問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!? 作:天崎
ゲーム開始から十時間後。
“偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ”という勝利条件が達成された。
白夜叉は解放され、ゲームは終了した。
各コミュニティはゲームの後始末を始めた。
◆◆◆◆◆
___境界壁・舞台区画・暁の麓。
美術展、出展会場。
大空洞の中心。
安心院と球磨川は隠し扉を開け、奥に進む。
太陽の光が差し込む最奥。
そこに着いた安心院は呟く。
「ハーメルンの魔道書は消えたよ。これでよかったんだよね」
「はい。これで我々も、望む形で元の時代に戻れます」
数多の声が大空洞に響く。
ハーメルンで犠牲になったとされる一三〇人の精霊群。
しかし彼らが帰れば、一三一人目と称された精霊___あの幼いとんがり帽子の精霊は跡形も無く消えてしまうだろう。
曰く彼女は、幾星霜の果てに生まれた群体の欠片。
大本である一三〇人が消えれば霊格を維持出来ない。
安心院は彼らに問う。
「君達が望む形の時間軸というのは?」
「それを聞いてどうすると?」
「ただの興味だよ。元の時間軸に戻れば、君達は死ぬだけだろう?」
彼らはハーメルンの悪魔が呼び出される原因。
即ち、死を約束された御霊だ。
箱庭で精霊として暮らすならばまだしも、箱庭を出ていくというのは安心院は興味がある。
そこで今まで黙っていた球磨川が口を開く。
『話は大体分かったよ。それなら僕達のコミュニティに入らないかい?居場所がないなら歓迎するよ?それに一三一人も仲間が増えれば皆喜ぶだろうしね』
「「「………」」」
群体の気配が変わる。
しかし敵意があるわけではない。
ただ、困惑している様子だ。
「……禊。貴方の誘いは嬉しい。その言葉だけで、長かった旅が報われた」
「それでも我々は戻らねばなりません。後の時代を紡ぐために」
「そんな優しい貴方[達]だから、どうか最後に聞いて欲しい。死者も神隠しも存在しない___もう一つの、“ハーメルンの笛吹き”の可能性を。貴女は分かっているのかもしれませんが」
「……」
群体達は大空洞を輝きで満たし、ハーメルンの笛吹きの可能性を提示する。
___一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二十六日
あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、
丘の近くの処刑場で姿を消した___
この碑文の、最後の解釈。
それは即ち___一三〇人の子供が新たな土地で、自分達の街を造ろうとしたというもの。
親元を離れ、ヴェーザー河を下り、笛を吹きつつ、歌いながら未踏の地を目指した子供達。
他の誰でも無い、自分達で一から造りあげた、街という名のコミュニティ。
つまり笛吹き男とは、新たに造られた街のリーダー的存在だったという伝承。
「禊。我々にも、帰らねばならないコミュニティがあるのです」
「一二八四年のあの日に」
「我々が旗揚げした、第二の故郷へ」
『……そうかい』
彼らはようやく元の世界に帰ることが出来るのだ。
『なら仕方ないね』
「そういうことだよ球磨川君。君達の街造りがうまくいくよう願ってるよ」
「………ありがとう、禊、なじみ」
「そんな貴方達だからこそ託せます」
「紅い鋼の巨兵・ディーンと___一三一人目の同士を!!」
『え?』という言葉は、激しい風と共に掻き消された。
解放された群体精霊の霊格は、徐々に人形を形成し始める。
光の中から現れたのは、とんがり帽子の精霊。
消えた群体の声が反響する。
「「___我々が後の世に授かる、開拓の霊格をその子に授けました。私達が箱庭に残せる、最後に生きた証。貴女に託します___」」
それっきり、大空洞から群体の気配は消えた。
残されたのは安心院の手の平に残る、とんがり帽子の精霊だけだ。
眠たそうに目をこすった幼い精霊は、ゆっくりと身体を起こし、
「……なじみー?」
「おはよう、メルン」
「めるん?」
『メルン?』
「そうだよ。君は“ハーメルンの笛吹き”の、正当な功績を継いだ地精。そして今から___僕達の同士だよ」
安心院の言葉に、んー・・・と小首を傾げるメルン。
周囲を見回し、ユラユラと頭を左右に揺らして考えた後、
「___はい!!」
満面の笑みで、元気よく返事をするのだった。
◆◆◆◆◆
「もう一つ気になることがあるけど……そちらは十六夜君が何かするかな?」
二巻分も残すは一話です。
次回で二巻分終わりとなります。
それでは感想待っています。