プリベッド通り
ホグワーツの夏休みが始まってから、ちょうど一週間がたったこの日、プリベッド通り4番地では、極限の緊張状態にあるダーズリー家の三人と、それとは対照的に、ニコニコと笑って、嬉しさを隠しきれていないハリーが、魔法の教科書などが入ったトランクと、ペットの白ふくろう、ヘドウィグが入れられた鳥かごを持って、リビングに集まっていた。
なぜ、プリベッド通りがこのような状況に陥っているのかというと、それは夏休み三日目に、とある牝鹿がハリーに運んできた一通の手紙のせいだ
ホグワーツの夏休みが始まってから三日、ハリーはペチュニア叔母さんに庭の掃除を言い渡され、ゆっくりとしたペースで庭の掃除を行っていた。
ハリーside
先程から誰かに、ちらちらと見られているような気がしている…
ハリエットにもらったお守りがあるとはいえ、あのお守りはマグルの攻撃方法には対応できていない。それを、ホグワーツで身をもって体験した。
若い頃のヴォルデモート卿によって操られたロンに、クィディッチの試合が行われる予定だった前日にナイフで刺されたのだ。
幸い僕もロンも、ハリエットやジニーにマクゴナガル先生、ダンブルドア先生によって、助けられたから、無事に今も生活できている。
あの事件以来夏休みに入るまで、僕は自分自身やハリエットを守れることができるようにと、ハリエットには秘密でハーマイオニーに呪文を教えてもらっていた。
僕がその気配のする方に目を向けると、一匹の牝鹿が何か白い紙のような物を口にくわえて、垣根とガレージに隠れて、そこを行ったり来たりしていた。
フクロウ便は魔法界にとっては普通の連絡手段だけれども、鹿に手紙を運ばせるなんて事は聞いたことがない。
普通なら警戒すべきところなんだろうけど、不思議とあの牝鹿にはそんな気は起きなかった。
「ねぇ、どうしたの?」
僕がその牝鹿にそっと近づき、声をかけると、牝鹿は僕が近くにいることに気付いていなかったのか、驚いたように飛び上がり突然どこかに駆け出した。
「ねぇ、ちょっと待って!君を傷付けたりしないから!」
牝鹿を追いかけながら走っていくと、誰もいない公園へと行き着いた。牝鹿は相変わらず、白い紙のような物を口にくわえていた。そして、何か思うことがあったのか、ブランコをじっと見つめていた。
しばらくすると、牝鹿は落ち着いたのかゆっくりとした足取りで僕の下へとやって来て、白い紙のような物を足下に落とした。
「これは僕宛の手紙なの?」
僕がそれを拾って見ると、それは、宛名に僕の名前がかかれた手紙だった。筆跡から判断すると、ハリエットからの手紙のようだ。
牝鹿は僕の問いに対して頷くと、僕にすり寄ってきた。手で頭を撫でてやると、ハリエットと同じハシバミ色の目が気持ち良さそうに細められていた。
「帰ったらハリエットにちゃんと受け取ったよって伝えておいてくれるかな?」
牝鹿は再び頷くと、僕の周りをぐるぐると回り始めた。
「どうしたの?追いかけっこでもしたいの?」
どうやら牝鹿は、本当に僕と遊びたいらしく、僕の問いに頷いた。
それから、僕と牝鹿は子供のように遊んだ。互いに追いかけたり、逃げたりしながら楽しい一時を過ごした。プリベッド通りでこんなにも楽しく過ごせたことは、今までの生活の中では無かったから、不思議な気持ちだった。
「ごめんけど、僕そろそろ戻らないと行けないんだ。おばさん達に怒られちゃうから。また、今度会おうね。気をつけて帰ってね。」
僕は牝鹿にそう言って、4番地へと戻っていった。
僕が家へと戻ると、そこには顔を真っ赤にして怒っているバーノンおじさんがいた。
「小僧、貴様どこに行っておった!ここで過ごす限りは出歩くな!」
「あー、ちょっとね。手紙を受け取っていたんだ。」
「貴様なんぞに誰が手紙をやるもんか。去年だって、来た手紙は貴様が学校の規則を破ったという、警告状だけだ。」
おじさんは、そう言うと微かに笑った。
「ちゃんと、貰ってきたよ。妹のハリエットからね。」
おじさんは、僕がそう言うと顔が真っ青になっていた。
バーノンおじさん達は、僕に対してハリエットがいるなんて、12年間僕に一切知らせずに過ごしていたのだ。
それに、ハリエットがバーノンおじさんの言う、これぞ魔法使い!という格好で現れたのではないかと不安になっているのだ。
「貴様は、妹と会ったのか?」
「うん、そうだね。おじさん達があの日に見捨てたハリエットと、僕達の学校で会ったよ。」
見捨てたの所を強調して言うと、おじさんは再び顔が真っ赤になっていった。
「その言い種はなんだ!せっかく貴様だけでも引き取って育ててあげておるというのに!」
「あぁ、うん。僕もその点では感謝してるよ。ハリエットは引き取ってもらった先で、幸せに過ごせていたんだから。それに、すでに結婚相手も見つけられたようだしね。」
「結婚相手だと?たかが12才の小娘にか?」
おじさん達はまともでないことを何よりも嫌う。恐らく、ハリエットがここで過ごしていたら、僕よりも酷い目にあっていたのではないだろうか…
「ねぇ、そろそろハリエットからの手紙を読みたいんだけど。部屋に上がっても良いですか?」
「ふん!もし、手紙があるというのならここで読むがいい。」
「じゃあ、ここで読むね」
僕は、おじさんの前で手紙を読むことにした。
ハリーお兄ちゃん、元気?
ちゃんとご飯は食べれてる?
教科書や箒やヘドウィグは無事?
私は、元気だよ。ウィーズリー家の人たちも全員元気に過ごせているよ。
ハリーお兄ちゃんに電話をかけようとしたんだけど、パパが興奮しちゃって電話を解体し始めたから、電話を使うことが出来なかったの。
夏休みが始まってから一週間後のお昼に、プリベッド通りにハリーお兄ちゃんを迎えに行くからね。
一週間、長く感じるかも知れないけど、それまで頑張って耐えてね。
追伸 : もし、おばさん達に何かされそうになったら、どうにかしてヘドウィグを飛ばして知らせてね。
「それで?小娘はなんといっておるのだ?」
僕が読み終えると、おじさんは話しかけてきた。
「あぁ、うん。夏休みが始まってから一週間後のお昼に、僕を迎えに来るんだって。」
「ここにか?」
おじさんの顔に途端に緊張が走った。
「らしいよ」
「ちゃんとまともな方法で来るんだろうな」
おじさんがまともな方法でと言う理由は、去年の夏休みにロンがフレッド、ジョージと共に、空飛ぶ車でプリベッド通りにやって来たからなのだろう。
そう言えば、ハリエットってここにどうやって来るつもりなんだろう?それに、あの牝鹿はどうやってここに来れたんだろうか。今度、ハリエットに聞いてみよう。
まぁ、魔法は使ってはいけないことになってるし、ウィーズリーおじさんの空飛ぶ車はホグワーツで行方不明になっているから、きっとおじさん達の言うまともな方法で来るのだろう。
「そうじゃないのかな?」
「お前を引き取ってくれるのなら、文句はない。夏休み中そこで過ごすのだな?」
「そうだよ。去年もそうしてたし。」
「そうか、なら貴様の妹にまともな方法で、まともな姿でやって来るように手紙を出すんだ。いいな。」
「いいよ。じゃあ、僕は手紙を書かないといけないから部屋に戻るね。」
僕が部屋に戻ろうとすると、いとこのダドリーが階段のところに待ち構えていた。
「お前、妹なんていたのか?」
「君には関係ないだろ。」
「妹もお前と同じあれを使えるのか?」
「さぁね。でも、去年は隕石を大量に落としたり、決闘クラブで先生を倒したり、千年も生きてた大蛇を一人で倒してたけどね。」
「そ、そんなこと、できるはずない。」
ダドリーは、顔を真っ青にして震え始めていた。
ダドリーにとって、ハグリッドに豚の尻尾をつけられて以来、魔法使いというのは恐怖の対象らしい。それに、ハリエットが去年したことは、ハグリッドのダドリーにかけた魔法からしたらずいぶんと可愛いらしいものになってしまうのだ。
「じゃあ、僕はハリエットに手紙を書かないと行けないから、部屋に戻るよ。」
僕は、未だに震えているダドリーを放って部屋に戻っていった。
「遅いぞ!連中は何をしておる!今日、わしらに何か用事があったらどうするつもりだ。」
ハリエット達に何かあったのか、ハリエットが来るといっていた予定の時間が来ても、一向にハリエット達は現れない。
バーノンおじさんはイライラを隠すつもりがないのか、僕に向かって怒鳴ってきた。ダドリーはさっきからずっと周りをキョロキョロと見回して、手でお尻を隠そうとしている。
「あっ、パパ、ママ、あれ…」
その、キョロキョロしていたダドリーがペチュニアおばさん、バーノンおじさんの後ろに隠れて窓から外を指差した。
ダドリーの指差した方向に、リビングにいた全ての人の目が注がれた。
そこには…
「こんなにたくさんの車があるとは!それに、確かあれは『柱電』とか言うものだったかな?いやー、素晴らしい!」
「パパ、それよりも早くハリーの家に行こうよ。」
「マグルの移動方法って時間かかったけど、知ってて損は無かったな。」
「あぁ、これからハリーの家に魔法を使わずに行けるようになるしな。それに、親父さえいなければもっと早く来れるはずだぞ。」
「フレッド、ジョージ、あなた達は勝手にハリーの家に行ってはなりません。そんな暇があるなら、二人とも、もっとビルやパーシーのように勉強しなさい!」
「ハリエット大丈夫だから。ほら、僕も付いてるからさ。」
「ありがとう、ジニー…」
人生最高の時を過ごせています、という顔のウィーズリーおじさん、ウィーズリーおじさんを急かしているロン、どっちがどっちだかここからじゃ見分けがつけられない双子のフレッド、ジョージの二人に、双子に対して勉強をするようにと激を飛ばしているウィーズリーおばさん、そして、皆から少し遅れて、顔色が悪そうなハリエットと、そのハリエットを支えながら歩いているジニーの姿があった。
皆赤毛だが、一応マグルの服は着ていた。
バーノンおじさん、ペチュニアおばさんの顔が真っ青になっていった。ダドリーも出来るだけ窓から遠ざかっていった。
「こ、小僧。あ、あれが、やつらなのか?」
「うん、そうだよ。」
次の瞬間…
「さっさと…やつらを…連れて…他の人が…見ておらん内に…この通りから…出ていくんだ!」
バーノンおじさんの声が爆発した。
僕は、その言葉を頂くと、すぐに荷物をもってハリエット達一行の元へと走っていった。ウィーズリーおばさんや、ウィーズリーおじさんは、「ダーズリー一家の皆さんに挨拶しましょう」と言っていたけれど、先程よりさらに顔色の悪くなっていたハリエットがウィーズリーおじさんに「帰りたいよ」、と上目遣いで、さらに涙目でお願いした結果、ウィーズリーおじさんが折れて、そのまま隠れ穴へ帰ることになった。
もっとも、帰る途中にウィーズリーおじさんが、町の至るところに興味を示して立ち止まるわ、周りの人達からジロジロと見られるわで、隠れ穴に帰ったのは真夜中になった頃だった。
ハリエットの体調はどういうわけか、あれほど悪そうだったのにも関わらず、プリベッド通りから少し離れるにつれて、すぐに良くなっていった。