シユウになってしまった様だ。   作:浅漬け

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バーが黄色くなってる……?
しかもUA3000越え……?

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※8月18日、一部改行ミスを修正しました。


番外編その1 ソーマ

「……は?」

 

 この日この時、俺がこんな声を出した事を責められる奴はいないだろう。

 

「お、おいソーマ。こ、これって……」

 

 隣のエリックが何か喋りかけてくる。ちょっと待て、今俺は混乱しているんだ。静かにしていてくれ。

 

「……土下座?」

 

 新入り、お前もか。だが……だが、確かに、俺の目の前にいる奇妙な青いオブジェ……じゃないシユウは、確かに土下座をしている様に見える。確か極東での究極の謝罪の形だとか何とか……っていやそんな事を考えている場合じゃねぇ。これはどういう事だ……。

 

 エリックがオウガテイルに襲われたあの時、突如現れた目の前のシユウ。

 当然そのまま戦闘になると思っていた。当然だ、アラガミに理性など無い。目の前に餌があったら喰らう、ただそれだけの化け物だ。

 しかも相手は通常のシユウには見られない飛行まで披露した変異、いや進化個体ときた。同じアラガミでも、時間が経てば見た目には同じに見えても内面は進化していく。おそらくコイツもその類い。エリックはともかく、まだ経験の浅い新入りを庇いながらの戦闘はかなりの苦戦を強いられた筈だ。

 

 だがどうだ、ヤツはこちらを襲うどころか土下座? をしてピクリとも動かねぇ。試しに神機で小突いてみたが、反応は無しだ。寧ろより土下座に力が入った様な気さえしやがる。

 アラガミがこちらを襲わないこともそうだが、こんなに動きをするなんて見たことが無い。

 今現場の指揮権は俺にある。だが、俺は一体どうすればいいんだ……。

 

 そんな事を理解が追い付かない頭で漠然と考えていたその時、アナグラから通信が入った。

 

《大丈夫ですか皆さん!? お怪我はありませんか!?》

 

 ……そりゃそうか。あっちでもシユウの反応は捉えてるに決まっている。しかも俺達のそばで留まったままで、双方共に動かないときた。何かあった、と思うのも当然だ。まぁ、今は都合がいい。

 

「あ、あぁ僕は何とも「おい、聞こえるか」ってソーマ……?」

 

 悪いがエリック、こっちの方が優先だ。気は進まねぇが、こういう事はアイツに任せるしかねぇ。餅は餅屋、だったか?

 

「こちらは全員無事だ。……だがイレギュラーが入ってな、至急サカキのおっさんに繋いでくれないか」

 

《中型アラガミの反応の件ですね!? そちらには既に救護班を向かわせています、撤退を……え? あ、はい……了解しました……?》

 

 ……まぁ、今の反応も当然だろうな。こっちは経験の浅い新入りを抱えてるんだ。庇いつつ戦うより、さっさと撤退した方が遥かにリスクが低い。

 そんな俺達が急にサカキのおっさんを呼んでくれ、なんて言ったらそりゃ戸惑うだろう。

 

「なるべく早く頼む……こっちもどうしたらいいのか分からん」

 

 だがこっちはシユウをどうしたらいいのか分からないんだ。捕獲か? それともそのまま構わずブッ殺せばいいのか? そこが問題だ。

 それに、俺には例の……あのクソ親父から言い渡された任務がある。特異点だが何だか知らねぇが、この奇妙なアラガミを見付けた以上、一応は報告をしておいた方がいいだろう。気に入らんがな。

 

「……あの、ソーマさんでしたっけ。サカキってあの、怪しい感じの……?」

 

 新入りが声を掛けてきた。……あぁ、そういやまだ名前すら言っていなかったか。どうでもいいが。しかし、話し掛けてきた事を無下にも出来ないだろう。一応は受け答えてやるとする。

 

「あぁ、テメェが最初に受けたメディカルチェ《何か私に用かな?》……ほら、コイツだ」

 

 チッ、妙なタイミングで入ってきやがって。

 まぁ良い、さっさと報告してしまおう。

 

「いや、その、何だ……」

 

《んんん? 用件をはっきり言って貰わないと私としても対応に困るんだがね。……しかし、君程のベテランを唸らせる事だと考えれば実に興味深い。何が起こっているのか、冷静に、詳細に報告を頼むよ》

 

 一々煩い。事が事だから言葉を選んでいただけだ。だったら精々アンタも混乱しやがれ。

 

「……俺達の目の前でシユウが土下座している。どうすればいい」

 

《……は?》

 

「目の前のシユウが土下座の様なポーズのままピクリとも動かん。……どうすればいいんだ、これは」

 

 暫く間を置いて、返答が帰ってきた。

 

《……ハハハ。どうやらソーマくん、君はいつの間にか冗談が上手くなった様だね。うんうん、それはいい傾向なんじゃないかな。でもそれを今ここで披露するのはちょっと場違いじゃないかと私はそう「「本当です」」……えっ。》

 

 ナイスだエリック、新入り。

 そりゃ流石に戸惑うだろうな。だからって冗談とはなんだ冗談とは。そんな下らん事をわざわざ無線でアンタを指名して言うわけが無いだろう。

 

「今ここで冗談を言ってどうする。今二人が言った通り、本当の事だ……。だからこそアンタに聞いてる。コイツはどうすればいい。捕獲か? 討伐か?」

 

 親父の計画の深部まで知っているだろうコイツの事だ、何かしらこの個体についての良い案を出して……

 

《えっ、土下座? シユウが、土下座……? ……それが本当かつその行動の意味が我々人間と共通しているのだとするならそれすなわち相手の力量を測る事が出来る上での降伏行動でありつまり……》

 

 速攻で雲行きが怪しくなってきた。

 

「……おっさん、聞いているのか?」

 

 まさかここで自分の世界に入るとは思わなかった。おい待て、せめて今の状況について何かしら言ってくれ。

 

 そんなこちらの内心を知ってか知らずかペラペラと最早脳が理解するのを拒むレベルの早口を繰り広げるサカキのおっさん。駄目だこれは。

 

《……であるからしてその個体は他のシユウ神属やアラガミの様に無差別に襲うことなく……》

 

「あの、博士……?」

 

「多分、暫くは止まらないんじゃないか……」

 

 二人も流石に面食らったらしい。いや、ある程度付き合いの長い俺でさえ今回のコレはキツい。まさかこれ程アイツの興味を引き出すとは思わなかった。想定外だ……ん?

 

 妙だな。何かが、集まっている様な、音が……。

 

 その違和感を感じ取った次の瞬間、俺の肌を熱風が覆った。これは、まさか……!?

 

「あぁっ、シユウが逃げるぞ!?」

 

「《何(だって)ッ!?》」

 

 エリックの声で事態は俺の想像通りだと理解する。

 しまった、迂闊だった。予想外の事続きで注意が緩んだか。俺の間抜けめ……!

 

 一気に俺たちから距離を離したヤツは、そのまま流れる様な動作で腕を広げ熱波を放出し、加速して滑空……いや、飛行を始めた。何だその動きは。見たことがねぇ。

 やはりコイツは進化個体なのか……!?

 

「クソッ、無駄に速い!」

 

 俺も追い縋ろうと必死に走るが、遅れを取り戻すどころか引き離されていくばかりだ。 悠々と飛ぶその姿からはある種の余裕すら感じる。さっきの覇気の無さが嘘の様だ。

 

 ……結局、俺達はシユウを取り逃がしてしまった。

 当然か、通常のシユウでも俺達が追い縋る事は叶わない。ましてや飛行を可能にしたその進化個体なら言わずもがな、か。不甲斐ない事この上ない。

 

《……ふむ、どうやら逃がしてしまった様だね……。すまない、少し自分の世界に入り過ぎた》

 

「どうする、あれは恐らく……」

 

《あぁ、より進化を遂げたシユウの進化個体とでも言うべき存在だろうね。間違いない》

 

「進化個体、だって……?」

 

「サカキさん……。あのシユウとか言うさっきのアラガミは、普通のシユウとはまた違ってるって事ですか……?」

 

 新入りとエリックが口々に言う。

 

《うん、いい質問だね。あー、ヒバリくん。彼らの周囲にオラクル反応はあるかな?》

 

《あ、はい……今の所、周囲に反応はありません。回収まであと10分程度です》

 

《うんうん、それは良かった。じゃあ回収まで時間もあるし、少しあのシユウ……そうだな、仮にシユウαとでもしようか。彼について現在推測できる通常の個体との相違について話をしよう。ソーマもそれでいいかい?》

 

 長くなりそうな話だが、おっさんが言うヤツの相違点というのも気になる。それに何より次にあんな失敗は許されない。少しでも知っておいて損はないだろう。

 

「……勝手にしろ」

 

《ハハハ、相変わらずキツい物言いだね君は。

 ……さて。確かヒミカくんにはコウタくんと一緒にこの前勉強会をしたと思うのだけど、アラガミ……すなわち、オラクル細胞は非常に知識に対し貪欲だ。あの個体は話を聞いている限り、人間臭い所があるね》

 

「……まさか人間を食べた結果があれ、とか……?」

 

 《いやいや、人間を食べたからと言って人間臭くなる訳じゃないさ。だとすれば今頃アラガミはαの様な個体だらけの筈だよ》

 

「じゃあ、どうやって……」

 

《……恐らく、観察だよ。人間を観察したのさ。喰わずに、その行動から色々と学んだんだと思うよ》

 

 ……何だって?

 

「あり得るのかい博士、アラガミが人を襲わずに観察して知識を得るなんて、そんな事が……?」

 

《勿論、にわかには信じ難いだろうが……現状それしか結論が出せないんだよ。そうだな、根拠を挙げるとすれば彼が君達から逃げた方法だ》

 

「……俺達をまんまと出し抜いた事か?」

 

《そう、それだ。力量差を感じ、敵わないと悟ったαは、我々に土下座……いや、正確には降伏の意思を見せた。ここからが肝なんだ。多分、全て演技だったんだよ。相手の隙を伺う為のね。ここまで高度に他者を騙すなんて人間くらいさ。恐れ入るよ》

 

「……あのな、ヤツはアラガミだぞ。どうやって人間を観察してそんなややこしい知識を得たってんだ。それに、例の飛行についてはどう説明する」

 

《それが解せないからこそ、現状ではあの行動は人間から学んだのではないかとしか言えないんだよね。だってあのポーズの意味を知っていたからこそ、君達を油断させ出し抜けたんだから。……まぁとにかく、今回の事を鑑みるにαは君達と出会ってもこちらが勝っている限り攻撃はしてこない筈さ》

 

「……結局今言える事はそれだけ、か?」

 

《うん、それだけ。じゃ、少し早いけどペイラー榊の勉強会番外編はおしまい。無事に帰ってきてねー》

 

 ぶつっ、と通信が切れる音がした。

 結局、終始アイツのペースだったな……。それに、人間から学んだらしいアラガミだと?

 訳が分からない。ヤツは、あのシユウは本当にそんな存在なのだろうか。

 

「……凄い話でしたね。人間から学んだアラガミだ、なんて」

 

「あの博士の言ってる事はその、少しぶっとび過ぎてやしないかい……」

 

「……同感だ、信じ難いなんて物じゃねぇ」

 

 少しだけ気が抜けた様に見える二人に受け答えていると、新入りが突然あ、と言い出した。何だ?

 

「……挨拶がまだでした。この度、新型神機使いとして第一部隊に配属された【呉 ヒミカ】です。宜しくお願いします、エリックさん、ソーマさん」

 

 ……そういや、まだ初対面だったか。色々と濃すぎて頭から抜け落ちていた。ふと時計を見てみると回収まであと5分程ある。

 どうせ暇なんだ。ヘリが来るまでは、このクソッタレな職場についてにでも話してやるか。

 

 どれだけ、コイツが生き残れるかは知らないが、な。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「いやぁ、実に興味深いね。あのシユウは」

 

「人が神となるか、神が人となるか……ヨハン、私はそのヒントを見付けたのかもしれないよ」

 

 

 




今回は第6話の別視点での話でした。

そろそろ師匠を廃寺へと動かさねば。

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