僕のヒーロー?アカデミア 作:グルカ
この世界は『個性』という特徴を持った人が多く暮らしている。一昔前までは個性なんて能力はそれこそ夢物語、漫画やアニメの中にしか存在し得ないものだったらしい。それが今では世界人口の約8割が個性という能力を持っている。さらには個性という能力が芽生えたためか、それに合わせて人の形も多種多様に変化した。この個性を持った人が少数ならばその異形故に迫害もあっただろう。実際、『個性』持ちが生まれ始めた初期は酷い対立があったらしい。しかし、本来の進化としてはあり得ない速度で人類は進化し、数世代で過半数の人類が個性持ちとなった今ではそれを生かした職業が生まれ受け入れられている。
そんな今の世界と前世の大きな違いは『個性』の有無だ。『個性』が生まれたその日から枝分かれした平行世界の様にそれ以外は結構似通っている。
『個性』が生まれる前の常識からすると『個性』はあり得ないものらしい。個性の無い時代では考えられなかった様な現象が、質量保存やエネルギー保存の法則をある程度無視して発生しているんだから、そう考えるのもわかる気がする。そのことについて研究している人たちは日夜不思議を解き明かそうと頑張っているらしい。
僕もこの前デビューしたMt.レディが『個性』で巨大化するのを見て、あの質量はどこから補填されているだろうかと少し気になった。
まぁ、僕が悩んだところで頭が良い訳ではないので分かりはしない。そういうのはいろいろと研究している偉い学者の方々に丸投げしよう。
ところで、僕は少し前までヒーローに憧れていた。テレビでは連日報道されているし、学校でも皆が憧れていて、お気に入りのヒーローの活躍がある度に話題にして盛り上がっていたから。僕もご多分に漏れずお気に入りのヒーローがいて、その活躍を楽しみにしていた。
だけど所詮、ヒーローの活躍はテレビの向こう側の出来事で。ヒーロー飽和時代とはいえ、実際に犯罪に巻き込まれるとも、ましてやヒーローとして活動するになるなんて考えもしなかった。
「マジでかー」
ヒーロー養成校として名高い『雄英高校』を前に僕は茫然と立ち尽くしていた。事の始まりは突然、母さん―
「雄英に願書出してあるから」
「えっ」
寝耳に水である。
「だから、願書出したから雄英高校ヒーロー科に」
「えっ」
時折起こる母さんの突拍子もない行動には慣れていたつもりだったが、まさか今起こるとは思わなかった。
お陰で倍率が例年300を超えるなんていう難関を受ける事になった。まぁ、多少気になってはいたし、何より試験とはいえ『個性』をほぼ制限なしで使えるというのは魅力的であった。しかし、いざ目の前にすると学校の規模に圧倒されてしまう。
まさか高校の校舎が複数のタワービルが空中回廊によって繋がれた巨大な建物になってるとは思わなかった。近年は『個性』によって体格が様々になり、それに対応して校舎自体が大きくなっているのは知っていたが、ここまで大きいとは流石に予想以上だった。
「今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!!」
何百人と収容する巨大な講堂の壇上で叫んでいる男がいた。ボイスヒーロー『プレゼントマイク』、雄英の講師であり現役のプロヒーローの彼が実技試験の内容を説明してくれている。
配られた資料と説明を聞く限り、どうやら実技試験は模擬市街地演習、名前の通り区切られた演習場で雄英高校が用意した仮想敵を行動不能にすることで得られるポイントを競うという形らしい。
僕はプレゼントマイクの説明をある程度聞き流しながら自分の個性でどう戦うかを考える。僕の『個性』はかなり応用性が高い個性だ。道具の持ち込み可能という事は『個性』の事前準備が許可されるという事だろう。なら一つ、安全でポイントを稼ぎやすい方法がある。その方法でどれだけポイントを稼げるかイメージしていると、いつの間に説明は終わっていたのか、プレゼントマイクが締めに入っていた。
「最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう」
「かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!」
「“
「それでは皆良い受難を!!」
「なにこれ、すごい」
演習場を見た僕の率直な感想だ。外壁で囲われた小さな街一つ分はありそうな巨大な演習場。それもこれ一つではなく、説明ではA~Gまでの7箇所は最低でも存在する。こんなとんでもないモノが敷地内に複数存在するなんて、ここは本当に日本なのかと常識が訴えかけてきた。ヒーローのためとはいえ一校が持ちうる敷地としては非常識極まりない。まるでスケール感がアメコミの様だ。
「それにしても」
周囲を見回して思う。殆どの人が種類は様々だがジャージなどが多い中、ヒーローっぽい服装の人がちらほらと見えた。
「みんな気合入ってるなー。僕も人の事は言えないけど」
なんせ、僕の背後には個性によって浮かべられた巨大な水柱が存在している。その水柱から時折別れる様に水の球が現れ、僕の周囲を旋回して柱へと融合する。そのあからさまな個性の主張に周囲からの視線が集まっている。
幸い話しかけては来ず、距離を置いているようなので気にせずストレッチや『個性』の確認をしながら試験開始までを過ごしていると、ある人物が目に入り二度見してしまった。
「嘘だろ、何でここに……」
中学生とは思えない程発達した筋肉と分厚いタラコ唇、筋肉を強調するかのようなぴっちりと肌に張り付いた服。マスクは被っていないため髪の毛はあるが間違いない。昔の漫画にいたヒーロー、正義超人、その名も
「キン肉マン!ってそんな訳ないかぁ。それにしても……うん、筋肉だなぁ」
そういう個性なんだろうか、出来れば是非ともマスクを被ってほしい。そう考えていると突然軽い感じで声が響き渡った。別の事を考えていてよく聞こえなかったため、近くにいた受験生に聞こうとした。しかし、それよりも早く全員が一斉に入場口へと向かって走り出す。
「あ、スタートの合図ね。なんだ、それだけか………ってスタートぉ!?」
気付けばすでに仮想敵と戦い始めている。僕も遅ればせながら急いで駆け出した。
演習場の大通りが交わる交差点の角。そこに建つビルの屋上に立ち、下で動いている仮想敵へと水で出来た紐の先に巨大な水球を付けた、所謂チェーンフレイルを『個性』で再現した武器を叩き付ける。
叩きつけられた仮想敵はその勢いと重量で吹き飛ばされ簡単に行動不能に陥っていく。
この屋上へは紐の様にした水を伸ばし、体を引き上げることで然程時間をかけずに上る事が出来た。仮想敵は大型の物ほどポイントが高い。そして、大型の仮想敵が動き回るにはそれなりの道幅が必要となる。
そう考え、この場所に登ったのは正解だった。
結構な数の仮想敵へとこの場所からは攻撃が出来る。その上、他の受験生たちも戦いやすい場を求めて広い道へと集まって来ており、御蔭でそれに引かれて仮想敵も集まってくる。
「ハハハハハハハハハハハハハハッ!!笑いが止まらないよ!」
上空からフレイルを振り落とし、他の受験生が集めた仮想敵を破壊していく。予想以上の成果にテンションが天井知らずに跳ね上がる。
時折、仮想敵が昇ってきたり、ロケットパンチを撃ってくるが、距離が近いがゆえにフレイルよりも硬く固めた水の拳で容赦なく打ち砕いてく。
僕の『個性』は『水』だ。単純明快、水を自在に操る個性。両親の個性を引き継いだことで、水でありながら形を与え、物を掴んだり、固めて壁を作る事も出来る。
もっとも、操れる範囲を超えればただの水に戻るし、そもそも距離が離れれば操作性が落ち、命中率も威力も下がる。
逆に言えば操作範囲内であるならば、形も速度も自在に変化させられるこの『個性』はある意味万能であり、とてつもなく強力な『個性』だ。
残り時間は大体6分といった所。
「フィーーーーー、最っ高!いやーなんと言うか楽しかったねホント、もぐら叩きみたいで」
額の汗を拭いながら、僕は一息ついていた。最初の内は合格を目指すのではなく、個性を思いっきり使いたいだけだったので、他の受験生の援護をメインに行っていたのだが、途中で楽しくなってしまい、援護もそこそこに自分で仮想敵を壊しまくってしまっていた。
「あー、どうしよっかな」
この残り少ない時間ではポイントの変動も少ないだろう。元よりやる気は少なく、言われるがままに試験に参加している僕は大分満足してしまっていた。
終了時間までここで座って待とうか、と考えていると地下から駆動音とともに巨大な、ビルと同じくらいの高さとそれに見合った横幅を持つ仮想敵が現れる。プレゼントマイクが説明していた0Pの巨大仮想敵だ
「えっ」
思わず呆然とする。現れた仮想敵は道が狭いのか周囲の建物を破壊しながら暴れている。
「おっ、おぉっ!?デッケェーーーー!?いくらかかったんだろう、あの巨大ロボット!二足歩行のスーパーロボットも作ってくれないかな?」
僕は憧れの巨大ロボットに目を輝かせながらその仮想敵に興奮して叫んでいた。が、仮想敵の顔?がまっすぐこちらを向いていることに気付いた。
「ん?あれ、なんかこっちに来てない?」
暴れまわる仮想敵の進路と僕のいる位置は重なっている。僕が興奮して叫んでいる間にもゆっくりとこちらに近づいてきていた。
「うん、撤収撤収」
僕はすぐさま逃走を選択、近くに浮かべた水柱に引っ付く。それと同時に水柱を変形させ、ロケットのような姿へと変化させる。
「発射ッーーー!」
声と同時に、下部より勢いよく水が噴出。ウォータジェット推進により空へと飛びあがり、僕は巨大仮想敵から逃げ出した。
「終了~!!!!」
程なくして、プレゼントマイクの声が響く。こうして僕―