作者は見た時思わず目を疑いました。教えて下さりありがとうございます。
これからも頑張って書いていきますよ!
やぁどうも、鳥田だよ……ってそんな悠長な事をしてる場合じゃ無かったよチクショウ。
俺の目の前には此方を殺る気満々の神機使い三人。それぞれサイズ、バスター、ブラスト。つまり破砕に切断。何でこう俺に都合の悪い装備してんだか。
さてどうする、どうする……!?
俺は必死に考えを巡らせる。
ヤバいヤバい超ヤバい。相手が悪すぎるってレベルじゃない。くそ、このヤバい状況で生き残る為に考えろ、考えろ。まだ相手が此方を伺っている隙に……!
何かないか何かないか何かないか……どこぞの未来の青狸ばりの葛藤の末、俺はある事を思い付いた。
そうだ、さっき確かソーマは「お仲間がやらない様な曲芸飛行まで」とか何とか言っていた。
もし彼ら、いや、ソーマが俺にまだ仕掛けてこない理由が俺の特異な行動を目にしたからだとしたら? 予想を越える様な新たな行動パターンを警戒して、俺の出方を見てから対応する為にまだ留まっているのだとしたら……?
これに、賭けてみるか。
俺は決意した。この際アレでも何でもやってやると。プライドに体裁、そんなの知るか。俺は生き残って、必ずヒミカさんにちょっかいを出し続けるんだ……!
俺は……シユウは、彼らを真正面から見据える。
……そんなに睨まないでソーマくん、おめめ怖い。おいエリック、そんな怯えた目で俺を見ないでくれないか。一応助けたじゃないか。アラガミだけど。後ヒミカさん、何と鋭い眼光なんだ……これが新型の素質なのか。いや、君に関わりたいが為に俺が色々やっちゃった結果が今のこの状況なんだけどね?
……さぁ、ここからが本番だ。
スッ、と俺は下に翼手を動かす。それと同時に足も片膝立ちの様な姿勢にしていく。
「見たことがねぇ動きしやがって……気を付けろ、奴が仕掛けてくるぞ……!」
フフ、慌てなくともいい。
存分に刮目するがいいよ、この俺の奥義を。
一秒が永遠にも思われる様なこの空間の中。遂に、ソーマが仕掛けてこようとする素振りを見せた。
……今だ!
俺は翼と頭、そして足を地面に渾身のフォームで擦り付けた。
◆◆◆
「……は?」
暫くの沈黙の後。最初に聞こえてきたのは、アラガミと対峙しているにしては余りにも間の抜けている声だった。
ククク、まぁ驚くのも当然だソーマくん。そりゃ普通、いや絶対にこんな事はアラガミはしないからな……。
「お、おいソーマ。こ、これって……」
見える、見えるぞ。お前の動揺が手に取る様に分かるぞエリックよ。今顔上げたら君のブラストで俺は吹き飛ぶだろうけど、それはひとまず置いといて。
さて、俺が何をしているか分かったかな?
「……土下座?」
はい正解ぱっぱらぱーん。
そう、余りの戦力差に恐れを成した俺は(元々戦う気なんて無いけど)、ここ極東、即ち旧日本地区の誠意の形の究極形、土下座を繰り出している。
あ、バスターで小突かないでソーマくん。痛い、地味に痛い。あれか、誠意が足りないってか。
ともかくそんな嫌がらせに黙して耐えていると、俺のシユウイヤー(特に良いという訳でも無い)に何か聞こえてきた。
《大丈夫ですか皆さん!? お怪我はありませんか!?》
これは……いや、もしかしなくてもアナグラのオペレーター、ヒバリさんの声だろう。これがあのミッション後にアニメ見たりドラマ見たりして親交を深めたヒバリさん……なんか感動。いや、そんな場合でも無いけど。
「あ、あぁ僕は何とも「おい、聞こえるか」ってソーマ……?」
お、何か起こりそうな予感。そして僅かに目線を逸らしたな愚か者めが……。
まぁ俺としては何でも良い。彼らの注意が薄くなった所で一気に離脱、そして某怪盗三世の様にすたこらさっさと飛んで逃げるだけだ。
さて、どうなる?
ほらほら、君達がそうしている間にも俺はじりじりと数センチ華麗なる土下座のまま後退していってるんだぜ……?
「こっちは全員無事だ。……だがイレギュラーが起こった、至急サカキのおっさんに繋いでくれないか」
《中型アラガミの反応の件ですね!? そちらには既に救護班を向かわせています、撤退を……え? あ、はい……了解しました……?》
え、あっ、ちょっ。
「なるべく早く頼む……こっちもどうしたらいいのか分からん」
マズい、この流れは非常にマズいぞ。
この場に人員が増えそうな事もそうだが、サカキさんだと……?
あいどんのーわいしんぐすごーろんぐ。
「……あの、ソーマさんでしたっけ。サカキってあの、怪しい感じの……?」
おずおず、といった感じの話し声が聞こえる。
そうだよ。君に最初にメディカルチェックをかけたあのキツネ目の人だよヒミカさん。
「あぁ、テメェが最初に受けたメディカルチェ《何か私に用かな?》……ほら、コイツだ」
くっそぉぉぉ……出てくるのが早いよ。逃げ出すチャンスを伺う暇も無かったよ。
どうする。このスターゲイザーさんが出てきた事で俺への注意が逸れる可能性が絶望的に低くなってしまった。絶対に興味深いだのなんだの言われて調べられるコースに突入するぞこれ。
「いや、その、何だ……」
あ、待って言わないでソーマくん、いやソーマ様……!
《んんん? 用件をはっきり言って貰わないと私としても対応に困るんだがね。……しかし、君程のベテランを唸らせる事だと考えれば実に興味深い。何が起こっているのか、冷静に、詳細に報告を頼むよ》
あー終わった。もう駄目だこれ。もうどうにでもなーれ。
俺は更に美しく土下座を決め込んだ。やけくそである。華麗だ……とか聞こえたが知らん。多分空耳だ。
「……俺達の目の前でシユウが土下座している。どうすればいい」
《……は?》
「いやだから、目の前のシユウが土下座の様なポーズのままピクリとも動かん。……どうすればいいんだ、これは」
《……ハハハ。どうやらソーマくん、君はいつの間にか冗談が上手くなった様だね。うんうん、それはいい傾向なんじゃないかな。でもそれを今ここで披露するのはちょっと場違いじゃないかと私はそう「「本当です」」……えっ。》
……あれ? この反応は戸惑っていらっしゃる? 意外といけるんじゃないか? 意外と隙を付いて逃げれるんじゃないか……?
「今ここで冗談を言ってどうする。今二人が言った通り、本当の事だ……。だからこそアンタに聞いてる。コイツはどうすればいい。捕獲か? 討伐か?」
《えっ、土下座? シユウが、土下座……?
……それが本当かつその行動の意味が我々人間と共通しているのだとするならそれすなわち相手の力量を測る事が出来る上での降伏行動でありつまり……》
「……おっさん、聞いているのか?」
博士が何かブツブツ呟き出したぞ。これには流石に三人とも面食らっているみたいだな。そりゃ当然かってこれチャンスじゃないか。
危ない危ない、みすみす逃げる機会を逃す所だった。そうとなれば早速脱出に取りかからなければ。いや、まさか土下座がこんな結果を生み出すとは思っていなかった。プライドをかなぐり捨てた甲斐があったぜ。
俺は掌にゆっくりとエネルギーを集める。気取られない様に、少しづつ。幸い今やろうとしている事には然程エネルギーは必要無い。あくまで姿勢を整える為の行為だ。……よし、この程度でいいだろう。後はタイミングだけだ。
俺はこっそり目を上にやり、三人を伺う。
《……であるからしてその個体は他のシユウ神属いやアラガミの様に無差別に襲うことなく……》
「あの、博士……?」
「多分、暫くは止まらないんじゃないか……」
どうやらまだ喋っている博士に気を取られている様だ。今ならいける。
俺は満を持して、土下座ポーズから地面に貯めこんだエネルギーを解き放った。
といっても、さして威力はない。精々俺が後ろに跳躍できる程度。だがそれ即ち脱出チャンス。
「あぁっ、シユウが逃げるぞ!?」
「《何(だって)ッ!?》」
今気付いてももう遅いわ!
俺はすかさず助走をつけながら腕を広げて熱波を放出。 そのまま飛行形態へと移行する。
「クソッ、無駄に速い!」
フハハハ、無駄だ。シユウ師匠の滑空は神機使いのそれを凌駕する事を忘れたか?
嘆くのなら自分達の不注意を嘆いてくれ。いやそれが無かったら俺詰んでたけど。まぁそれはそれ、これはこれだ。あばよ、とっつぁん達。
そんな事を思いつつ、また腕がもげそうなのを堪えながら俺は「贖罪の街」への空路に戻った。
そういや飛べたはいいけど鎌倉って横浜からどう行けばいいんだろう、と新たに沸いてきた不安を抱えつつ。
シユウ師匠の廃寺訪問の先は長い。
次回は番外編になりそうな予感。