シユウになってしまった様だ。   作:浅漬け

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前書きに何を書けばいいのか分からなくなってきた今日この頃。

第10話って響きは何か良いですね。合計的にはこの話は11個目なんですけどね。

※8月30日、一部タイトルを変更しました。


第10話 世紀末リベンジマッチ

「……あ?」

 

 やぁどうも、鳥田だよ。

 白いロリっ子が出てくるかと思って手を振っていたら青フードの不良が出てきたよ。どういう事だこれは。

 

 必然的に場に流れる沈黙。相手は無言でこちらを見つめ、こちらもこちらで手を振った手前どうすればいいのか分からず相手を見つめる。とても気まずい。というかこの状況はなんだ。俺はシオちゃんに会う筈だったのに何故こうなった……あぁ、そういえばソーマがシオらしき影を追ってここら辺に来るムービーがあった様な。そういう事か。

 

 というか俺は逃げるべきなのだろう。当然だ、まともにやり合って勝てる訳がない。だがしかし距離を離そうにも、相手はソーマ・シックザールだ。前回の様に油断してくれるとも思えない。あれ、これ詰んだかな?

 

「……こちらを捉えても襲い掛かってこない上に、何処と無く人間の様な動きするシユウ……お前、αだな」

 

 そんな事を考えていると、突然目の前のソーマが話し掛けてきた。アラガミに話し掛けるとかどうしたのソーマくん。今の時期の君って絶賛アラガミ絶対殺すマンじゃなかったっけ。そしてαって何だ、初耳だぞ。俺はそんな風に呼ばれちゃってるのか。

 

「こちらソーマ、特務対象アラガミ【シユウα】を贖罪の街教会跡にて補足した」

 

 かと思ったら突然通信をし始めた。一体何がしたいんだろうか……え、特務対象?

 突然の言葉に頭の理解が追い付かないでいると、通信機から覚えのある声が俺の耳に漏れ聞こえてきた。

 

《よくやった。ペイラーは残念がるだろうが、我々としては好都合。興味深い個体だ、コアを回収せよ》

 

 この渋めのヴォイスはヨハネス・フォン・シックザールさんではないか。いやー、今更ながら皆本当にいるんだな。しかも俺のコアを回収せよだってさ。

 

 えっ、何それ。

 

「……了解した、コアを回収する」

 

 その言葉から果たして一秒経っただろうか?

 次の瞬間、俺の目の前には彼の得物イーブルワンをこちら目掛けて降り下ろさんとしているソーマが現れた。

 

 途方もない瞬発力に腕力。まともに食らえば俺の体はボロボロというかズタズタになってしまうだろう。

 だがそんな命の危機の前で、俺の心は不思議と冷静だった。何かこう、悟りの様な諦めの境地に達しているのかもしれない。

 

 心なしか周りがゆっくりと見える。これが死に際の景色なんだろうか。

 せめてヒミカさんにならやられても良かったけど、最後に見るのがソーマになってしまうなんて嫌だなぁ。というか何で俺は殺されようとしているんだろう。俺は何もしていないどころか寧ろ助けたじゃないか。何て理不尽なんだろう。そんなぼんやりとした考えが一瞬の内に頭の中を埋め尽くした。

 

 しかし、それと同時に衝動が体を駆け巡った。それは何であったかはっきりとは分からない。生存本能の様な物だったのかもしれない。けれども俺は、その刃が届くまでの数瞬の間にそれに従い、自分の体を動かした。

 

 ガギィッ、とまるで金属同士がぶつかり合った様な音が廃教会に響く。

 

 かち合ったのは鈍く蒼に輝く脚と、悪をもって悪を制すと言われる大剣。無我夢中で繰り出したのは回し蹴り。

 

「何ッ!?」

 

 信じられない、という顔でソーマがこちらを見ている。

 悪いな、俺も何だか分からない。だがこの好機を逃す訳にはいかない。

 その蹴りの勢いのまま、脚に食い込んだイーブルワンごと彼を吹き飛ばす。何かベキベキと割れる様な音がしたが気にしない。泣きそうな程痛いけど気にしない。

 しかしそんな決死の俺の体を張ったカウンターを受けても空中で姿勢を立て直し着地された。やっぱ君ズルくない?

 

 だが奇しくも俺の狙い通りに互いの距離は離れた。離脱だ。

 脚の痛みを堪えつつ、熱波を吹かして跳躍。背後の壁の穴ことケモノ道への退却に成功した。

 

 見下ろす先にはこちらを神機を構えて睨むソーマ。当然全くダメージを受けた様子はない。寧ろ闘争心で溢れている。極東にはバケモノしかいないのだろうか。

 それに引き換えこちらの脚は見事に砕けている。結合崩壊というヤツだろう、鈍い痛みが休みなく襲ってくる。最近こういうのばっかりだな俺は。

 

 取り敢えず悔しいので、チッチッチッと指を振っておいてから傷を癒す為またいつものビルへと飛んで戻った。こちらはズタボロで格好もつかない上に完全に負け惜しみだがいいのだ。今回はいい勉強になった。

 

 やはりこちらがどう思っていようとも俺はあちら、特にヨハネスからしたら多少珍しいアラガミに過ぎなかったらしい。頭が堅いというか特異点の事しか考えていないというか。いや、こっちが愚痴ってもしょうがないんだけどね。俺はやっぱり人類の敵アラガミ、シユウなんだから。

 

 しかし俺はまた新たに夕日に誓う。この仕返しにあん畜生の邪魔をしてやると。アーク計画なんて知るか。俺を襲わせた事を後悔させてやるからな。あとソーマには傷が癒えるまでの日数分嫌がらせしてやろうそうしよう。

 

 まぁ婉曲して色々言ったが総括するとこういう事だ。

 覚えておけよ貴様らァ……!

 

 

 ◆◆◆

 

 

《何をしているんだ君達はぁぁぁぁぁ!?》

 

「……俺はただ命令に従っただけだ」

 

《何か妙な動きをしているなと思ってちょっと覗いてみたらこれだ、αに攻撃を仕掛けたぁ!? 君は、君達はαの存在が我々人間にとってどれ程の意味を持つか分かっているのかね!?》

 

《ペイラー、少し落ち着きたまえ。我々フェンリルは来たるべきエイジス計画の為に少しでも多くのアラガミコアを必要としている。あの個体が特別であるのなら、何らかの特殊なコアを有しているに違いない。ただそれだけの事だろう》

 

《……すまない。だけどもヨハン、今迄の報告を考えてみたまえ。あれは我々にとっての吉報であると同時に、何をしでかすか分からないアラガミなんだ。まずは観察すべきだと言っただろう。現に私がゴッドイーター達に協力をお願いしている様にね》

 

《そうは言うが、あれはシユウだろう。それらの報告も眉唾物であるし、何よりソーマの一撃で結合崩壊を起こす程度の相手だ。大した驚異にはならない》

 

《……αはね、特異点と何か関係があるかもしれないんだ》

 

《何? どういう事だ、ペイラー》

 

《現時点では詳しくは説明できない。だがそのもたらす結果はともかくとして、人間の動きを模倣し、理解し、あまつさえ心があるかの様に振る舞う。あれは我々の定義する所の特異点という概念を揺るがす可能性のある個体なんだ。今回の君は早計過ぎたと、私は言いたいんだよ》

 

《……成る程、すまなかった。そういう事なら、以後αはエイジス計画成就間近までこちらに攻撃行動を仕掛けない限り観察処分とする。私からも、改めてゴッドイーター達に伝えておこう。……ソーマ、帰投せよ》

 

「了解した」

 

《……こちらが先に仕掛けてしまった以上、どうなるかは分からないが……こればっかりはあちらが妙な行動をしない事を祈るしかないね……》

 

《……しかしこちらも……》

 

 無線を切る。煩い奴等だ。

 今はそんなお喋りを聞く様な気分じゃない。

 

「……あの一撃で確かに仕留めたと感じた。だが……ヤツは傷付きながらも俺の剣をいなし、まんまと逃げおおせた」

 

 仕留められなかったのは大きな損失だ。確実にアレは人間を襲う様になるだろう。何処に自分を傷付けた生き物に友好的に接する奴がいるだろうか。

 

「まだ俺は侮っていたのか、αを」

 

 確かな技と知性を持った相手だ。もう人類は油断出来ない。

 攻撃しろと言ったのは親父だ。だが仕掛けたのは俺だ。俺が撒いた種は、俺で始末をつける。

 

 

 

 




師匠が少しだけ覚醒するの巻。

次回は番外編になりそうな予感。

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