「……こいつらが、あの服部に勝ったってことですかい?」
「ああ、正式な試合でな」
二人はあっさりと見る目を変えた。摩利が言うには、生徒会枠と部活連枠で選ばれる風紀委員は、差別的意識が比較的少ない者らしい。だが、教職員枠はそうはいかないらしく、森崎などのような者が選ばれることが多いそうだ。
「三-Cの辰巳鋼太郎だ。よろしくな、司波、古木。腕の立つヤツは大歓迎だ」
「二-Dの沢木碧だ。君たちを歓迎するよ、司波君、古木さん」
鋼太郎と沢木がそれぞれに握手をしてくる。二人が見ていたものは、達也と杏の実力であって、一科生か二科生かではなかったようだ。
達也と沢木が握手しているが、沢木が達也の手を握り潰しそうなほど力を込めていた。
「自分のことは、沢木と苗字で呼んでくれ。くれぐれも、名前で呼ばないでくれ給えよ」
「心得ました」
達也は右手を軽く捻って、握られた手を解いていた。
「握力、すごい、です。達也も、すごい」
鋼太郎曰く、沢木の握力は百キロ近いそうである。
『馬鐘荘』に帰ってきた杏に、メフィストが話しかけてきた。
「どうでした?友達、作れそうですか?」
「……委員会、入った」
「ほう。どこです?どの委員会ですか?私は全力で応援しますよぉ?」
「……聞いて、驚け……!風紀委員会、だ……!」
「……体力、持ちますか?」
「捕獲要員だから、モーマンタイ」
「そうですか。あ、今日の夕食はラーメンですよ」
しかも手作り。麺は既製品だが、スープや盛り付けは自作らしい。
自分の部屋に戻った杏は、本を読み始めた。杏は部屋にいるほぼ全ての時間、本を読んでいる。時々、夜食のパンを買いに廊下に出るくらいだ。
二時間ほど後、二○七号室の扉がノックされた。
「杏さーん、ご飯できましたよー。あと、CADの調整は平気ですかぁ?」
「……平気、今から行く」
本から目を離し、部屋を出る。ラーメンは美味しかった。
数日後、新入生たちが学校に慣れてきた頃。どの学校でも、この辺りの時期に部活への加入が認められるようになる。そして、部活のオリエンテーションも。
しかし、さすがは魔法科高校と言うべきか、新入生争奪戦は一味違う。メジャーな魔法競技は一高から九高まである魔法科高校で対抗戦が行われ、それらに関わる部活では将来有望な一年生を多数得ようとする。
「……そのため、この時期は各クラブ間のトラブルが多発するんだよ」
場所は生徒会室。深雪がいるから達也がいるのはわかるが、なぜか杏もいる。真由美と摩利に気に入られたらしい。
「勧誘が激しすぎて授業に支障を来たすこともあるの。それで、新入生勧誘活動には一定の期間、具体的には今日から一週間という制限を設けてあるわ」
「ほとんどお祭り騒ぎだよ。もちろん、ルールはあるし、違反者は部員連帯責任だ。けれど、裏では魔法の撃ち合いや殴り合いになることもある」
「CADの携行は禁止されているのでは?」
達也が摩利に聞く。CADなしでも魔法は使えるが、スピードが劣る。撃ち合いと称されるほどの応酬は、CADなしではほとんど無理だ。
「新入生向けのデモンストレーション用に許可が出るんだよ。一応審査はあるんだが、事実上フリーパスでね。その所為で余計にこの時期は、学校が無法地帯化してしまう」
「……学校、仕事、しろ……」
「同感だよ。おかげで仕事が増えるんだ」
達也も呆れている。しかも、学校は多少のルール破りは黙認しているらしい。
「そういう事情でね、風紀委員会は今日から一週間、フル回転だ。いや、欠員の補充が間に合ってよかった」
この後、達也が暗にサボタージュ宣言をして、摩利に笑顔で却下されるということがあったが、放課後に風紀委員会本部に向かうことになった。
>>パンを買いに廊下に
馬鐘荘では夜中にパン屋が出没する。時間も場所もランダムで、会えるかどうかはわからない。インディという、某クリスタルスカルの迷宮を冒険した人に似てる男がパンを売っている。本名は伊集院
譲と言い、普段は大学で古生物学を教えている。地底アパートの住人の一人。蛇が苦手。一つ二百円のアンモナイトパンを売っており、ほぼ全ての種類のアンモナイトの形をしたパンを取り揃えている。
また、一日に一つだけしか売らない、ニッポニテスパンもある。五百円で、一際大きい。