Muv-Luv ALTERNATIVE 業 作:ROGOSS
「4番機っ! 右から来てるぞ、気を付けろっ!」
『8番機、弾薬切れですっ!』
「後ろに下がっていい。補給しろ。俺がカバーに回る」
吹雪が下がっていくの確認すると、黒金はその穴を埋めるべく素早く移動を開始した。
急造チーム、それも本来あり得ないドリームチームであったが、一応チームワークは取れていた。先頭をいく前園が、黒金に指揮を一任した時はどうしたと思ったが、なるほど。後方で援護射撃の列に加わっているくらいなら、前衛として盾役を務めるほうが彼には向いているのだろう。
実際、前園の周囲のBETAの多くが数秒と持たずに血飛沫をあげ倒れていっている。
帝国軍の練度もなかなかなものだ。
不測の事態に備え、つねに厳しい規律のもとに訓練を重ねているだけはある。
実戦慣れしていない者が数人見受けられるが、それでも歩兵が完全撤退するまで渡河を援護するだけならば十分だ。
むしろ、この戦いを通して、とんでもない化け物に後にエースと呼ばれる存在へと変わるものがいるかもしれない。
幸いにも、歩兵を乗せ渡河している戦術機が残していった武装や弾薬のおかげで兵站が整っていなくとも、まだ持ち堪えることができるだろう。
しかし、懸念すべき事態はある。
万代橋へ進軍していたBETAの数が想定より少ないのだ。
橋を爆破され、内陸部へと進軍できないことをすでに理解したBETAが他の仲間を引き連れ、みなとトンネルへと向かったというのか?
ならば、戦場の状況を逐一理解し、判断を下す前線指揮官のような存在のBETAは撃破したい。
しょせんは知能のない有象無象。頭をつぶしてしまえば、どれだけ物量があろうとも戦術を駆使した人類に勝つことは容易いことではなくなるはずだ。
87式突撃砲の残弾が0になったことをモニターが警告音と共に伝える。
「一時下がる。ここは任せるぞっ!」
『了解っ!』
黒い武御雷がブーストを吹かし一時後退する。
その時だった。
前方のほうで爆炎が上がると、ノイズと悲鳴が耳に飛び込んできたのは。
戦術機が一撃で屠られた?
頭に浮かんだのは最悪の想定。
距離は1km以上あるはずだ。それでも、その巨躯は確かに威圧感と恐怖感を放っていた。
まさか、日本の領土に、佐渡島ハイヴでもう、
『終わった……』
『無理だ……いくらなんでも無理だっ!』
『いやだ、死にたくないっ!』
「お前たち、どうした! まだこれだけ距離があるんだぞっ! なにを怯えているだ」
『すぐ近くじゃないかっ! こんな数で……勝てるわけないっ!』
黒金の檄も虚しく響くだけだった。
一度絶望を知ってしたしまった人間は立ち上がることはできない。
絶望は心をむしばみ、勇気を奪い去っていくものだ。
それでも……それでも……彼は諦めていない。前園だけは、希望の光を胸に抱き続けていた。
『命が惜しいのかっ!』
「隊長……」
『怖いな。怖いよなっ! だけどよ、俺たちはなんのために戦っているんだ。この戦いの意味は何だっ!』
『「……」』
『どいつもこいつも腑抜けだな。いったい、何のために死にそうな訓練重ねてきたんだ! シャキッとしろ』
『戦う理由なんてのはバラバラだろうよ。だけど……戦う意味は未来を守るためだろっ!』
思わず息をのんだ。
その通りだ。目の前にある絶望に気を取られ、俺たちは未来を見失っていた。そんなんでは勝てない。未来のために戦っているのに、未来を見据えないで戦えるわけがない。
『勝つ可能性は低いだろっ! それでもっ! 立ち上がれ
『おおっ!』
一人、また一人と前衛が要塞級へと突貫を始める。
複数の敵で対処するのが対要塞級のセオリーだ。
だが……
『ごはっ!』
不吉な音が再び聞こえる。
今度は血を吐く音だ。聞く人によってはそれを不快だと表現するだろう。
しかし、今は……
「隊長っ!」
『へっ……偉そうなこと言って俺も逝っちまうのかよ……』
『隊長っ!』
帝国軍の兵士たちも前園を隊長と呼んでいた。
すでに、彼はこの部隊の誰もが認める隊長だったのだ。
ゆえに、彼は最後に告げる。隊長として最後の勤めを果たすために。
『時間だ。まもなく、空から騎士がくる。全員、撤退開始。要塞級は……俺が何とかする』
「まさか……やめてくださいっ!」
『黒金。お前ってやつは、まだ訳のわからない奴だが……見込みがある。だから、その心の炎を絶やすなよ』
「前園っ!」
爆発音。衝撃。
それは同時にやってきた。
一つは空から降ってきた第一軌道降下師団のリエントリーシェルによるもの。
もう一つは……最後の力を振り絞り、前園が内地の前線で初めて確認された要塞級もろとも自爆した音。
1998年5月12日。
万代橋爆破から始まった一連の作戦、ユキツバキは僅か数時間で終わりを迎えた。
BETAは大損害を被ると、急きょ進路を南へ反転。
北信を諦めるかのように去っていった。万代橋撤退中の歩兵に死傷者が出ることはなかった。
前園の働きは決して評価されない。
数千人の命を救った偉大なる英雄であろうとも、もとをただせば帰還命令を破った犯罪者なのだから。
だからこそ、前園を慕い、敬う者は少なくていい。前園の本当の功績を知るのは俺たちだけでいい。
それを胸に、拾われた命を知り、無駄に捨てることがないように生きていけばいいのだから。
帝国軍 被害 死傷者1万2000人
近衛軍 死亡 1人