シユウになってしまった様だ。   作:浅漬け

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お、お久しぶりです……。
大分間が空いてしまったり、前の話を削除してしまってすみませんでした……。

思えばこの話を書き始めて約20日。やっと完成しましたので投稿です。


番外編その2 ヒミカさん

 私は今飛んでいる。

 いや正確に言えば水面スレスレといった微妙な高さなのだが、とにかく私は飛んでいる。はて、これは一体どういう事だろうか。

 

 取り敢えず落ち着こう私、クールになるんだ。まずは状況を整理しよう。

 確かさっきグボロ・グボロの体当たりを避けようとして見事に失敗し、およそ年頃の娘が出すべきでない声と共に海に投げ出されたのは覚えている。さっきからびしょ濡れの体が何かに掴まれているのも分かる。そして一緒に任務に来ていたリンドウさんとサクヤさんの焦った様な声も聞こえてくる。

 

 私は視線を上げてみた。

 そこには何処かで、というかここ最近割と見ている気がする青い顔があった。またか。またなのか。水を飲んだり体を打ったりしたせいか頭があまり働かないが、ぼんやりと私はあることわざを思い出した。

 

 二度ある事は三度ある、と。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 私の名前は呉ヒミカ。極東支部所属のゴッドイーターで、今年で多分17の筈だ。親は物心ついた時から居なかった。が、今のご時世にそんな事は珍しくもない。寧ろありふれ過ぎて食傷気味ではなかろうか。自分の事とはいえそう思う。

 

 何をする訳でもなく毎日を不味い配給で細々と過ごしていた私の日々は、約一ヶ月程前に終わりを告げた。

 理由は簡単。有り難くない事にフェンリルから直々のお手紙を頂いたのだ。その内容は私が新型神機なるものに適合する可能性があるから、極東支部に出頭してゴッドイーターの適正試験を受けろというもの。

 

「……は?」

 

 突然私を訪ねてきたフェンリル職員から受け取った封筒の中身を見て、思わずそう言ってしまったのはよく覚えている。

 

 ゴッドイーター。人類の盾。アラガミに唯一対抗できる兵器、神機を扱い戦う者達。

 そう言えば聞こえはいいだろう。格好いい? ヒーロー? 思うとしたらそんな所だろうか。だがそんな物は幻想だ。

 

 私は生まれてこの方フェンリル極東支部の外周部、外部居住区と呼ばれる所に住んできた。さて問題。ここではそこそこな頻度でとあるイベントが起こる。はい、じゃあそれは何でしょう。

 

 答えは簡単。防護壁を越えてのアラガミの侵入だ。

 

 これは割と冗談にならない。人類においてアラガミに対抗できるのはゴッドイーター達のみ。つまり、私達民間人は彼らが来るまで逃げたり隠れたり以外に何も出来ないのだ。今生きている人達は運が良かっただけである。こんな生活でもこの時世ではマシな方なのだから、如何に今がトチ狂ってるかお分かり頂けただろうか。このイカれた時代へようこそ。たっほい。

 

 で、これの何処がさっきの話題に繋がるかなんだけど……まぁ当然、神機使いはアラガミを軽々と倒せる訳ではない。アラガミは依然として人類の脅威だ。奴等を撃退した後に負傷した、もしくは布を被せられて運ばれていくゴッドイーター達を見るのなんてザラである。

 この光景を見てきた上で、ある日突然フェンリルからゴッドイーターになれと言われたのだ。それで嫌だと思った私は間違っているだろうか。

 

 いやもしかしたら、不謹慎だが親兄弟をアラガミに殺されたり純粋にゴッドイーターに憧れている人なら喜ぶのかもしれないけど、私は特にそんな感情もないし、不安定な毎日を変えたいとも思わない。寧ろ何で厄介事に進んで首を突っ込んでいかないといけないのだろう。

 待遇は格段に良いらしいが私的に元々その辺りはどうでもいい上に、仮にそれを差し引いたとしても嫌過ぎる。

 

 だが悲しいかな、私達はフェンリルの庇護下、というか支配下にある。適合試験は義務なのだ。一市民の私が断れる筈がなかった。痛いのも死ぬのも嫌だが、配給を止められて飢え死になんてのはもっと嫌だ。くそう、くそう。

 

 私は涙を呑んでフェンリル極東支部に赴いた。

 受付の人に内心が伝わったのか若干引かれながらも案内された先は、だだっ広いホールの様な場所だった。

 

 《さて、ようこそ……人類最後の砦【フェンリル】へ》

 

 来たはいいがどうすればいいのか分からずぼけっと突っ立っていると、そんな声がスピーカー越しに聞こえてきたのは覚えている。覚えている、というのはそこから先の記憶が曖昧だからだ。

 

 確かその後、真ん中に置かれていた赤いケースに近付いて手を入れろと言われて……なんだろう、何か凄く痛かった気がする。思い出さない方が良いなこれ。

 まぁ要するに、私は気が付いたら右腕に赤い腕輪を嵌められ極東初の新型神機使いとやらになっていたという訳だ。だがこれは、私とヤツの妙な縁の始まりでもあったとも言える。

 

 最初の切っ掛けは適合試験から暫く経ったある日の事。早々に第一部隊なんて所に放り込まれ、ヒイコラ言いながら新人研修という名の実戦をこなしつつ、アナグラでの生活に何とか慣れてきた頃だった。

 ツバキさんに呼ばれ、いまいち疲れのとれない体を引きずりながらエントランスに向かった私に言い渡された任務はこう。

 

「今回の討伐対象はオウガテイルとコクーンメイデンの群れだ。なお、補佐として二人神機使いを付ける。現地で合流し対処しろ」

 

 群れ。オウガテイルやコクーンメイデン単体でも気持ち悪いし怖いのに群れ。激しく嫌だが、もし文句を言えば返ってくるのは恐ろしい一喝だ。了解です、と返して出向くしかなかった。

 もうこうなったらその同行者さんとやらに任せよう。私はレンジを活かして後ろからチクチクと攻撃しようそうしよう、と思いながら到着した【鉄塔の森】と呼ばれるエリアで私達を待ち受けていたのは、とても綺麗なフォームで土下座を決めるアラガミだった。記念すべきファーストコンタクトである。

 

「お、キミが噂の新人クンかい?」

 

 待機していた二人の内、赤くてチャラい方がそう話し掛けてきたので何か返そうかと思ったまさにその時、突然乱入してきたのだったか。エリック先輩の叫び声は今でも妙に耳に残っている。もうあそこで死なんばかりの迫真の声だったよ。

 だがそんな私もどっこいどっこい。現れたその青いアラガミを見て思った。これ死んだな、と。だって自分の背丈の2、3倍はあろうかという大きさの化け物が現れた上に、私は実践経験すら乏しい素人だったんだ。しょうがないね。

 しかし結局、その時のソイツは私達を襲うどころかスタコラサッサと逃げ出す始末。正直拍子抜けだった。強いて言えば、帰投した後に例の糸目博士から極東支部のゴッドイーター達に今後もそれらしいのを見かけたら報告を頼むよ、とお願いがあったくらい。その時は珍しい経験をしたのかな、程度に考えていたのだが……まぁ、話を聞いて欲しい。

 

 さて、前回の色々とおかしな出来事からさらに暫く経ったある日、また新たにツバキさんが任務を持ってきた。その内容は私とコウタという同期同士でのコンゴウの討伐。曰く、極東支部では誰もが通る道だとか。そんなノリで新人二人を送り出すとかやっぱりフェンリルってブラックですよね。底が見えない暗黒ですよね。

 

 そんなこんなで向かった【鎮魂の廃寺】と呼ばれるエリアは予想以上に寒かった。アラガミじゃなく自然に殺されそうになるって何さ。

 だが身を貫く様な冷気に震える私を余所に、コウタは全然大丈夫そうだった。二つしか違わないが、これが若さなのだろうか。もしくは童謡に出てくる犬みたいなものなのかもしれない。庭を駆け回るんだコウタ。

 

 その後の経過は順調で、私達はオウガテイルを何事も無く倒し、やっと出てきたコンゴウも、気が付いた時には最早息も絶え絶えといった様子まで追い込めた。後は適当に倒し、コアを摘出するだけだ。

 

 いける、と私は地面を蹴り、一気にコンゴウとの距離を詰めた。オラクル細胞の活性化による身体能力の強化は凄まじい。この間までただの民間人だった私でもアラガミと渡り合えるレベルにまで引き上げられるのだから。だがしかし、この慣れない力も後のハプニングの一因だった。

 

 得物であるヴァリアントサイズをコンゴウに振るわんとしたその時。突然激しい脱力感が体を襲った。立つことすらままならなくなった上に、呼吸が苦しい。全く動けない。

 

「ヒミカ!? この、クソッ!!」

 

 コウタの声が聞こえる。見るとコンゴウが回転し、こちらに体当たりを仕掛けてきていた。あの質量にあの速度、今の無防備な状態であれを食らったら終わりだ。

 だが体は動かない。つまり避けられない。詰みだ。私は間違いなく死ぬ。

 

「……ひっ……」

 

 これから起こる事柄に情けない悲鳴が漏れたその時。何かが爆発した。

 次の瞬間、私は凄まじい風圧で派手にふっ飛び、雪に頭から突っ込んだ。痛いし冷たいししかも聞こえてくるのは人間の物ではない呻き声。訳が分からなかった。

 

 ともかく動かないとマズいと痛む体を何とか起こせば、さっきまで戦っていたコンゴウが何処かで見た青いのに吹き飛ばされていた。その顔は砕け、血ヘドを撒き散らしながら地面にめり込む。

 

 理解が追い付かないまま固まっていると、シユウが倒れ伏すコンゴウを指差した。トドメを、という事だろうか。全くもって何故そうしたのかその意図は分からないが好機だ。取り敢えず私は頷き、動かないクソ猿(コンゴウ)に刃を突き立て、今度こそ戦いは終わった。手を振って帰っていった変な命の恩人によって。

 

 こんな訳で何とか私はミンチにならずに生還できたものの、その後は前と違って大忙しだった。何せアラガミが人間を助けるなんて前代未聞の初の事例な上に私は当事者だ。アナグラに帰った私を待っていたのは事情を聞いたツバキさんによるお説教。曰く、「体への負担を考えず連続でステップを踏むからだ馬鹿者」。それと大量の報告書の作成に、博士による事情聴取という名の質問攻め。死にかけたのにこの仕打ち。フェンリルはどこまで行ってもフェンリルでブラックだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ぶらりぶらりと吊るされながら現実逃避気味にこれまでのコイツとの縁を振り返っている内に、私はいつの間にか無事陸地へと送り返されコンクリートの上に割と優しく置かれた。ふと見やるとリンドウさんとサクヤさんが何か言いながらこっちに向かってきているが、今回の討伐対象だったグボロは穴ぼこに切り傷だらけである。私の出る幕は無くなった。一応任務なのに。

 

「……あー、その、ありがとう?」

 

 何となく、隣に佇んでいるシユウに話し掛けてみる。

 前回といい隣の鳥人がどんな意図でこちらを助けたのかは分からないが、まぁ、お礼は言っておこう。アラガミ相手に言葉が通じるとも思えないけど、一応……ってあれ。急にガッツポーズしだした。え、何? もしかして人間の言葉を理解してたりするの?

 

「……私はキミが分からないよ……」

 

「おい何やってるんだ新入り!? 早く離れろ、死ぬぞ!?」

 

 目の前の光景に困惑し、いつかのソーマさんもこんな気持ちだったのだろうかと思いを馳せる私にリンドウさんの声が聞こえてきた。でも死ぬぞ、とは言うものの目の前の鳥人が私を襲う気配は全く見られない。寧ろ溢れ出る喜びが彼の存在によって恐怖に変わり始めた様に見えるのだが気のせいだろうか。

 極めつけはシユウの足元に放たれたサクヤさんの威嚇射撃だった。そりゃ当然急に弾が飛んで来たら誰だってビビる。私だってそーする。だけどせめて何かしら私に言ってからやって下さい。ダイレクトに風を感じたよ。任務前にトイレ行ってなかったら大惨事だったよ。

 

 結局シユウは大急ぎで飛んで逃げ始め、後にはヤツの熱風で中途半端に乾いた私だけが残された。酷いや。せめてもっと勢いがあればよかったのに。

 

「飛んで逃げた……あのシユウは例の個体ってことね」

 

「まさか出くわすとはなぁ。まぁ新入り、お前が無事で良かった。帰るぞ、任務は完了だ」

 

 いつの間にか二人が側に立っていた。

 任務完了……そうか、もうグボロは倒されたんだっけ。私何もしてないけど。そこら辺の扱いがちょっと気になるので、聞いてみることにした。

 

「……えーと、私今回特に何もしていないというか出来なかったんですけど、それってどうなりますかね……?」

 

「ほほう、気になるか? 聞かない方が良かったかもしれんぞー、新入り」

 

「あ、やっぱりいいで「そうだな、お前は目下調査中のαと接触してしまった上に、開始早々戦線離脱したから……報告書に始末書、後もう一回グボロ・グボロ研修だな」……うわぁぁぁぁぁ……」

 

 果たしてあのシユウは何なのか。そして私に休暇はいつ訪れるのか。

 それはまだ、誰も知らない……。

 

 

 




次回から久々の(作者的に)師匠編。

最近アラガミ小説が増えていて嬉しい……。

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