問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!? 作:天崎
最初の変化は本陣営のバルコニーから始まった。
突如として白夜叉の全身を黒い風が包み込み、彼女の周囲を球体に包み込んだのだ。
「な、何ッ!?」
「白夜叉様!?」
サンドラは白夜叉に手を伸ばすが、バルコニーに吹き荒れる黒い風に阻まれた。
黒い風は勢いを増し、白夜叉を除く全ての人間を一斉にバルコニーから押し出した。
『うわっ……』
「掴まれ球磨川!!」
空中に投げ出された十六夜は球磨川の襟首を掴み着地し、遥か上空の人影を睨む。
「ちっ。“サラマンドラ”の連中は観客席に飛ばされたか」
“ノーネーム”一同は舞台側へ。
“サラマンドラ”一同は観客席へ。
十六夜は舞台袖から出てきたジン達を確認し、黒ウサギに振り向く。
「魔王が現れた。……そういうことでいいんだな?」
「はい」
黒ウサギが真剣な表情で頷くと、メンバー全員に緊張が走る。
十六夜は真剣な瞳のまま、黒ウサギに視線を向ける。
「白夜叉の“主催者権限”が破られた様子は無いんだな?」
「はい。黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上、誤魔化しは利きません」
「なら連中は、ルールに則った上でゲーム盤に現れているわけだ。……ハハ、流石は本物の魔王様。期待を裏切らねぇぜ」
「どうする?迎え撃つかい?」
「ああ。けど全員で迎え撃つのは具合が悪い。それに“サラマンドラ”の連中も気になる。アイツらは観客席の方に飛んでいったからな」
『なら僕達とジン君で白夜叉ちゃんを見に行こうか』
「そうだね。“契約書類”には白夜叉ちゃんがゲームマスターと記述されている。それがゲームにどんな影響を及ぼすか確かめないとね」
「では黒ウサギがサンドラ様を探しに行きます」
「お待ちください」
一同が声の方向に振り向く。
同じく舞台会場に上がっていた、“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャとジャックだ。
「おおよその話は分かりました。魔王を迎え撃つというなら我々“ウィル・オ・ウィスプ”も協力しましょう」
「では御二人は黒ウサギと一緒にサンドラ様を探し、指示を仰ぎましょう」
一同は視線を交わして頷き合い、各々の役目に向かって走り出す。
◆◆◆◆◆
「やったか___!?」
「やってないわ」
レティシアが突き出した槍は斑の少女の身体を持ち上げただけに留まり、槍の先端は胸部に当たって拉げていた。
そして斑の少女がレティシアに何かしようとするとその背後から一つの影が迫る。
「レティシアちゃん、その台詞は盛大なフラグだぞ」
シュトロムの相手をしていた暦がレティシアの危機を察して背後から斬り掛かったのだ。
斑の少女は手から黒い風を発生させてそれを防ごうとする。
しかし【心渡】は黒い風を簡単に斬り裂いた。
「へぇ……」
斑の少女は【心渡】を避けると黒い風で暦を捕縛しようとする。
「やらせるか!!」
黒い風が暦に触れる前にシュトロムの相手をしていた忍が斑の少女の横っ腹に蹴りを入れる。
「ふふ、中々やるわね」
微笑しながら立ち上がる斑の少女。
「ツンデレ娘の声がしたと思ったら斑ロリだったの」
「ガハラさんに全く似てないけどな」
「何の話をしている?」
「こちらの話じゃ。気にするな」
首を傾げるレティシア。
それを置いておき三人は斑の少女と向かい合う。
どちらかが動き出そうとした瞬間、紅い閃光がシュトロムを撃ち抜いた。
「BRUUUUUUUUUM!!」
撃ち抜いた中心から溶解する巨兵。
「ようやく現れたのね」
轟々と燃え盛る炎の龍紋を掲げた、北側の階層支配者___サンドラが、龍を模した炎を身に纏って見下ろしている。
「待っていたわ。逃げられたのではと心配していたところよ」
「……目的はなんですか、ハーメルンの魔王」
「あ、ソレ間違い。私のギフトネームの正式名称は“黒死斑の魔王(ブラック・バーチャー)”よ」
「……。二十四代目“火龍”、サンドラ」
「自己紹介ありg
「「戦闘中にお喋りとは随分と余裕じゃな」だな」
斑の少女が言い切る前に忍とレティシアが斬り掛かる。
「話の邪魔をするとは酷いわね」
「隙を見せる方が悪いんじゃ」
忍の斬撃は避け、レティシアの攻撃は黒い風で受け止めていく。
そこへ荒ぶる火龍の炎が襲う。
斑の少女は黒々とした不気味な暴風でそれを受け止める。
二つの衝撃波は空間を歪め、強大な力の波となって周囲を満たし、境界壁を照らすペンダントランプを余波のみで砕く。
炎を受け止め、動きが鈍っている斑の少女に二人の金髪の吸血鬼が迫る。
斑の少女は暴風を調整し、炎を迫ってくる吸血鬼達にそらす。
その隙に離脱するが、二人の吸血鬼は追撃を仕掛ける。
それに対処して出来た隙に炎が放たれ、暴風で受け止め、吸血鬼達にそらす。
それを延々と繰り返す。
砕けたペンダントランプの残骸は、両者の戦いを彩るかの如く煌めきを放って霧散した。
◆◆◆◆◆
___大祭運営本陣営、バルコニー入り口扉前。
安心院達はバルコニーに通じる通路の前で立ち往生していた。
黒い風が、彼女達の侵入を阻んでいたからだ。
スキルでこじ開けようと安心院と球磨川が試しても無理だった。
『どうやらゲームのルールにスキルは通じないみたいだね』
「白夜叉ちゃん。中はどうなっているんだい?」
「分からん!!だが行動を制限されているのは確かだ!!連中の“契約書類”には何か書いておらんのか!?」
ハッとジンが拾った黒い“契約書類”を取り出す。
すると書面の文字が曲線と直線に分解され、新たな文面へと変化したのだ。
{※ゲーム参戦諸事項※
・現在、プレイヤー側ゲームマスターの参戦条件がクリアされておりません。
ゲームマスターの参戦を望む場合、参戦条件をクリアして下さい。 }
『ゲームマスターの参戦条件がクリアされてない?』
「参戦条件は!?他には何が記述されておる!?」
『それ以上は何も記述されてないよ』
白夜叉は大きく舌打ちをした。
この様な形で星霊を封印出来る方法は一つしかない。
白夜叉は続けて叫んだ。
「よいかおんしら!!今から言う事を一字一句違えず黒ウサギに伝えるのだ!!間違える事は許さん!!おんしらの不手際は、そのまま参加者の死に繋がるものと心得よ!!」
普段の白夜叉からは考えられない、緊迫した声。
今はそれだけ非常事態なのだ。
安心院達が白夜叉の言葉を聞いていると、いきなり血走った瞳の火トカゲが襲い掛かってきた。
『うわっ……』
「操られてるみたいだね」
言いながら重力を司るスキル【躯重力(グラビト)】で気絶するまで地面に押し付ける。
その中で安心院は何か自分の体に違和感を感じていた。
「あら、人間?てっきり“サラマンドラ”の頭首だと思ったのに……それにしても容赦ないわね」
気絶した火トカゲ達を見ながら言う。
「操られてるだけだから躊躇すると思った?違うだろ球磨川君」
『そうだね。全然思わない。操られる奴が悪い。だから』
『僕らは悪くない』
「ま、いいわ」
更に火トカゲが出てくるのを見て二人はジンの方を見る。
「先に謝っておくよ。ごめんね」
「へ?」
言った後に安心院はジンを座標操作のスキル【王の座標(キングマッピング)】で黒ウサギの座標に送った。
「……あらら?逃がすのは一人だけでいいの?」
「君くらい僕達で充分だよ」
言いながら安心院は頭痛に耐えていた。
先程から段々痛みが大きくなっていっている。
「(こんな時に来るとは最悪のタイミングだね)」
『大丈夫かい?安心院さん』
「心配は無用だよ」
それを合図に火トカゲ達が向かってくる。
球磨川は【却本作り】で次々に無力化していく。
安心院は兵隊を指揮するスキル【驚愕私兵(サプライズアーミー)】で火トカゲを逆に操りラッテンを襲わせる。
しかし途中でスキルが途切れ火トカゲ達の動きが止まる。
その隙にラッテンは安心院に近付き蹴り飛ばした。
『安心院さん!?』
「何か知らないけど不調のようね」
慌てて駆け寄る球磨川。
そして驚愕する。
安心院の左頬にヒビが入って、そこから光の粒子が散っていたからだ。
「これは“限界”が近いね……」
『どういうことだい?』
「表に出ていられる“限界”が近いということさ。これはその前兆みたいなものだよ」
『どうする?』
「しょうがないね。一気に症状が進むだろうけど無理するしかないね」
すぐに休めるだろうし、と安心院は付け加える。
火トカゲ達が飛び掛かってくるがその前に安心院は空間歪曲のスキル【掌握する巨悪(グラップエンプティ)】を発動する。
空間が歪み球磨川と安心院の姿が消える。
姿が消える一瞬前、安心院のヒビは大きく広がっていた。
「逃げられたか……」
ラッテンは呟いた後にバルコニーに戻る。
◆◆◆◆◆
激しい雷鳴が鳴り響く。
幾度となく雷鳴を発していたのは、軍神・帝釈天により授かったギフト___【疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)】を掲げた黒ウサギである。
黒ウサギは輝く三叉の金剛杵を掲げ、高らかに宣言する。
「“審判権限”の発動を受理されました!!これよりギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”は一時中断し、審議決議を執り行います!!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!!繰り返します___」
今回は魔王のゲームでした!!
ここで一旦中断となります!!
安心院さんに関しては次以降に詳しくです。