トゥアールがリビングを覗くと、総二が難しそうな顔をしていた。
時々ため息をついたかと思うと、顔をかすかに赤らめ、頭を横に振るという動作をくり返している。かと思えば、暗い表情を浮かべる時もあり、控えめに言っても挙動不審だった。
どうしたのかと尋ねればいいはずなのだが、なぜか訊くのがこわかった。
とはいえ、このままというわけにもいかない。総二もそうだが、愛香も最近、どこかおかしいのだ。アルティメギルのエレメリアンはどんどん強さを増している。悩みを抱えたままでは、いつどこで足元を
そう考えると、意を決して総二に近づく。
「総二様」
「っ!」
声をかけると、総二は不意を打たれたように飛び上がった。
「あ、ああ、トゥアールか」
「悩み事ですか、総二様?」
「えっ、いや、別に」
「すみません。さっきからずっと見てましたけど、メチャクチャ悩んでるようにしか思えませんでした」
「うっ」
ごまかそうとした総二の言葉をバッサリ切ると、彼はバツが悪そうに視線を逸らした。
「言いたくなければ、無理にとは言いません。ただ最近、総二様も愛香さんも本調子に思えないもので」
「あ、ああ」
愛香の名前を出したところで、総二がどこか落ち着かない感じになった気がした。
同時にここ最近の、愛香を前にした時の総二の様子を思い出した。やはり、落ち着かない様子が多かった気がした。そのことに、まさか、という思いが湧き上がる。
「あの、総二様」
「な、なんだ?」
「最近、愛香さんとなにかありました?」
「えっ、い、いや、なにもっ」
「ほんとうですか?」
「いや、その」
モゴモゴと総二が口ごもった。
しばらく頭を抱え、なにかを考えこむ様子を見せた総二が、言いづらそうに口を開いた。
「その、さ。こんなことトゥアールに話していいのかわからないけど、なんだか最近、愛香のこと考えると、どうにも落ち着かなくなっちまって」
「それは、いつごろからですか?」
「愛香がトリケラトップギルディを斃したあと、愛香が俺のツインテールと自分のツインテールの毛先を触れ合わせただろ。あの時からかな」
「へ?」
「どうした、トゥアール?」
「えーっと、あの時ですか?」
「ああ」
なぜ、あれで。
そう考えたところで、ケルベロスギルディとの闘いの時のことをふと思い出した。あの時総二は、ブルーとイエローのツインテールが三つ編みで繋げられたのを見て、興奮していた。
ツインテールを基準として考える総二には、なにか特別な行為に感じたのかもしれない。
「あれで、なにを?」
「えっ?」
「あっ、えーと、あれでなにかを連想したとか、そういうことですか?」
「あ、その、な」
顔をかすかに赤らめて視線を逸らした総二が、またモゴモゴと言葉を濁す。
「その、キ――」
「キ?」
「――――ごめん。やっぱり言えない」
総二が、恥ずかしそうに言葉を噤んだ。拒絶というより、誰かに話すのが恥ずかしいといったふうに見えた。
「いえ、無理にとは言いませんので。私の方こそ、無理やり踏みこんだみたいで、すみません」
「いや、謝ることなんてないよ。俺の方こそ、心配かけてごめん」
「それこそ、謝る必要ありませんよ。総二様たちのサポートが私の役目ですから」
「ああ、ありがとう、トゥアール」
「いえいえ。ところで、暗い顔をなされた時もありましたけど、そちらも一緒ですか?」
「っ」
総二が顔をうつむかせた。少しの間、悩む様子を見せたあと、顔を上げた。
「その、さ。俺は、あいつに
「え?」
いまいち意味が飲みこめず、思わず聞き返した。
総二は頭を掻きながら、沈痛な面持ちで口を開いた。
「考えてみれば、俺はあいつに世話になりっぱなしだったんだよなって。ずーっと一緒にいてくれた。ほかのやつらが、俺のツインテール馬鹿を知って周りからいなくなってもあいつは、ずっとツインテールで、一緒にいてくれたんだ」
総二が、ため息を吐いた。
「そんなあいつのために、俺はなにかしてあげてたか。一緒にいて当然と思っていなかったか。それに、テイルブルーの扱いとか、俺がテイルレッドとして、マスコミに対してなにか言ってやればよかったんじゃないかとか、そんなこと考えちまって」
「マスコミに関しては、なんとも言えませんね。レッドたんは純真だから、ブルーに騙されてるんだっ、とか言う人もいるかもしれませんし」
「それでも、まったく無駄だなんて言い切れないだろ」
ムッとした様子で、総二が言い返した。語気がちょっと強くなっていたことに自分でも気づいたのか、総二がハッとした様子を見せた。
「ごめん。トゥアールにあたっちまった」
「いえ、確かに総二様の言う通りです。それに、あんな扱いを受け続けたら、闘いたくなくなってもおかしくないんですよね」
「そう、だよな」
また、総二がため息を吐いた。
「それでもあいつは、ずっと一緒に闘ってくれてたんだ」
「総二様――」
やることを決めたかのように、総二の顔つきが凛々しく感じるものになり、眼の光が強くなったような気がした。
それにトゥアールが見惚れたところで、総二が柔らかく微笑んだ。
「相談に乗ってくれてありがとな、トゥアール」
「えっ、あ、いえ、どういたしまして。ちょっと気になることがありますので、愛香さんのところに行ってきますねっ」
総二の返事を待たず、その場をあとにした。
告げた通り、次は愛香のところだ。
最近の、トゥアールに対する彼女の攻撃は、どこかキレがなかった。こちらに気を遣っているのだとしたら余計なお世話というものだが、ほかの要因がある可能性が高い。エターナルチェインの反動によるものだと思うのだが、もしかしたら。
考えないようにしていた、さっきの総二の言葉を思い出し、足が止まった。
総二が、愛香を意識してしまった。そう思った。
どこか慌てた様子で去っていったトゥアールに、総二は首を傾げた。気にはなったが、あの慌てぶりから、声をかけるのをためらってしまったのだ。
「うーん」
追って、どうしたのか訊いてみようか。
しかし、さっきの様子を考えると、追いかけてまで尋ねるのは、やはり迷惑かもしれない。いまは様子を見て、あとでそれとなく訊いてみよう。
そこまで考えると、再び愛香のことを頭に浮かべた。
愛香、いやテイルブルーの世間での評判を上げるためには、どうすればいいか。
まずはテイルレッドとして、テイルブルーのことを悪く言うのはやめてくれ、とマスコミに面とむかって抗議してみるのはどうだろうか。トゥアールの言葉通りに騒いでくる可能性はあるが、それでも言わなければならないだろう。そもそも、どうしてこんなになるまで放っておいたんだ、と自分で思わなくもないが。
あとは愛香に、もうちょっとだけでも荒々しさを抑えて闘ってくれないかと頼んでみる。手加減をしろという意味ではなく、愛香の武術の腕なら、もっとスマートに闘うこともできるはずだ。本気を出したらあまり変わらないかもしれないが。
イエローとブラックのことも言わなければならない。ブラックは、マッチョ幻術を使わなければいいだけのはずだ。イエローも、あまり脱がないようになれば。
「――――」
やっぱり無理かも、とちょっと弱気になったが、頬をパンと叩いて気を取り直す。
「よし」
いままでの恩を返すためにも、自分にできることをしよう。総二はそう思い定めた。
そろそろトゥアールが故郷の世界で生きてた頃の話書かれないかなあ、とか思ったりするこの頃です。