の現状だった。

 

「…………………そういう事か」

 

幾度も幾度も刀と大太刀がぶつかり合う音が響き渡る。

茨と大嶽丸は今や互角に斬り合っていた。

茨の刀は大嶽丸に傷を付けられる。

ならば、その首に手が届くも同然である。

対する大嶽丸も一切の油断を消した。

己の死を感じさせる者を前にすれば当然の反応だろう。

とはいえ、表面上は互角であるが押しているのは大嶽丸であった。

最初の内は茨にも戸惑いはあった。

割り切って即座に剣戟を再開してはいるが、己の身に宿りし、把握していない力に戸惑いはしていたのだ。

それも幾度も刀を振るう中で力を把握し無くなりはした。

それでも、押されている。

理由は単純明快。

刀の強度だ。

目覚めた茨の力によって大嶽丸の身に傷は付けられる様にはなった。

だが、負荷も増大している。

その負荷に加えて大嶽丸の大太刀との衝突を繰り返すのだ。

以て三撃が限界なのであった。

三撃振るえば刀は砕けた。

二刀でようやく大嶽丸に対応出来ているのだ。

片方でも刀が無くなれば劣勢が決定的になる。

ゆえに常に刀を補充しながら戦う羽目になっているのだ。

刀の補充は僅かなれども隙になる。

その隙が生まれる為に攻め切れず、押される要因になっている。

こればっかりはどうしようも無く戦況を膠着させる。

 

「意外に粘るわね」

 

「当たり前だろう。幾ら霊格を完成させたとはいえ相手は仮にも鬼の長の一人だぞ」

 

「というか、あの刀で頑張ってる茨の方を褒めるべき状況ってわけね」

 

鈴姫と罪牙は二人の戦いを眺めながら戦況を変える要因を探っていた。

鈴姫も可能性を茨に見出してたとはいえ具体的にどうなるかは予想していなかった。

少なくとも霊格を完成させれば大嶽丸に対抗出来る人材だとは確信していた。

 

「ちょこまかと本当に蠅の如く鬱陶しいな、貴様はぁ!!」

 

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ。速く決着付けたいならテメェが斬られろ」

 

素での能力ならまだ大嶽丸のが上なのだろう。

二刀の茨に対して大嶽丸は大太刀一本で互角なのだから。

手数の差を埋める程度には実力差があるという事だ。

大柄な肉体とそれと同等の長さの大太刀という圧倒的なリーチも手数の差を埋める要因となっている。

肉体と同等の長さゆえに角度を変えるだけで二刀による連撃を受け止めれるのだ。

とはいえ、両者共に戦況が硬直しているのは好ましく無かった。

茨のギフトカードに詰め込めるだけ詰め込んでいるとはいえ刀の数には限りがある。

大嶽丸の大太刀はそこそこの業物であり、そうそう砕けることは無いが幾度も茨の斬撃を受け止めて欠け始めてるのも確かだった。

長引けばどちらにせよ不利になる。

だが、戦況を動かす要因は互いに一切無かった。

ゆえにお互い斬り合うしか無いのだ。

 

「「アアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」

 

叫び声が重なる。

大太刀による薙ぎ払いを左の刀で受け止めながら下から上に流す様に叩き上げる。

そのまま上半身だけを後方に倒してギリギリ回避する。

大太刀を回避し切ると、返す刀で右の刀を振るう。

左から右へ上半身を起こす勢いも加えて振るう。

大嶽丸は柄頭で振るわれた刀の側面を下から押し上げる様にして弾く。

そのまま右から左に持ち替え、右手を峰に添えて追撃を受け止める。

頑強な肉体は峰に添えて刀を受け止める程度の衝撃では傷一つ付かない。

同時に茨の刀が砕ける。

それに合わせて大嶽丸が踏み込む。

刀が砕けると同時に後方に多少下がって間合いを取る事は分かっていた。

ゆえに逆に踏み込んで大太刀による斬り上げを放つ。

茨もそろそろ踏み込んでくることは分かっていた。

だから、刀を補充すると見せ掛けて残っている刀を両腕で掴み上段より振り下ろす。

激しい衝突音と共に大嶽丸が後方に弾き飛ばされる。

茨が押し勝ったのだ。

だが、茨の刀は砕けて腕も痺れを残していた。

 

「感覚は掴めたな」

 

得た力の具体的な性質は直感で分かった。

あとは制御だけであったが、その感覚も打ち合う中で理解していった。

そして、今先程まで以上の出力を出す事に成功したのだ。

対する大嶽丸は露骨に顔を歪める。

内心の苛立ちが目に見えて分かる有様だった。

 

「ゴミが、ゴミが!!ゴミがッ!!ゴミがぁぁぁぁぁぁ!!俺様に対抗してんじゃねぇよ!!ゴミはゴミらしくしてればいいんだよ!!虫のごとく潰れていればいいんだよッ!!それが何だこれは!!何なんだ、これはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

大気を震わす程の雄叫びを上げる。

余裕など最早無かった。

自身の膂力を上回るかもしれないというのが気にくわなかった。

ゴミと思っていた存在が自身と同等かそれ以上となり、鈴鹿御前を持って行く。

それが気に入らないのだった。

茨はそれを対して気にしない。

茨はもう大獄丸など見てはいなかった。

その先にいる相手の事をただ思っていた。

登り詰める為の一歩として登り詰める先をただ見据えていた。

その態度がまた大嶽丸の苛立ちを加速させる。

茨は再び二刀を構え、大嶽丸は大太刀に有りっ丈の妖力を注ぐ。

合図も無しに両者共に駆け出し、再び衝突が始まると思われた。

 

「はい、ちょっと待った」

 

鈴姫が唐突に割り込み、両者共に動きを止める。

鈴姫は茨の方を向くと茨に手を向けて、罪牙の指輪を突き付ける形になる。

 

「鈴鹿御前として一応手は貸さないとね」

 

「まぁタイミングはどうかと思うがな。何はともあれ俺の(``)刀を貸してやろう。上手く使えよ」

 

言って罪牙は口を大きく開く。

そこから一本の刀が現れる。

まるで異次元から取り出されるかの様に現れた刀は茨の前に突き刺さる。

 

「銘を騒速(ソハヤノツルギ)。今は一本あれば十分だろう」

 

「余計な世話を」

 

割り込むだけ割り込んで鈴姫は即座に場を離れるのだった。

茨は文句を言い、渋々という様子ではあるが罪牙が出した大刀”騒速(ソハヤノツルギ)”を手に取るのだった。

 

 





茨覚醒でした
具体的な能力説明は次回です!


それでは、質問があれば聞いてください
感想待ってます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。