シユウになってしまった様だ。   作:浅漬け

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お久しぶりです。ほんっとにお久しぶりです。
活動報告に書くぞー、と書いてから三ヶ月位過ぎちゃいました、えぇ。オリジナル展開を回しまくってる作者さんを尊敬せざるを得ない。

レゾナントオプスやら八周年やらゴッドイーター界隈もまた賑わってきましたね。3出るまでに何とかエイジス編を書きあげたいなぁ……(儚い希望)


第15話 荒廃地にて

 ふと思い出した事がある。暇潰しに眺めていたノルンの中の記録曰く、かつて人類が繁栄していた頃は田舎でもない限り夜空は曇りに曇っており、全然星なんか見えなかったそうな。

 だが悲しいかなとでも言うべきか、それはもう昔の話である。見上げれば私の頭上には今にも落ちんばかりに瞬く星々が広がっている。なんと美しい光景なのだろうか。だがそれはそれとして目線を地上に戻す。

 

「……フッ!」

 

 目の前のソーマが得物を振るうと、倫理上よろしくない音と共に派手に肉片をばら撒きながらまたオウガテイルが吹き飛んでいった。なんと惨たらしい光景なのだろうか。理想と現実の落差が酷すぎる。

 しかもおまけと言わんばかりにビチャビチャと私達に色々降ってくるからもうね。えぇ、そりゃもう色々とだ。私はもう避けるのを諦めた。冷たい筈の夜風に生暖かさが混じって吹き付けてくるこの感触は何なんだ。

 

 さて。ちょうど今私達がいるのは【贖罪の街】エリア、その外れ。入口といったところである。外れとわざわざ言ったのはまぁ平たく言えば、普段ゴッドイーターもわざわざ活動する事の無いような野晒しの不毛&危険地帯にいるって事だ。で、そんな所を行軍すること今で大体三時間。その結果がこれである。

 

 先程から対応して数を減らしていっているとはいえ、目の前にはまだまだオウガテイル達が健在だ。その数ざっと10以上。横には場数を踏んできたであろう頼れるお二人がいるが、だからといってこんな所で丸投げもとい気を抜けば待っているのは死だけだ。腑抜けている暇はない。というか現在進行形で横から一匹飛び掛かって来ているのが見えている。がおーじゃないよこの野郎。

 

「新人クン横! 横来てるよ!?」

「分かってますよー……」

 

 フェンリルに入ってそれなりに経つ私だが、相変わらずアラガミの相手をするのは死ぬ程面倒臭い。が、実際に死ぬよかマシなのは明白である。しょうがないので私は間抜けに開いているそのお口にタイミング良く神機を叩き込んでやり、そのまま振り抜いて頭の上半分を吹き飛ばした。同時に何かよく分からない汁が服に飛び散ってきたが気にしない。気にしないったら気にしない。不本意だが慣れたもんである。

 

「もうやだ、この仕事」

「泣き言を抜かすな、目の前の敵に集中しろ」

 

 青フード先輩のありがたい励ましのお言葉を背中に受けつつ、果たしてこれで何体目だっけかとぼんやり思いながら、私はこちらへ向かってくる次の影に刃先を振るう。さっきからこればっかだ。多分三ヶ月位荒神骨片には困らないんじゃなかろうか。要らねぇ。

 

 そんな耳を澄ませば横から肉を叩き潰す音だの、何かが爆ぜ飛ぶ音だのが聞こえるこの混沌とした状況にいる私達だが、そもそも何故こんな目に合っているのか?

 答えは至ってシンプルだ。()()()()()()()()()()

 

 え、冗談言うな? 本当だよ。アラガミサファリパークをわざわざ徒歩で歩いて贖罪の街まで行く羽目になったからこうなったんだよ。

 

 全てはそう、あの寝起きの一件から始まった――。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「やはりこう、あれだな……野外で眠るというのは中々に体に堪えるね……」

「同感です……あー腰痛い……」

 

 まだ日も昇っていない暗闇の中、耳障りな音を鳴らしているアラームをBGMとして私達は仮眠から目覚めた。控え目に言って最悪の目覚めだ。体のあちこちは痛いわ砂っぽいわ。無理もない、何しろ柔らかさもへったくれもない軍用ジープのシートを寝床とし、吹き晒しの中仮眠をとっていたのだから。

 

「起きたか」

「あぁ、見張りありがとうソーマ」

 

 交代で見張りをしていたソーマが声を描けてきたが、その顔は遅いぞとでも言いたげだ。でもヌッ、と急に車の陰から現れるのは止めて欲しい。割と不気味でびっくりした。言ったら拳骨を食らいそうだが。

 

 さて現在、私達は榊博士の【おつかい】でここ、贖罪の街――の外れの外れ、言うなればその郊外といった場所に陣取っている。しかもわざわざ彼のオーダーで前日の夜から、である。

 

 いやホント、何が悲しくて休日にこんな場所で寝る必要があるのだろう。榊博士に理由を聞いてもまた追って連絡するからその時に、の一点張りでのらりくらりとかわされるだけだったし。

 

 行く前にその事について思わず愚痴ってしまった相手であるロシアから来たベテランの方の新型さんが言うには、防衛戦でもあるまいしなんで視界も効かない夜にやむを得ない事情以外で自分たちからわざわざ出掛ける必要があるんですかとのこと。そうだよね、普通はそうだよね。私もそう思うよ。でもね、運転役の青フードさんは周りが見えてるかの如くぶっ飛ばしてたよ。もしかして真の極東人は目に生まれつき暗視ゴーグルを登載しているのだろうか。狂ってるな。

 

 でもその理論だとエリック先輩のサングラスには色々と素敵機能が付いてたりしているのかもしれない、と考えていたその時、私達三人の通信機がザザ、という濁った音と共に電波をキャッチした。言わずとも、その主が誰かは分かっている。

 

《やぁ、英気は養えたかな?》

 

 何を言わんや。やはりペイラー榊博士である。

 眠れたと思います? と言いたいのは山々だがグッと我慢した。偉いぞ私、これは百万年の休暇分にも相当する功績だ。

 

「こちらの準備は出来ている、移動開始はいつだ?」

《結構結構。まだまだ夜中だが今日はいよいよ調査本番だ。早速君達には贖罪の街の方に向かってもらうよ。座標をそちらの端末に送るから、確認出来次第移動を開始してくれたまえ》

 

 ピロン、と軽快な音が鳴った。早速端末を見てみると、地形把握用の簡易マップにマーカーが追加されている。成る程、ここに向かえばいいという訳か……あれっ。

 

 表示されるマーカーの位置に、私は違和感を覚えた。

 

「これは……」

「どういう事だ……?」

 

 どうやら二人も同じ様に感じたらしい。どちらもその顔は表示されたモノに対し困惑を浮かべている。

 

 そう、妙なのだ。

 

 私はてっきり、わざわざ前日の夜に出発するなんてことをしている以上今回向かうのは贖罪の街方面でもそれなりに普段行かない所だとか、入念な準備が必要な所だとか、少なくとも普段の活動領域から外れた場所なのだろうと思っていた。

 しかし、その予想とは裏腹にマーカーが示している場所は――贖罪の街エリア、その中心部だった。

 

 何だこれは。どういう事だ。

 

「一ついいか」

《おやソーマ、質問かい? いいとも、何でも聞いてくれたまえ》

 

 絶対突っ込まれると思ってました、という雰囲気を隠そうともせずに応対する博士。胡散臭さMAXである。イヤーな予感がしてきたぞこれは。

 

「……いつもならアナグラからこのポイントまでの距離程度、一息に行ってしまっている筈だ。それに、俺達にはわざわざ野外で休息を取ってアラガミと遭遇する可能性を増やす意味が無い」 

《ふむ》

「何故こんな手の込んだ――いや、回りくどい方法で向かう必要がある? アンタの個人的な要望とはいえ、壁外で活動している以上俺達はリスクを背負っている。出発前に理由は追って説明すると言った以上、その説明が出来ないのなら俺達は降りさせて貰う」

 

 十理、いや百理位はあるド正論である。うんそうそう、私もそれが言いたかったんだよ。全然言葉に纏めきれてなかったけどそれが言いたかったんだよ。

 

《ンフフ、鋭いねソーマ。まさしくその通りだ。だけどね、それじゃ今回はダメなんだ――だって、君達にはこそこそと歩いてそこに向かって貰う必要があるからね!》

「は?」

「えっ?」

「……何だと?」

 

 アッハッハ、と笑いながら、あっけらかんと博士はそう言ってのけた。

 おいおいおいおい。歩く? 車を走らせて30分の距離を、何の安全の保証もない壁外かつ視界も悪いこの夜まっさかりの中、その距離を歩く、だと……?

 

「あ、あのー、博士? よりによって夜に車で30分の距離を徒歩で歩くのはちょっと無謀では……? いくら僕らはゴッドイーターとはいってもここは壁外ですし、長時間の行軍は色々と問題が……」

《いや、本当に申し訳ないとは思うんだけど……そうでもしないと今回のターゲットに理想的な遭遇をする事は無理っぽいんだよねぇ》

 

 じゃあその理由を説明しよう、と博士が切り出してきた話を要約すると大体こんな感じである。

 

 曰く、今回のおつかいは個人的に気になっていた例の噂――【幽霊の声】の下手人の観測大作戦である。この噂には博士的に大変興味をそそられるモノがあるらしく、是非とも犯人を見てみたいと思っていたのでこっそり計画した。

 

 曰く、しかし期待に反し今回のターゲットは中々尻尾を掴ませない。これにはほとほと困った。だが短気はいけない。急いだヒキャクがカロウシした、とかの極東の兵法家も言っている。ので、長期戦に切り替えていく事にした。

 

 曰く、よって数々の下準備を偵察班やその他諸々の手段によって地道に積み上げてきたのだが、それがそろそろめでたく実を結びそうであるのが分かった。しかし、相手の性質を考えると下手な手を打ってしまえばそれっきり。チャンスは永遠に訪れなくなるかもしれない。

 

 曰く、という訳で隠密第一。車なんてもってのほか。頑張って夜闇に紛れて向かって欲しい。徒歩で。

 

《……と、こんな具合なんだ。分かってくれたかな? 勿論分かってくれたよね。じゃ、早速出発をだね》

「いや待て、その理屈はおかしい。1から10までアンタの好奇心に巻き込まれただけじゃねぇか。大体まだ何故人選が俺達なのかの説明がだな……」

《おーっとぉ。申し訳ないがヨハンから連絡が入ってしまった様だ。ちょっと対応(いいわけ)しなきゃいけないからまた後でね!》

「おい、まだ話は――」

《ともかく無事向こうについたら連絡してくれたまえ。大丈夫、()()()()()成功するよ! それでは失敬、健闘を祈る!》

 

 ブツッ。

 

 どうやら回線を向こうに切られたらしい。流石この極東で地位を掴んだ男である。見事なまでのゴリ押しだった。私もあれくらいのメンタルが欲しいよ。

 

「どうします?」

「どうするって……ねぇ?」

 

 どうしようもないね。どうしようもないですね。

 

 所詮我々は宮仕え。上からやれと言われた以上、というかこんな所まで来てしまった以上、あちらの要望通りにさっさと終わらせないと帰れないであろう事は想像がつく。やるかやらないかではない。やらなければならないのだ、この場合。ファッキン。

 

 ハァ、と何処からともなく溜め息が聞こえた。ソーマである。いつにも増して目が死んでいるのは大丈夫なのだろうか。

 

「……突っ立っていてもしょうがねぇ。行くぞ、さっさと――一刻も早くこのくそったれな任務を終わらせる」

「あっちょっ、待ちたまえソーマ!」

 

 こう吐き捨て、来なけりゃ置いていく、と言わんばかりにこちらを振り返る事なくスタスタと歩き始めるソーマ。その背中には何処か「またか……」といった様な哀愁が漂っている。

 会話からして彼はそれなりに榊博士と付き合いがあるようだけれど、果たして博士に無茶振りされるのはこれで何回目なんだろう。ソーマの性格なら無視を決め込みそうなものだが、何だかんだ頼みを聞いているあたり付き合いが良いのか悪いのか。よく分からない人だ。

 

 まぁこんな感じで月明かりの下、私達は歩きだしたのである。いつ終わるとも知れぬこのくそったれな任務へとな……!!

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ボリ、と口の中に放りこんだ物を噛み砕き、それを飲み下す。十秒も経たない内に何とも言えない感覚が体の内から込み上げてくる。熱いような寒いような、はたまた浮遊感を伴うような。きっと今私の中のオラクル細胞が活性化なり何なりして傷を癒しているのだろう。

 

 しかし考えると不気味なものである。フェンリルの技術が詰まっているんだろうとはいえ、こんな薬を飲むだけで傷が回復してしまうとは今の私、いやゴッドイーターとはつくづく人外なのだなぁと思ってしまう。

 

 それに何より、この回復錠というものは決定的な欠陥がある。

 

「シンプルに不味い……」

 

 本当に毎度毎度思う。想像を絶する不味さなのだ。かといって嫌なら食べなきゃいいですむ代物でもない。

 その攻撃見切るの余裕でした、位に成長し無傷で帰還する未来に期待したいが、それなんてリンドウさんってレベルなので到底無理だろう。世の中上手くいかないものである。

 

「せめてフレーバーとか作ればいいのに」

「それはしょうがないさ、良薬は口に何とやらと言うし。それより大丈夫かい? 大分吹き飛ばされていたけど」

「えぇ、それは何とか……装甲の展開が間に合ったのが不幸中の幸いですよ。あれで直接殴られてたら今頃どうなってたことか」

 

 戦いは終わった。あたりに散らばるちょっと目を覆いたくなる様な色々な物も、その内塵に還るだろう。そういう意味ではアラガミの後始末というのは楽なものである。根本的解決になってないとも言うが。

 

「そっちの回収は済んだか」

「それは今やってる所です……あ、当たりだ」

 

 手応えあり。これで用事は済んだ。ので、物言わず地に伏す赤猿の背中から神機を引き抜く。

 さっきその内塵に還るとは言ったが、アラガミからコアを摘出するのもゴッドイーターの任務の内である。特に今はヨハネス支部長がお熱のエイジス計画とやらにアラガミコアが大量に必要らしい。何に使うかは正直サッパリ分からないが、将来安全に引きこもって暮らす為の投資と思えばこの面倒も悪くない。

 

 だがしかし、まさかコンゴウまで出張ってくるとは思わなかった。乱入してくるとはとんでもない奴等である。しかも初撃が物陰からの不意打ち狙撃だったものだからたまらない。お陰で思いっきり吹き飛んだ。

 

 この前グボロ・グボロの突進を受けて酷い目にあってから装甲の展開を心掛けていたからか、何とか防御は間に合った。けれどやはりあの一件以来コンゴウは未だに少し苦手だ。あの妙な鳥人がいなかったら確実に死ぬか大怪我を負っていた。それを柄にもなく何処か引きずっているらしい。

 

 そういえば、あのシユウはどうしてるんだろう。最近めっきり見なくなってしまったらしいが……いや、別にそれがどうって話ではないけれど。心配している訳じゃない。ただ何となく思うところがあるだけだ。

 

 ……っと、そんな事よりも。

 

「終わりましたよ。これで多分全部です」

「ふぅー……これでやっと中に入れる訳か。入口でこんな派手な出迎えがあるとは思わなかったね」

「……全くだ。これに釣られて他のアラガミが寄ってこないとも限らない以上、ここに留まる意味はない。行くぞ」

 

 しかしそんな心配とは裏腹に、その後は特に何事もなくすんなりと私達は贖罪の街へと入ることができた。見慣れた穴ぼこだらけの建物が並ぶ淋しい風景の中を歩き、指定された場所へと到着。敵と出会いたいんじゃないけれど、少々拍子抜けである。街中でアラガミと出会わないなんて珍しい。二人もどこか腑に落ちない様子だ。

 

 とりあえず博士に連絡を取ってみると、時期が来たら追って指示を出すから休んでいてくれたまえとのこと。色々言いたいことはあるがキリがないので今はそれは置いておく。ということで一時休憩。やったね。

 

 今私達が居る所は何と言ったらいいのやら。そうだなぁ……見たままを言うなら街の中心にある教会の壁に空いた穴の中、だろうか。といっても狭いわけではなく、内部と繋がってしまっているのかちょっとした洞窟の様な広さになっているが。端末のマップ上ではポイントiと表示されている所である。

 

 だが休憩といってもここは敵地。悲しいかな、完全に気を抜いてボケーッとできる訳ではない。

 ぶっちゃけ私としては今すぐにでも惰眠を貪りたい気分なのだけれど、それをすると「こんな所で呑気に寝るな」とソーマに説教を頂きそうなので自粛しておく。あーあ、こんな事にならなきゃ今頃部屋でぐっすりと寝ていた筈なのになぁ。むなしい。

 

 しかし、寝れないとなるとそれはそれで全くやる事がないものだ。弾の装填だの道具の整理だのは済んでしまったし、誰かと雑談する気も起きないし、というか今は何か会話が発生する雰囲気ではないし……まぁ言わずとも分かる。皆疲れてるのだ。ソーマならともかく、普段からアレな感じのエリック先輩も黙りこくっていると言えば分かってもらえるだろうか。相当だぞこれ。やはりしりとりを却下されてしまったショックは大きかったと見える。

 

 そういう事なので棒になってしまった足を揉むなり、喉を潤すなどして暇を潰す事にする。

 容器のフタを開け、中身を喉に流し込む。のだが、差し込んでくる風で潤うと言うよりどちらかと言えば寒くなる方が勝ってしまった。外を見てみると空が僅かに白み始めているのが見える。要するに今は丁度夜明け前、一日で一番寒い時間って訳だ。

 これがいけなかった。そのせいで思わぬ問題が顔をもたげてくる事となってしまったのだ。

 

 今の今まで長い時間過ごしてきたが、それには常に多少の生きるか死ぬかの緊張感が伴っていた。アドレナリンドバドバである。だがそれが途切れてしまった今、さっきの体の冷えがトリガーとなったのか、私の中で忘れていた何かがその主張を強めてきた。主に下腹部で。

 

 つまりその、何というか……トイレ、行きたい。

 

 いやいやいや、私だって生きてるんだもの。そりゃ物も食べるし出すものも出すさ。しょうがないじゃん。

 ……まぁ、図らずも今の編成で紅一点となってしまっている以上、流石に私でもトイレに行きたいと言うのは恥ずかしいが。でもこの歳で漏らしたら普通に死ねる。下らない羞恥心など捨てるべし、背に腹は代えられないのだ。

 

「……暇なのでちょっと資源回収に行ってきまーす」

 

 やんわりでいて尚且つ支部に貢献する表現を巧みに入れこんでみる。ポエット。

 

「ん? ……あぁ、あまり遠くには行かない様にね」

「小便ならさっさと済ましてこい。任務はまだ途中だ」

「なんでそこでオブラートを剥がすんです?」

 

 おい。おい青フードこの野郎。人が折角察してくれとばかりに当たり障りのないワードを考えたのに……!

 

「あのですね、普通そこは黙って察してくれる所じゃないですか。わざわざ秘密のベールを剥ぐ必要ありました?」

「何が秘密のベールだ。それよりもおっさんからの連絡が何時入るか分からない以上、あまりここを離れられても困るという事だけは忘れるな。……お前もさっさと終わらせたいだろう?」

 

 闇だ。ソーマの周りに闇が見える。いつもの仏頂面を通り越した何かになってる。この人かなりキテるなこれ。

 

「アッハイ、キヲツケマス……」

 

 触らぬ神になんとやら、私にはこう言ってすごすごと出ていくしかなかった。南無。

 

 さて、あまり離れるなと言われたものの、ぼちぼち離れつつ適当な物陰を探している私だよ。

 

 いやだって近くだとゴッドイーターの聴力のせいですれば向こうに色々な音が聞こえてしまうこともあり得るし。そうなったら私は多分一生部屋に籠らざるを得なくなる。ほら、現に私には今まさに誰の物か分からない足音が聞こえてくる位だし……あれ、足音?

 

 うん、間違いなく足音だ。丁度後ろの建物の影の向こうから聞こえてくる。

 

 アラガミだろうか。いや、それにしては妙だ。何というか歩き方が獣っぽくない。こそこそ歩いているというか、気配を消そうと努めているというか……。まぁ残念ながら私には聞こえてしまっている訳だけど。

 となると人間か。壁の外にいる動物はアラガミか人間、そのどちらかだけだ。あの二人の内のどっちかだろうか? 博士から何かしらの連絡があったから伝えに来た、とか。

 

 いや待てよ、それなら無線を使ってくるよな。わざわざ隠密第一でと言い渡されている以上、何だかんだ優秀な彼らが無意味に集まって目立とうとする訳がない。ましてや覗きに来たなんて事はないだろう。あの二人はそんな事をする様な人間ではないこと位今までの付き合いで分かっているつもりだ。

 

 なら誰だろう。同じエリアに一組以上の小隊が同時に存在する事はないと聞いたことがある以上、私達の他に神機使いがいる筈は無い。ということは……支部の庇護下にない壁外の一般人、だろうか?

 

 有り得る話だ。それならばこの周りを伺うような歩き方にも合点がいく。丁度今が夜明け前であることから察するに、アラガミの活動が鈍くなる夜を狙って動いていたら思いの外遅くなってしまったとかではなかろうか。

 

 仮にこの考えが正しいとして、神機を持たない人間がそこら辺をほっつき歩いていたらどうなるか。……わざわざ言うまでも無い。よくある話、である。

 

 さて、偶然にもここで私には二つ選択肢が与えられた訳だ。人類の盾として無関係の哀れな放浪者を助けるか、はたまた無事に帰れないと決まった訳ではないのだからと割り切って見なかった事にするか。

 

 ぶっちゃけて言うならば、ちょっと前の私なら確実に見捨てていただろう。私には関係ない、と。あの隣人達の様に、彼には運が無かったのだと。

 大多数がギリギリで何とか生きているこの世界で、自分を顧みず見ず知らずの他人を助けるのは私にとって、いや、周りの人にとっても難しい。

 

 ……けれど。

 

「……柄じゃないんだけどなぁ」

 

 ふとさっき思い出したあのシユウ。彼に助けられて以来、どうも何かが心に引っ掛かる。まぁその、何だ。アラガミでさえ人を――私を助けてくれた世の中だ。ちょっと位は還元しておこうと思った訳ですよ。

 

 尿意かはたまた人の命か、なんて茶化して言ってみないとこんな考えはむず痒くていけない。流石にアナグラに連れて行くなんて事は出来ないけれど、安全に帰る事くらいは手伝えるだろう。旅は道連れ世は情けってやつである。

 尤も前者も割と切実なので、ひとまず彼もしくは彼女を保護してあの二人に事情を話してみることにする。ソーマの説得は大変そうだが。

 まぁ、もし悪人だったらその時はボコってその辺にうっちゃれば良い。言い方はあれだが、とくに私は万人に慈悲を持ち合わせてはいない。残当。

 

「オッかシいナァ……ここら辺で何か変な音がしたカなと思ったんダけど」

 

 おっと、そうこうしている間にもう近くへと来ていた様である。中々に大きな独り言が耳に飛び込んできた。しかし……何だろう、えらくダミ声だな。風邪でも引いてるのだろうか。

 まぁいいや、取り敢えず近付いて声を掛けてみよう。話しはそれから……あっ。

 

 何ということでしょう。まさかのここで問題発生だ。私は気付いてしまった。このままだと確実にファーストコンタクトが失敗するであろう事を。

 そう、すっかり忘れていたというか慣れてたというか……さっきまで荒廃地を歩いていた結果として、今の私は血みどろなのである。そりゃもう見事に。

 

 ちょっと考えてみて欲しい。もし貴方がいつ死ぬか分からない様な危険な所を警戒しいしい歩いている時に、いきなり目の前に血みどろの鎌を持った女が現れて声を掛けてきたらどう思うだろうか。

 普通に考えて発狂不可避である。下手な親切大きなお世話とはまさにこれではなかろうか。

 

 後ろの方から声が聞こえてくるという事はつまり、私の足跡なり何なりで相手が私の存在に気づくのも時間の問題ってことだ。だからといって隠れるなんて事は本末転倒だし……もうこうなったら開き直って笑顔で手でも振ってやろうか。いやそれもうただのやべーやつじゃん。どうしようこれ。

 

「……ンン? これって靴の跡だよナ。しかも割と新しい。それに何か臭うし……えっ、やだコれ誰かいるパターン?」

 

 はい見付かったー、ってあれ。割と余裕そうな感じのトーンだぞ。これはもしやチャンスでは……?

 そうだよ、別に敵対してる訳じゃないんだ。相手も切羽詰まってる様子でもないし、気付かれたのならまずはこちらに敵意が無いことを伝えれば良い話だ。こんな見た目じゃ難易度インフェルノだけどな!

 

「……あのー、そこに誰かいたりします? 差し支えなければ返事をしてもらえると嬉しいんですけど」

 

 ! おぉ、まさか向こうから話し掛けてくれるとは思わなかった。アリサの時といい今回といい、こういう時はツイてるぞ私。ありがとう相手の人!

 

「あ、はいいまふ……じゃない、いますいます。いやその、驚かせてしまったならすみません。私は決して怪しい者じゃなくてですね……その、なんというか野暮用があってここに来てただけというか……」

 

 うわ駄目だ。全ッ然駄目だった私。元々の対人能力の低さに加えて今二重の意味で焦ってるから全然言いたい事が纏まらない。

 御覧、辺りには静寂が漂うだけとなったよ。相手の人困惑してるよこれ。ごめん相手の人……。

 

「……あ! すみません、黙りコクっちゃって。貴方の声が余りにその、そう、知人に似ていたモのですカらびっくりしちゃって。こんな所にこんな朝っぱらからイルわけ無いんですケどね、ハハハハ……」

「そ、そうだったんですか……いやてっきり何か気に障る様な事を言っちゃったのかと」

「いやいやまさか。そんな事ある訳ないじゃないですか。やだナァ」

 

 なんで私が気を使って貰ってるんだ。痛い、その優しさが痛いよ相手の人。

 

「……ところで、何故こんな朝っぱらからこんな所に? 野暮用とさっき言ってましたけど。それに何かやたらこう、血みたいな臭いがするのは一体……」

「あぁ、えっとその、それはですね……」

 

 やっぱ聞いてくるよね。気になるよね。

 どうする。榊博士が支部長にも秘密と言っていた以上、まさか任務ですなんて言える訳もないし。トイレなんてもっと言えないし。かといって何も言わないと不信感を買うし……この際あれでいいか。

 

「いやその、あれですよ。ケガしちゃいまして……ハハ……」

 

 嘘は言ってない。治ってないとは言ってないからね、しょうがないね。

 そんな少しの罪悪感と共に返した言葉に返ってきたのは――

 

「エエッ、怪我してるんですか!? その臭いの濃さで怪我ってそれもう死にかけてるんじゃ……!? 」

「えっ」

 

 ――予想の斜め上過ぎる返答だった。

 

 いやいやいやちょっと待って。今聞き逃せない位酷い誤解をされた気がする。え、そんなに今の私酷い臭いなの? そんなに死臭ばら蒔いてるの?

 

「そんな状態で喋らせるなんて俺は何て酷いことを……せめて責任を持って安らかに看とるべきなのか俺は……!?」

「あの、ちょっと待って下さ……」

「……この際見られるとかそんなのはナシだよナぁ。ええと、今からそっちに行きますけど、アレです、俺の事は死ぬ前の幻とでも思ってください」

 

 何を言い出すんだこの人。見られる? 幻とでも思ってください? 一体どういう意味……いやそんな事よりも今来られるのはマズい。こんな思い込みの激しい人が私の格好を見たらより一層誤解を招きかねない。具体的に言えば怪我人からシリアルキラーにランクアップしてしまう……!

 

「いやあの、何を勘違いしてらっしゃるのかは分かりませんけど本当来なくていいですから! 今私とても見せられない感じになってるんで!」

「えっ、それは手足が千切れてるとかそういう……? いや、大丈夫です。これも何かの縁でしょう。俺も覚悟はできてますから……!」

 

 しまったぁぁぁぁぁ!!!! 言葉のチョイスを間違えたぁぁぁぁ!!!!

 

 あぁ、終わった。足音がどんどんこちらに近付いてくるのが分かる。これで向こうは完全に私の事を大鎌を持った血みどろシリアルキラーとしか思わなくなるだろう。民間人保護は失敗だ。ほんと、柄じゃない事はするんじゃなかったなぁ……あれっ。

 

 私の目は今、地面に現れつつある影に、つまり向こうから近付きつつある相手の人の影に釘付けになっていた。

 

 違和感。否、そんなレベルではない。人間の影じゃ、ない?

 

 いや実際、それは余りに歪と言わざるを得ないものだった。日の出である事を加味しても大きすぎ、形はてんでアンバランス。特に腕が妙である。全体的に平べったいし、なんかボコボコとしてるし。てんで人間の形を為していない。

 

 何だこれは。どういう事だ。今私が会話していた相手は、一体何なんだ。

 

 訳が分からず脳が混乱する一方で、しかし私は相手が誰であるのか、どこか確信めいた答えをぼんやりと得ていた。

 その根拠はこれまでの経験だとか、榊博士がご執心であることだとか、今回の任務は【観察】であることだとか……いや、まどろっこしい言い回しはよそう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの翼、あの爪、あの体の形……ゴッドイーターならもう何十回と見たものだ。故に普通はあり得ない。あり得る筈がないのだが、私達はそういう事をやりかねない奴を知っている……!

 

「あの、今からそっちに姿を見せますけど……どうか驚かないでくれると嬉しいかなって……」

 

 声が聞こえる。相変わらずダミ声だが、どこか優しい声だ。間違いなく彼は彼なりに心から瀕死の人間を心配しているのだろう。

 いやはや、全くどうかしているなぁ私。神機使いとして、いや人間としてどうなんだろう。アラガミが喋る上に、人間の心配をする、なんて想像は。

 

 ついにその時は訪れた。

 建物の影からぬっ、と現れたその相手は、人間というにはあまりにも大きすぎた。大きく、妙ちきりんで、人の面倒事を増やすが、どこか憎めない奴だった。それはまさしく鳥人だった。

 

「……あれっ。立っていらっしゃる? そして赤い……それにもしや、その手に持っているのはじ、神機……?」

 

 そうだ、今私が考えていた相手はまさに――荒ぶる神でありながら、どこか優しげで妙な目の前の鳥人(ヒト)だった。

 

「あー……その……その節は、どうも」

 

 まぁどうしたら良いのか分からないので、顔が引き吊ってるのを感じながら取り敢えずいつかした様に手を振ってみた私だよ。

 

「……エッ。いや、あの、血まみれ……いやそもそもなんでヒミカさんが此所に……」

 

 私には分かる。彼は今、さっきの私の様に現実と理性との狭間で混乱しているのだと……ってちょっと待てよ。今さりげなく私の名前を【さん】付けで呼ばなかったかこの鳥人。えっ、何? 名前バレしてるの私? 目を付けられたりしてるの? ……いやいやいかん、そんな事を考えている場合じゃなかった。この事をすぐに三人に伝えなくては……!

 

 だが通信機を起動しようとしたその時、贖罪の街に叫び声が響き渡った。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!! 殺されるーーーーッ!!」

「えっ!? ちょっ、違う! 誤解だーーーーーっ!!」

 

 




しゃ、喋るぞコイツ!?
待て、次回(書き留めありますあります)
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