まぁ、頑張ります。
……とある男の話をしよう。
彼は産まれながら百姓であった。
名字は無く、当たり前のように生活は貧しい。だが、彼はそれを不幸ではなかった。それは貧しくもそれなりに楽しい毎日を過ごしたからだろう。
やがて時は過ぎ、彼が十四を迎えた秋の夜、突然の不幸が彼を襲った。 盗賊の一派が村に攻めてきたのである。
彼は始めて死という物をその目にした。
焼ける村、賊に殺される人、連れ拐われる女。
灰化する家々と赤く染まる人々。
全てが彼の目に焼き付いた。
それは染み付き拭う事の出来ない痛み、怒り。その言葉に出来ない全ての傷が彼を襲う。
襲撃の中、村人の数少ない生き残りの中に彼はいた。 服は泥に紛れ、髪の毛には血がへばり付いている。 彼は一息ついたところで周りを見渡した。
活気のあった村の姿はそこにはなく、鴉の鳴き声だけが辺りに響いていた。
そこで何かが壊れた。
彼は名を捨てた、人で在ること捨てた、生への執着を捨てた。
名は無く、人間性は無く、生きる執着も無い。
彼は自身で死を選ぼうとした。しかし、生存本能がそれを拒んだのだ。
それから彼は人との交流を絶つために山に籠って刀を振り続けた。
彼を彼とするものは生涯を尽くした修練。 自身を慰めた物は己の心を癒す花鳥風月のみ。
そして、彼は最期に長い石段を登り周囲を見渡せるその場所で月を肴に安酒を煽りながら人生に幕を閉じた。
◇◆◇◆◇◆◇
気分の悪くなる夢にうなされ、佐々木小次郎は目を覚ました。
アサシンのサーヴァントとして冬木市に召喚され三日の時が経ち、彼は主であるキャスターから門番を令呪により命じられ、それを実行している最中である。
聖杯戦争が始まる様子はなく、いま現在セイバーのクラスが空席になっていた。
退屈な門番をしながら暇さえあれば鳥たちと戯れていた。
彼に戦う明確な理由はなく、叶えたい願望などない。 自分という存在意義は生前捨てて来たのだから。
あえて理由をあげるなら、生前叶えることのできなかった強者に自身の修練の結果を試したいということだけだろう。
彼に抱かれた銘はなく物干し竿と蔑まられる長い刀を肩に担ぎ、立ち上がる。
やることもなく、暇を持て余した彼は落ちる木の葉を準備運動代わりに切り始めた。
地に吸い込まれるように次々落ちていく木の葉が風に煽られたように横に飛び、切り裂かれる。
「空を縦横無尽に飛び回れぬ物を切ることなど最(いと)も容易い」
興が冷めたと言わんばかりに落胆の溜息を吐き、再び彼は眠りについた。