シユウになってしまった様だ。   作:浅漬け

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お久しぶりです!!(開き直り)
所用でGEオンライン合同に参加できなかった哀しみやGE3発表の喜びを噛み締めながら過ごしてました。

投稿ペースを戻していきたい(願望)



第12話 師匠、散歩する

 どうすりゃいいのか分からない時は本当に何も思い付かないものである。うーんうーんと頭を雑巾が如く捻ってはみるのだが、如何せん物事の素敵な解決方法というのは大抵偶然の閃きに依存している。

 考え事をする時には糖分補給、とは言うものの、こんな世紀末にそんな高級品がよりによって廃墟に転がっている訳もなく。よって俺は落ちてたネジを口に含みながらぼりぼりと噛み、夜風の中歩くのであった。うん、心なしか塩辛い気がするね!

 

 やぁどうも、鳥田だよ。

 例え地表が荒れたお肌の様にボロボロになっていたとしても、地球が太陽の周りを回っている限りは朝昼夜と回り回って巡るのである。つまりいつも夕方な感じの【贖罪の街】にも夜はちゃんと来るし、俺も夜の散歩をすることもあるということだ。まどろっこしいね。

 

 さて、この前のランデブーのせいでますます妙なアラガミだと狙われそうになってしまったが、こちらとしてもそれなりに収穫はあった。久々に腹は満たされたし、そのお陰か脚の調子も戻ってきつつある。だが当たり前と言えば当たり前とはいえ、状況は刻々と進んでいるらしい。

 

【蒼穹の月】。当初の予定通り、俺がこれから主人公の事を見守り続けるならば必然的に避けられないものであり、同時に彼女、いや極東支部の運命をガラッと変えてしまう出来事である。

 無論これは物語の1つの節目に過ぎないんだけれども、この事については熟考しなくては本当に危険なのだ。ぶっちゃけスルーも考えてたっちゃ考えてた。え? 何でだよこの腰抜けって? いやね、相手が相手なんだよワトソンくん。

 

 人々は()()をこう呼ぶ。天なる父祖、あるいはディアウス・ピター。災厄の権化とも言うべき黒い雷帝――その強さは圧倒的だ。凶悪な威力と範囲を持つ雷の連続発生に始まり、見た目にそぐわぬヴァジュラ神属十八番の俊敏な動きにそこから繰り出される暴力。そしてある程度追い込まれると開放するあの紅い刃……まさに荒ぶる神だ。慣れるまで辛い。慣れても辛い。つまりクソ。ほんとクソである。

 しかもさらに悪いことに、例の任務にはそれに加えプリティヴィ・マータとかいう親衛隊のおまけ付き。第一部隊にはもうよく帰還したな君達と言う他ない。やっぱりアラガミよりよっぽど化け物じゃないかなあの人達。

 

 脱線したが、つまりこれに何も考えずに出向くという事は夏休みを宿題は何だかんだ終わっているだろうと気楽に殆ど何も考えずに過ごすのと同義である。それ即ち死。

 それに、ピターと相対するまでもなくどこからともなく現れるであろうマータ共に見つかって終わり、というパターンも多いにあり得る事だ。というかぶっちゃけそっちの可能性の方が高い。俺が彼ら……いや彼女ら? とにかく奴等と出会っても三秒後には地面に荒神骨と鳥神大翼が転がっている事だろう。我が事ながらひどい。

 どうだろうか。今回俺が出しゃばった所で得るものは何も無いばかりか、寧ろこっちが死ぬ羽目になるのは明白なのだ。

 

 しかし。しかし、である。

 

 もういっその事ほとぼりが冷めるまで隠れよっかな、と考えもしたんだけれども尚まだあえて言おう。しかし、である。

 

 俺はあの夕焼けに誓ったのだ。うちの子(ヒミカさん)を見守ろう、と。そりゃもう絶対影から見守ろうと。

 これまで色々な事があった。ソーマに殺されかけたりもしたし、グボロに海へ吹っ飛ばされた彼女を助けたりもした。かと思えば俺がコンゴウに吹っ飛ばされたり、これまたソーマに脚を砕かれたりも……主な思い出の半分があの青フードじゃないですかヤダー。運命の赤い糸は彼と結ばれていた……? 誰得だよ。

 

 まぁ俺は例によって今回も諦めるつもりはない。これまで何だかんだ生き残ってきた以上、何かしらやりようは絶対にある筈。ピターが何だ、マータが何だ、である。うむ、これ位の気持ちで挑むのが俺らしいといえば俺らしい。

 もっとも戦いなんて仕掛ける気は更々ないが。それこそ頭の使い所というやつだ。具体的にどうするのかと聞かれると困るけど。いや、今まさに考えてるんだけどね? なかなかね……うん……。

 

 ……。

 

 よし、もう今日は駄目だ。アラガミに脳みそなんてあるのかしらんというのは置いといて、我が灰色の脳細胞はウンともスンとも言わない。持論だが、こういう時はさっさと寝るに限るのである。人間諦めが肝心なのだ、俺人間じゃないけど。ハハハ、イッツアラガミジョーク。

 

 ともかく、俺は寝床に戻ることにした。実はあそこに戻るのはそこそこしんどかったりするのだけど。何せ陣取っているのは廃ビルの屋上だ。帰るためにはよじ登るなり飛ぶなりしなきゃならない。その分安全はそこそこ保証されてはいるけどね。

 結局俺は飛んで帰ることにした。さて、離陸するのに都合の良い広い場所は……ん?

 

 何か、動いた?

 

 はて。こんな時間に活動するアラガミとは珍しい。一部の例外を除けば、夜は大体奴等は静かなのだが……。

 しかも俺の師匠アイが今捉えた光景を信じるならば、対象はかなり小さかった。それこそちっちゃな子供位に。ザイゴートなら地面を移動するなんてことは無いだろうし、オウガテイルだとしても彼等の大きさは2m強はある。

 

 うーむ、ますます妙だ。もしや本当に子供が迷い混んでしまったのだろうか?

 いや、あり得る話だ。確かゲームでも、ロビーにいた少年が外に出てスクラップを漁ったという話をしていた。その類いの人間でなら外壁まで送り届けてあげようか。ヒイヒイ言いながら毎日を生きているのは人間も俺も同じだ。ライダーじゃないが、助け合いはするべきだろう。それにもしかしたらフェンリルから見逃して貰える様になるかもしれないし。

 

 9割の善意と1割の下心を持ちつつ、先程の影が動いた方へと行ってみると、どうやら裸足だった様で地面に足跡がくっきりついていた。それを見るに、どうやら町の中心にある教会の方へ移動したらしい。

 教会、教会か……あそこには良い思い出が無いんだよなぁ。いやーな予感がする。しかし見知らぬ誰かとはいえ命の危機かもしれないのだ。見捨てる訳にもいかない。

 

 そろりそろりと中に入ると、月明かりが多少入っているとはいえ案の定真っ暗である。明かりもないし当然っちゃ当然なのだが。

 さて、足跡の主は何処だろうか……あれ。いない。おかしいな、隠れる様な所もないしすぐに見つかると思ってたのに。おーい。出てきてもいいんだよーい。

 

 俺の気持ちが通じたのかどうかは定かではないが、何処からともなく我が師匠イヤーにがさごそと布の擦れる様な音が聞こえてきた。おぉ、やはり居るようである。よく見えないけど。

 さてどうやって怖がらせない様にしようか、と今更な考えを巡らせていたその時、まるでその音の主が跳躍する様な音がし……。

 

 がぶっ。

 

 形容しがたい感覚に頭が襲われた。ぬるっとしている様でいて、かつそれとなく針の様な鋭さがあってつまり何が起こったのか分からない内に痛みがじんわりと伝わるのが分かったというかつまりこれあれもしかしてこれってもしかして――思いっきり、頭をかじられた。

 

「ぐるるるるるーーー!」

 

 誰だ、誰だ!?

 何の恨みがあって俺にこんな事をするんだっていうかそとそも何故噛むんだ畜生ーーーッ!?

 

「ーーーーー!?!?!?」

 

 声にならない悲鳴と共に、やったらめったら体をぶん回し続けた末、ようやく頭にしがみついていた下手人を振り落とす事が出来た。

 疲れた。もう本当に疲れた。なんで親切心からの行動がこんな事になるんだ神様。死んでるのか。神はやはり死んだのですか。

 

 いやそんなことより犯人だ。犯人の正体を知らなければ始まらない。ヤツはどうやら窓、というか穴がぽっかりと空いているいつか俺が逃走経路に使った壁の方に投げ出された様である。しめしめ。

 

 未だに痛む頭を押さえながら、こんにゃろう何してくれてんだ、と目をそちらに向け犯人の姿を捉えた瞬間――息を呑んだ。いや、呑まざるを得なかった。

 

 その視線の先にいたのは、かすかに差し込む月明かりの中に佇む、【白い少女】。

 いや、少女ではない。あれは、全ての神喰い(プレイヤー)達の脳裏に刻まれているであろう、あの子は……。

 

 

 

 シオ、だと……!?

 

 

 




鳥田は塩味がしそう。
焼いたら多分おいしいよ。

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