僕のヒーロー?アカデミア 作:グルカ
僕は雄英の試験のあと、他にも何校か試験を受けた。しかし、雄英高校ヒーロー科合格という結果のため、将来を見越し雄英高校に進学することにした。もちろん両親の勧めもあってのことだが、ヒーローは人気が出れば稼げる職業だし、雄英高校ヒーロー科卒業という箔は他の業種に行ったとしても多少の役に立つとの打算もあった。
地元は雄英とはかなり離れており、雄英に通うためには引っ越しをしなければならなくなり、僕は高校生から夢の一人暮らしを開始することになる。
そして、季節は春。
ついに僕の高校生活が幕を上げる。
「何度見ても大きい…」
僕は雄英高校の入り口から校舎を見上げて呟いた。あの試験の日にも思ったことだか、凄まじい規模を誇る高校に二の足を踏んでしまう。
「ビビっててもしょうがないから行くけど、1-Aってどこ…?」
送られてきたパンフレットを見ながら歩いているけど、無茶苦茶広くて教室にたどり着くのも一苦労だ。構内は流石雄英というべきか綺麗であり、最新の設備が整っている。時間が出来ればこの校舎内にある『個性』訓練用施設やトレーニングルームの使用申請を出して利用してみたい。
「ここ、巨人でも通ってるの?」
周囲を見渡してそう思ってしまう。なんせ、教室の扉が一八〇程の僕の身長の三倍近い高さがあるからだ。ドアだけで何キロあるのか、これを毎日開けるとしたらなかなかいい筋トレになりそうだ。
そう思いながらドアに手をかけ力を込めた。
「よいしぅおぁっ!?」
予想に反して軽いドアは結構な力で横にスライドさせたため、ダァンという音とともに壁にぶつかり跳ね返ってくる。
「か、軽すぎない!?思いっきり開けちゃったよ!」
跳ね返ってきたドアを受け止めながら思わずそう叫んでしまう。
「君!それほど強くドアを開けるとは何を考えているんだ!他の人の迷惑になるとは思わなかったのか?」
眼鏡をかけた真面目そうな人がそう話しかけてきた。きっちりと第一ボタンまで閉めた制服と七三分けの髪型からも遊びのない真面目さが伝わってくる。正直、少し苦手なタイプだ。
「あ、うんゴメン。このドアが大きいからかなり重いのかと思って力込め過ぎちゃって」
「む、そうか。しかし、突然の音に驚く人もいる。次からは気を付けてくれたまえ」
「うん、気を付けるよ」
「ところで、俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ。君は?」
「僕は操斗、水分操斗。これからよろしく」
「こちらこそ、よろしく」
それほど絡まれずに済んで内心ほっとした。飯田君から離れて僕は指定された席を探すと、前の席にはヒーロー科には相応しくない、明らかに不良然とした少年が座っていた。
(あぁ、運が無い。というか何でこんなガラの悪そうな人がヒーロー科に)
関わり合いになるのが怖くて僕は頭を抱え机に突っ伏した。周りからも、運が悪い人を見るような気の毒そうな視線が飛んでくる。
その視線に心が折られそうになりながら、出来るだけ気付かれないように気配を消したつもりで息を殺していると、前の席から言い争う声が聞こえてきた。
恐る恐る顔を上げると飯田君と机に脚を載せて船こぎしている柄の悪い少年が言い争っているのが見えた。
「聡明~~~?クソエリートじゃねぇか、ブッ殺し甲斐がありそだな」
「君酷いな、本当にヒーロー志望か!?」
飯田君の言葉に心の底から賛同する。態度も言動も明らかに不良としか言いようのない少年は、真面目が服を着たような印象のある飯田君には受け入れられないだろう。僕もあの不良少年は自分からかかわりたい人種ではないと断言できる。
出来るだけ絡まれないように顔を隠し、僕はやり過ごすことを選んだ。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。此処は…ヒーロー科だぞ」
突然、男の声が聞こえてきた。声がした方向にはモサモサ髪の少年とショートボブの少女しかいない。うん?、と首を傾げていると突然寝袋に入ったぼさぼさの長髪に無精髭という、言っては悪いが小汚い姿の男性が起き上がってきた。
「ハイ静かになるまで八秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
寝袋に足を突っ込んだまま、入り口に立っているその姿はとても教師には見えない。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
そういうと相澤先生は寝袋の中を漁り、雄英の体操着を取り出した。
「早速だが、
「個性把握…テストォ!?」
雄英高校を表すために『U』と『A』を意匠した体操着に着替えグラウンドに集まると相澤先生からそう伝えられ、何人かが叫んでいた。
僕は別段叫ぶほどの事でもないし、何より叫ぶのが気恥ずかしいかったので黙っていたが、他の人と同様に驚いていた。
相澤先生が言うにはこれから行うのは『個性』解禁の体力テスト。個々人が持つ個性を使用すればどれだけ記録が伸びるか、どう応用しているかを見るらしい。
最初に僕の前に座っていた不良少年、爆豪という名前の人がソフトボール投げを行った。爆発の個性で吹っ飛ばされたボールは凄まじい勢いで上昇し、中学での記録とは比べ物にならない記録を生み出していた。ただ、掛け声が『死ねえ!!』なのはどうかと思う。
「ねね、さっきの凄くない?爆発の個性かな。すっごく派手な個性ッ」
「えっと、君は?」
話しかけてきたのは薄紫色の肌と頭から生えた触角が特徴的な少女だ。快活そうな笑みを浮かべて、初対面の僕にも話しかけてきてくれたことから物怖じしない性格なんだろう。
多少人見知りの気があり自分から話しかけるのは苦手な僕としてはかなり羨ましい。
「アタシは芦戸三奈、よろしくね!」
「あ、うん、僕は水分操斗。よろしく芦戸さん」
「うんうん!でさ、これって個性使いたい放題なんだよね?くぅ~、面白そうだよね!流石雄英って感じ!!」
芦戸さんは目をキラキラさせながらすごく楽しそうに話しかけてくる。確かに今まで有名無実になりかけているとはいえ、公共の場での個性の使用は禁止されていた。学校はもちろん、商店街や店舗内など、現状見逃されていることも多いが禁止事項であった。
それが授業とはいえ解禁されるんだ。これで楽しみにならないなんてありえないくらいだ。個性を思いっきり使えるからという理由でこの雄英を受けた僕にとっては願ってもない。
けど、相澤先生の言葉で僕たちは冷や水を浴びせられた。
「面白そう…か。ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気か?」
僅かに俯いた相澤先生は最初に聞いた口調より低く重苦しい声で言葉紡ぐ。
「いいだろう、トータル成績最下位の生徒は
「はああああああ!?」
これには僕も隣で話していた芦戸さんも、他の皆も叫んでいた。倍率三〇〇倍の試験を潜り抜け、ようやく受かった雄英高校ヒーロー科を登校初日に除籍処分なんてあまりにも予想外の出来事に驚きの声を上げる事しか出来ない。
「生徒の如何は先生の“自由”」
「ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
あの後、結局どれだけ理不尽と言い募っても相澤先生は意見を変えることはなかった。むしろ、これからを見据え、そういった理不尽を乗り越えられる実力をつけるために苦難を与え続けると言われた。
『Plus Ultra』、更に向こうへ。
この雄英高校が掲げる理念を表す言葉。ヒーローを、悪に屈せず、立ち向かい続けられるヒトを生み出すため。どんな逆境にも屈せず、前に進み続けられるように。これから与えられる試練、その全てを全力で乗り越えて来い。そう言われてしまった。
そう言われてしまえばひくことなんてできない納得するしかない。特にヒーローになりたくてこの学校に入学した他の人たちは。
体力テストで行われる種目は八種目。ソフトボール投げ・立ち幅跳び・五〇m走・持久走・握力・反復横飛び・上体起こし・長座体前屈だ
第一種目は五〇m走。人間の体は成人は通常六〇~六五%は水分で出来ている。つまりその水分を操れば身体能力の増強も出来る筈、なのだが実は今まで僕はこの身体強化を試した事が無い。目に見える水を操る方が楽しかったし、身体強化した所で使い道がなかったのだ。
ぶっつけ本番ではどうなるかわからず、結局普通に走ったため記録は中学生時代からそれほど伸びず、六秒四五だった。
ところで、気になることが一つある。あの計測ロボットに腕は必要だったんだろうか?
第二種目は握力。近くで測っていた僕よりも背の高い触手を生やした人は五〇〇㎏を超える結果を残していた。他にもポニーテールの胸の大きな人はなぜか万力で計測器を挟んでいたけど、あれは有りなのかな?
とはいえ、見てるだけではどうしようもないので、僕も計測を開始する。やり方は簡単。個性で水を集め計測器の握りを包み込み水圧を掛けるだけ。そう思っていたが、やっぱり上手くいかなかった。中心に向けて押し固め、固めの球体にする事は出来ても所詮は水。ある程度圧がかかったところで固めた水の硬度が計測器の硬さに負けてしまう。
第三種目は立ち幅跳び。水を集めて上に乗り、試験の時の様にジェット推進で遠くまで飛んで行った。結果は何とか一位。
この種目が終わってから気付いたけど、五〇m走もこの方法を使えばよかった。
第四種目は反復横飛び。これは個性の使い道がなかった。髪の毛が葡萄みたいに生えてる背の低い人は千切った髪の毛が弾力を持つのか、反動を利用して良い結果を出していた。僕も真似できないかと思ったが、あそこまでの弾力性は持たせる事は出来ない。諦めて普通に測定していた。
第五種目はボール投げ。この種目ではまさかの∞が出た。そして、体力テストなのに怪我人が出てしまった。緑谷という少年が七〇〇mを超える記録を出したが、個性の影響なのか人差し指に酷い怪我を負っていた。
僕は僕が水操れる範囲ギリギリまで、ボールを水で包み浮かべて移動させ、其処からジェット推進の応用で飛ばしてみたが、結果は二〇〇mにも届かなかった。
その後、第六種目上体起こし、第七種目長座体前屈、第八種目持久走とあったがほぼ個性を生かすこともなく終わった。
「んじゃ、パパッと結果発表」
そう言って相澤先生は空中に各種目の評価点からだした順位を表示した。
「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
一瞬何を言ってるのか分からなかった。ほんの少し間をおいて、頭の中に言葉が浸透してくると思わず叫んでしまう。
除籍も覚悟して挑んだというのに、嘘だったなんて。幾ら教師にかなりの自由裁量が与えられている雄英とはいえ、そんな騙し方は酷いと思ったが結局、相澤先生は言うだけ言って去って行ってしまった。
「すっかり騙されちまったよなー」
後ろから声が聞こえて、振り向くとそこには両端の前髪が角のように尖っている赤髪の少年がいた。
「あ、切島君だっけ?」
「おうッ!七位だってな、すげぇじゃん水分ッ!」
「うん、ありがとう切島君」
「君なんてつけなくていいって、水くせぇ」
「そうだよっ!」
ひょいっと芦戸さんも後ろから現れた。
「今回は負けちゃったけど、次は勝つからね!」
「う、うん」
「うんって、そこは僕も負けないよ!とかじゃない?変わってるね!」
「オ~イ、俺を忘れてない?」
「あ、居たんだ、切島」
「居たんだって…」
「あ、アタシ新しい友達と今日帰るんだけど、二人とも一緒に帰らない?」
「おぅ、俺はいいぜ!水分もいいよな?」
「僕もいいよ。芦戸さんの友達は大丈夫?」
「そうだ!確認しとかないとッ!」
芦戸さんはそう言って女子生徒のほうに走っていった。