問題児と大嘘憑きと吸血鬼が異世界から来るそうですよ!?   作:天崎

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ガルド登場

___箱庭二一〇五三八〇外門・内壁

安心院、球磨川、暦、忍、ジンの五人は石造りの通路を通って箱庭の幕下に出る。

ぱっと五人の頭上に眩しい光が降り注いだ。

遠くに聳える巨大な建造物と空を覆う天幕を眺め、

 

「お、お前様!!天幕の中に入ったはずじゃのに太陽が出ておるぞ!!」

 

「……本当だな。外から見た時は箱庭の内側は見えなかったのに」

 

都市を覆う天幕を上空から見た時、彼らに箱庭の街並みは見えていなかった。

だというのに都市の空には太陽が姿を現している。

天高く積み上げられた巨大な都市を見て首を傾げた。

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」

 

安心院は青い空を見上げながら言う。

 

「この街には吸血鬼でもいるのかい?」

 

「え、居ますけど」

 

「吸血鬼か……」

 

暦が呟きに忍が反応する。

 

「なんじゃ不安か?」

 

「いや、そうじゃなくてな……」

 

その会話を聞き、球磨川が振り向く。

 

『もしかして忍ちゃんって吸血鬼なのかい?』

 

「今は残りカスじゃがな」

 

『それはどういう意味だい?』

 

球磨川の質問に二人は少し黙る。

 

「球磨川君、そこはまだ聞くことじゃないよ」

 

『分かったよ。話したくなるまで待つね』

 

球磨川はそれ以上は追及せず、目の前の噴水広場が広がる。

 

「お勧めの店はあるかい?」

 

「す、すみません。段取りは黒ウサギに任せていたので……よかったら好きなお店を選んでください」

 

「それは太っ腹だね」

 

五人は身近にあった“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに座る。

猫耳の少女にティーセット四つとドーナッツを頼んだ。

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

品の無い上品ぶった声がジンを呼ぶ。

振り返ると、2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。

変な男は不覚にも……本当に不覚にも、ジンの知った者の声だ。

ジンは顔をしかめて男に返事をする。

 

「僕らのコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させることなどできたものだ___そう思わないかい、お嬢様方」

 

ガルドは空席に座ろうとするがその前に足元に数本の小さな螺子が刺さる。

 

「何の真似だ?」

 

『同席するなら一言あるものじゃないかな?』

 

「それは球磨川君の言う通りだね」

 

「それは失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である」

「烏合の衆の」

「コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧オォ!!」

 

ジンに横槍を入れられたガルドの顔は怒鳴り声とともに激変する。

口元は耳元まで大きく裂け、肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りとともにジンに向けられる。

 

「口を慎めや小僧ォ……紳士で通ってる俺にも聞き逃せねぇ言葉はあるんだぜ……?」

 

「森の守護者だったころの貴方なら相応に礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの二〇一〇五三八〇外門付近を荒らす獣にしか見えません」

 

「ハッ、そういう貴様は過去の栄華にすがる亡霊と変わらんだろうがッ。自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか理解できてんのかい?」

 

「ちょっと待ってくれるかな?」

 

険悪な二人を遮るように手を上げたのは安心院だった。

 

「事情は知らないけど、君達が仲の悪い事は分かったよ。その上で質問したいんだけど___」

 

安心院はジンの方を見る。

 

「ジン君。ガルド君が指摘している、僕達のコミュニティが置かれている状況……というものを説明してくれるかな?」

 

「そ、それは」

 

ジンは言葉に詰まった。

同時に自分が大きな失敗をしてしまったことに気づく。

それは黒ウサギと口裏を合わせて隠していたことだった。

安心院はその動揺を逃さず畳み掛ける。

 

「君は自分をコミュニティのリーダーと名乗った。なら黒ウサギ同様に、新たなる同士として呼び出した僕達にコミュニティはどういうものかを説明する義務があるよね?」

 

追及する声は静かにジンを責める。

それを見ていたガルド=ガスパーは獣の顔を人に戻し、含みのある笑顔と上品ぶった声音で、

 

「レディ、貴女と言う通りだ。コミュニティの長として新たなる同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ“フォレス・ガロ”のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧___ではなく、ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”のコミュニティを客観的に説明させていただきますが」

 

安心院は一度だけジンを見る。

ジンはうつむいて黙り込んだままだ。

 

「そうだね。お願いするよ」

 

そしてガルドは名と旗の重大性を説明した。

 

「さて、ここからがレディ達のコミュニティの問題。実は貴女達の所属するコミュニティは___数年前まで、この東区画最大手のコミュニティでした」

 

「ほぉ、意外じゃな」

 

「とはいえリーダーは別人でしたけどね。ジン君とは比べようもない優秀な男だったそうですよ。ギフトゲームにおける戦績で人類最高の記録を持っていた、東区画最強のコミュニティだったそうですから」

 

ガルドが一転してつまらなさそうな口調で語る。

現在この付近で最大手のコミュニティを保持している彼には心底どうでもいい話なのだろう。

 

「彼は東西南北に分かれた箱庭で、東のほかに南北の主軸コミュニティとも親交が深かった。いやホント、私はジン君の事は毛嫌いしてますがね。これはマジですげぇんですよ。」

 

「南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層に食い込むコミュニティだったというのは嫉妬を通り越して尊敬してやってもいいぐらいには凄いのです。___まぁ先代は、ですが」

 

「……」

 

「“人間”の立ち上げたコミュニティではまさに快挙ともいえる数々の栄華を築いたコミュニティはしかし……彼らは敵に回してはいけないモノに目を付けられた。そして彼らはギフトゲームに参加させられ、たった一晩で滅ぼされた。[ギフトゲーム]が支配するこの箱庭の世界、最悪の天災によって」

 

「『天災だって?』」

 

安心院と球磨川が同時に聞き返した。

安心院はそれほどの組織を滅ぼした天災への興味を込め、

球磨川は不自然に感じた故に聞き返す。

暦と忍は怪異を知っている故にそれほど不自然には思わない。

 

「此れは比喩にあらずですよ。彼らは箱庭で唯一にして最悪の天災___俗に“魔王”と呼ばれる者達です」




とりあえずガルド登場まで行けました。

次の更新は日曜日になると思います。
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